22.ウヨックの忠告
前回までのあらすじ。
転移魔法が、蘇生魔法再現以外何でもできる事が判明。
俺とエルフ3人は不老不死になり、超耐性を得た。
――――――――――――――――――――――――
実験で作った剣は、転移魔法で分解して効果を無効にした。
持ち歩いてもいいのだが、万が一誰かの手に渡ると危ない。
チート武器が作りたい場合、その場で作ればいいだけだ。
夕食は、素振りで一本道を作った際に殺した野性動物を、グノームが串焼きにしてくれた。
血抜きをすればもっと美味しくなるのに、とグノームは呟いていたが、十分美味だった。
時刻は夕方。そろそろ帰ろう。
残りの野性動物の死がいは、賞味期限の長い干し肉にした。
ウッドハウスの中に収納する。
切り倒した残りの木は、ウッドハウスの周りに積んだ。
あとは、ウッドハウスに、魔獣が寄りつかない特性を付与する。
……転移魔法って何なんだろうな。
『干し肉制作は、肉の水分を飛ばしたんだろうバグ。
魔獣除けの効果については、ウッドハウスの内部に魔法陣を仕込んだんだろバグ』
「そう言われると大したことなさそうに聞こえるけど、普通にチートだな」
理屈を知らなくても、転移魔法が結果から逆算して勝手に処理をしてくれる。
例えば干し肉を作りたい、と思って転移魔法を使ったとする。
すると、肉をスライス状に分けて、塩とハーブを転移でまぶして、肉から水分を転移で取り除く、みたいな作業が自動で行われる。
転移魔法が一晩でやってくれました、ってやつだ。
一晩どころか一瞬で、だけどな。
「遊角、こちらは帰る準備が整ったですよ」
「ああ、帰るか。と、その前に」
転移魔法で、大量の木材から布団を4セット作る。
これの理屈は俺でも分かる。植物の繊維を綿にして糸にし、それを元に編みこんだのだろう。
変な物質変換みたいなことはやってないはず。
「今日からこれを使ってくれよ。
さすがに毎日床で寝られると、俺が罪悪感を覚えるからな」
「へぇ、遊角のくせに気が聞くじゃないの」
「まあな。さあ、今度こそ帰還しよう。テレポート」
俺達は転移魔法で宿の自室に帰る。
◇ ◇ ◇ ◇
宿の自室に帰ったのだが、様子がおかしい。
というか、
「何かすげぇ不快な臭いがするんだが」
「これは睡眠ガスね。エルフにはもともと効かないけど」
「鼻が曲がりそうですよ」
「睡眠レ○プは、わたくしが楽しめませんのでちょっと……」
俺の部屋のみならず、宿全体の空気が汚染されている。
一体何事だろう。
どたどたどたどた、と聞こえたかと思うと、毒ガス防止の仮面をつけた男5人が俺達の前に現れる。
「動くなっす! おとなしくすれば危害は加えないっす!」
テロリスト?
異世界にも居るのか?
……いや、居るか、普通に考えたら。
「転移魔法を使ったなら、この宿を爆破するっす!」
物騒なことをおっしゃる。
心の中で、俺は宿から、物騒な物が全て消えるようにイメージする。
「おい?! 魔導爆弾と、魔導睡眠ガス発生装置が消えたぞ?!
そっちはどうなってやがる!」
1階から男の声が聞こえる。
『(こいつら顔をマスクで隠してるけど、この前捕まえた悪徳商人に間違いないバグ。
5人いるバグ)』
「(何で脱獄してんの? 刑務所はザル警備なのか?)」
『(とにかく、何とかするバグ)』
一度ならず二度までも、俺の邪魔をするとは。
しかも一般人まで巻き込んで。
これは許せんよなぁ。
「テレポート。テレポート」
バラバラの場所にいた男たちは俺達の目の前に転移し、放心状態となった。
転移魔法で、自白剤を飲ませたのと同じようになるようにイメージしたのだ。
原理は分からないけど。
『(脳内の回路を、上手いこと組み替えたんだろうバグ)』
「(そうかな? 自白剤の成分を、こいつらの体内に入れたんじゃないか?
まあいい、テレポート)」
宿の睡眠ガスも全部抜き、男達の仮面を外す。
どうやら、ガスマスクのような構造の仮面だったらしい。
……バグログの言う通り、エルフを捕まえていたあのときの商人と、その仲間たちだった。
「あーっ! あんたたちはあの時の!」
「言いたいことはあるだろうが、ここは俺に任せてくれ」
「む……わかったわよ」
シルフィーンが暴れそうだったのをすんでのところで止める。
「おい、何の目的でこんなことをした?」
「あっしらは、ウヨック様の部下の裏方、いわば社会の闇っす。
ウヨック様が、遊角さんの情報が知りたいって言うから、こうして調査に来たっす」
「調査という割には、穏やかじゃないな?」
「遊角さんを無力化して、捕まえてほしいって頼まれたから、こうして睡眠ガスをつかったっす。
殺すつもりなら神経ガスを使ってるっす」
おっかない連中だなオイ。
「宿の連中は無事なんだろうな?」
「もちろんっす。高い金と、ウヨック様の機転で、宿にいるのはあっしらだけっす」
「なるほど。要するに、これは全部ウヨックの仕業か。テレポート」
こいつらに聞くより、本人に聞いた方が良さそうだ。
俺は「闇の屍」ギルドマスター、ウヨックを呼び出す。
「……おや」
全身タトゥーの男は、泡だらけで、タオルで体をこすっている最中だった。
入浴中だったのだろうか。
彼はきょろきょろ周りを見て、状況を把握したらしく
「参った。参った。降参だよ」
両手を上げて、にこやかにしていた。
◇ ◇ ◇ ◇
「僕の趣味はね、情報収集なのさ。
竜を倒した君のことが知りたくって、ね」
ウヨックは、グノームの出したお茶を飲みながら言った。
服は俺が彼の家から転移させたのを着いている。
「中でも、弱点についてはなんとしても調べたくてね。
魔法使用不可の結界を使わせたり、転移先にあらかじめ睡眠ガスを仕掛けさせたりしたけど、効き目がなかったみたいだね」
「俺の弱点を調べてどうするつもりだったんだ。
脅すつもりだったのか?」
「まさか。僕はこれでもギルドマスターだ。
クラムの町の治安は守ってみせるつもりだ。
守る対象の中には、君も入ってるんだよ、佐倉遊角」
嘘くさい話だな。
「アンタの部下に、殺されそうだったんだが」
「ああ、ナイフで切り付けられたって話だったかな?
