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月花  作者: きーん
第1章 日常に潜む影
7/12

隠し部屋(4)

 予備隊の寮の一階には教官の部屋があり、何人かいる教官達が日替わりでそこに寝泊まりしている。そうする目的はもちろん、規則違反を犯す予備隊員が居ないか見張るためだ。

 そんな教官のかっこうの獲物になろうとしている俺と咲花。静まり返っている廊下に、さっきの物音は酷いほど響いた。それはもう、一階にいる教官の部屋にまで届くくらいに。やばいやばい、これは相当やばいぞ。



「あ、本当ですね。ビミョーに足音が聞こえます」


「おま!なんでそんなに落ち着いてんだよ!見つかったらヤバイんだぞ!!」


 俺があたふたと無駄な動きを繰り返していると、


「わかってます。冷静に考えてるんですよ」


 ピシャリとそう言われた俺は、腕を軽く挙げた状態で硬直した。パニックになりかけていた頭が少し冷えていく。よくよく咲花の顔を見てみるとふざけているようには見えなかった。

  一呼吸置いて耳をそばだててみると、かすかにコツコツといった足音が聞こえてくる。

 まだそんなに近くまで来ていないようだ。だが規則的な足音が徐々に近づいてきていることを実感させた。

 俺は、はやる気持ちを抑えながら咲花に言った。


「おれたちどうすればいいんだ⁉︎」


「………いま、一つだけ思いつきました」


「なんだ!?」


「諦めることでーす!」


「………」


 周りは暗いが、その笑顔がめちゃくちゃ明るいことはすぐに分かった。それはもう星が飛ぶくらいの笑顔だろう。


「バッキャローー!!」


 俺は諦めないぞ、絶対に逃げ切ってみせる。 壁をたよりに慌てて立ち上がった。さっきの階段からの落下により、まだ身体は痛い…というか、かなり痛いがとりあえずここから離れなければならない。俺らの居場所は既に特定されているはずだ。


「逃げるぞ咲花!」


「たぶん無駄だと思いますがわかりました」


「無駄とか言わない!!」


 鼻っから諦めている咲花を連れ、階段を上ることにした。教官は一階からこの階段を登ってくるだろう。とりあえず二階に行ってから、反対側の階段から見つからないように部屋に戻るしかない。

 だがそう決めたときに…俺は壁に違和感を感じた。


「…?なんだ、この壁。なんかおかしいぞ……?」


「どういうことですか…?」


 階段を上り始めていた咲花はぴたりと動きを止めた。


「ちょっとだけ時間をくれ!」


 なんだか無視できないその感じに、俺は壁を急いで調べ始めた。訝しげな咲花の視線を感じながら、押したり軽くたたいたりみたりしたが、やはりこの壁だけ明らかに何か違う気がする。なんかこう、ちょっとだけ歪んでるような、動くような感じがする。何かが他の壁と違う気がするんだが。

 しばらくの間壁と格闘していたのだが、その原因がなかなかわからない。

 教官がここに来るまでの時間は刻一刻と近づいてきているのだと意識し、俺はしだいに焦り始めた。やばい、これで何も無かったらもう逃げ切れるわけがないし、そもそもここに何かあったとして、そこが隠し部屋である保証もないのだ。もしかしたらただのちょっと歪んだ壁、ということもあり得る。

 そんなことに今更気づいたが、それと同時に俺はあることを思い出した。


(たしか、立ち上がったときにもなんか変な感じがしたんだよな…)


