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月花  作者: きーん
第1章 日常に潜む影
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隠し部屋(2)


「そんな話し、聞いたことないぞ…」


美涼樹みすずきが強張った顔で言った。


「僕も聞いたことありませんでしたよ。てよりも、本当にそんなことがあったなら今頃中央政府軍の信用はガタ落ちですよね」


それもそうだ。

仲間同士で殺し合いをするような軍では到底国の首都を任せられないだろう。そもそも軍でそんな事件が起きていたのなら、世間から批判の声が飛び交ったはずだ。


「さっきも言いましたけど、あくまで噂でしかありません。ーーーでも僕は…」


急に黙り込んだ咲花しょうかを不思議に思っていると、咲花の目線の先に境月きょうげつ教官が居ることに気づいた。3つほど離れたテーブルで黙々とご飯を食べている。


「でも…なんだよ……?」


俺はなんとなく声のトーンを落として尋ねた。すると、咲花もさらに声をひそめて答えた。


「僕は……その事件を軍が隠蔽したんじゃないかと思っています」


「ーーっ⁈」


「そんな馬鹿な...!」


その言葉は、例え真実でないとはいえ俺たちを戦慄させた。この最強の軍が、嘘をついているというのか?


「さすがにそれは無いだろ!!」


俺はすぐに否定したが、美涼樹はそうではなかった。しばらく考えてた美涼樹はゆっくりと口を開いた。


「…だが、この軍の権力があれば……それほどの出来事を揉み消すことも可能かもしれない」


「…僕もそう思います。それに、根の無いところに噂は立たないと思いますし」


「そんな・・・」


俺はこの中央政府軍に田舎からはるばるやって来た理由はただ一つ、この軍が国で一番強くてカッコいいからだ。弱きもの助け、悪事を働くものを裁く、そんなヒーローみたいな軍に昔から憧れていたのだ。


「そんなことないと、俺は思うけど…」


俺がもんもんとしていると境月教官が立ち上がるのが見えた。俺はふと、思ったことを口に出した。


「なぁ…もし、もしだぞ?その事件が本当に起こってて、隠蔽も本当だとしたら……境月教官も知ってて隠してるってことなのか…?」


「17年前からこの軍に居るとすれば当然知っているでしょうね…」


「なら境月教官に聞いたら一番確実なんじゃないか?」


咲花が呆れたように息を吐いた。


「神弥はバカなんですか?仮に隠蔽に加担した人が僕らみたいな予備隊員にペラペラ喋る訳ないじゃないですか」


「あ、そっか」


ならもうこの事件があったのか無かったのか知ることは出来ないじゃないか。俺はこのまま微妙な気持ちを抱えたままここで生きていくのか…、とそこまで考えたとき俺はやっとこの会話が始まったきっかけを思い出した。


「隠し部屋だ!!!!」


眼を輝かせて俺は言った。突然大きな声を出したので周りのテーブルから訝しげな目線が集まった。


「突然どうしたんだ……?」


美涼樹が落ち着けるように静かに言う。

俺は周りの目線が外れたのを確認して言った。


「このままじゃ気になって仕方ないし、誰に聞いても何もわからないなら…咲花の言ってた噂の隠し部屋に行ってみないか?」


俺は2人を見つめた。


「そう言ってくれるのを待ってましたよ」


悪そうな笑みを浮かべた咲花に美涼樹はこれまた静かに、だが言い聞かせるように言った。


「隠し部屋が本当にあるなんて確証は無い。それに、あったとしてもきっと見つけられないはずだ」


あ、と俺は言うが咲花はニヤリと笑った。


「そんなことありませんよ」


「え⁈」


「もしかして見つかっているのか…?」


俺たち2人は咲花の次の言葉を待った。


「実は1ヶ月くらい前に軍本隊員の人達の寮に忍び込んだ時に…」


「おい、なにやってんだよ」


俺は呆れ顔で言った。入隊して2ヶ月で忍び込むなんてどうかしてるとしか思えない。てよりもよく気づかれなかったな。


「まぁまぁ…それでその時に聞いたんですよ。予備隊員の寮の中に地図に載っていない部屋が存在しているという話を」


「まじか!!」


「聞いたときは気にもしませんでしたけどね」


「なら、そこが隠し部屋ということなのか?」


「可能性は高そうではありませんか?」


確かに、と美涼樹が口に手を当てた。

俺のカンからするとその部屋が噂の隠し部屋で間違いなさそうだ、


「よし!そんじゃ早速その部屋探そうぜ!!」


「…そうだな。」


「ちょっと待って下さい」


そう制したのは咲花だった。さっきまでニヤニヤしていたのに今は真顔である。


「なんだよ咲花。今さらだろ?探そうぜ!」


俺がそう言うと咲花は首を縦にふった。


「えぇ、探すのはもちろん良いんですが…僕らはこれから、本当かはわかりませんが軍の秘密を暴こうとしているんです。もしこれが他人にバレたら、いえ、教官なんかにバレたら最悪何が起こるかわかりますよね?」


「さらに俺たちが気付いたことを隠蔽するかもしれない…ということか」


いよいよ物騒な話になってきた。だが今さら後戻りをする気はない。


「俺たちが探してることを知られちゃいけないってことだな?」


「そうです。2人とも、それでも探しますか?」


愚問である。

何もなかったらそれで良い。それでもそんな噂があるのならちゃんと調べてこの軍が正義であることを確かめたい。


「もちろんだ!!」


美涼樹も咲花を真っ直ぐ見て答えた。


「俺も、もちろん行く」


「わかりました。それでは、今夜にでも寮の中を探してみましょう!もちろん誰にも気付かれないようにコッソリと、ね?」


ものすごく楽しそうに咲花が言った。

どうやら咲花はスリルを感じることが好きなようだ。


「本隊員の寮に忍び込むくらいだもんな」


このくらいの事は朝飯前かもしれない。


「?なにか言いましたか?」


「いや!なにも!」


そう言った俺も内心では隠し部屋への好奇心で満ちているのだった。



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