17年前の真相(3)
作戦の準備が完了し、しばらく経った後遂に境月教官は現れた。教官は思惑通り俺を真っ先に見つけた。だがこれは作戦通りである。
「さてさて、また会ったな神弥」
「俺は会いたくなかったですけど…」
ここで作戦がバレては元も子もない。俺はわざと苦虫を噛み潰したような顔をしたが、教官は何を思ったのかヘラヘラと笑った。
「なんだよ、俺に会いたいからわざわざ見つかりやすそうな木に登って待ってた訳じゃねーのかよ」
「違いますけど!?」
ドキッとしたが急いで否定する。作戦がバレたのかと思ったが、どうやらただ単に俺が見つけやすかっただけのようだ。
見つかりやすそうな木を選んだ気は無かったがら結果オーライだ。
「てか境月教官、一ついいですか?」
先程から気になっていたことを聞いてみることにした。勘違いじゃないのなら相当ヤバイ…。
「あ?なんだよ」
俺は再度境月教官の手を確認してから言った。
「あの、俺の見間違いかもしれないですけど……………なんか拳銃増えてません?」
すると境月教官は両手を優雅に広げて言った。
「戦利品だ!!」
どうやら花深月か美涼樹の拳銃を持って来たらしい。クルクルと弄びながら楽しげにこちらに近づいてくる。
「いやそれもうルール違反ですよぉおおお!」
「勝者の当然の権利だ」
俺たちですら一つしか拳銃がないのに、、いや二つ持ってたとしても扱える気はしないけど。
これは想定外すぎる。教官が拳銃二つをどれ位扱えるのかは知らないが、絶対に俺たちに有利に働く筈はない。嫌な予感がしなくもない……。
徐々に距離を縮められていることに気づいて俺は拳銃を構えた。
「やるしかない…」
一気に緊張が俺を襲った。
手に力こもり、鼓動が早くなっていく。
立てた計画を再度確認する。よし、大丈夫、俺なら出来る出来る!
もしこの作戦が失敗したら、17年前の真相について知る機会は無くなってしまうかもしれない。
境月教官のマフラーの端が視界に現れては消えていく。
17年前の事なんて知らなくても良いじゃないかと思うヤツも居るかもしれないが、俺にとっては…大事なことなんだ。
それこそ親父の猛反対を押し切ってまで、この中央政府軍を選んだことが無意味になってしまう。
ふと俺は、中央政府軍に入る前の親父との会話を思い出した。
それは1年前の冬に、俺が3月に行われる中央政府軍予備隊の試験を受けたいと親父に言ったときのことだった。
「中央政府軍には絶対に行っては行けないよ。他の軍隊なら別に良いんだ。お願いだから、あそこには行かないでくれ」
いつもアホ面ばかり浮かべている親父が、この時ばかりは真剣な表情をしていたのを覚えている。そんな顔を初めて見た俺は若干動揺した。
だが何故そんなことを言うのか分からなくて、俺は強い口調で反論した。
「なんでだよ親父!!中央政府軍がこの国で一番強くて、一番国と国民を守ることが出来るんだろ!?」
「なんでそこまで国を守りたいなんて思うんだい?」
眉間に皺を寄せそう聞いてきた。
なんでってそんなの言われなくても解るだろうに。
「だって、、、カッコイイだろ!?」
俺の言葉を聞いた親父は一瞬ぽかんと口を開け、すぐに大仰なため息をついた。
「………我が息子ながら、まさかそんな理由であの軍に入ろうだなんて……」
頭に手をやって再びため息をついた。
なんなんだ、そこまでして息が吐きたい年頃なのか?
「親父はなんでそこまでして俺が行くのを止めたいんだよ?意味わかんねー」
「それは……」
そこで声を詰まらせた親父をみて、俺はある考えに思い至った。
「なんだよ、あれか親父。前に本で読んだけどこれがーー未知なものに対する恐れ、年配の男性によく現れる症状である。ーーってやつか!」
「いやいや違うよ!?てゆーか僕まだそんな年配じゃないし!……いったいお前は何の本を読んだの?」
「とにかくさ、俺は人の役に立つ事がしたいんだ。16年間ずっとこの田舎で暮らして、そりゃ楽しかったけど…やってきたことと言えば畑仕事と狩りくらいだぜ?大っきくなってからもずっと同じことしてくのかと思ったらさ、なんかそれは違うかなって思ったんだよ」
俺はずっと前から考えていたことを、正直に親父に伝えた。ちゃんと言わないと、親父はうんと頷いてくれなさそうだった。
親父はしばらく下を向いていたが、ふっと体の力を抜いていつも通りの緩んだ顔をして言った。
「………神弥はただの馬鹿じゃなかったんだね」
「失礼だぞ!?てか俺の頭悪いのは親父の遺伝子だからな!」
「あははっ」
明るくそう笑う親父を見て俺は訳もなく安心した。
さっきまでの親父の雰囲気が少し怖かったのもあるかもしれない。
最終的には親父は俺が試験を受けに行くのを許してくれた。
何故か許してくれた後は、物凄く積極的に試験対策を手伝ってくれたが。
「俺は皆んなを守るカッケーヒーローになりたいんだ。」
だから17年前のあの噂のことをハッキリさせなきゃならない。
俺は30m以内にまで迫った境月教官に銃口向けた。これを外す訳にはいかない。
さぁ……いよいよ作戦決行…
『神弥、作戦変更です』
「は、はぁ!?どういうこと…」
プチんっといったように緊張の糸が切れてしまい、思わず声を抑えるのを忘れてしまっていた。俺たちの異変に気付いた境月教官が言った。
「おいおい、なに揉めてんだよ?」
『神弥、潔く、見つかって下さい』
そんな死刑宣告のような無線が届き、俺は意味がわからず木の上でアタフタしていると、
ーーーパンッー
「っ!?」
俺の立っていた木の枝に、背後からペイント弾が発泡された。境月教官ではない、これは咲花の仕業だ。
グラッーーー
「え、あ、嘘だろ!?」
誰が打ったのかわかっていながら、確認しようとしたのが間違いだった。
安定していない足場で、なおかつ緊張感の無くなってしまっていた俺は動揺して身体がフラついてしまった。バランスを取ろうとしたときにはもう遅かった。そのときには足はもう、木の上に無かった。
あ、死んだ。
「うわぁああああああああ!!!」
この周辺で一番高い木を選んだのが馬鹿だった。なんてったって、落ちたときの衝撃が半端ないだろう…なんてことを俺は落下していく中で考えていた。
勢いよく流れていく景色に、頭が真っ白になった。
やってくる衝撃を想像し、俺は身を固くした。きっと一瞬だ、一瞬で痛みは無くなるはずだ。
ぎゅっと目をつぶり、俺はやってくるであろう痛みに身を固くした。
しかし、
痛みは一向にやってこない。
あれ、こんな木高かったっけ……?
