4.一人ギルド
前回までのあらすじ。
変な水を飲んだ。
ギルドに着いた。
スキル【バグログ】を手に入れた。
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「何か変なスキルキター?!」
『俺様は変なスキルじゃないバグ』
「ば、バグログだって?」
『そう。俺様のことバグ』
「いや、スキルとして寄生しているとか意味分からんことを言ってるのは、どこの誰だ?」
きょろきょろと部屋の周りを見渡すが、いるのは俺とローブ女のみ。
『だから、お前の中に居る俺様だバグ』
「俺の体内?!」
『違う、スキル内バグ。つまり魂の中バグ』
さっきから訳が分からない。
『とりあえず、ログ開示! って念じてみろバグ』
「何だってんだ、ログ開示!」
すると、目の前に半透明なログが現れる。
ネトゲをする人なら分かるだろうか、アレだ、アレ。
ネトゲをしない人に説明するのは難しいが、
行動やセリフの履歴が文章として目の前に浮かんできた、と思ってもらうといい。
その文章は、
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ログ:
地球世界から転移した。スキル【転移魔法(魔王特製)】を習得した。
クラムの町の広場へ転移した。バグログの水を飲んだ。
スキル【バグログ】を手に入れた。『そこの女はギルドマスターみたいでバグ』
『俺様はバグログ。お前にスキルとして寄生している、いわばスキル寄生虫バグ』
『俺様を呼んだかバグ?』『お前の中の、バグログ、つまり俺様だがバグ?』『違う、スキル内バグ』
『とりあえず、ログ開示! って念じてみろバグ』
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『というわけだバグ』
「何だこりゃ! やっぱり意味分かんねぇ?!」
『つまり俺様は、スキルとしてお前の魂に寄生しているバグ。
そしてお前はログを見る能力が使えるようになったバグ。
さらには俺様のありがたーいセリフと、ついでにお前の行動履歴が目に見える、というわけバグ。
ただし他の奴には見えないバグ』
「俺が意味が分からんって言ったのは、スキルじゃなくてお前の事だよ!」
スキルとして魂に寄生って何だよ?!
異世界だからって何でもアリが許されると思うなよ!
『まあ寄生つってもお前から何か吸い取るわけじゃないし、
風呂やトイレやデートや、にゃんにゃんする時は、俺様も空気読んで黙ってるから大丈夫バグ』
「何が大丈夫だ! とっとと俺から出ていけ!」
せっかくの夢の異世界生活、バグログとかいう訳のわからん奴に寄生されつつ過ごすとか冗談じゃねぇ!
『こう見えて異世界知識豊富な俺様は、アドバイス役としては最高だと思うバグよ』
「その、とってつけたような語尾がムカつくんだよ!
アドバイスなら可愛い女の子にしてもらうから結構だ!
ほら、とっとと出ていけ!」
『俺様、これでも女の子バグ』
「いくら女の子でも、寄生虫は守備範囲外だよ!」
『寄生虫というか、寄生スキル、バグ』
「ああもう?!」
こんなはずではなかったのに。
いったいどこで間違った俺。
「うーん、……騒がしいなー……」
騒ぎすぎて、寝ていた女性を起こしてしまった。
起き上がった際、その大きな胸が揺れる。
『パイオツ、デケェバグ!』
「お前もう黙れよ?! ってか女の子自称してなかったか?!
何でパイオツに反応してるんだよ!」
『自分、百合バグ。女の子にしか興味ないバグ』
「無駄にキマシ属性を足すんじゃない!」
叫び過ぎて、頭痛で頭が痛い。
「さっきから何だよキミー。独り言うるさいよー?」
「独り言?」
『自分の声はお前以外には聞こえないバグよ』
「タチ悪いなテメェ?!」
じゃあ何か?
さっきまでの俺は、第三者から見たら一人で怒鳴り散らしてた変人ってことか?
……タダのヤバイ人じゃんか!
『そういうことになるバグ。
ちなみに心の声に反応することもできるからわざわざ喋らなくても自分とお前は会話することができるバグ』
「そういうことは、早く言えよ!」
「何だよー、私だって今起きたとこだよー」
「あ、いえ。あなたに言ったわけでは」
巨乳お姉さんに睨まれて小さくなる俺、15歳。
って、そうだ。こんなことしてる場合じゃない。
「あのー、冒険者志望なんですが、ギルドに入るにはどうすればいいんでしょう?」
「私はアマンサ。タメ口でいいよー」
「アマンサ。ギルドに入りたい。どうすればいい?」
「新規登録の希望かなー? でも、このギルド私一人しかいないんだよー?
だから、他所に行った方がいいんじゃないかなー」
「……」
やっぱりというか。予想通りというか。
このギルドが閑散としていたのは、決して今日が休業日とか、そういうことではなかったのだ。
このギルドに来る途中、ギルドへの案内が4種類あった。
4種類とも、違うギルド名。
そして、ここのギルド名は「マニィ信者の憩いの場」
俺の想像では、ここはマニィ信者がひっそり経営していたギルドだったのではないかと思う。
マニィ信者の減少、ギルドの経営悪化。そしてこの現状。
勝手な想像だが。
「このギルド、潰れかけだからさー……」
でも、アマンサの態度を見る限り、俺の想像はだいたい合ってるのだろう。
潰れかけのギルド。そこに現れる主人公(俺)。
と来れば、俺の使命は、このギルドの復興、ということになるのか?
