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その転移魔法、チートですよ?  作者: 気まぐれ屋さん
1章 イントロ~屋敷移住まで
22/66

22.ウヨックの忠告


前回までのあらすじ。

転移魔法が、蘇生魔法再現以外何でもできる事が判明。

俺とエルフ3人は不老不死になり、超耐性を得た。

――――――――――――――――――――――――



実験で作った剣は、転移魔法で分解して効果を無効にした。


持ち歩いてもいいのだが、万が一誰かの手に渡ると危ない。


チート武器が作りたい場合、その場で作ればいいだけだ。


夕食は、素振りで一本道を作った際に殺した野性動物を、グノームが串焼きにしてくれた。


血抜きをすればもっと美味しくなるのに、とグノームはつぶやいていたが、十分美味だった。


時刻は夕方。そろそろ帰ろう。


残りの野性動物の死がいは、賞味期限の長い干し肉にした。

ウッドハウスの中に収納する。


切り倒した残りの木は、ウッドハウスの周りに積んだ。


あとは、ウッドハウスに、魔獣が寄りつかない特性を付与する。

……転移魔法って何なんだろうな。



『干し肉制作は、肉の水分を飛ばしたんだろうバグ。

魔獣除けの効果については、ウッドハウスの内部に魔法陣を仕込んだんだろバグ』


「そう言われると大したことなさそうに聞こえるけど、普通にチートだな」



理屈を知らなくても、転移魔法が結果から逆算して勝手に処理をしてくれる。


例えば干し肉を作りたい、と思って転移魔法を使ったとする。

すると、肉をスライス状に分けて、塩とハーブを転移でまぶして、肉から水分を転移で取り除く、みたいな作業が自動で行われる。


転移魔法が一晩でやってくれました、ってやつだ。

一晩どころか一瞬で、だけどな。



「遊角、こちらは帰る準備が整ったですよ」


「ああ、帰るか。と、その前に」



転移魔法で、大量の木材から布団を4セット作る。


これの理屈は俺でも分かる。植物の繊維を綿にして糸にし、それを元に編みこんだのだろう。

変な物質変換みたいなことはやってないはず。



「今日からこれを使ってくれよ。

さすがに毎日床で寝られると、俺が罪悪感を覚えるからな」


「へぇ、遊角のくせに気が聞くじゃないの」


「まあな。さあ、今度こそ帰還しよう。テレポート」



俺達は転移魔法で宿の自室に帰る。



◇ ◇ ◇ ◇



宿の自室に帰ったのだが、様子がおかしい。


というか、



「何かすげぇ不快な臭いがするんだが」


「これは睡眠ガスね。エルフにはもともと効かないけど」


「鼻が曲がりそうですよ」


「睡眠レ○プは、わたくしが楽しめませんのでちょっと……」



俺の部屋のみならず、宿全体の空気が汚染されている。

一体何事だろう。


どたどたどたどた、と聞こえたかと思うと、毒ガス防止の仮面をつけた男5人が俺達の前に現れる。



「動くなっす! おとなしくすれば危害は加えないっす!」



テロリスト?

異世界にも居るのか?

……いや、居るか、普通に考えたら。



「転移魔法を使ったなら、この宿を爆破するっす!」



物騒なことをおっしゃる。

心の中で、俺は宿から、物騒な物が全て消えるようにイメージする。



「おい?! 魔導爆弾と、魔導睡眠ガス発生装置が消えたぞ?!

そっちはどうなってやがる!」



1階から男の声が聞こえる。




『(こいつら顔をマスクで隠してるけど、この前捕まえた悪徳商人に間違いないバグ。

5人いるバグ)』


「(何で脱獄してんの? 刑務所はザル警備なのか?)」


『(とにかく、何とかするバグ)』



一度ならず二度までも、俺の邪魔をするとは。

しかも一般人まで巻き込んで。


これは許せんよなぁ。



「テレポート。テレポート」



バラバラの場所にいた男たちは俺達の目の前に転移し、放心状態となった。


転移魔法で、自白剤を飲ませたのと同じようになるようにイメージしたのだ。

原理は分からないけど。



『(脳内の回路を、上手いこと組み替えたんだろうバグ)』


「(そうかな? 自白剤の成分を、こいつらの体内に入れたんじゃないか?

