少女の意地
「くそ、どこに行けばいい」
少女をお姫様抱っこしながら、昼の喧騒を忘れた夜の商店街を僕は走っていた。シャッターはどこも閉まっており、ここら一帯静寂に包まれている。街灯と微弱な月の光だけが商店街を照らしていたが、人の影は見当たらなかった。
少女の顔色は未だに悪く、このままでは悪化の一途をたどるだろう。固く閉ざされた双眼。不規則なリズムで行われる呼吸。
それらを見ているだけで焦燥感は強くなっていった。
こうなったら病院へ行くしかない。少女は嫌だと言っていたが、こんな少女を見てしまったらそんなことは言ってられない。
僕は病院へとつま先を向け一歩を踏み出す。
グッ!
僕の体が無理矢理前かがみにされる。見やると僕の襟を幼い手が精一杯掴んでいた。しかしその精一杯の力も弱々しく、直ぐに手を離し、マントの中へ直してしまう。
「どうした!?」
「びよう……いんだ……め…………ぜったい!」
「………………くっ!」
何で分かった!?僕は声に出していないし、感づかれるようなことはしていないはずだ。
気にはなる。しかし今はそんな事気にしている場合ではない。少女には悪いが僕は再び走り出す。
これで良いよな…………
少女に謝るような気持ちで、視線を下へと下ろす。
少女が泣きながら首を左右に振っていた。小さな手を僕の顔へ一生懸命伸ばしながら。
…………何でだよ
少女自身早くその苦しみから逃れたいはずなのに。
悔しい。すぐそこにいる少女を助けたい。助けようとしている。だが、その行為は少女自身の手によって、拒絶されてしまう。
何が少女にそこまでさせるのか分からない。もしかしたらただ病院が嫌いなだけなのかもしれない。しかしそれを今の少女に聞くのはあまりに忍びなかった。
「…………分かったよ」
もう僕が折れるしかないだろう。こんな少女はもう見ていられない。
僕は着崩れてしまった漆黒のマントを直す。正直もう行く宛など殆ど無いのだが、とりあえず少女を休息が取れる場所を目指そうと今度こそ走り出した気がした。
気がした。
今回は場面区切りの関係上、あまりに文字数が少なくなってしまいました。もっと上手く調節できるように頑張ります。