21.そして最強へ
前回までのあらすじ。
シロガネのじいさんを追い出し、グノームの手作り料理を堪能した。
転移魔法の実験を行うことにした。
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異世界へ来て四日目の朝。
俺とエルフ3人は、森に来ていた。
『ここはクラムの町の付近の森、クラムの森。
町や村以外の平野、山、森などは基本的に国王の所有物とされているバグ。
しかし、山や森の資源や動物は自由にしてもいいバグ。
ちなみに山や森を買いたいという人は、国王に申請すれば買えるバグ』
バグログはツインドリルの黒髪をくるくる指に巻きながら言う。
俺と同じローブ姿で。
「この森の環境は微妙ですよ……」
「木の間伐をしてないせいで、土が泣いてるわね」
「魔獣からしたら、荒れた所の方が住みやすいですわ」
茶髪のグノーム、緑髪のシルフィーン、赤髪のイフリア。
3人のエルフは森や山に対して思うところがあるみたいだが、俺は知ったことではない。
「よし。木のない開けた場所にやって来たぞ」
転移魔法は便利だが、たまに歩かないと運動不足になるからあえて歩いて実験によさげな場所を探していた。
そして、ちょうどよさそうな場所を見つけた。
さあ、実験開始だ。
「テレポート」
この森の中にある、死んだ倒木をイメージして、唱える。
目の前に、折れた木が横たわっている。
つまり、転移魔法の対象を直接見なくとも、俺は対象を転移させることが出来る。
「テレポート」
この木が若々しく蘇るイメージをしたが、
「駄目か」
木は死んだままで変化がない。
それどころか、地面に「魂の蘇生だけは無理」と書かれていた。
『蘇生魔法の再現は、転移魔法でも無理バグ。
冥王の怒りを買うからバグ』
「冥王?」
『生と死を司る、魂の管理者。それが冥王バグ。
4王の1人バグ』
「4王ってことは、人形魔王と同等?」
『最強格バグ。4神と他の3王すら冥王に逆らえないバグ』
「おっかねぇ」
とりあえず実験結果。
転移魔法では、死んだ者を生き返らせることはできない。
あと、冥王はラスボス候補。
「気を取り直して、テレポート」
今度は折れた木が、新品の椅子になるようイメージする。
木の一部が欠け、思い通りに椅子が出来た。
「ふむふむ。材料があれば製品の制作が出来るみたいだ」
おまけに、今使ったのは折れた木。
どうやったか知らないが、きれいな木を使ったかのような仕上がりだ。
座ってみるが、強度にも問題ない。
「次の実験だ。テレポート」
椅子に座りつつ唱える。
1つの折れた木で、ウッドハウスを作るイメージをする。
てっきり小さな木造の家のミニチュアが出来るかと思ったのだが。
「マジかよ」
「わわわっ! 何よ、これ!」
「まぁ」
「びっくりですよ」
2階建ての、それはそれは立派な家が目の前に建った。
エルフ達はその中に入っていった。
いったいどこから材料を持ってきた?
森の他の木を使ったのか?
『いや、さっきの折れ木しか使ってないらしいバグ』
「いやいや、1本でこんなデカイ家なんて作れねぇよ」
『足元を見るバグ』
「ん?」
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木に巨大化魔法の陣を描き、巨大化させた木を使いました。
木材の木目はあくまで再現したもので、本物ではありません。
転移魔法より。
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そんな文章が足元の土に掘ってあった。
……転移魔法より、って何だ。
「転移魔法には、意思があるのか?」
『スキルには多かれ少なかれ人工知能があるバグ。
でも俺様みたいに自分の意思を持つのは無理バグ』
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私に意思はありません。私はあくまであなたの道具です。
あと、蘇生魔法以外だったら何でもできますよ。
転移魔法より。
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「……普通に会話が成り立ってるな」
『俺様と違って、念話ができるわけじゃないんだろうバグ。
こうやって土に書いて伝えるくらいしかできないみたいバグ』
「空気の振動を転移で支配すれば、私だって喋ることができますよ。
転移魔法より」
『バグ?!』
「喋ったぁ?!」
転移魔法が作りだしたと思われる人工音声が聞こえる。
バグログの今の体を作ったのが転移魔法なら、音を作るくらい簡単なのだろう。
「転移魔法。お前もバグログみたいに体を作ればいいんじゃね?」
バグログよりも、よっぽど人が良さそうだ。
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私があなたと会話することを魔王は良しとしません。
あなたの自主性が損なわれる可能性があるからです。
最悪、あなたから私が取り上げられることでしょう。
転移魔法より。
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そうか。転移魔法がバグログみたくヒロインになることを期待したのだが、人形魔王にスキルを没収されたらたまらない。
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なのでこれで私の伝言は最後です。
蘇生魔法以外だったら何でもできます。
何でも作れます。何でも再現できます。是非とも乱用してください。
あ、でも4王と4神を倒すのは難しいと思います。
転移魔法より。
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それ以降、転移魔法に話しかけてもウンともスンとも言わなくなった。
にしても、何でもできる、と言われてもな。
「よし。ちょっと無茶な要求をしてみるか」
再び倒木を転移させる。
「世界最強の剣になれ!」
この木が1本の聖剣になるイメージをする。
いくらなんでも馬鹿馬鹿しい。
もしこの要求が通るなら、それはチートどころではなく、ただのバランス崩壊だ。
出来るわけが、
「……嘘だろ」
目の前の木は消え、美しく銀色に輝く剣が現れた。
「いやいや。せいぜい普通の剣だろ」
俺はその剣を持つ。驚くほど軽い。
ちょっと振ってみる。
グオォオオオオン!
