35.引っ越し
前回までのあらすじ。
屋敷の外を魔改造した。マニィが屋敷に住みつくことになった。
魔道具のペンダントを作った。
なんやかんやあって現在手持ちは5億7880万MAくらい。
遊角は王都へ迎えに行った。
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石造りの王都の広場に4人は集まっていた。
エルフび2人は、帽子を被っていた。
「どうよこれ、似合うでしょ?」
「ああ、いいんじゃないか?」
耳まで隠れる麦わら帽子を被って、シルフィーンは1回転する。
緑の髪が踊るその様子は、さながら風の妖精だ。
「わたくしは白い帽子ですわ」
イフリアの赤い髪と白い肌、そして白い帽子の組み合わせは、まるでどこかの令嬢みたいだった。
黙っていればベッピンなのにな。
喋ると下ネタ好きの残念美人になってしまう。
「私のは、地中の音が分かる魔道具ですよ」
グノームはヘッドホンみたいなものをつけていた。
音楽を聞きながら電車通学している女子みたいだ。
こんなきれいな茶髪の美少女はそうそう見ないが。
『耳を隠すための道具バグね。よく考えたなバグ』
「え、おしゃれじゃないのか?」
『それも兼ねてるバグ』
シルフィーンが腰に手を当て、ドヤ顔をする。
「耳さえ隠せば、エルフだってばれないのね。
グノームが気付いたのよ」
「まったく、体の一部だけで種族を判断するなんて、馬鹿ですよ」
「そうですわ! 全身くまなく見て欲しいですわ!」
なるほど。エルフだとばれると、活動しにくいのか。
獣人やリザードマンっぽい見た目の奴は、王都でちょくちょく見かけるが、エルフは全然見ない。
だから物珍しさで見られるのか。
『風の大陸は、国王が種族差別しない主義だから比較的マシな部類バグ。
例えば水の大陸なんかだと、人魚以外に人権がないような国だってあるバグ』
「そうか」
まあ地球にだって差別は蔓延してるし、異世界の価値観をどうのこうの言うつもりはない。
「さぁ、宿屋に帰るのじゃ」
「よし、テレポート」
俺達は、今まで利用していた宿屋へ転移した。
◇ ◇ ◇ ◇
宿屋の店主の部屋。
俺はお世話になった店主へ挨拶をする。
「今日まで世話になった」
「もう王都へ出発されるのですか」
宿屋の店主は、俺が王様に呼ばれているので、これから王都へ行くと思ってるらしい。
「いや、土地を買ったから、そこで住むことになった。
この宿で泊まることはもうないだろう」
「それは、おめでとうございます。
どちらの住まいか伺っても?」
「この町の近くの湖のそばにある屋敷だ」
「何じゃと?!」
ローライレが驚くのも無理はない。
2億3000万MAの大金をパッと用意し、購入したからな。
「あの不気味な屋敷に……いえ、失礼」
「そういうわけだから、ここを引き取る」
「またいつでも会いにいらしてください」
「ああ。ありがとう」
一通り挨拶を済ませ、荷物も屋敷へ転移し、俺達も転移しようとして、
「む、待つのじゃ。
そこの物陰に隠れている者よ、姿を現わすのじゃ」
「え?」
「おや、僕が見つかるとは、驚いた」
物陰から現れたのは、全身タトゥーのギルドマスター、ウヨックだ。
この野郎。
「おい。今度ふざけたことしたら許さないって言ったよな?」
「何のことかな?」
「盗み聞きしてただろ」
「残念だけど、証拠がなければこの国では無罪だね」
「やかましい。テレポート」
問答無用で、ウヨックを彼のギルドへ転移させた。
『ちなみに、さっき町長と話してた時からずっと、隠れていたバグよ』
「気づいてたのなら、そのときに言えよ?!」
ウヨックは俺のストーカーだろうか。
オッサンにストーキングされるとか嫌すぎる。
うぇ、気分が悪くなってきた。
「早く屋敷に行こう。俺はハーレムで癒されるんだ」
『癒しからは、程遠い面子だろバグ』
「いいんだ。テレポート」
俺達は屋敷へ転移した。
◇ ◇ ◇ ◇
黒い石壁に囲まれた敷地は、さながら悪の魔王の領土だ。
俺たちは屋敷の前にテレポートしたが、
「ガガッ、シンニュウシャ発見。キサマラ何者ダ」
「ガガガッ、ナンノヨウダ。目的ヲハナセ」
石像4体が、エルフ3人と吸血鬼を囲んだ。
「待て待て、こいつらは俺のハーレムメンバーだ!