恐る恐る目を開けてみると、上にはさっきまで俺が登っていた木があった。さわさわと葉っぱが揺れている。
「あ、あれ、俺生きてる?まじで!?俺ついに落ちても死なない体を手に入れたのか!?」
「ちげーよ馬鹿!お前なにやってんだ!」
「えっ!」
焦りを含んだ境月教官の声が聞こえて、俺はやっと自分が境月教官にお姫様抱っこされていることに気付いた。
「境月教官…!」
そうか、俺は教官にキャッチしてもらっていたのか。
てゆーかこの状況、俺が女子なら恋に落ちてそうだ。
ようやく自分の状態に気付いたらしいことを確認し、教官ははぁぁと頭を振った。
「おいおい、こんなの前代未聞だぜ…?仲間割れでもしたのかよお前ら」
そう言った境月教官を見ると、少しだけ息を切らしていることに気が付いた。
急いで俺を助けてくれたのか…。
「教官……」
「あんだよ…?」
「俺、教官のこと見直しました!!」
「見直される程俺の評価低いのかよ」
当たり前だ。重要なことは突然伝えてほとんど放置するわ、訓練がめちゃくちゃすぎるわ、寝癖ばっかりついてるわ、尊敬できる要素なんて腕っぷしの強さくらいだ。
「ありがとうございました」
未だに抱えられたままなので首を折るくらいしか出来ないが、俺はお礼を言った。
それを聞いた境月教官はほんの少しだけ口元を緩めた。なんだこの人、意外とイケメンだぞ。
じっくり顔を見たことは無かったが、やる気の無さそうな眼さえ除けば、なんというか彫刻みたいに整った顔をしている。鼻高いし、なんなんだ咲花といい美涼樹といい俺の周りはイケメンだらけじゃないか。
そんな事を考えていたが、俺は一つ言い忘れている事に気付いた。
「あ、あと……」
「……なんだ」
「背中に注意ですよ、境月教官」
ーーーーベチャッ
「………」
軽い衝撃が俺の身体に伝わってきた。
境月教官は一瞬目を見開き、動きを止めた。そしてゆっくりと俺を下ろし自分の背中を確認した。その一連の動作の間、お互いに一言も喋らなかった。
ペイント弾の撃たれた方向に米井が拳銃を持って笑っている所を見て、再びゆっくりと俺の方を向いた。
「おい、神弥」
いつもより低い声だ。なんだこれすごく怖いぞ。
「なんすか?」
俺は負けじと何ともない風に答えた。
「まさかとは思うが、木から落ちたのは………作戦か?」
境月教官は笑いとも怒りともとれる微妙な表情でそう言った。
俺は若干その不気味な顔に怯えながらも、作戦成功の喜び効果により笑顔で言った。
「作戦大成功っすね!」
「まさか神弥がそんな作戦を思い付くなんて…」
今日の訓練が終了し、食堂に全員で集まった俺たちは作戦についての話をしたのだった。
顔全体で悲壮感を漂わせながら花深月が言った。
「なんでそんな残念そうなんだよ!」
「別にそんな事ないわよ」
そう言って腕を組んで顔を背けられた。
いや、足の貧乏揺すり激しすぎるし絶対イライラしてるぞこの人。
「それにしてもあんなに上手くいくとは思いませんでしたよ。境月教官が本当に騙されるとは…」
「わたしも本当に当たると思ってなかったから、すごく、嬉しかった!」
珍しく普通に笑う米井を見て俺も再び作戦成功を実感した。
「あぁ!俺も本当に成功すると思ってなかった!」
自分でもちょっとワザとらしすぎるかと思っていたのだが、境月教官が予想外に反応してくれたのが大きいだろう。
「境月教官には悪い事したなとは思うけどな…」
作戦だったとはいえ、無駄な心配を掛けてしまった。
今更ながら罪悪感が胸に広がっていく。
俺のそんな様子に気付いたのか、美涼樹が言った。
「どんな方法であれ、攻撃が当たったのは確かだ。……これで話を聞くことが出来るな」
「そうですよ。僕達の一番の目的は17年前の噂の真相を知ることなんですから」
さっきまであらぬ方向を睨んでいた花深月がクルッと俺たちの方を向いた。
ふぅと息を吐き、全員に言った。
「さて、それじゃあ…」
「境月教官に話を聞きに行きましょうか」




