41.それぞれの休日
前回までのあらすじ。
ローライレが勝手にパンツ泥棒をした。
所持金約5億7650万MA(+貯金6800万MA)
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バグログとローライレを正座させている最中、俺は「昔話100選」を読み終えた。
どの魔獣が危ない、どの場所へ近付くな、この種族はこんな奴らだ、みたいな話が中心だった。
もっとも、この本は少なくとも3000年以上前のものであり、情報としてはいささか古すぎる。
例えば、止まない吹雪の場所へは近付くな、と書かれているが、そこは現在は王都が建てられている。
さらに、そこへ行くまでのノウハウも十分確立している。
もちろん、準備不足で行くと凍死してしまうだろうが。
といった感じで、「異世界から来た人へ」のおすすめ本が古いことが分かった。
「異世界から来た人へ」の情報自体も同じく、古いに違いない。
なので次は、さらに新しい情報の掲載された本を借りるべきだろう。
とはいえ、異世界で生活し始めて1週間、本の知識と実生活の経験を合わせると、大体のことには困らなくなった。
そこは感謝だ。
「遊角は先ほどから何をしておるのじゃ?」
1時間経ったのに、いまだ正座中の青髪吸血鬼のローライレに尋ねられる。
『図書カードで、本を読んでいるバグ』
俺の代わりに、黒髪ポンパドールの半透明少女バグログが答えてくれる。
髪型はその日の気分で変えているらしい。
「ふむ。本を読むことが出来る魔道具、というわけじゃな」
「あれ? 王都に行った時に、図書館へ寄らなかったのか?」
「10万MAも払ってまで読みたい本などないのじゃ」
「そうか」
「それに、昨日は屋敷を買い戻す金を溜めている最中だったのじゃ。
無駄遣いはできなかったのじゃ」
「なるほど」
ローライレは節約してたから、王都を楽しめなかったのかもしれない。
「また明日にでも王都の図書館へ連れてってやるよ」
「遊角と一緒なら、どこでも行くのじゃ」
「お、おう」
最初は可愛いと思っていたローライレだが、若干ストーカー気質があるような気がして、今はちょっと怖い。
彼女とはしばらく距離を置いた方がいいかもしれない。
そのうち俺に対する異常な熱も冷めるだろう。
◇ ◇ ◇ ◇
・イフリア視点
わたくしは美しい赤毛とエロい体を持つ、エルフのイフリアですわ。
先ほど他の2人のエルフの仲間と一緒に、簡単な納品依頼を、あらかじめ採取していた品を届けることで済ませましたわ。
報酬として、5000MAほど手に入れましたわ。
「『ギルドの全て』という本によれば、依頼を20以上達成すれば、初期冒険者から転職できるですよ」
「転職? メリットとデメリットは?」
「デメリットは、熟練度リセットですよ。
職業には、それぞれ隠しステータスとして熟練度があるですよ。
転職すると熟練度が0になるですよ」
「ほぅほぅ。で、メリットは?」
「職業ごとに職業固有スキルがあるですよ。
スキル欄にないスキルでも、熟練度が高いなら、熟練度に応じた職業固有スキルが使えるですよ」
「転職って、ギルドカード持ちしか出来ないわけ?」
「ギルドカード持ちでなくても出来るですよ。
でもギルドカード持ちなら、ギルドカードの力で、自分に合った職業へ転職することが容易になるですよ」
「なるほどね」
そう。
わたくし達は依頼をたくさんこなして、ギルドカードの力で転職する予定ですわ。
昔は、より上位の職につくためには血の滲むような修行が必要でしたわ。
それだけやって、ようやく一握りの者しか上級職へ転職が出来ないという過酷なものでしたわ。
今はギルドカードという便利な魔道具の力で比較的楽に上位の職業へ転職できますわ。
もちろん最上級職へは、今でも簡単には転職できませんわ。
「遊角は既に8つほどクエストをクリアしてるみたいだし、すぐに転職しそうね」
彼はSSSランクのクエストを高い貢献度でクリアしてるから、高ランク依頼をもう20個ほど達成すれば、最上級職へ転職出来そうですわ。
「遊角はきっと、魔王にでもなるですよ」
「勇者じゃなくて?」
「あんな黒い屋敷に住んで、吸血鬼をはべらしている男は、魔王の方が似合うですよ」
「あははは! そうね! 似合ってるわね!」
勇者や魔王なんて職業はないですわ。
彼らは世間からそう呼ばれているだけ。
賢者にしてもそう。
世間が勝手に呼んでいるだけですわ。
ですが気持ちいいことをした後は誰でも賢者に……あら?
あの方々は……
「ウヨックさんと、アマンサさんですわ」
わたくし達は、建物の影に隠れましたわ。
「あの女は、バグログの記憶にいた「マニィ信者の憩いの場」のギルドマスターよね?」
「で、もう片方の男はこの前会った「闇の屍」ギルドマスターのウヨックですよ。
二人とも本に載るくらいの有名人ですよ」
「で、どうして私達は隠れているの?」
「鈍いですよ。
あの二人の雰囲気から察するに、ただ会っただけというわけではなさそうですよ」
「きっと男の方は、どうやって宿へ誘い出そうか、そればかり考えてるに違いないですわ!」
あの二人はデート中に違いないですわ。
そして一日の最後は宿でズッコンバッコン。
ああっ! 下半身が熱くなってきましたわ!
「あ、角を曲がった」
「追うですよ!」
「……新しい依頼は受けないの?」
「クエストなんていつでも受けられますわ。
それより、こんな面白そうなことを見逃すわけにはいきませんわ!」
わたくし達も角を曲がると、二人はレストランへ入っていきましたわ。
「何を喋ってるか聞こえないですよ。
シルフィーン、風を操って、向こうの音をこちらに聞こえるようにするですよ」
「……私の魔法は、こんなくっだらないことするために鍛えたわけじゃないのに」
文句を言いつつ風を操るシルフィーン。
音とは空気の振動。
空気を操る彼女の魔法は、ガラス越しの男女のいる場所の空気を、こちら側で再現するのですわ。
そうすると、あたかも二人の近くで聞いているかのように、わたくし達に会話が聞こえるのですわ。
「あの森のウッドハウスを購入したよ」
「おー凄いじゃーん」
「もちろん君のために、ね」
「臭いセリフだなー」
「ここは褒めて欲しかったところだね……」
レストランを出た二人は、劇場へ向かいましたわ。
その後、わたくし達は、日暮れ前までストーキングしましたわ。
途中でお二人に気づかれて怒られたから中断しましたわ。
残念ですわ。宿屋のズッコンバッコンが見たかったですわ。




