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その転移魔法、チートですよ?  作者: 気まぐれ屋さん
1章 イントロ~屋敷移住まで
32/66

32.わがまま王女


前回までのあらすじ。

吸血鬼の屋敷を買い戻すために、2億3000万MA溜めることにした。

――――――――――――――――――――――――



夜、宿屋にて。

ローライレ用に、部屋を新しく取るつもりだったが、無駄遣いはやめるのじゃ、と断られた。


そのローライレは、俺達の部屋にドヤ顔で居る。


畳6枚分の部屋に5人+バグログで、いよいよ狭くなった。


1人寝たら畳1枚分のスペースを取ると考えたら、どれだけ窮屈か分かってもらえると思う。


今日の宿代を払い、手持ち1068万MAくらい。



「狭いわね」


「狭い方が落ち付くですよ」


「中は窮屈ですわ」


「だったら何で同じ部屋で泊まるんだよ?!」



部屋を複数借りても同じ値段なのに、意味が分からん。



「夫と同じ部屋で寝るのは当然じゃ。

そこのエルフ3人も、遊角を好いておるのじゃろ?」



ローライレは水色の髪をくしですきながら言う。



「別に?」


「遊角といた方が安全だからですよ」


「さすがのわたくしも、リョナは勘弁ですわ」



実は、俺の居ない間に何度か、ガラの悪い奴に狙われたらしい。

返り討ちにしたみたいだが。


エルフの肉は高値で売れる。

だから狙われる。


宿でエルフだけの部屋など、強盗からすれば宝物庫のようなものだ、ということらしい?



「分かった。エルフだけだと危ないからってのは分かった。

だがローライレ、お前は別の部屋でもいいだろ?」


「嫌じゃ! 遊角と一緒に寝るのじゃー!」



転がって手足をバタつかせる。

ガキか。



「あら熱い仲ね」


「遠慮せずに、いちゃついてくれて構わないですよ」


「そうですわ! 遠慮せずヤってくれて構わないですわ!」


「テメェらちょっとは黙れよ?!」



その後、騒がしいと宿の店主に怒られたので、おとなしく寝ることにした。


ローライレには、布団を新たに転移魔法で作ってあげた。

だというのに、彼女は何度も俺のベッドに忍び込もうとした。

そのたび追い出した。


結局俺の眠気が限界で、彼女とベッドで一緒に寝ることになった。


手は出していないはず。うん。



◇ ◇ ◇ ◇



翌朝。異世界に来て六日目。

王様が報酬をくれるまで、あと11日。


俺は3人のエルフに、あの屋敷の土地を買うつもりだと宣言したが、彼女らの反応は微妙だった。



「ふーん? 私は寝られたらどこでもいいけど」


「もっと安い土地や家があるはずですよ。無駄遣いですよ」


「宿でギシギシアンアンする声を盗聴する方が楽しいですわ」


「いや、イフリア。いつまでも宿屋暮らしは出来ないぞ?」


「だから、もっと安く住める所を探したらいいですよ」



グノームの言うことはもっともだ。

ただ住みやすい物件を探すだけなら、いくらでもあるだろう。


だが、あの屋敷は必要なものだ。



「ローライレの大切にしていた場所だ。取り戻さなきゃダメだろ」


「ぽっ(頬を染める)」


「はいはい夫婦乙」



シルフィーンが呆れて手をパタパタこちらへ向ける。

お前はご近所のオバサンか。



「やれやれ。よくもまあ、そんな臭いセリフが言えるですよ」


「ローライレさんの大切な場所……股間にあるアレですわね!」


「お前ら、いい加減にしろよ?」



話が進まない。




「ともかく! 今日1日、俺は本気で金を稼ぐ。そして屋敷を買う。

狭い宿屋ともお別れできて一石二鳥ってわけだ」


「2億3000万MAを1日で? いや、いくら何でも無理でしょ。無理無理」


「遊角は世間を舐めすぎですよ」


「舐めるのはわたくしだけで十分ですわ!」


「待つのじゃ! 舐めるならライレを舐めるのじゃ!」


「一体何を言ってるんだよ?! ってか、話を脱線させるな!」



ハーレムが5人になると、こうも制御困難になるとは。

これ人数増えたら大変なことになるんじゃ?


まあ深くは考えまい。



「と・に・か・く!

