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月花  作者: きーん
第1章 日常に潜む影
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17年前の真相(4)

「てめーらに話がある」


 どこかの会議室であろう場所に呼び出された俺たちは、着いて早々に境月教官に正座させられた。

 訓練終了後いつの間にか居なくなっていた境月教官であったが、どうやら忘れていた訳ではなくこの会議室を空けておいたみたいだ。かなり広い部屋にも関わらず、誰もいない。

 長机とイスが整列しているのだが、俺たちは前の方で正座し、仁王立ちの境月教官に見下ろされいる状況である。

 考えなくともわかる、これは完全に説教モードだ。


 このテキトー教官のことだから今回の事もなぁなぁになるのだろうと思っていたのだが、違ったようで…


「お前らさ、馬鹿なの?」


 菩薩のような笑みを浮かべながら、境月きょうげつ教官が言った。眉間がピクピクいっている。


「俺に勝つために無い頭絞って出てきたのがあの作戦なんだろうけどな、下手したら死亡、良くて骨折だぞ?……しかも実践訓練っつってんのに、あの作戦じゃ俺にしか通用しないだろ」


 強い口調でそう言われ、俺は返す言葉も無かった。その通りだ、あの作戦は境月教官だからこそ上手く行ったのであって、訓練的にはただの失敗でしかない。

 てよりも、もしあの時境月教官が助けてくれてなかったら俺は…。

 そう考えると、作戦成功で興奮していた頭は途端に冷め、罪悪感が湧き上がってくるのと同時に、この人が本気で心配してくれていたことがわかった。


 しん、と静まり返った会議室。

 俺は境月教官の靴を見ながら言った。


「その…あのですね、も、申し訳なく思って…」


「あぁ?」


 もそもそ喋ったのが気に食わなかったのだろう。あり得ないくらい恐ろしい顔をしている。今にも刺し殺されそうな目線だ。

 あかん、殺される。


 俺は急いで床に頭をつけて言った。


「す、すみませんでしたーーーー!!!」


 勢い余って頭がゴツンと鈍い音を立てた。

 くっそ痛いがここは我慢だ。


 俺の後に続いてそれぞれ謝罪の言葉を述べていく。


「申し訳なく思ってます」


「すみません」


「ほ、本当にごめんなさい!」


「すみませんでしたー」


 …おい、一人だけ反省してない奴がいるぞ。そう思い、咲花の方を睨むために顔を上げようとするが、頭上から境月教官の声が降ってきた。


「おい神弥ぁ、俺がいつ顔を上げていいと言った…?」


「えぇえ!なんか俺だけ厳しくないっすか!?」


「ったりめーだろ、あの作戦考えたのお前だろ反省しろこのクズアホ能無し」


「物凄い罵倒されてる!!あ、いえ、まじですみませんでした!!」


 俺はまた床に頭を打ち付けた。隣から「なんですかその謝罪方法…」というドン引いた声が聞こえたが気にするがこれが俺のスタイルだ。

 はぁー、とため息をついて境月教官が口を開いた。


「まぁ俺に攻撃を当てた事は事実だ。今まで予備隊で当てたやつは居ねーから、そこは褒めてやる。だが今後一切こんなことすんじゃねーぞ、約束しろ………次やったら俺が直々に殺してやる」


 最後の言葉は声が低くなっていた。


「本当にすみませんでした!!」


「わかったならもういい。……それで?」


 え、と思い顔を上げると境月教官は腰に手を当てながら言った。


「お前らの聞きたいことってなんだよ」


 さっきまでの怒りはどこへやら、いつも通りやる気のない顔に戻った境月教官は、テーブルに腰掛けそう言ってきた。

 てっきりこの話は無しになるのかと思っていたのだが……、スリーサイズは教えねぇぞとか言ってるあたり機嫌が良くなっているようだ。

 俺たちは向かい側にある椅子に座った。


「単刀直入に聞きます」


 気が変わらない内にすぐそう口に出したのは咲花だ。

 どうやら噂について、直接聞くようだ。

 いよいよ真相について聞けるかもしれないと俺は身を乗り出した。



「ーーー境月教官って何歳なんですか?」



「………そうじゃなくね!!??」



 ぐるんと咲花の方を向くと、やつはいつも通りの嫌な笑みを返してきた。

 確かに気になるけども…俺たちが聞きたいことは他にあるのに何を考えてんだ咲花は。


 そんな質問に対して境月教官は、頭に手を当てて考えているようだ。

 うんうん唸っている…この人自分の歳覚えてないのか。


 そう考えていると、境月教官の口から思いもよらない爆弾発言が投下された。


「あー、確か42歳だ」



 ………一瞬、部屋が時を止めたように静かになった。



「はぁ!?!?」

「!!!!」

「嘘でしょう…」

「へっ!?」

「………」


 俺たちは一様に(美涼樹を除く)同じ反応をした。そして呆然と境月教官をみつめた。冗談を言ってるようには見えない。


 ーーーいやいやいや、そんな馬鹿な、何言ってんだこの人。

 その様子を見て境月教官はちょっとだけ目を見開いた。


「え、なにその反応は。……おいおいまさかもっと歳上だと思ってたわけ?うわー教官超傷つくわー」


「その逆ですよ…」


 咲花が呆然としながら言った。


「逆?」


 どうやら意味がわかってないらしい境月教官に、俺は続けて言った。


「お、俺、境月教官はせいぜい20歳後半から30歳前半だと思ってました……」


 てよりも、もう少し生きた目をしていれば20代でも行けそうな位だ。


「私もよ…」


 花深月すら驚きを隠せないらしい。馬鹿みたいに口を開けている。そういう俺も無意識の内に口を開いていたことに気づいた。


 あわてて口を閉じつつ、俺は境月教官はシワもシミも無いことを確認する。

 これで四十路など、世の奥様方に嫉妬されるレベルだ。


「は?まじで?やめろよ照れるだろー」


 などと真顔で言ってくるあたり自覚が無いらしい。もしやイケメンフィルターでもかかって若く見えるだけなのかこれは。

 そうじゃないとこのビックリ顔面マジックの説明がつかない。


「あ、ありえねー…」


「ま、まぁ取り敢えずありがとうございました。それでですね本題なんですが…僕達が聞きたい事は……」


 一度言葉を切る。

 静まり返った部屋の中で咲花の声が響いた。


「17年前、この軍で起きたことについてです」


 直球すぎじゃないかと俺は焦った。

 だが、境月教官は顔色一つ変えずに、


「ん?あぁ別に何でも教えてやるぞ?」


「えっ!」


「ただし、」


 いろいろと言いたいことがあったが、俺はひとまず口を噤んだ。

 鋭い目つきで境月教官は俺たちを見た。


「誰にも口外しない、聞いても後悔しないってことが条件だ」


 俺は境月教官を見返した。

 もちろん答えなんて決まってる。



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