19.「異世界から来た人へ」
前回までのあらすじ。
「異世界から来た人へ」「魔道具大百科」「昔話100選」「種族大百科」の4冊を、図書カードに転写した。
――――――――――――――――――――――――
図書館の利用権は今日の日暮れまで有効だ。
そして再入館も、期限内ならタダでできる。
だが、図書館特有の静かな雰囲気が苦手なので、今日はもう再入館しないつもりだ。
俺は近くの喫茶店の屋外席でココアを飲みつつ、図書カードを使って本を読んでいる。
図書カードを、スマホみたいに指で操作すると、宙に本の内容が現れる。
内容は他の人には見えないらしい。
――――――――――――――――――――――――
「異世界から来た人へ」大陸について:
大陸は、地、水、炎、風の4つに分かれている。
北東に位置する地の大陸、南西に位置する水の大陸。
北西に位置する炎の大陸、南東に位置する風の大陸。
――――――――――――――――――――――――
ぺらり、ぺらり。
――――――――――――――――――――――――
「異世界から来た人へ」風の大陸について:
風の大陸は、いくつもの特徴的な風と、大陸中央の30を超える浮遊島、浮遊島群の真下の地面には巨大な穴。
浮遊島と穴の周りの地続きの大地によって構成されている。
他の大陸がいくつもの国家を有する中、風の大陸には1つの国家しか存在しない。
いや、風の大陸全域が1つの国として機能している。
国といっても、合衆国の形態を取っている。
アメリカ合衆国が州ごとに異なる法律で動いているように、浮遊島や都市は各々が小国家みたく独自のルールで動いている。
――――――――――――――――――――――――
「すみませーん。日替わりケーキのおかわり1つ」
「はーい」
俺は運ばれてきたケーキを受け取る。
王都というだけあって、ケーキの味も洗練されている。
ミルフィーユっぽいケーキを食べつつ、まったり読書に励む。
ネット小説好きの俺は、異世界の設定資料集だけでご飯3杯はいける。
……この異世界に、米がないみたいなのが残念だが。
ぺらり、ぺらり。
――――――――――――――――――――――――
「異世界から来た人へ」能力の上げ方について:
レベル:戦闘、人助け、労働、など。何をやっても上昇する可能性がある。
HP:レベルを上げると上昇する。体を鍛えるなどでも上昇する。
MP:レベルを上げると上昇する。魔道具を使うなどでも上昇する。
力:ひたすら体を鍛える。種族ごとに限界があるらしい。
頑丈さ:上げ方不明
素早さ:速度を要求する動作を行うと上昇する。
知識:本を読む。話を聞く。
魔法力:魔法を使う。魔道具ではほとんど上昇しない。
器用さ:上げ方不明。
――――――――――――――――――――――――
ぺらり、ぺらり。
俺は図書館利用時間の終わりまで喫茶店で過ごした。
◇ ◇ ◇ ◇
夕暮れ時、図書館前にて俺達は集合した。
「お疲れさん。どうだったよ?」
「2冊読んで、別の4冊をカードに入れたわよ」
シルフィーンは図書カードに保存する本とは別に2冊読んだらしい。
「130冊読んで、気に入った4冊を図書カードにコピーしたですよ」
グノームは速読なのか、凄いな。
「260冊の写真集を見て、抜ける4冊をコピーしましたわ」
さすが、エルフ達は知識に対して貪欲だ。
一人変なのがいるが。
「宿に帰る前に、ここで夕食を食ってくか?」
「王都の食事は高いですよ。
調理用魔道具を買ったので、宿で私が作るですよ」
茶髪エルフのグノームは、まな板と包丁、フライパンと鍋を見せる。
普通の調理道具に見えるが、調理用魔道具と言っているので、何か特別な仕様があるのだろう。
にしても、グノームの手作り料理か。
女の子の手料理なんて食ったことのない俺はもちろん大歓迎だ。
「浮いた夕飯代は寄こすですよ」
ちゃっかりしてやがる。
「さあ帰るぞ。テレポート」
別に呪文は唱えなくても転移できるみたいなのだが、唱えた方がそれっぽいから今後もそのスタイルでいくつもりだ。
俺と3人のエルフの姿が王都から消えた。
◇ ◇ ◇ ◇
俺達はマニィの浮島にある町の1つ、クラムの町にある宿屋の自室内に転移した。
「到着、お疲れさん」
「いつ見てもふざけた転移魔法ね」
「「……」」
グノームは何も言わず、扉の向こうを睨んでいる。
イフリアも、目はおだやかだが、シルフィーンと同じ方向を見ている。
「そこに、誰かいるわね」
シルフィーンによると、どうやら扉の向こうに誰かいるらしい。
ここは宿屋だ。廊下に人の1人くらいいても不思議ではない。
だが、3人の様子を見るに、扉の向こうで誰かがじっと待っているということらしい。
「……失礼。待ち伏せしていたのは、決してあなたがたに悪意があったわけではない」
「なら、堂々と入ってきなさいよ!」
扉の向こうから枯れた年寄りのような声。
それに対してシルフィーンが答えた。
おいおい、素性もわからない奴を部屋に入れるのはどうかと思うぞ。
がちゃり、と扉を開けて、長い白ひげの老人が入って来た。
「シロガネと申す。「竜を討つ者たち」のギルドの長だ」
老人はそう名乗った。