俺は今日は一人で出かけるから、お前ら今日は自由行動ってことでよろしく」


「分かったわ。ならお小遣いちょーだい」


「王都の図書館で本が読みたいですよ。

あと調理用魔道具と、調味料を買うですよ」


「わたくしも王都で薄い本が読みたいですわ」


「ちゃっかりしやがって……。

分かった、お小遣い渡しておくよ。

それで、王都へ転移させてやる」



3人のエルフに20万MAづつ渡し、彼女らを王都へテレポートさせた。

手持ちの残りは1008万MAくらい。



「ライレは遊角と居たいのじゃ」


「遊びに行ったりしたくないのか?」


「魔王ベルセリオが支配する世界なぞ、見るのも苦痛なのじゃ」



ローライレは毒づく。



「……? そうか? この町にしても王都にしても、

ベルセリオとやらの影響はそんなになさそうだが」


『風の大陸には大岩の竜がいたから、ベルセリオ配下は早々に引き揚げているバグ。

竜が死んだから、そのうちまた来るバグ』


「今はいないってことか」


『ま、きたら連中は自分から知らせてくれるバグ』


「自己顕示欲が強い奴らなわけか。

ってことで、王都なら多分大丈夫だと思うぞ?」


『む……そこまで言うなら、行くのじゃ』


「おう」



ローライレにも20万MA渡し、王都へ転移させた。

所持金残り988万MAくらい。



「で、バグログ。一攫千金になる手段って、何が思いつく?」


『あれだけ大見得おおみえ切って、何も策が無かったのかバグ?!』


「んん? 俺が何も当てがなかったこと、気づいてなかったのか?

バグログ、お前俺の頭の中を覗けるんじゃないのか?」


『残念ながら遊角が隠してることは分からないバグ』


「ってことは、俺が隠し事をしている、という事自体は分かるのか」


『いや? 何か隠してるのかバグ?』



今更ながら、バグログとの間にも、きちんとプライベートはあるみたいだ。



「隠し事は今の所無いな。

で、金策だが、ギルドで依頼を受けようと思ってる。

依頼は町役場で貰えばいいんだっけ?」


『せっかくだから、王都の役場で貰えばいいバグ。

高額依頼なら、そっちの方が多いバグ』


「結局、俺も王都へ行くのか」


『ギルドを長期間離れるなら、ギルドマスターに一言残すバグよ』


「長期間は離れないけど、そうするか」




俺は宿屋に備え付けの紙を1枚取り、「しばらく依頼休みます」という文章を書き、ギルドへ転移させようとして



「そういえば、この異世界で日本語以外聞かないし見かけないが、どうなってるんだ?」


『今更すぎるだろバグ。

遊角の体に、1μマイクロm(1mmの1000分の1)大の魔道具が埋め込まれているのに気が付かなかったバグ?』


「えっ、何それ初耳だぞ?!」


『その魔道具は、異世界に転移、転生された者が困らないように、言語翻訳機能を与えるバグ。

どんな言葉も聞ける、分かる、書けるバグ』


「それで言葉に困らなかったのか。

でも、ドラゴンの言葉は分からなかったぞ?」


『よほど意識的に聞こうとしない限り、自分と類似の種族、遊角の場合は人間種や類似種以外の言葉は分からないバグ。

でも、注意さえすれば聞こえるバグよ』


「……ほぅ」




俺は耳を澄ます。

小鳥の鳴き声が聞こえる。


それに意識を向ける。



「おい、あっちの家の屋根に集合だってよ」


「何だろうな、行こうぜ」



小鳥は飛んでいった。



「こいつはすげぇな!」


『……マニィは説明しなかったのかバグ?』


「ああ。まったく酷い話だ。

あのヘッポコ女神め」



マニィの説明を最後まで聞かず勝手に飛び出したことなど、俺はすっかり忘れている。



「よし、書き置きをテレポートでギルドに置いたぞ。

次は俺自身が、王都の役場へテレポートだ」



あの厨二心をくすぐる、黒い屋敷を買う金を稼ぐために、俺は王都の役場へと転移した。



◇ ◇ ◇ ◇



吹雪が結界の外で吹き荒れる。

石造りの都市。風の大陸の国王のお膝元。



俺は石造りの建物内部にいた。


王都の役場だ。

受付だけでも25mくらいある。すげぇ。



「ギルドへの依頼の方はこちらでーす!