『え、マジバグ? 遊角、お前こんな弱小ギルドを助ける気なのかバグ?』
『(何か文句あるか? 主人公が弱い者を助けるのは当然だろ?)』
俺はバグログと頭の中で会話する。これ便利だな。
『弱い者って……ギルドは潰れそうだが、目の前のアマンサはユニティオじゃ大陸4賢者のうちの一人で、それなりの強さを誇るバグよ?』
『(おお! 実は強い系テンプレ!
って、そんな大層な肩書があるのに、このギルド潰れかけなのか?)』
『きっと経営手腕に問題があるんだろうバグ。
むしろ一人でギルド支えるとか、一般人15人分くらい働かないと無理だぞバグ』
『(15人分働くって、ブラック企業も真っ青だなオイ……)』
『ちなみにアマンサは自分のPRとかしないせいで、世間では所在地不明って言われてるバグ』
目の前のやつれたローブのお姉さん。
きっと忙しすぎて、まともな睡眠も食事もとれてないんだろう。
「というわけで少年。ここは君の居るべき場所じゃないよー。
ほら帰れ帰れー」
俺を追い返そうとするアマンサ。
きっと俺が年相応の頼りない少年に見えるからだろう。
『(なあ、バグログ。ギルドへの登録って、どうすればいいんだ?)』
『各ギルドで配布してる、ギルドカードに、自分の血を垂らせば登録できるバグ。
自分の入りたいギルドでカードを貰って、消毒済みの針で指の血の1滴でもギルドカードに垂らせば、登録完了バグ』
『(そのギルドカードはどこだ?)』
『受付窓口の奥に置いてあるアレバグ。
転移魔法で持ってくるバグ?』
『(え? 転移魔法って、どこかに場所移動する魔法だろ?
物も移動できるの?)』
『基本何でも移動できるバグ。
発動も、念じるだけでできるバグ』
『(よし、じゃあテレポート!)』
俺は自分の目の前に、ギルドカードと消毒済みの針を転移させる。
Sランク冒険者用ギルドカードとか書かれたカードに、俺は指に針を刺し血をポタリと垂らす。
するとカードが光り、色々と文字が書き込まれる。
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ギルドカード(「マニィ信者の憩いの場」Sランク)
説明:
佐倉遊角
種族:人間(15歳)
Lv:1
職業:初期冒険者
スキル:【転移魔法(魔王特製)】【バグログ】
HP 42 MP0
力5 頑丈さ3 素早さ4 知識2 魔法力0 器用さ2
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おおすげぇ、俺いきなりSランクだってよ!
って、ステータス貧弱すぎだろ!
何だMP0って!
魔法力0って!
俺魔法の適正ないのかよ?!
『MP0魔法力0……よほど魔法と無縁の生活をしてたみたいバグね』
「ま、まあいいや。ステータスなんて鍛えりゃいいし。
ってことでよろしく、アマンサ」
「……」
アマンサはこちらを見て、ポカーンとしている。
何故に。
まだ俺は、1つも俺TUEEなことをしてないはずだが。
『遊角、ギルドカードに載ってるスキル【転移魔法(魔王特製)】を見るバグ。
「閲覧、【転移魔法(魔王特製)】」って言うバグ』
「いちいち俺に命令するなし。
でも自分の能力確認は大事だよな。
どれどれ、閲覧【転移魔法(魔王特製)】!」
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【転移魔法(魔王特製)】
説明:
あらゆる物理物質、物理衝撃、魔法物質、魔法衝撃を転移させることができます。
通常の転移魔法が転移対象のMPx2必要なのに対し、この転移魔法に必要なMPはありません。
通常の転移魔法はLV500以上で習得可能なのに対し、この魔法は魔王が認めた者のみ使用できます。
また習得者は簡易転移魔法による免疫力を獲得します。
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「習得した時は、頭にメッセージが流れてすぐ消えたから、どんなスキルかよく分からなかったけど。
改めて見ると、俺のイメージとちょっと違うな」
せいぜい遠距離を一瞬で移動できる便利スキル程度の認識だったのだが。
何でも移動させられるっぽい。MP消費なしで。
これは便利だ。上手い使い道が分からないけど。
『はぁぁぁっ?! ふざけるなバグ?!
こんなんチート! チーターバグ!』
『(そんなに凄い能力か?
確かに行商人とかだったら便利そうな能力だけど、冒険者的には普通じゃね?)』
『冒険者どころか、こんなスキル持ってるのはLv500以上の猛者だけだバグ。
いや、MP消費なしで使えるのは魔王くらいバグ。
神の使いや王の使いくらいなら軽くひねり潰せる能力バグよ……』
『(転移魔法って攻撃魔法じゃないだろ? ひねり潰すのはさすがに無理じゃね?)』
神の使いや王の使いとやらがどのくらい強いのか知らないが。
転移魔法で空に打ち上げて重力で殺す、みたいな方法は多分通用しないんじゃないか?
まあ、スキルについて大まかに分かったことだし、ギルド登録も勝手にやったことだし。
「俺の異世界生活はこれからだ!」
いまだに口をあんぐり開けているアマンサの前で、俺は打ち切り漫画よろしくなセリフを高らかに言うのであった。