 そうだ、壁を頼りに立ち上がったときに…


 同じ行動をしてみようと一度しゃがんでから、壁に手をついてゆっくり立ち上がると、微かに壁が上に動いたような気がした。


「咲花っっっ!!この壁、動くぞ⁉︎」


 俺は一瞬我を忘れ、バッと咲花の方を向いて興奮気味に声を上げると、


「静かにして下さい」


「ぶげらっ」


 脇腹に一撃を食らった。痛い、すげぇ痛い。

 腹を抱えて呻いているが、咲花は俺の様子を気にした素振りもなく、壁に手を当て上に動かした。

 そうすると壁の下に微かに、だが確実に、隙間が生まれた。やっぱりここには隠し部屋があったのだ。俺の勘は当たっていた。

 どうやらその壁は一度開くと、開いた場所で止まる仕組みになっているらしい。

 それを見た咲花は微かにえみを浮かべて言った。


「これは盲点でしたよ。神弥、急いでこの壁を開けましょう!」


「わ、わかった」


 どうやら俺を労わる気は無いらしい。身体の痛みを堪えながらも、俺たちは壁を動かし始めた。大分痛みへの耐性が付いたようだ。

 手を壁に密着させ上に持ち上げようとした、が…


「んぉ、お、重っいなコレ!」


「……っ!」


 思いっきり力をいれて上に動かしているのに、1センチずつしか持ち上がっていかない。あの体力バカの咲花でさえも若干顔を歪めている。これは、かなり重い。

 だがこの壁の先に空間あるのは確かなはずだ。少しだけ空いている隙間から風が流れ込んでくる。てよりも何かないと逃げる場所が無くなって……いや、先を考えるのはやめよう。


 顔を真っ赤にしながら力を込めているがなかなか壁は持ち上がらない。腕の筋肉痛が悲鳴をあげている。のっぺりと立ちはだかる重い壁に腹が立った。


 そうこうきているうちに教官の足音が大きくなり、俺はさっきよりも壁を引き上げる力を強くした。これはマズイ、本当に早くここを開けなければ。

 どちらからともなく、俺たちは顔を見合わせた。

 そして、息を合わせて思いっきり壁を引き上げた。


「!!!」


 ーーーー開いた!!!


 胸の辺りまでしか持ち上がっていないが潜るには十分な大きさに開かれている。そっと中を覗くと、そこには確かに空間が存在していた。何があるのかは暗くてまったくわからないがそんなことを気にしている余裕はもちろんない。逃げれる空間があれば良い。今は教官から隠れるのが最優先だ。

 俺たちは、急いでその壁の中の空間に逃げ込んだ。何かを踏んだような感触がしたが確認している暇はなく、急いで開いたままの壁を引き下げた。もちろんかなり重かった。





 壁に耳を当て、足音に耳を澄ませる。

 若干息が上がっていたが、これは気合いで抑えなければならない。

 カツカツと階段を登ってくる音がし、さっきまで俺たちがいた場所に…つまり壁を隔ててすぐ目の前に教官は足を止めた。


 心臓が早鐘を打っている。落ち着かせようと胸に手を当てるがまったく遅くならない。

 心臓の音が聞こえてしまうのではないかと俺が冷や汗をかいていると教官の声が聞こえ、抑えようと思っていたのにさらに鼓動が跳ね上がった。


「この辺で声が聞こえたような気がしたんだが……」


 嫌な汗がダラダラと流れる。見つかったらどうなってしまうのだろうか…。

 見えるはずがないのに教官がこちらを向いている気がした。

 沈黙が続き、時間が永遠のように感じられた。


 しかし、どうやら教官は俺たちがここに居ることには気づいていないようだった。一向にこの壁を開ける様子がない。

 もしかしたら、この壁が開くことを知らないのかもしれない。


「………。」


 再びしばらくの静寂が続き、次に階段を登っていく音がした。足音が遠ざかっていくにつれて、肩の力が抜けていくのを感じた。

  完全に足音が消えたのを確認して俺は息を吐いた。


「た…助かったぁー…」


「はぁ…」


 ずるずると2人して床にへたり込んだ。安心したとたん疲労感がどっとやってきたて、俺は目を瞑った。見つからなかった…まじで良かったー…。



 しばらくお互いの呼吸しか聞こえない中、俺はやっと自分達が逃げ込んだ場所に目をやった。…が、暗くてなにも見えない。なんとなく物が沢山あるような感じがする。


「咲花、ライト点けてみてくれ」


 俺のは階段が落ちたときに壊れてしまっていたのだ。すると咲花はポケットにしまっていたライトを取り出し、明かりを点けた。


「うわっ…」


「これは…すごいですね」


 視界一杯に広がったもの…それはーーー



 大量の ” 本 ”だった。



 これが隠し部屋なのだろうか。

 ライトで照らし切れる範囲でしか見えないが、歩くところがない程に本があちこちに散乱していてる。さらに部屋の所々に、俺の身長くらいにまで本が積み重なっていたりしているのが見えた。