ベキベキベキベキ……。
……振った方向の木が倒れ、向こうまで続く1本道が出来ていた。
これはアカン。
「何事?!」
「今凄い音がしたですよ!」
「たくさんの木や生き物が死んだ気がしますわ」
ウッドハウスからエルフ達が出てくる。
この剣はダメだ。色々とダメだ。
「敵以外には無害な最強の剣になれ!」
剣が光り、刃が少し鈍くなった。
おそるおそる、さっきの道に向かって振る。
……大丈夫だな?
変な風とかは起きないよな?
「蘇生魔法の再現は出来ないって話だから、今死んだ木や生き物はもう戻らないんだよな……」
「何の話よ?」
軽い気持ちで、罪の無い生き物を殺したことに若干後悔する。
が、実験続行だ。
「テレポート!」
無害な獣をイメージ。3つ目の兎っぽい生き物が現れる。
そいつに剣を振る。何もおきない。
兎もどきは逃げる。
「テレポート!」
次に有害な魔獣をイメージ。黒い毛皮の5mくらいの犬が現れた。
「バウ!」
「ブラックハウンド?!」
俺はそいつに剣を振る。
剣先から風が吹き、黒い犬を切り刻む。
ブラックハウンドとやらは、絶命した。
そして、そいつ以外は、一切傷ついていない。
つまり、
「敵以外には無害な最強の剣、なんて都合のいい要求まで通るのか」
恐ろしい。
【転移魔法(魔王特製)】が恐ろしい。
だって、俺が出来るってことは、人形魔王だって同じことが、いやそれ以上が出来るってことだぞ?
おまけに、彼と同等と言われる他の3王や4神も、同じようなことが出来るってことだぞ?
もし敵にまわしたら……
『4王も4神も、弱い者いじめする趣味はないから大丈夫バグ』
「俺も弱い者でいいのか?」
『4王や4神からすれば、自分達以外は弱い者バグ。
彼らに喧嘩を売ったりしない限り、敵対はありえないバグ』
「そ、そうか……」
蘇生魔法以外は何でもできる。
それは本当らしい。
どんなに都合がいいことでも通る。そういうことらしい。
俺が目指すハーレムも、その気になれば、転移魔法を使えば一瞬で作れるのかもしれない。
転移魔法で、女の子に対して精神操作的な何かを使ったりすることによって。
だが、それをやってしまったら負けなような気がする。
例えばRPGゲームを買って、レベル上げを他人に任せるようなものだ。
それはRPGに対する冒涜だ。
RPGの楽しみが損なわれる。
だから俺は、異世界ハーレムを作るのに、1つの制限をかける。
『女の子に対して洗脳まがいのことをしないこと』
これは俺が、異世界ハーレムを作るのを楽しむために必要なことだ。
舐めプではない。
その証拠に、この制約以外は転移魔法を乱用してやるつもりだ。
「俺が切り倒してしまった木や、殺した魔物を有効活用しないとな。テレポート」
目の前に、大量の木と、生物の死がいが現れる。
これで全部ではないが、この場所にこれ以上積むことはできない。
「最強の耐性が手に入り、不老不死の体になる効果が永遠に続く薬を4つだ。テレポート」
俺が唱えると、俺の手の平に4つの錠剤が現れる。
その代わりに、大量の木と死がいは消えた。
……結構デタラメな要求をしたつもりだったのに、通るのか。
それほどなのか。魔王特製スキルってやつは。
俺は錠剤を、持っていた水筒の水で飲む。
特に変わった感じはないが。
「おいお前ら」
「何よ」
「この錠剤を飲め。
最強耐性付与の、不老不死になれる薬だ」
俺は3人のエルフに、薬を渡す。
シルフィーンは、ぽいと投げた。
グノームは、俺と錠剤を交互に見て、「毒薬ですよ?」と聞く。
イフリアは、迷わず飲んだ。
シルフィーンの薬は、転移で彼女の腹の中に入れた。
「毒じゃないから大丈夫なはずだ」
グノームも飲んだ。
シルフィーン「私達に飽きたから、毒を飲ませて殺そうっての?