まあいい、テレポート)」



宿の睡眠ガスも全部抜き、男達の仮面を外す。

どうやら、ガスマスクのような構造の仮面だったらしい。


……バグログの言う通り、エルフを捕まえていたあのときの商人と、その仲間たちだった。



「あーっ! あんたたちはあの時の!」


「言いたいことはあるだろうが、ここは俺に任せてくれ」


「む……わかったわよ」



シルフィーンが暴れそうだったのをすんでのところで止める。



「おい、何の目的でこんなことをした?」


「あっしらは、ウヨック様の部下の裏方、いわば社会の闇っす。

ウヨック様が、遊角さんの情報が知りたいって言うから、こうして調査に来たっす」


「調査という割には、穏やかじゃないな?」


「遊角さんを無力化して、捕まえてほしいって頼まれたから、こうして睡眠ガスをつかったっす。

殺すつもりなら神経ガスを使ってるっす」



おっかない連中だなオイ。



「宿の連中は無事なんだろうな?」


「もちろんっす。高い金と、ウヨック様の機転で、宿にいるのはあっしらだけっす」


「なるほど。要するに、これは全部ウヨックの仕業か。テレポート」



こいつらに聞くより、本人に聞いた方が良さそうだ。

俺は「闇の屍」ギルドマスター、ウヨックを呼び出す。



「……おや」



全身タトゥーの男は、泡だらけで、タオルで体をこすっている最中だった。

入浴中だったのだろうか。


彼はきょろきょろ周りを見て、状況を把握したらしく



「参った。参った。降参だよ」



両手を上げて、にこやかにしていた。



◇ ◇ ◇ ◇



「僕の趣味はね、情報収集なのさ。

竜を倒した君のことが知りたくって、ね」



ウヨックは、グノームの出したお茶を飲みながら言った。

服は俺が彼の家から転移させたのを着いている。



「中でも、弱点についてはなんとしても調べたくてね。

魔法使用不可の結界を使わせたり、転移先にあらかじめ睡眠ガスを仕掛けさせたりしたけど、効き目がなかったみたいだね」


「俺の弱点を調べてどうするつもりだったんだ。

脅すつもりだったのか?」


「まさか。僕はこれでもギルドマスターだ。

クラムの町の治安は守ってみせるつもりだ。

守る対象の中には、君も入ってるんだよ、佐倉遊角」



嘘くさい話だな。



「アンタの部下に、殺されそうだったんだが」


「ああ、ナイフで切り付けられたって話だったかな?

そのくらいの傷は回復魔法で直せるから問題ないよ。

それどころか、君は男の腕を転移魔法で切り飛ばし、その後くっつけたらしいじゃないか」



そういえば、そんなこともあったな。



「君の転移魔法の無限の可能性は素晴らしい。

それと同時に脅威だ。

佐倉遊角、君の弱点が知りたかったのは、君がこの町の敵となった時、どうやって対抗すればいいか知りたかっただけなんだよ」


「俺は別に、進んで誰かに敵対しようなんて思ってないぞ?」


「でも例えば、君が魅了魔法にかかってしまったとすれば?

君が悪者の手先として操られたならば?

僕はその場合の対抗策がいまだに思い浮かばないね」


「……」


「まあ、君に対してやりすぎたのは悪かったと思うよ。

でも知って欲しい。

国王がじきに君を王都へ呼び、君は報酬を受ける。

その時、全国の有力者や貴族たちの目に君がとまる。

悪い奴らの目にも、だ。

彼らは君を利用するために、ありとあらゆる手段を取るだろう。

君は彼らに利用されるかもしれない。僕は君のために何が出来る?

君が敵となった時、僕は君に対してどうすればいい?」


「……考えすぎだろ。

俺はおとなしく利用されるほどお人よしじゃない」


「クククク……自分だけは大丈夫。その手の考えを持った者が破滅してゆく様を、僕はたくさん見てきたよ」


「とにかく、お前の心配性のせいで俺の生活を荒らしてくれるな。

自分にふりかかる火の粉くらい、自分で払ってやるさ」


「ああ、でも火だるまになる前に、僕やアマンサを頼るといい。

きっと力になってみせるさ」


「分かったから、もう帰ってもらうぞ」


「その前に、彼らを元に戻して欲しい」




彼ら?

ああ、こいつらのことね。


テレポートで、放心状態の商人たちを指す。



「俺としては、このまま投獄してやりたいんだが」


「彼らには、彼らにしか出来ない仕事があるんだよ」


「調査という名の、俺へのイヤガラセか?」


「ククク、済まない。それはもうやらせないと誓おう」


「でも、元に戻したらまた犯罪を犯すんだろ?」


「悪が悪への抑止力となることがある。

ま、君には分からない世界だろうね」



必要悪ってやつだろうか。

俺にとってはどうでもいい世界だが。



「分かった。今回だけ見逃す。……次はないぞ?」


「ククク、寛大な処置をありがとう」


「テレポート」



男たちを元に戻す。



「はっ?! あっしは一体……ウヨック様!」


「みんな、よく頑張ったね。さあ、帰ろうか」


「……はいっす」



彼らは普通に帰っていった。やれやれ。



『……これで良かったバグ?』


「今度ふざけたことをしてきたら、遠慮なく潰すさ」


『遊角が良いのなら、俺様が言うことは何もないバグ』


「さて、今日の宿代だが、店主がいないから払えないな」



仕方ないから、店主の部屋の中に2万MAと、部屋代・遊角と書いた書き置きをテレポートさせた。

残り134万MAくらい、か。


王様からの報酬がどのくらいになるかは知らない。

が、もし貢献度ではなく知名度や地位で報酬分配されるのなら、俺が貰える額は微々たるものになるだろう。


明日からは、ギルドで働くとするか。

手持ちの金は多いに越したことはないし。


そして、合間に「種族大百科」を読んで、よさげな種族をハーレムに入れるための準備をしよう。

我ながら完璧な計画だ。



「明日はどうするの?」


「ギルドに顔を出す」


「私たちもギルドに行くわ」



ん? シルフィーンもギルドに行くってことは……



「お前らも冒険者希望か?」


「遊角なしで、どれくらい稼げるのか調べるだけよ」


「その言い方だと、俺なしでも問題なく稼げるなら、俺から離れるみたいに聞こえるな」


「分かってるじゃないの」


「そんな?! まだハーレムには4人しか集まってないのに!」


『だから俺様を勘定に入れるなバグ?!』



グノームがスイっと手を挙げる。

イフリアが手で胸を寄せる。



「私はずっと養ってもらうのも、やぶさかではないですよ?」


「生活を支える代わりに、体で払えってことですわね」


「そんな要求しねぇよ?!」



店主も他の宿泊客もいないのをいいことに、俺達は深夜まで騒いだのだった。



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