 本の他にもいろんな資料や、ゴミ、ガラクタなども散らばっているようだ。なんというか…軽くゴミ屋敷のようになっている。無秩序な部屋には誰か出入りしている風には見えなかった。


「隠し部屋っていうか、ゴミ屋敷みたいな雰囲気がありますね」


 同じことを考えていたようだ。


「そうだな」


 咲花が立ち上がり、周囲を満遍なく照らすと、部屋の全体像が見えてきた。


 大きさは少し大きめの会議室といったところだろう。端から端まで本が散らばっているが、奥には大きめの机と椅子が並んでいて、壁際には部屋を取り囲むように本棚が整列しているのが見えた。

  本がちゃんとそこに収納されていればかなり広い部屋になるだろう。


「これが、予備隊の寮にあるっていう隠し部屋ってことかなのか?」


「えぇ、間違いないでしょうね。地図にも載っていない場所ですし、教官がここを開けなかったことで確信しました」


 確かにそうだ。この隠し部屋の存在を教官が知っていたなら絶対にこの壁を開けたはずだ。それを開けなかったということは、今日の監視係だった教官は隠し部屋の存在を知らなかったということになる。

 つまり、ここには確実に何かがある…。それこそ、教官という地位では知らされないような、重大な秘密が。


「よっし、咲花!探すぞ!」


「はい」






 捜索に取り掛かるためにまず咲花はライトを中央に置いた。これで視界が微かに確保出来た。

 俺はとりあえず近くに転がっていた本を、というかさっき踏んだ本を手に取ってみた。カバーは無くなっており、紙もヨレヨレで、かなり読み込まれたように見える。古い本特有の紙の匂いがした。

 パラパラとページをめくってみたが、なんだか小難しいことばかり書いていてよく分からない。けっして俺の頭が悪いからとかではなく、この本が特別難しいに違いない。

 その本を床にリバースし、再び床に転がっていた違う本を手にとったが、これまた何が書きてあるのかわからない。いや、文字は読めるんだが、言葉が堅苦しすぎて内容が頭に入ってこない。


 その本を床にちゃんと戻して、俺は諦めて本棚に向かった。ヤバイな、おれの頭じゃ、ここにある本は理解出来ない気がする…。



 床の本を踏まないように本棚の前まで行き、天井ほどの高さまであるその棚を見上げた。すると一番上の一列は、ほぼ空であるのが見えた。きっとそこに入るべきだったものが、いま床に散らばっている本達なのだろう。確かにあの高さまで戻すのは面倒くさいな。

 本棚は一つで軽く1000冊くらいは入りそうだ。それが部屋に10個は置かれており、この部屋に散らばっている本の多さを物語っていた。

 ん…?今気付いたけど、こんな大量に本があるのに目的のものを見つけるなんて不可能なんじゃないか……?


「いやいやいや!たぶん見つかる見つける!」


「なに独りごと言ってるんですか?」


「なんでもない!」


 俺はブンブンと首を振って本棚に向き合った。咲花のヤル気を失わせてはいけない。いや咲花ならとっくにそう思っていそうだけど…。

 次に目線の高さにある本棚を見てみると、その段には本ではなく、かなり厚さのあるファイルが大量に並んでいた。ざっと見た限りでも軽く100個は横に並んでいる。どうやら本棚に仕舞われているのは本だけではないようだ。

 適当に一つ選んで中を開いてみた。


「うわ、めっちゃ個人情報じゃんかこれ」


 そのファイルには、予備隊員の顔写真と名前、出身、生い立ちなどが事細かに書かれた紙がしまわれていた。入隊日が表紙に書かれていて、どうやらこのファイルは5年前の入隊した隊員達の情報のようだった。

 他のページも眺めてみたが、同じように1ページに1人ずつの個人情報が載せられている。


「…すげぇ、こんな事まで書いてあんのかよ…」


 じっくりと1人のページを読んでみると、友人関係や性格までもが記されていた。これは全て軍が調べたものなんだろうか。俺は大量に並ぶファイルを見た。ということは俺達の情報もどれかのファイルに仕舞われているということか。このファイルが5年前のだから…5つ後のファイルが俺達の年度のファイルか。

