17年前の真相(2)
実戦訓練は毎回使う武器が変わる。
その武器は、使える使えないは関係なし、使えない場合は最低限の使用方法を教えられて後は身体で覚えろ、というのが中央政府軍の教育である。
それで使えるようになる筈がない、と思っていた俺も、やらなきゃやられるという一種の極限状態で何度も攻撃を続けているうちに、いつの間にかある程度の武器は使えるようになってきていた。ある意味、手取り足取り教えてもらうより効率的なのかもしれない。
剣やライフル、バズーカに槍など、それはそれは多種に渡る武器を使わされるのだが、今日は運が良く『拳銃』だ。もちろん弾丸は入っておらず、代わりにペイント弾が入っている。
実は拳銃は剣の次に俺が得意な武器だったりする訳だが…、周りの普通レベルに達してるくらいだ。まだまだ俺が即戦力になるなんてことはあり得ない。
俺はちらりと周りを見渡した。
訓練は、中央政府軍の後ろに広がる森林で行われる。もちろんこの森も中央政府軍の敷地内であるため、周りに気遣うことなく思う存分に訓練がてきるというわけだ。
半径5km以内で、まずは予備隊員が先に森林の中に身を隠す。その後、境月教官が隊員を探し回るといった感じで訓練が始まる。
しかし、こちらの隠れている場所が見つかったら最後、百発百中でボッコボコにされる。つまりだ、見つからないように俺たちは慎重に攻撃を与える必要があるのだ。
(…とは言っても、俺の場合は30m以内に来てくれないと当てれないんだよなぁ)
そしてそれすらも狙った所に必ず当たるとは限らない。
(これはいっそ俺は囮に回った方が良いかもな)
いつもなら作戦を立てて行動するところだが、今回はノープランだ。誰がどんな作戦で動くのか全く予測できないので、迂闊な行動は出来ない。
(のぉぉ…どうしよう……)
俺が頭をぐりんぐりんして悩んでいると無線で耳に声が届いた。
『神弥、そんなに動いたら一瞬で殺られますよ』
この言葉遣いに、透き通るような声は確実に咲花だ。
……ん…?というか…
『見えてんのかよ!お前どこに居るんだ⁉︎』
キョロキョロと見渡してみても、俺には木しか見えない。緑が眼に優しいな…。
『バカですねぇ、言うわけないでしょう。まぁヒントとしては地面に足は付いてませんね。』
『!わかったぞ、木の上だな!』
嬉々として上を見上げ、ニヤリと笑った。
『金崎、お前も木の上にいた方が良い』
木の上か、確かに地面に居るよりは色々と上手くいきそうだ。今日は拳銃だしな。
『わかった!』
俺はそそくさと大きめな木に登り始めた。
ーーーーー数十分後
やばいやばいやばいやばい、これはやばすぎる。手汗が滲む中、俺は手の中の拳銃を握りしめた。じっとりとした汗が、背中を流れ落ちる。
「神弥くーん、そこに居るんだろー?出てこいよ」
雰囲気に合わない、間延びした声が森林に響き渡る。緊張感を感じさせない声色が逆に異質さを際立たせている。超怖い。
「正直もうお前の居る場所わかってっから隠れてても無駄だぜ?」
「えっ!?まじっすか!!」
思わす隠れている木の上から顔を覗かせるが、境月教官が銃口をこちらに向けているのが見えて素早く俺は元の位置に戻った。
するとそれが見えたのか教官は俺の居る木に銃を撃ってきた。
「うわぁ!!」
「ほら、さっさと出てこいよ、はっはは!」
完全に遊ばれている様にしか思えない。
「くっそぉ、どうすればいいんだよぉおお」
もはや泣き出したいレベルだ。おかしい、俺は見つかりずらそうな木の枝が多い木に登ってそこから教官を狙おうと思っていたのに気付いたらすぐ側まで教官が来ていた。おかしくね!?なに、俺のオーラとか見えんの!?
なんだよあの人、すげぇ良い笑顔だったけど悪魔にしか見えねぇ。誰か助けてくれ!
ーーーーバンッ!!!
「!!??」
真後ろで銃の音がした。
「なっ!」
一瞬俺の居る木がまた撃たれたのかと思ったがどうやら違うらしい。さらに発砲音が次々と鳴り響いている。
「いったい何が…」
顔を出すのは危険だと思ったが俺は状況が知りたく、そっと木の上から教官の居る方を覗いてみた。
するとそこには花深月が境月教官と対峙している姿があった。銃口がお互いの胸を向いている。流石だぜ花深月!!
