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寝る子は育つと限らない  作者: クイトガ
おはようからの始まり
5/14

出会い

 僕は我が眼を疑った。何故なら先程首が浮いていたところに裸の少女が立っていたからだ。


 いや、言葉にしても全く理解できない。


 視界は暗順応が済んだのか少女の容姿が少しだがわかる。


 まだ年端もいかない幼い少女。髪は青みがかかった腰まであるロングヘアー。髪のパサつきなどは全くなく、滝のように鮮やかに重力に従い下に流れている。


 相変わらず生きているのか分からないくらいに顔は真っ白だ。しかし先程と違って開かれた透き通るような蒼の双眼には、見つめられた者に与える威圧感の様なものは全くなく、むしろ見つめられると安堵感さえ覚えるような気がする。


 何故気がするなのかと言うと、僕は今少女に敵意剥き出しで睨まれているからである。しかしその睥睨も怖いという感情を持たせず、まるでおもちゃを取られた幼い子供が一生懸命に睨んでいるような感じだ。


 見ているとなにか微笑ましい。


 体は細く華奢というにはあまりにも頼りなさ過ぎ、足首なんか見ているだけで心配になってくる。


 ちなみにむねのほ………………


 いや、さすがに年端もまだいかない少女の裸を見て10歳だからこのぐらいの物なんだろうとか考えるのはマジでやめよう。


 まあ、まだこれからだ…………


「ゴホッ、ゴ、ゴホ」


 自粛しよう。


 しかし誰かにこの状況が見つかると、僕は人気の少ない場所に少女を連れ込んで身ぐるみを残らず剥いで、視姦しているロリコン変態君として、警察というものに連行されるだろう。そして僕はこの街、いや、日本中にこの名を轟かせる事になる。もちろんこの後の人生は暗闇一直線である。


 まさか路地の暗闇に突っ込んだだけで、人生暗闇一直線ルートになるとは夢にも思わなかったが。


 ところで何故裸なのだろう?答えてくれそうにはないのだが一応聞いてみる。


「大丈夫か?今裸だぞ」


 少女の二度と動く事は無いだろうと思った小さな口が言葉をつぐむ。


「えっ、なん……ではだ…………かなの私」


 先程の怒声とは打って変わって、つっかえつっかえで聞き取りづらい言葉。それも希薄な声で今にも消えてしまいそうだ。


「とりあえずこのマントはおっ…………!!」


 その瞬間少女の体は大きく傾く。自分で動かしたわけでもない。ただ支えの失った体が重力に従った。


 僕は先程まで震えて動かせずにいた両足に力をこめ、少女の元へ駆け寄る。


 バッ!!


 少女の倒れ行く体を漆黒のマントで包み込むようにして抱きとめる。


「おい、大丈夫か!?」


「あれ…………わた……しのま…………んと。よかっ…………た」


 少女は薄く薄く笑う。しかし僕が見たいと思っていたその笑みはとても切なく、とても辛そうに見えた。


 僕は少女を漆黒のマントでくるみ床に寝かせる。


………………そういう事か。


 少女のマントで包まれた箇所は、ものの見事に暗闇と同化し姿を消していた。


 今の暗順応の済んだ視界ではかろうじて見えるのだが、まだ路地に入って間もない視界とおかしくなった頭では見えなかったのだろう。


 錯乱し騒いでいた自分があまりにも恥ずかしくて、穴があったら入りたいと思う。


 もう穴のような暗闇は眼前に広がっているんだけど。


 しかし今はそんな事はどうでもいい。


「おい、どうしたんだよ!」


「な…………んなんだ…………ろう……ね?」


「とにかく病院へ行くぞ」


 そうして僕は今にも意識を失いそうな少女を抱きかかえる。


「だ…………め。びょ……ういん…………は…………ぜった……い」


 息も絶え絶えで先程よりも体調が悪くなっている事は明白だ。 しかし少女は必死に僕の袖を掴む。その小さな手も握られているのかが分からないくらいに弱々しかった。


「何でだよ!ならもう僕は行くぞ」


「う………ん。ありが……とう。さよ……うな…………ら」


 動かすだけでも辛いであろう唇を、必死に動かし少女は言った。そしてさっきの薄い笑みとは違う、本当に僕に感謝しているようなそんな優しい笑顔を浮かべていた。


「そう……か」


 僕は少女を再び床に寝せる。そして後ろを向き、その先の光へと向かって歩き始める。


 あの少女はどうなるんだ?


 誰かが助けてくれるだろう。


 その誰かとは誰だ?


 さあ、通りすがりの誰かだよ。


 こんな暗い路地通る人いるのか?


 さあ、いるだろう。


 なら、僕が連れて行けば?


 連れて行ってどうするんだよ。家も無いし、食べ物も無い。


 もう、ほっとくしかないんだ…………….。


 そして光の元へと晒される僕。路地を抜けた先は僕の暗澹とした心とは反対に、光で満ちていた。


 その光は少女の最後に見せた笑みを否応無く思い出させた。


「はあーあ」


 僕は静かに回れ右をする。そして再び闇の中へと走り出す。


「僕には関係ないのにな」


 先のコンフリクトなどくだらない。本当にくだらない。最初から決まっている僕は面倒ごとが嫌いなんだ。ここで少女を見捨てて後で後悔する方がよっぽど面倒じゃないか。


 それに、 自分を見捨てようとしている者にあの精一杯の優しい笑顔。


 そんな物見せられちゃね。


 少女はすぐに見つかった。しかし地面に横たわっている少女の呼吸は荒く、無理に眠りに落ちようとしているようだった。


 僕は何も言わずにマントでくるまれた少女を抱きかかえる。そしてすぐさま自分が最初にきた道を走り出す。


 少女の蒼眼が開かれる。しかし先程のような美しさはなく、中には疲労の色が浮かんでいた。


「あな…………たな…………ま……えは?」


 てっきり行動の理由を聞かれるのかと思ったが、少女の質問は名前だった。


「夜坂 転寝だ」


 僕は短く返し、少女を強く抱きしめた。


主人公の名前は

夜坂 転寝 (やさか うたね )です。

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