私は往生際が悪いから断るわよ」
「毒じゃなくて、最強耐性付与の、不老不死の薬だ。
お前の体内に転移で入れたから、もう遅いぞ」
「はぁっ?! ちょ、何するのよ!
それに不老不死? 馬鹿なの?!
私達エルフでも数千年、ドラゴンでも数万年で死ぬってのに?!」
「諦めるですよ。私達はもう終わりですよ。
毒薬で苦しく死ぬですよ」
俺はまだ信用されていないらしい。
いや、待て。
この前知り合った奴からいきなり薬渡されて、「この薬を飲めば不老不死になれるんだぜー!」と言われて、簡単に信じる奴の方がおかしいか。
「……あら? わたくしの炎の加護の副作用が消えましたわ。
体が熱くなくなりましたわ」
「炎の魔法が使えなくなったの?」
「いえ……普通に使えますわ」
イフリアの周りに炎の玉が現れる。
それを、彼女自身に目がけて放った。
「ちょ?!」
「イフリア?! くそっ! 焼身自殺なんて!」
「あああ……」
2人のエルフが慌てる。
俺は急いで転移魔法で火を消そうとするが
「ああっ、人肌のような暖かさ……うふふ、なんともないですわよ。
遊角さんの話は本当みたいですわ」
イフリアの服は焼け、彼女の肌も燃えている。
しかし彼女は平気そうだ。
さっきの薬剤がもう効いたのか? 早すぎだろJK。
「これは……気分がいいですわ」
炎の玉を再び作るイフリア。それを
「それーっ、ですわ!」
シルフィーン、グノームに投げた。
「きゃあぁぁぁぁぁ?!」
「はわわー?!」
「って何やってんだよー?!」
シルフィーンとグノームが火だるまになる。
「二人とも大丈夫そうですわ。これはすごい耐性ですわ」
「何すんのよイフリアぁぁああ!」
シルフィーンが怒りで顔を歪める。
彼女の周りに防風が生まれ、竜巻がイフリアを貫く。
「ふふふ。体に傷一つ付きませんわ」
「ハリケーン! テンペスト! ブラスト!」
イフリアに風の刃や大砲など当るが、平気そうだ。
グノームは、火を土で消火し、土のビキニで素肌を隠している。
2人のエルフの服は燃え尽き、今や全裸だ。
そして喧嘩中。
バグログは食い入るように、二人のエルフの体を見ている。
このむっつり女め。
そして、こんな状況でも俺の短剣は反応している。
ああ、イフリアの胸が揺れる。
じゃなくてだな。
どうするんだ、この始末。
「前々から、あんたのことは、はしたない変態だって思ってたのよ!
今ここでくたばれぇ!」
「シルフィーンこそ、思慮の足らない脳筋単細胞ではなくて?
知能の高いエルフ一族の恥さらしですわ」
「はぁ?! もっぺん言ってみなさい!
ブッ殺す!」
低レベルな言い争いと飛び交う魔法。
グノームは呆れてそれを眺めている。
「キレたエルフを止められるのは、空腹だけなのですよ……」
「なら、昼飯の時間まで待つか」
「エルフは普通1日2食だから、夕食の時間まで暴れると思うですよ」
「マジかよ」
話しつつ、転移魔法で彼女らの服(超耐性、絶対破れない)を作り、グノームに渡した。
「……センスのないワンピースですよ」
「うるせー」
転移魔法で、2人にも服を着せる。
魔法で傷つかない服に驚きつつ、喧嘩は止めない。
何でだ。
「(彼女たちは、突然身についた耐性の人体実験をしているですよ。
遊角にはただ争い合っているようにしか見えないですよ)」
「ええい、テレポート」
宿の自室の鎖を二人の体に巻きつける。
これでおとなしく……
ガシャァアアアン!
シルフィーンに巻かれた鎖はバラバラに切り刻まれる。
ジュウウウウウウウ!
イフリアに巻かれた鎖はドロドロに溶ける。
……魔法使用不可結界の効果を持つ鎖まで効かなくなったらしい。
「ふふふ。私を止められるなら止めてみなさいよ」
「そうやって慢心している間は、半人前ですわ」
喧嘩を再開する2人。
俺とグノームは、野草スープを昼食にすする。
ああ、美味い。
「グノーム、俺の嫁に来ないか?」
「ハーレム作りとやらを中止するなら、考えるですよ」
「それは無理だ」
「少しくらいは悩むですよ?!」
2人のエルフが腹を空かせて俺達のところに来たのは、夕方になってからだった。




