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寝る子は育つと限らない  作者: クイトガ
おはようからの始まり
4/14

暗闇に首

 僕はその場で凍りついた。眼前には幼い少女の首が落ちている。首の切断面が暗闇に紛れて見えなかったのが、せめてもの救いだった。


 辺りはまだ薄暗く微々たる光が後ろからさしている程度だ。視界もまだ悪い。しかし僕の眼は生々しい女の子の首しか捉えていなかった。


 血色を失った顔の皮膚。眼は硬く閉じられていて当然開く予兆もない。しかし生前はおそらく可愛く端正な顔立ちだったのだろうと推測される。


 体は逃げ出す事も震える事もできずにいた。呼吸も徐々に苦しくなっていき、体の感覚も既に無くなっている。その中で思考だけがひたすら加速していった。


 すぐにその場を立ち去るべきだ。


 そんな本能的な考えが頭の中で生まれた。当然その本能に従うべきだったのだろう。


 しかし僕は無意識に手を伸ばしていた。少女の額へと向けて。


 完全に無意識だった。理由は僕にも分からない。ただ初めて見る死体に興味を持ったわけでもない。もしかしたら怖いもの見たさみたいなものなのかもしれない。しかし僕の手は確かに少女の幼い顔の額に触れていた。


 皮膚は冷え切っており、亡くなってからそれほど時間も立っていないのであろう弾力もあった。


 少女の笑顔を見てみたいと切に思う。しかしそれは永遠に叶わないだろう事は僕にも分かっている。


 こんなことを思うということは僕の頭は冷静になりつつあるということだろうか。体の感覚もあるし、呼吸もさほど乱れていない。


 僕はそれ程順応性の高い人間なのだろうか。

 死体を前に落ち着いている自分の倫理観に若干の恐怖を覚えるが、いつまでもこうしてはいられない。


 そろそろ警察に駆け込むか。


 僕は少女から手を離し、後ろを振り返る。


 走っている時には気が動転していて分からなかったが、もう僕は路地の出口付近まできていたようだ。通りに出るまで10mも無いだ………………………。




「う、うぅん、あーうぅー」




…………………………………うん、ヤバイな………………。


 僕の頭が緊急信号を発令する。


 その声は僕の鼓膜に鮮明に響いた。誰かの声だという事は分かる。もちろん僕の声ではない。しかし周りには僕と死体それだけだ。


 なら、誰の声だ…………


 当然の疑問だろう。しかし僕の頭は既に一つの答えにたどり着いていた。


 この声は少女の亡霊の声なんだろう…………………


 いつの間にか消えていた恐怖が再来する。体の震えは抑えられない。ついに僕も亡霊という不可思議極まりないものにであってしまったようだ。


 確か亡霊って持ってる鎌で生者の魂を刈り取るんだっけ?いや、それは死神か?はたまたネクロマンサーか?


 どうせ殺されるのなら、最後にそのタナトスとやらを拝んでやろうじゃないか!


 勘違いの可能性もあるしね。



 先程の少女の首が宙に浮いていた。



「ぎゃあぁぁぁーーーーーーーーーー!!」


 僕は即座に後ろに飛び盛大に尻餅をつく。歯が激しく痙攣し、互いにぶつかり合い音を鳴らす。



「うる、 さい」


「わぁーーあああぁーーーーん!!」


 これはもう駄目だ。死神様が具現化していらっしゃる。首だけなのは気になるがきっと少女の容姿をして人を誘い込み魂を刈り取ってしまうのだろう。声に少々の怒気が含まれているのはさっき額を触ったことが相当頭にこられたのだ。


 よし、最終手段!


「申し訳ありませんでしたーー!!」


 僕は必死に正座を組み、腰を前方へ深々と曲げ、己の額を冷たいコンクリートになすりつける。俗に言う土下座だ。


「だ、か、ら、 うるっっさい!!」


「ひぃっ!!」


 てっきり鎌が降ってくるのかと思ったが、予想外にも降ってきたのはそんな怒声だった。もともと小さな声を精一杯出したようなそんな可愛らしい声。声量は大きい割に覇気がない。


 え……………………?


 首をかっ切られて 殺されるものだと思っていた。しかし僕はこうして思考している。それに死神って声出すのか?


 僕は恐る恐る頭を上げる。


 そこには変わらず少女の首が浮いていた。


「ひぃっ!!」


 しかし今回は気をどうにか落ち着かせる。


 何度も言うがそこにはやはり闇の中でただ一つ首だけが浮いていた。


 しかしそんな事はありえない、何か仕掛けがあるはずだ。見逃している何かが。


 僕が思案していると、突然前から狭い路地独特の強風が吹いてきた。


 それが僕の顔にも当たり、僕は思わず眼を伏せる。風が収まるのを待ち、やむと同時にすぐに眼を開き少女の首を刮目する。


「えっ………………」


 少女の闇に隠れて見えなかった首の切断面から肌色の死体、いや肢体が徐々に現れる。


「バサッ」


「うおっ!!」


 僕の顔に何かが覆い被さってきた。しかしその何かの正体は手で触ってみるとすぐに分かる。


 漆黒の闇をそのまま着色剤にして染め上げたようなマント。かなり大きめで高く持ち上げていないと地面を掃除してしまうことになる。


 しかし、このマントはどこから?いや、それよりもあの少女は?


 再び少女がいた方へ視線を向けるとそこには地面に転がった首でもなく、宙に浮いた首でもない。


 しっかりと五体満足の少女が立っていた。


 全裸で……………。


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