 そう思い手にとろうとすると、いつのまにか横に来ていた咲花が先にそのファイルを手に取った。


「あ、ちょっ」


「お先に失礼しますね」


 バラバラとすごい勢いで咲花はページを捲っていった。自分のやつを探してるんだろう。俺も自分が何を書かれてるのか気になるしな。

  捲る手を止めた咲花は、しばらくそのページを見つめた後、満足そうに笑って俺にファイルを渡してきた。


「なんか良いことでも書いてあったのかよ」


「えぇ、まぁ」


 ニコっと俺に笑いかけて、咲花は違うファイルを見に行った。なんだその笑顔は、気になるじゃないか。

 俺は手元のファイルを開いて、自分のより先に俺は咲花のページを探した。咲花の事について書かれているページを読んでみたが、生い立ちなどは俺が聞いたものと同じだったし、性格の欄にもこれといって変わったことは書いてなかった。あの笑顔は何だったんだろう。普通なことを書かれてたのが良いことってことなのか?

 まぁいいや、と思い俺は自分のページを探した。ページを見つけ読んでみたが、名前の上に【特別枠】と赤字で書かれていること以外特に変わったことは書いてなかった。

  田舎にいたときの幼なじみの名前まで書かれていたのには正直ビビったが、特に知られて困ることでもないし、俺が不利益になる事じゃないからな。

 でもまさか予備隊員の情報がこんなところに保管されていたとは。隠し部屋だから盗まれることや勝手に見られることが無いのだろうが、ちょっと管理が悪いようにも感じた。


「神弥、ここ、ちょっと見てください」


 少し離れたところでファイルを見ていた咲花が、目の前の棚を指差していた。近くに行くと、その指先にはファイルではなく、大きな本が仕舞われていた。


「ん、なんだコレ?」


「バカデカイ本があることもそうなんですが、ここに本来仕舞われているべきファイルが無いんですよ」


「仕舞われているべきファイルって?」




「17年前の予備隊員の情報ですよ」




「っ!」


 俺はファイルを数えてみた。俺達のからちょうど17個目のこのファイルは17年前の隊員のもののはずだ。しかし、それが無い…。


「おかしい…よな。ここだけ無くなってるって、やっぱり偶然じゃないよな?」


 もしかしたら、床に転がっている中から探せば見つかるのかもしれないが、17年前以外の名簿はちゃんと並んでいるのにそこだけ床に転がっているというのは変だ。


「ちょっとこの本読んでみようぜ!」


 絶対になにかあるはずだ。そう思い、俺は本を取り出した。


 かなり分厚い本で、顔の半分くらいの大きさだったため、俺は持って読むのは無理だと思い床に置いた。

 咲花がライトで本を照らすと、その表紙はなんだかよく分からない記号がたくさん並んでいることがわかった。一見すると文字のようにも見えるが、見た事が無い文字だ。


「んー…なんだ、これ?」


「とりあえず中を見てみましょう」


 最初のページを開いた。 書かれている文字は表紙とは異なり、俺たちでも読めるものだった。


「えーと…?」


 俺はその内容を読み上げた。






 遥か昔に


 僕はある約束をした


 約束をした相手は人ではなかった


 僕は、願いを叶えてくれるならそれでいいと思った


 けど


 それが間違いだった


 それは約束なんかじゃない


 呪いだった


 許してなんて言わない


 全て僕のせいだ


 僕は死ぬ


 約束は続く




「なんだこれ?」


 とんでもなく分厚いからてっきり本だと思っていたが、どうやら違うらしい。 文字は人の手で書かれていたので、もしかしたら誰かの日記なのかも知れない。でも何故こんなに分厚いノート(?)を選んだのだろうか、謎だ。


「なんだか意味不明な内容ですね。まぁ日記ってそういうものですか」


「いったい誰が書いたんだろうな…」


 うーん、と唸りながら次のページをめくってみた。

 再び俺が読み上げる。




 この世界には文明を超える力を持つ者が多数存在する。それは元から持っていたり、後から得たりすることがある。しかしどちらにも共通していることはただ一つ。その人間は世界に選ばれたということ。

