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地球が転移しました

作者: 上梓あき

祝、トランプ大統領誕生。

まさか本当に現実になるとは……!!



それは今からやってくる近い未来のこと――


最初に深宇宙での異変を捉えたのはアメリカが打ち上げたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡だった。

冥王星の横を通過する巨大なリングがこの宇宙望遠鏡に積まれた機械の眼に映る。

リングの直径は15000キロに及び、地球がすっぽりと収まるほどの大きさをしていた。

高速で移動するこのリングは地球へと向かっていた。

地球到達は一年後と判明するに及び世界に動揺と狂乱が巻き起こったのは仕方のないことだったろう。

アメリカはじめ各国政府はこの事態を隠蔽しようとしたが、刻々と近づいてくるリングの姿を誤魔化すことは叶わず、人類は死亡宣告を受けたような気持ちを抱いた。


この間、各国政府も有識者もただ手をこまねいていたわけではない。

あらゆる手段を用いてリングを観測し続けていた。

その結果判明したのはリングにはそれなりの厚みがあり、直角な角のあるドーナツ状の真円であること、材質は何らかの金属であることなどだ。

この発表を受けて人々は様々な意見を述べた。


これは地球外生命体の建造した物体である――


いいや、特殊相対性理論があるから異星人が地球に来ることは不可能――


宇宙人なんてないよ。これは自然物――


様々な意見が世間を飛び交った。


そういった議論の中でも月日は無情に過ぎていき、リングは木星近傍を通過する。

リングはそのサイズと観測された材質からみて最低でも月程度の質量を持つのではないかと試算されていたので、

重力干渉により木星の衛星群に何らかの影響を与えると見られていたのだが、リングは何らの変化ももたらさない。


そして、このことに色めきたった者がいた。柳理科雄、妄想科学読本の作者である。

彼は主張した。


「リングの中はがらんどうで中はスカスカ、リングを構成している物質もグラフェンエアロゲル以下の質量しかない。

 地球に到達する前に核を打ち込んで粉々にしよう!」


彼の説はまちがいなく正しかった。

――もしも、リングが自然物であったなら。



やがて、アステロイドにリングが到達すると新たなる驚愕が人類に届けられた。

リングはその軌道を変えてアステロイドを迂回するという自然物にはありえない動きを披露する。

これに刺激を受けたユーチューバーがMIKUMIKUダンスの新作を発表するという一幕はあったものの、

最早、政府がどう言おうともリングが自然物であると信じる者はいなかった。

その当時の市民のつぶやきがこれである――あれが自然物であるなどとはまったくもってウォーレン委員会以上の詐欺師だ。


ともあれ、こうして自然物ではないとわかったことで諸国民の動揺は鎮まった一方で、それとは反対に期待感は膨れ上がっていった。

一般人の期待とは裏腹にアメリカはじめ各国政府はエイリアンの侵略ではないかと軍に厳戒態勢を命じていたが。


そうこうするうちにリングが火星軌道を越えた。

世界中の天文マニア達が夜空を見上げてリングの観察を始めたのもこのあたりからになる。

リングには複雑な文様が刻まれていた。

これこそが地球外に星間文明が存在する証拠であると主張する者が次々と現れだし、

それに抗してこれが自然界の風化作用によるものであると声高に主張するグループとの間で緊張が高まる。

世間の動きに目ざといプロレス界がこの状況を見逃すはずがない。

リングの内外で展開する地球外文明否定派と肯定派の対立抗争アングルが観客を集めていく。

ついには自分があのリングを所有するエイリアンであると主張する覆面レスラーが登場して興奮は頂点に達した。

悪乗りした団体経営者のビンスがリングの所有権をネットオークションに掛け、これに逆上した不動産王の大統領がシークレットサービスを引き連れてリング上に姿を現す。

ペイパービューの売り上げはうなき上りとなり、マディソン・スクウェア・ガーデンのリングは燃えていたが、そんなことなど我関ぜずとばかりにリングはその歩みを止めない。



興奮は一瞬にして破られた。

リングが地球まで4000万キロ、火星軌道との中間地点に到達した時、何の前触れもなくリングが稼動を始める。

巨大な輪の内周を光が走り次々と内縁部に光が灯っていく。

光が一周するとリング内部の空間が波打ち始め、光り輝く水面のような鏡が現れた。

これをリアルタイムで見ていた世界中のSFマニアは興奮した――あれはゲイトウェイだ。

混乱が最高潮に達したNASAでは職員がテレビのニュース映像に釘付けとなる。

一体、あんなものをどうしろってんだ?


「バカ!そんなことより金星に向かった有人探査船を地球に戻せ!!」


流行の激しい不動産業界で揉まれてきたからだろうか、いち早く我に返った大統領は再選に向けての支持率稼ぎの打算を脳裏に秘めつつNASAに命じた。


リングが月を飲み込む直前、辛うじて金星探査船は地球に辿り着く。

すでに全世界で航空機の運行が停止となっていたため、強行着陸は容易だった。

探査船は琵琶湖の彦根沖に無事着水した。

探査船の飛行士達を歓迎するボートにひこにゃんが乗っていたのはこの際、閑話ということでいいだろう。

その日から飛行士達は彦根駅前のビジネスホテルに缶詰となった。

UNの勧告を受けて世界中の学校と企業が無期限休業、各国の政府機関などももインフラ維持に最低限必要な部署を除いて全職員自宅待機となったせいで、ヒマを持て余した飛行士達は仕方がないのでホテルから徒歩で彦根城観光に向かったという。


世界は狂騒に包まれていた。

地球よりも大きな輪が月を飲み込んで地上に迫っている。

ある者は悲観のあまり自殺を試み、またある者はヒャッハーに走ろうとするが、ネットを通じて連携したGEEK達によって何とか最悪の事態は避けられていた。











そしてリングが地球を飲み込んだ。







……ここでこの物語は終わりです。



地球が消滅したあとの太陽系がどうなったのかを私は知りませんし、リングに飲み込まれた地球がどうなったのかも私にはわかりません。

転移した先が巨大なスーパーアースの衛星軌道上だったかもしれないですし、ことによったら惑星上だったかもしれません。

はたまた、知的生命体のいる惑星を持った恒星系のハビタブルゾーンに転移したのかもしれません。

リングを作ったのは誰なのかも含めて私にはまったくの不明です。

柳理科雄が転移先のファンタジー恒星系で、開業した魔法塾の経営が軌道に乗らず、食うに困って出版した妄想魔術読本の印税で暮らしていたとしても、そんなの私にはわかりません。

不動産王のアメリカ大統領が無事再選されたかどうかもわかりません。



なぜならこの話の続きはこれを読んだ読者の中にだけあるのですから。



……という投げっ放しエンドです。



ゲイトウェイのイメージはこれ↓の四分過ぎあたりから。

https://www.youtube.com/watch?v=fqny8JfsuJE

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