そのくらいの傷は回復魔法で直せるから問題ないよ。
それどころか、君は男の腕を転移魔法で切り飛ばし、その後くっつけたらしいじゃないか」
そういえば、そんなこともあったな。
「君の転移魔法の無限の可能性は素晴らしい。
それと同時に脅威だ。
佐倉遊角、君の弱点が知りたかったのは、君がこの町の敵となった時、どうやって対抗すればいいか知りたかっただけなんだよ」
「俺は別に、進んで誰かに敵対しようなんて思ってないぞ?」
「でも例えば、君が魅了魔法にかかってしまったとすれば?
君が悪者の手先として操られたならば?
僕はその場合の対抗策がいまだに思い浮かばないね」
「……」
「まあ、君に対してやりすぎたのは悪かったと思うよ。
でも知って欲しい。
国王がじきに君を王都へ呼び、君は報酬を受ける。
その時、全国の有力者や貴族たちの目に君がとまる。
悪い奴らの目にも、だ。
彼らは君を利用するために、ありとあらゆる手段を取るだろう。
君は彼らに利用されるかもしれない。僕は君のために何が出来る?
君が敵となった時、僕は君に対してどうすればいい?」
「……考えすぎだろ。
俺はおとなしく利用されるほどお人よしじゃない」
「クククク……自分だけは大丈夫。その手の考えを持った者が破滅してゆく様を、僕はたくさん見てきたよ」
「とにかく、お前の心配性のせいで俺の生活を荒らしてくれるな。
自分にふりかかる火の粉くらい、自分で払ってやるさ」
「ああ、でも火だるまになる前に、僕やアマンサを頼るといい。
きっと力になってみせるさ」
「分かったから、もう帰ってもらうぞ」
「その前に、彼らを元に戻して欲しい」
彼ら?
ああ、こいつらのことね。
テレポートで、放心状態の商人たちを指す。
「俺としては、このまま投獄してやりたいんだが」
「彼らには、彼らにしか出来ない仕事があるんだよ」
「調査という名の、俺へのイヤガラセか?」
「ククク、済まない。それはもうやらせないと誓おう」
「でも、元に戻したらまた犯罪を犯すんだろ?」
「悪が悪への抑止力となることがある。
ま、君には分からない世界だろうね」
必要悪ってやつだろうか。
俺にとってはどうでもいい世界だが。
「分かった。今回だけ見逃す。……次はないぞ?」
「ククク、寛大な処置をありがとう」
「テレポート」
男たちを元に戻す。
「はっ?! あっしは一体……ウヨック様!」
「みんな、よく頑張ったね。さあ、帰ろうか」
「……はいっす」
彼らは普通に帰っていった。やれやれ。
『……これで良かったバグ?』
「今度ふざけたことをしてきたら、遠慮なく潰すさ」
『遊角が良いのなら、俺様が言うことは何もないバグ』
「さて、今日の宿代だが、店主がいないから払えないな」
仕方ないから、店主の部屋の中に2万MAと、部屋代・遊角と書いた書き置きをテレポートさせた。
残り134万MAくらい、か。
王様からの報酬がどのくらいになるかは知らない。
が、もし貢献度ではなく知名度や地位で報酬分配されるのなら、俺が貰える額は微々たるものになるだろう。
明日からは、ギルドで働くとするか。
手持ちの金は多いに越したことはないし。
そして、合間に「種族大百科」を読んで、よさげな種族をハーレムに入れるための準備をしよう。
我ながら完璧な計画だ。
「明日はどうするの?」
「ギルドに顔を出す」
「私たちもギルドに行くわ」
ん? シルフィーンもギルドに行くってことは……
「お前らも冒険者希望か?」
「遊角なしで、どれくらい稼げるのか調べるだけよ」
「その言い方だと、俺なしでも問題なく稼げるなら、俺から離れるみたいに聞こえるな」
「分かってるじゃないの」
「そんな?! まだハーレムには4人しか集まってないのに!」
『だから俺様を勘定に入れるなバグ?!』
グノームがスイっと手を挙げる。
イフリアが手で胸を寄せる。
「私はずっと養ってもらうのも、やぶさかではないですよ?」
「生活を支える代わりに、体で払えってことですわね」
「そんな要求しねぇよ?!」
店主も他の宿泊客もいないのをいいことに、俺達は深夜まで騒いだのだった。