 元から力を持っているものは、生まれる前に、その魂が選ばれたから。

 後から力を得たものは、その願いの強さを認めらたから。

 力を持つ者は多種多様な能力を持ち合わせる。それはその時代によって異なる。


 500年に一度だけ、文明を超える力を持つ者が現れるだろう。




「突然日記じゃ無くなりましたね」


「本当だな」


「なんというか…痛いヤツみたいですね」


「…黒歴史になってそうな本だな」


 想像力が豊かなやつなんだなぁ。

 てよりも、文明を超える力なんてものが本当にあるのだろうか。もしあるならすげぇカッコイイな、物語の主人公みたいだ。まぁこの本の持ち主がただの夢物語を書いているだけなんだろうが。

 適当にページをめくりながら、俺はなんとなく気になったページで手を止めた。





 これを読んでいるお前はもう巻き込まれている


 気を付けろ


 真実に気付くな


 思い出すな





「なんじゃこれ」


「意味深ですねぇ…やっぱり痛いヤツなんですかねこれ書いた人は」


「でもなんでこの日記が棚に入ってたんだろうな。17年前のファイルもどこにいったんだ…?」


「あ、18年前のファイル見てみませんか?もしかしたらなにか書いてあるかもしれません」


 そういってさっそく持ってきたファイルを開いてみる。ぱっと見た感じは今までのファイルと変わらなかったが、


「あれ?…予備隊じゃない?」


 そこにあったのは予備隊員のファイルではなく、4番隊と呼ばれる隊員の情報だった。

 しかし、この中央政府軍に4番隊は存在せず、3番隊からしか本隊はない。


「4番隊っていったいなんなんだ?」


「もしかしたら、18年前は予備隊は存在しなくて、4番隊が代わりにあったということでしょうか?」


「だから17年前のファイルだけ無いってことか?」


「けれど、もしちょうど隊の形式が代わる年度だったとしても、新しい隊員の情報が無くなるわけありませんよ。」


 どういう事なんだろう。

 4番隊が17年前に突然予備隊に変わったということなのがもしれないが、そもそも何故予備隊に変わったのか。そして何故17年前のファイルだけ無いのか。


「あぁもうわかんねぇえ!」


 疑問ばかりが湧いてくるが、なにも解決出来る気がしない。この部屋の本の海を調べれば何かあるのかもしれないが、かかる時間を考えると途方に暮れそうだった。


「………神弥、一つ提案があるんですが聞いてもらえますか?」


「ん?なんだ?」


 口元に手を当てなにかを思案するように咲花が言った。


「一か八かの勝負ですが、境月きょうげつ教官に17年前のことを聞いてみませんか?」


「えっ、でもお前まえに…」


「教えてくれる訳が無いって、確かに言いましたね。けれど、ここまで証拠が揃って来れば話は別です。」


「ど、どういうことだ?」


 だめだ。咲花の考えが何一つわからない。やっぱり俺はバカなんだろうか。


「ですから、4番隊が予備隊に変わったことは事実であることはわかった訳ですよね。つまり何故名前が変わったのかを教官に聞いてみるんですよ」


「あっ!」


 そうか、それなら教官も普通に答えるはずだ。


「そんで、17年前のファイルがない事を問い詰める訳だな!」


「バカですねぇ、そんなこと言ったら僕らがこの部屋に忍び込んだことがバレてしまうじゃないですか」


「あ……」


 やっぱり俺はバカなようだ。咲花が憐れみの視線を送ってくる。やめて。


「だから僕らは噂のことを直球で聞いてみればいいんですよ」


「なるほどな!流石だぜ咲花!」


「そんな、それ程でも無いですよ。普通の人ならすぐ思いつくような在り来たりな考えですよ、そんなに褒めないで下さい恥ずかしいです」


「長い!そしてすげぇ嫌味だな!?」


「さて、それじゃあ今日は一先ず部屋に帰りましょうか」


「切り替え早いな」


 そして俺たちは後日境月教官に話に行くことを決めて、静かに部屋戻ったのだった。








「巻き込まれていることに気付かない」


「巻き込んでることに気付かない」


「ねぇあなたはいったい何時気付いてくれるの?」


「さぁ、さぁ、早く思い出して」


「そして約束をしましょう?」

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