こんな日々を……
「もう朝か…………いや、もう昼だな」
起きたばかりで明滅する視界の中、僕は南中したお日様を見上げていた。
網膜に直接光が当たり、目が焼けるように暑い。耐えきれず、僕は手で双眸を覆い隠そうとするのだが、その必要は無かった。突然網膜を突き刺す光は消え、僕の眼前に突如として現れた女の子が影を作り、微かな涼しさを感じる。
「どうした黒凛?」
「気持ちよさそうに寝てるなあ、って思って……」
「黒凛が膝枕でもしてくれれば、もっと良かったかもな」
「絶対に嫌!」
「とかいいつつ?」
「絶対に嫌!」
「やっぱりか!」
黒凛の嫌悪感丸出しの表情……、そんなに嫌がらくてもいいのいにな。冗談で言っただけなのにかなり傷つく……
「ところで、ここどこだ?」
「公園…………、って言うかあなたが連れ込んだんでしょ!
「連れ込んだという表現はやめてくれ。何か取り返しのつかない誤解を産みそうだ」
「なら無理矢理連れ込んだ?」
「余計な語句をつけるな、そういうことじゃない」
「なら引き込んだ?」
「印象悪っ!裏の人間か!」
「大丈夫!連れ込まれて身体中あちこち触られただけだから」
「………なんかごめん」
でもこの手で触ったのか、確かに手に暖かい感触が残ってる気がするぜ!
「ま、嘘だけどね」
「嘘かよ!つい浮かれすぎて、手を開いたり閉じたりしちゃったよ」
「うん、にやけてる顔が心底気持ち悪かった!」
何という快活な笑み。この子は本当に路上で倒れていたあの女の子なのだろうか?
…………そもそも出会った頃とキャラ違うし。
「ところで何でここに?」
「だから連れ込まれたんだって」
「いや、…………それは嘘、だろう」
はっきり言えないのが少々悔しい……
「これは本当なんだってば、まあ、私を抱え込んでここにきた後あなた直ぐに倒れるように寝ちゃったけどね」
うん?そんなことはしていないはずだ…………だが断言も出来ない。そもそも昨日の記憶が曖昧で思い出せない。いや、思い出せないというより記憶が途中で切れている。録画中に電源を切ってしまいその後には何も映らない…………そんな感じ。
「っ!……そういえばあの二人は」
脳裏に浮かぶあのシニカルな笑みとそれを誇張するような荒々しい紅髮、そして人を嘲るような笑みを浮かべ、世にも愉快なピエロのように逆さに尖った白髪。…………当分忘れることなんて出来ないだろう。
「あの、二人は……」
言いにそうに渋面を浮かべながら僕の言葉を反芻する黒凛。
「…………知らない」
「知らないって…………なら、あの二人からどうやって逃げたんだ?」
「だからあなたに抱えられてそのまま立ち去った…………よく、憶えてないけど」
「そう、か」
黒凛の辛そうな表情を見てると、なぜか詰問するのも憚られてしまうような気がする。
それが虚偽なのか真実なのかは定かではないが…………
「しかし、まいったな」
思い出す予兆すらしてこない。まるであの時の自分は自分ではない、まるでジキルとハイドのような感覚。
まあ、気になることは山のようにあったが、これ以上黒凛に聞くのも憚れるし、自分で考えても不毛なようなので、助かったことだけでも吉としておくのが無難だろう。
「取り敢えず寝床帰るか」
「あんなところを寝床と呼ぶの?」
「まあ、そう言うな。あそこは水流れてて気持ちいだろ」
「それはあなたが状況に流されているだけじゃないの?」
「黒凛って、ちょくちょくキャラ変わるよな」
僕たち二人は並んで歩を進める。先に何が待ち構えているのかは知らないが…………




