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月花  作者: きーん
第1章 日常に潜む影
3/12

第18班 自己紹介

季節は夏、中央政府軍予備隊の寮の中にある食堂で俺は、先ほど境月きょうげつ教官に言われた言葉を思い出していた。




軍内にある大会議室にて、


「お前らが予備隊に入隊してから約3ヶ月が経った。そろそろ体力がついて来て訓練にも慣れてきたころだと思う、つかそうじゃなきゃ困るんだけどな。」


教官はぐるっと全員を見回した。


「つーことで、これからお前らを20組の班に分けることにする」


教官曰く、これからの訓練は今までのように個人を鍛えるものではなく、チームワークを鍛える方へと変わるらしい。


「もちろん今までみたいに実際に個人で戦闘する訓練も続けてくが、明日から団体での訓練がメインになってくる。」


説明が面倒くさくなってきたらしい教官は、欠伸を噛み殺しながら言った。


「はい、つーことで班は俺が独断と偏見で決めといたから。ちなみにこの班、予備隊の訓練終了まで変わらねーからな、ちゃんと仲良くしとけよ。あ、あと今日中に班のリーダーも決めとけ、以上今日の訓練終わり」


班編成の書いた紙をバンっとボードに貼り付けた教官は、大きな伸びをして会議室から出て行った。


「!?」


バタンと扉が閉まる音を聞き、にわかに会議室がざわめき始めた。

まだ10時なのに今日はランニングもせずに訓練が終わった。これは前例が無い事態である。

しかもここで仕切るべき教官は伝えるだけ伝えて居なくなった今、予備隊員たちは所在なさげにお互いの顔を見ていた。


「えーと、これは…とりあえず班見た方が良いよな」


俺は隣に座った咲花しょうかに言った。


「えぇ、そうですね」


俺と咲花が前のボードに貼られた班編成を見に行こうとすると、花深月はなみづきの凛とした声が聞こえた。


「皆んなここに見にくるの面倒だろうから私が読みあげるわね!!」


それもそうだ。予備隊員は総勢100人、全員が見に行ってては時間がかかりすぎる。

にしてもこのリーダー力だ、さすが花深月(姫君)だ。


「教官が言ってたし、リーダーも決めなきゃならないわ!班員がわかったらそれぞれ集まって話し会いましょう」






そして、いまに至る。


「なんつーか、この班濃いな!!」


「どういうことよ?」


「でも確かに濃いですね」


「…………。」


「そ、そうですかねぇ?えへ、えへへ!」


俺は、食堂の円形テーブルに着席している俺を含めた5人の班員を見回した。

右に座っているのは咲花、その隣には花深月、まぁこの辺りはいつもなんやかんやと一瞬に居るから同じ班になったのはわかる…


ーーーんだけどなぁ…


問題はその隣の無口な男とその隣の挙動不審な女子だ。男は髪の毛が左側が短く、右側が胸の辺りまで伸びているという究極のアシメヘアーをしていた。眼は切れ長で、無表情なこともあり冷たい印象を受ける。

女子の方は暗めの髪を三つ編みにしており、眼鏡をかけている。

さっきから眼鏡を外しては拭き、目が合うと引きつった笑いを浮かべるという作業を繰り返していた。なんというか、挙動不審だ。

実をいうと、俺はこの2人と話したことがない。3ヶ月間一緒に訓練してきたはずなに、実技訓練で戦闘相手に当たった記憶がない。


なんとなく気まずい雰囲気が支配するなか、この空気を破ったのは咲花だった。


「それじゃあ、もう知ってるとは思いますが一応皆自己紹介しておきましょうか?」


ーーーナイス咲花!!!


悲しいことに俺は記憶力もそんなに良くない。入隊した日に全員の名前を聞いたのだが、すっかり2人の名前を忘れてしまっていた。


「じゃあまず僕から。」


そういうと咲花は立ち上がって自己紹介を始めた。


「僕の名前は六目ろくもく咲花しょうか、16歳です。小さい頃に村が焼けてしまったのでずっと放浪して生きてきました。軍に入った理由は、そうですね…定住する為でしょうか?」