依頼をお探しの方は、あちらの掲示板の紙をこちらへお持ちくださーい!」



役場のお姉さんが声を張り上げる。


メガネ三つ編みなお姉さんが言うとおり、俺は掲示板の方へ行こうとしたが、周りがざわざわし始める。



「おい、あれって……」


「ああ間違いない、また無茶言いに来たに違いない」



男たちの視線の先には、黒いドレスを着た、17歳くらいの少女。

肩までの長さの白髪をゆらゆらなびかせながら、受付へきた。



「……第9王女様、本日はどういったご用件で?」


のことはドルチと呼べと、何度言えばわかるのぞよ」


「ドルチ様、本日はどういったご用件で?」



受付のお姉さんの笑顔がひきつっている。



「ふむ。世もこの年になり、別荘を建てる許可が下りたのぞよ。

そこで、世の別荘にふさわしく、ポセイドンの神殿にしようと思うぞよ」


「おっしゃっている意味がよく分かりませんが。

ポセイドンの神殿っぽい建物を建てる依頼でしょうか?」


「あれほどの神殿を建てる資材が集まるとは思えんぞよ。

そうではなく、水の大陸の深海にある、主なきポセイドンの神殿、それを持って来て、世の別荘にするぞよ」


「……深海の神殿をサルベージして、この風の大陸のドルチ様の領土へと持ってこい、と?」


「そうぞよ!」



へぇ、さすが異世界。そんな大がかりな依頼もあるのか。



「まただよ、第9王女様の無茶振り……」


「王女様は支払いが良いから依頼受ける人もたまにいるが、今回はなぁ……」



異世界的にも、この王女様の依頼は無茶らしい。

受付のお姉さんが頭を抱え、ため息をつく。



「依頼報酬は世の1年分のお小遣い……8億MAでどうぞよ!」


「駄目です」


「なぜぞよ?!」



ほぅ。8億MAか。なかなかいい額だと思うが、どうして駄目なのだろうか?



「神殿を運ぶ方法ですが、Aランク相当の魔法使い300人が浮遊魔法で、5年かけてようやく出来るかどうか、というところです」


「なら問題ないぞよ?」


「……そのランクの魔法使いも暇人ではありません。

それに彼らの月給が100万MAとしても、推計180億MAかかります」


「むむむ……そんなに払えないぞよ」


「でしょうね。なので諦めてください」


「ふむ、仕方な」


「待て」



依頼の話が無かったことになりそうなのを、俺は2人の間へ割り込み止める。



「すみません、ただいまドルチ様がいらっしゃるので、御用は他のカウンターで……」


「その依頼、俺が受けてやる」


「は?」


「ぞよ?」



二人は、何言ってんだコイツみたいな顔をしてるが、気にしない。



「ほら、依頼だよ。さっきの話、俺が受けるってば」


「失礼ですが、お名前と所属は?」


「佐倉遊角。所属は「マニィ信者の憩いの場」だ」


「失礼ながら、どちらも聞いたことがありませんね」


「……」



俺の名前が知られていないのはともかく、ギルド名すら無名なのか。

大丈夫なのかマニィさん。



「お主、世はこれでも第9王女ぞよ。

世の依頼を受けるということは、王族と約束をすることと同じぞよ。

約束をたがえた者がどうなるのか知っておるぞよ?」


「いいから、さっさと依頼文を作ってくれ、女王様」


「王女ぞよ!」


「はぁ、とりあえず依頼文を作られますか? ドルチ様?」


「依頼失敗の罰金は報酬の1割。

さらに王族を騙した罪は、懲役30年は確実。お主の人生は終わりぞよ?」



言いつつ依頼文を書く女王様、じゃなくて王女様。


依頼失敗ペナルティはBランク以下のクエストなのだが、俺の予想ではクエスト難易度はAかSランクだろうから大丈夫だと思う。



「では、この内容でクエストを作ります」


王女様の書いた紙を、受付の奥の魔法石っぽいのにかざす。

あれも魔道具だろうか?


ああいう感じで作ってるのか。なるほど



――――――――――――――――――――――――

「ポセイドンの神殿の移動(SSSランク)」

【依頼主】第9王女ドルチ

【依頼文】世の領土へ、ポセイドンの神殿を移動させるぞよ。

やれるものならやってみるぞよ。

【報酬】8億MA

【期限】6年以内。

――――――――――――――――――――――――



紙に追加で色々書きこまれた。



「……掲示板に貼ります」


「俺に手渡ししてくれよ」


「決まりですので。いいですか?

絶対に受けないでくださいよ? 人生終わりますよ?」



押すなよ! 絶対に押すなよ! ってやつですね分かります。任せとけ!


お姉さんが貼ったクエストの紙を、俺は速効でひっぺがし、クエストを受注した。



「あああ?! 注意したのに?!」



あいつ狂ってやがる、とか、魔法に自信のあるうぬぼれ屋なんだろ、とか愉快犯だろ、とか、外野が好き勝手言うのは気にしない。



「で? どこらへんに移動させたらいいって?」



役場の壁の地図に近付き、俺は尋ねる。



「ここぞよ。このあたりが世の土地ぞよ」


「それで、神殿はどのあたりにあるんだ?」


「このあたりぞよ」


「了解。神殿をテレポート」



神殿内部の魔獣や罠、その他危険な物は削除し、指定の場所に神殿が移動するようイメージした。

神殿内のお宝はサービスで残しておいてやろう。


ギルドカードに、クエスト「ポセイドンの神殿の移動(SSSランク)」を完了した、と表示された。


転移魔法が一瞬でやってくれました。



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