3.バグログとの出会い
前回までのあらすじ。
町の広場に転移した。
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「今は……朝か」
根拠はないが、何となく雰囲気で分かる。
というかこの世界の太陽は楕円形に光っている。
気にするほどのことでもないが。
広場には地面に商品を広げた商人がたくさんいた。
ここは市場だろうか。商品を町の住人が眺めて、店主と楽しげに会話している。
「いいねぇ、この雰囲気。
と、こんな所で道草食ってる場合じゃねぇ」
異世界といえば冒険者ギルド。そこに登録しなければ。
あるよな? あって当然だよな?
ってか無かったら俺が作ってやる。
「すいませーん」
近くにいた、あまり繁盛してない暇そうな店主に声をかける。
「……?」
四角い帽子をかぶった、藍色の短髪をした褐色肌の女性店員だ。
年は俺とそんな違わないんじゃなかろうか。
「……あなた……が、私……の実験動物……?」
「ちょっと意味がわからない。じゃなくて道を尋ねたいんだが。
冒険者ギルドの」
そういえば、この異世界、当たり前のように言葉が通じているが、
そのあたりの仕組みはどうなってるのだろうか。
気が向いたら調べてみよう。
「……実験動物……じゃないなら……帰れ……。
……冒険者ギルドは……ここをまっすぐ行って……下着屋を左」
「あざーす」
どうやら冒険者ギルドも存在するようで助かった。
「……実験動物……になりたい……?
この水……あげる」
「お、喉乾いてたんだ、サンキュー。ゴクゴク……」
差し出された水を、何の迷いもなく飲む俺。
人の悪意も、何も知らない15歳。
……水に変な奴が混じっているとも知らずに。
「ぷはー。ごちそうさん」
俺は差し出された水を飲み干し、空きビンを返すと、冒険者ギルドへと走り出した。
◇ ◇ ◇ ◇
冒険者ギルドは閑古鳥が鳴いていた。
「おいおい」
荒れ果てた大部屋。
掲示板にはクエストと思われる紙が数枚貼られていて、中央の四角いテーブルでは女性がすやすやと突っ伏していた。
年は多分17、8くらい。いかにも魔法使いっぽいローブをまとっている。
オレンジ色の長い髪は、二つにまとめて胸の前に垂れている。
というか胸デカイ。
「なんか思ってたより寂れてるな」
例えるなら、人のいないシャッター街。
冒険者ギルドってのは、無法者の溜まり場っぽいイメージなのだが、そもそも人がいない。
「んー、もう食べられないよー……スヤスヤ」
「とりあえずどうするかな」
この女性を起こすべきか、誰か他の人が来るのを待つべきか。
『そこの女はギルドマスターみたいだぞバグ』
突然、誰かの声が俺の頭に響いた。
「誰だ!」
『俺様はバグログ。お前にスキルとして寄生している、いわばスキル寄生虫バグ』
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【バグログ】
説明:勝手に誰かのスキルに紛れ込み、好き勝手語りかけてくる寄生虫。
語られた言葉は寄生された者以外には聞こえない。
うるさい以外は特に害はない模様。
なお、バグログに寄生されている者はログ開示という、変わった能力を使うことが可能。
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佐倉遊角
種族:人間(15歳)
Lv:1
職業:なし
スキル:【転移魔法(魔王特製)】【バグログ】
HP 42 MP0
力5 頑丈さ3 素早さ4 知識2 魔法力0 器用さ2
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