壮絶な経歴を笑顔のまま紹介し、よろしくお願いしますと言って咲花は座った。

花深月が自己紹介をする番だが、どうしてもスルーできなかった俺は口を挟んだ。


「おも!!お前の自己紹介重い!!!」


「え、そうですか?」


「つか放浪してたとか初めて聞いたぞなんだそれ!?」


「うるさい」


冷たく一蹴され俺は仕方なく黙った。

これは後で詳しく聞くしかない。


「次は私ね。私は花深月はなみづき 鈴華すずかよ。軍にはやりたいことを叶えるために入隊したわ。」


よろしく、と全員の顔をシッカリ見て着席した。

次はいよいよ、無口男の自己紹介だ。


すっと、静かに立ち上がり男は口を開こうとした。だが俺はその男の自己紹介よりも、その姿に衝撃を受け過ぎて思わず叫んでいた。



「で、でかっっ!!!!!!!」


声につられたのか、全員が男を見上げる。


「あ、確かに高いですね」


咲花が少し驚いたように言った。それもそのはず、175cmもある咲花すらも比べ物にならないほどデカイ。

呆然と俺が見上げていると男と目が合った。


「お前身長どれくらいあるんだ?」


「……198cmだ」


「やべぇえ!すげぇな!!!超カッケェエ!!」


俺はスッカリ興奮して身を乗り出した。


「なぁなぁ!どうやったらそんなデカくなるんだ⁉︎」


「神弥。」


ピシャリと冷たい声が聞こえた。

花深月がジトっと俺を見ている。


「進まないからちょっと黙ってなさい」


俺は黙って座りなおした。逆らわない方が良さそうだ…。

静かになったところで男が話し始めた。


「…俺の名前は美涼樹みすずき慶喜きょうきだ。あまり、話すのは得意ではないがよろしく頼む」


ペコっと軽く礼をして座った。見た目は怖めだが、どうやら普通に仲良く出来そうだ。

聞きたいことがこれまた多々あるが、まぁこれから班が一緒だ。いくらでも話す機会はあるだろう。

俺がそう考えていると、今度は咲花が口を開いた。


「美涼樹…って、確か予備隊の入隊試験の実力試験で成績1位だった人の名前ですよね?」


「え!?そうなのか!!?」


思わず声をだしていた。花深月がこっちを見ている気がするが、これはかなり気になる話しだ。

俺は咲花と美涼樹を見比べた。

答えなければならない空気を察した美涼樹は言った。


「……確かに俺のことだ。が、それはあくまで入隊した当時のことだ。今一番であるということでは無い」


ここで会話は打ち切り、と言わんばかりの口調だった。成績関係の話しが好きではないのかそもそも興味が無いのかわからないが、ここは次の女子の自己紹介に移った方が良さそうだ。


俺は女子の方を向いて言った。


「お前の名前は?」


「あ!はい!えっと!あ、立ちますねっ」


ガタガタと慌てて立ち上がり、うへへへと不思議な笑いをしながら話し始めた。


「わ、私の名前は米井よねい藍音あいねって言いますです、えへっ。えっと、あの、闘うのは得意じゃないですけど、勉強はそこそこ出来るから、見捨てないで下さいっよろしくお願いします、あは、あはは!」


やばい、すぐにでも壊れそうなハートだ。

せわしなく席に着いた米井はチラチラと俺たちの顔色を伺っていた。

すると、花深月が呆れたように言った。


「藍音…ここで見捨てないでとか普通言わないでしょ」


「え、あっ、そっか、そうだよね…ごめんなさい」


「いや、別に責めてる訳じゃないんだけど」


「ん?なんだお前ら仲良かったのか?」


「…まぁね」


…?なにかありそうな口ぶりだったが次は俺の番だったので立ち上がった俺は自己紹介を始めた。


「俺の名前は金崎かなざき神弥しんやだ!国の端の端にあるど田舎の出身で、毎日自給自足して生きてきたから、まだ首都での生活には慣れてないぜ!軍には特別枠ってので入ったから頭も実力も無いけど、よろしくな!!」


星が出そうなほど元気にいった俺に咲花は指を指して言った。


「藍音さん、言っておきますけどこの人あなたより実力無いので闘えないとか気にしなくていいですよ」


「えぇっ!そ、そうなんですか?」


純粋な目で見つめられた俺は、いい笑顔で答えた。


「あぁ、いまこの予備隊で一番底辺であることは間違いないな!!」


「いやぁ、清々しいくらいに自分を受け入れてますね。さすがですよ神弥、僕ならとっくに首吊ってます」


「そんなに!!??」


ぎゃあぎゃあと俺たちが騒いでいるのを見ながら、他3人もつられてクスクスと笑っていた。


「さて、それじゃあリーダーを決めましょうか」


気を取り直して花深月が言った。

花深月はぐるっと見て


「やりたい人はいるかしら?」


「……………。」


静寂が5人の間に流れた。


「それじゃあ誰が良いか決めましょうか」


花深月はなみずきで良いんじゃないのか?」


「花深月で良いと思います」


「鈴華が良いなぁ」


「花深月に任せる」


満場一致で花深月に決まった。

はぁと大きなため息を吐いて花深月は言った。


「わかったわ、じゃあ私がリーダーね」


「頼んだぜ花深月!!」


こうしてすんなりリーダーが決まったのだった。

どうなることかと思ったこの班だが、なかなか楽しくなりそうだ。

おれは明るい気持ちで笑ったのだった。



7月1日第18班始動


俺はこの日を一生忘れないだろう


主要メンバーが揃いました。

ここから物語が進んでいく予定です。

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