若干だが声が聞こえてきた。
「逃げ足が速いですね、教官」
「その言い方冷てぇなぁ、反射神経が良いって言ってくれよ」
口元に笑みを浮かべながらそう言った。お互いに煽りあってる、、、こえぇえええええ。
ぐるぐると回りながらどちらもタイミングを図っているようだ。
「今回は私達負ける訳にはいかないんですよ」
「あ、そいやぁ言ってたな。俺に聞きたいことって一体なに……」
花深月が教官に見えないように、左手の人差し指を上へ向けた。
(あれは、俺たちがいつも訓練で使う合図だ!)
その指の表す意味は、
(奇襲…!)
教官の真後ろで銃口が煌めいた。
そして発砲された2つのペイント弾は正確に境月の身体へと…
ーーーパパンッッ!
「っ!!」
「くっ…」
しかし、
一瞬だった。
ほんの一瞬で、境月教官はその弾丸を最低限の動きで避けた。そして銃を持ち上げ……次の瞬間にはペイント弾に当たった花深月と、美涼樹の姿があった。
(なんだ今の動き…全然みえなかった…!!)
鼓動が早くなるのを感じた。
美涼樹は木に隠れながら境月教官の背後を狙ったのだろう、右手だけペイント弾に当たってしまっていた。
「あぁあぁ、もう!速すぎじゃないですか!?」
半ば逆ギレしながら花深月が叫んだ。
「避けられなった…」
悔しげに美涼樹が呟いた。
「おいおい、こんなのまだ遅い方だぜ?」
少しだけ乱れたマフラーを直しながら教官が言った。
軽く絶望感が俺の中に漂った。
この2人でさえ歯が立たないなんて…。しかも、さっきので遅いなら本気を出したら一体どれだけ速いんだ。
まともに攻撃しても勝ち目は無い…。
てよりも俺見てただけだ……。ぐぬぬぬ。
『神弥、聞こえますか?とりあえずそこから一旦離れて下さい!』
無線から声が聞こえたのだろう、咲花が珍しく真面目な声で言った。
『っわかった!』
俺は咲花の声で弾かれたように立ち上がった。くよくよ考えてても仕方ない。作戦を考えなければ!
境月教官の現れた場所からだいたい2キロ程離れた所で、俺と咲花と米井は合流した。
「無線でもうわかってると思うけど、花深月と美涼樹がやられた…。俺は一応囮みたいな役割だったのか…な」
「うぅ…あの2人が居ないのは心細いですぅ……」
本当に心細そうに、身体を縮め米井が言った。
「そうですねぇ、僕はともかく残ってるのはカスと病んでる系女子ですからねぇ」
「ふぇえ、ご、ごめんなさいぃ!!」
「おまっ!俺はともかく米井が可哀想だろ!?」
「あ、自分はいいんですか」
最近咲花は同じ班のメンバーに対してかなり毒舌なって来ている。最初は俺だけしか罵倒して来なかったが、遂に米井もターゲットにしたようだ。どうやら咲花はある程度仲良くなった相手に対して毒しか吐かないらしい。
「これが慣れってやつか……。米井、あいつの言うことは気にすんなよ?」
「はぃい、ありがとうございます金崎くん…。でも私が病んでるのは本当だからぁあごめんなさいぃ病んでてごめんなさいぃ!」
「うわぁぁ自分を殴るなやめろ米井ぃいいい!」
「はぁ、やれやれですねぇ…」
そしてこれも最近判明したことだが、米井は病んでるのに加え若干……いやかなりヒステリーである。自分で言っててなんだが、この班カオスだな。
「それで、神弥。境月教官はどうでしたか?」
「相変わらず化け物みたいに速かった…。20mくらいの距離だったと思うけど、それさえも避けてた」
「と、言うことは…居場所が知られたらこっちは終わりですね」
「そ、そんな……」
「なにかかしら僕達で作戦を考えた方が良さそうですね。あの2人が近距離から狙って駄目だったなら、尚更です」
「ど、どんな作戦ならう、上手くいくのかな…」
まともに戦っても俺たちは負ける。どれだけ近くで撃ってもペイント弾は教官に届かないだろう。
どうすればいい、考えろ!
「………あ!」
突然声を上げた俺を訝しげに2人がみた。
俺はゆっくりと今しがた思い付いたことを整理してから言った。
「上手くいくかはわかんないけど…」
「やってみる価値はありそうですね」
「わ、私なんかがそんな重要な役目…大丈夫かな…」
「いや米井が一番適任だと思う」
「そうですね、影薄いですし」
「えへへへっそれ程でも…」
「米井それ褒められてないぞ……。よし、それじゃあやってみようじゃねーか!!」
俺達は境月教官を迎え撃つべく、それぞれの配置に移動し始めた。