仲間だ。敵じゃないぞ」
「リョウカイ……所持ギルドカード参照……登録カンリョウ」
「吸血鬼ハギルドカード未所持ノタメ、名前フメイダ」
「ライレはローライレじゃ。なんじゃお主らは」
「ローライレ……登録カンリョウ」
石像たちは、再び4方の端へと飛んでいった。
「生き物ではなかったのじゃ。魔道具?」
「屋敷一帯を守る、ガーディアンだ」
「よく見れば周りに城壁のようなものまで作られておるし、遊角、お主いったい何をしたのじゃ……」
「ちょっと改造しただけだ」
エルフ3人はポカーンとしている。
「ゴーレムなんて、初めて見たわ。
おとぎ話の魔獣かと思ったけれど、本当に居たのね」
「昨日のマニィとかいう金髪女性もゴーレムですよ。
土の加護がある私には分かるですよ」
「石像さんのアレが、どこにあるのか分からなかったですわ……」
この世界でも、動く石像って珍しいのか?
『地の大陸へ行けば、好きなだけ見られるバグ』
「この風の大陸には少ないってことか」
『上質な石が少ないからなバグ』
何にせよ、石像がしっかり仕事をしてくれるのも分かったし、ひと安心だ。
「さ、屋敷に入ろうぜ」
「まさか屋敷の中まで改造を?」
「いや、中はノータッチだ」
「私の中も改造してほしいですわ!」
イフリアを無視し、赤い扉を開けると、金髪のマニィが迎えてくれた。
「おかえりなさ「また現れたな侵入者! 食らうのじゃー!」ゴブハァッ?!」
ローライレのガラスみたいな透き通った剣が、マニィの脳天をかち割る。
「痛たたた……酷いです! 何するんですか!」
マニィの頭の中は白い金属色だった。
割れた頭が元に戻ってゆく。
「ふむ? 昨日よりも手ごたえがないのう、同一人物ではないのじゃ」
『そりゃ、冥王が操っていた時の方が強いに決まってるバグ』
「頼むから仲良くしてくれよ……」
この異世界、すぐ切りかかる奴が多すぎるだろ。
◇ ◇ ◇ ◇
マニィはいじけて部屋へ引きこもってしまった。
マニィのことを皆に話し、時刻はすっかり夜。
「で、夕食は?」
「忘れてた」
「使えないわね……」
シルフィーンが呆れる。
グノームは、鳥の魔獣の死体を見せびらかす。
イフリアは、壺っぽいのを取り出す。
「王都でコカトリスまるまる1匹が安く手に入ったですよ。
これで私が料理するですよ」
「ロングホーン・カウのお乳を買いましたわ。これも使うですわ」
今日もグノームの手料理が食べられるのか。
彼女は料理が上手だから楽しみだ。
「って、調理担当はグノームばっかりだな。
交代制にした方がいいか?」
「私料理は苦手なのよね」
「他人の作ったマズい料理を食べるくらいなら、自分で作るですよ」
「牛乳料理なら得意ですわ!
この白いのが固まると……」
ちなみに俺の料理力は0だ。
家庭科の授業で料理があった時も、班の奴らに任せてサボっていた。
この際に覚えるのもいいかもしれないが、どうせならハーレムメンバーの作った飯が食べたい。
女子の手料理! それが男のロマンだ!
「じゃあ今日はイフリアが作ってくれ」
「ならコカトリスは腐らないように、魔道具袋に入れておくですよ」
「分かりましたわ。
遊角さんとわたくしで、ギシギシ頑張って作るですわ。
何を、って、そりゃあ子ど」
「イフリアが、1人で、全員分の料理を作ってくれ」
「ああっ! つれないですわ!」
キッチンの場所へイフリアが入る。
グノームは調理道具をイフリアに貸し、戻ってくる。
俺たちは居間で待機だ。
家具は一瞬で作った。
赤と黄色の絨毯、赤の木製円形テーブルと椅子。
なかなか見事な出来だ。
「うわー、ないわー」「趣味が悪いですよ」
『ふつうの色にしろバグ』「うむ。ライレの好みじゃ」
……ローライレ以外には不評だった。俺、泣いていい?
なじられつつ椅子に座って待機中。
「今のところ料理ができるのは、グノームとイフリアだけか」
「待つのじゃ。
ライレに料理できるか聞かないのは、どういうことじゃ」
「え? 吸血鬼って血を吸うから、料理なんて必要ないだろ?」
「酷い偏見じゃ! ライレだって料理くらいできるのじゃ!」
「例えば?」
「え? ……ほら、アレじゃ、肉を丸めて焼く……」
すぐに料理名が出てこない時点でダウトだ。
「マニィもきっと、金を食うくらいだから、料理なんてできないだろうしなぁ」
「むぅ! ライレは料理、出来るのじゃー!」
夕食は白い蒸しパンに、ヨーグルトっぽい見た目のドロドロした液体だった。
見た目は悪いが、意外と美味しかった。




