31.嫁ができました
前回までのあらすじ。
【無人の屋敷調査(D~Bランク)】が完了した。
吸血鬼のローライレは一時的に屋敷を手放すことにした。
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「あの町長が、この辺一帯の土地の売買を、国王の代理でやってるみたいじゃ。
資金が溜まるまで安い宿で泊まって、いずれ屋敷を買い戻すのじゃ」
ローライレが両手にガッツポーズをする。
町長の家を出て宿への帰り道。
あの後、屋敷を含む湖一帯を買い戻すには、2億3000万MA必要だという話になった。
「そうか。頑張れよ」
あの屋敷にあれだけの魔法をかける能力があるのなら、それなりの実力はあるのだろう。
彼女なら、そう遠くないうちにやり遂げるに違いない。
それに旦那さんもいるみたいだし。
「何を言っておるのじゃ?
お主も一緒に頑張るのじゃ、遊角」
「さすがに、よそ様のお金稼ぎに協力するほど、俺はお人よしじゃないぞ?」
「夫の遊角が手伝った方が、早く終わるのじゃ」
……ん?
「今何て言った?」
「遊角が手伝った方が、早く終わるのじゃ」
「もっと前」
「何を言っておるのじゃ。
お主も一緒に頑張るのじゃ、遊角」
「その後!」
「……夫の遊角?」
「いつの間に、俺がお前の夫になってるんだ?!」
結婚どころかキスもしてない相手に夫呼ばわりされたぞ?!
「誇り高い吸血鬼は、好意を持つ相手からしか吸血せぬのじゃ。
特にライレの一族は、自分が生涯を共に歩むと決めた相手からしか吸血しないのじゃ」
「で? それが俺?」
「言わすでないのじゃ、恥ずかしい」
ローライレは赤くなった頬に手を当て、顔をぶんぶん振っている。
「いやいやいや。俺の意思は?」
俺は異世界ハーレムを作ると決めたのだ。
一人の女の子と深く付き合うと、他の女の子が嫉妬する。
最悪、俺に愛想を尽かして離れてしまう。
どうしたもんかと戸惑っていると、ローライレは照れながら、俺の腕に体を預けてきた。
「ひゅーひゅー」
「お熱いですよ。幸せにですよ」
「2Pに飽きたら、3Pに誘ってほしいですわ!」
「嫉妬どころか祝福されてる?!」
俺とエルフ達は、思った以上に脈なしだったらしい。
あれだけ親切にしてやったのに、こいつら!
って、待て。このまま流されるとローライレEND直行だ。
ローライレの好意は嬉しいが、ここは毅然とした対応をせねば!
「ローライレ、聞いてほしい」
「お、愛の告白か?」
「情熱的ですよ」
「わくわくですわ」
「……先に帰って待ってろ。テレポート」
3人のエルフがからかってくるので、宿屋に転移させる。
『よかったバグ? 彼女達、勘違いしたままバグよ』
「後で説明する。お前も黙ってろ」
『はいはいバグ』
バグログは姿を消した。
「ローライレ。俺はこの異世界でハーレムを作るつもりなんだ」
「異世界?」
「ごほん。この世界で、いろんな種族の女の子をはべらせるつもりってことだ」
「強い雄が雌の集団に種付けをする。
獣がよくすることじゃ。王族、貴族、実力者もするのであろう?
良いではないか」
「そこまではしない。
せいぜい楽しく喋って、一緒に飯を食って、クエストを一緒にこなして、それから……」
「何じゃ、つまらんのう」
「?」
「遊角、お主が言っているそれは、せいぜい親しい友人で行うようなことじゃ。
それでは恋人未満じゃ」
「恋人未満、か……」
ハーレム系のネット小説では、ヒロイン複数と体の関係になっている主人公はたくさんいる。
それを否定するつもりはない。
でも、俺が求めてるのは女の子の体じゃなくて、女の子との楽しいひと時だ。
「ローライレ、俺の作るハーレムは、お前から見れば、おままごとなのかもしれない」
「そうじゃな。わざわざそんなものを作る理由が分からんのじゃ」
「でも、それでも続けたいんだ。
そう! これは男のロマンなんだ!」
「別に、夫の趣味についてまでうるさく言うつもりはないのじゃ」
「そうか。じゃあ、俺が屋敷一帯を買い戻した後、使い方について文句は言うなよ?」
「ほう。屋敷に女を住まわせるつもりじゃな?
別に構わんのじゃ。
妾の10人や20人、ライレの時代では当たり前だったのじゃ」
「……随分と寛容だな」
「正妻の余裕じゃ」
今の宿は畳6枚の大きさの部屋1つを使っているが、ぶっちゃけ狭い。
そろそろ別拠点が欲しいと思っていたところなので、あの屋敷はおあつらえ向きというわけだ。
宿への帰り道、本気でお金稼ぎする方法を俺は思索していた。
◇ ◇ ◇ ◇
一方、その頃。
マニィの住んでいた家は、大穴を開けて半壊していた。
家主のマニィは呆然としていた。
「……私の家がどうしてこんなことに」
冥王に操られている時に壁をぶち壊したのだが、本人にはその記憶がない。
「困りましたね」
誰が、いつ、どうしてこんなことをしたのか。
4神や4王は基本的に、個人に対しては無干渉である。
ならば、その他大勢の、マニィのような小物の神による仕業?
「いずれにせよ、この家はもう駄目です」
仕方ないので、別の空き家で暮らすことにしよう。
マニィは、クラムの町の近くにある湖の、屋敷へと行った。
かつて吸血鬼が別荘にしていた屋敷へと。




