『兄妹』捌話
捌話 調べもの
「ここどこだ?」
「城の中」
「そうじゃない」
朝から城の中を歩いていた命と湊は図書館を目指していたはずなのだが目の前は行き止まり、大人しくしてたらよかったのに戻ろうとしていたら部屋までの道もわからなくなっていた――つまり迷子だ
「おかしいな……どこで間違えたんだ?」
「さあ?」
朝にそこら辺の兵士を捕まえて図書館の場所を聞き出し、聞いたとおりに歩いていた筈だったが何回か間違えてしまっていた
「無駄に広いんだよ」
「……迷った言い訳は広い」
「黙れ」
軽くだが一発湊の頭を叩いて周りを見渡すが誰もいない
恐らくは昨日の祝賀会で羽目を外して未だに寝ているのだろう
「適当にどっかの部屋空けるか……」
「その部屋に魔物がいたりして」
「馬鹿なこと言うな」
とりあえず目についた近くの扉に手をかけをゆっくりと開けて中を覗く
「……………」
バタンと思いっきり扉を閉めた
「お、お兄ちゃん、まさか……本当に魔物が?」
「いや、いろんな意味で魔物よりかまずいものを見てしまった」
「あ、ちょっと、お兄ちゃん!?」
兎に角此処を離れるために湊の背中を押して歩こうとしたら
「!! お兄ちゃん後ろ!!!」
湊が何かに気づき兄に向かって叫ぶ
妹の声に命は瞬時に反応し湊と共に地面に伏せる
「チッ」
「舌打ちしてんじゃねえよ!」
「失礼な、舌鼓だ」
「……なに食ってんだよ」
「チーズだ」
手に持っていたチーズを見せびらかすように前に出し、それを見た命はため息を吐いた
「なんだ、食べたいのか?」
「いらねぇよ!」
ほれ、とチーズを命に渡そうとするが命は拒否する
「そっちの君は食べるか?」
「私はチーズはあまり……」
「ふむ。残念だな」
パクッとチーズを食べ終えたのを見て命は今更ながら気づいた
「誰?」
普通に話していたが今思えば名前も知らないので聞こうと思ったら
「私か?秘密だ。知りたいなら調べるがいい。それと」
女性は命を見ながら微笑み言った
「女性の部屋を覗くのはあまり感心しないぞ」
そう言って走ってどこかに行ってしまった
「……道聞くの忘れた」
「……もう戻ってこないよ?」
その女性が何者か、と言うより先にこの場をどうにか切り抜けたいと思っている高槻兄妹だった
「チーズ好きの女性、ですか?」
「ああ、知ってるか?」
「うーん……チーズが好きな方は沢山居られますし……」
城の中を適当にさ迷っていたらレイラと運良く会うことができ、図書館へと連れて行って貰っている。その道中に先ほど会った女性について尋ねていた
「特徴は何かありませんか?髪の色とか瞳の色とか……」
「特徴か……確か髪はパープルだったな」
「瞳の色はエメラルドだったよ。綺麗だったよね?」
「確かに綺麗だったな」
その女性のことを改めて思い出すと確かにスタイルも良かったので綺麗だった
「……むっ。そうですか、綺麗でしたか!」
「な、なに怒ってんだよ」
「怒ってません!まあ、雷と風魔法を得意とする方はこの城にも何人かいますから調べておきます」
どうして此処まで詳しく限定できるのかというと魔法の属性は髪や瞳に出てくるからである
詳しくは別の時に話そう
「助かる。頼りにしてるからな」
「私も気になりますから、色々と」
「(お兄ちゃんが奪われないように?)」
「なっ!ち、ちが……!」
湊はニヤニヤしてレイラを見ているが、内心レイラと同じ気持ちだったので早めに情報は欲しいところだった
「こ、此処が図書館です」
危なく過ぎようとしていたのを誤魔化すためにそばにいた兵士に二人のことを話しておいたのはレイラ本人だけが知っている
「うわっ!想像以上に広いな……」
「町の図書館何かと比べ物にならないね」
中に入ると見渡す限り本、本、本、で日本の図書館何かよりずっと広い
「ここの本は全て持ち出し禁止です。ですが司書の方に複写の許可を頼むことは出来ます。では私は他に用事があるのでこれで」
「ありがとな」
「またねレイラさん」
ぺこりと頭を下げてレイラはその場を去っていく
残った高槻兄妹はとりあえずめぼしい本を互いに持ってくることにした
15分後
「これくらいか」
「ねえお兄ちゃん本を探した時少し違和感があったんだけど」
「俺もだ。この図書館入ったときはなにも感じなかったが、今では違和感がある」
だがそれが何なのか分からないのでとりあえず持ってきた本を片っ端から読むことにした
2時間後
「これで全部か……」
「殆どレイラさんに聞いたのと変わらないね」
「そうだな。収穫はゼロだな」
「お兄ちゃん、私は殆どって言ったよ」
湊が一冊だけ端に寄せておいた本を広げ、兄にも見えるようにした
「召喚の儀?」
「うん。私達が召喚された方法が載ってる」
二人は召喚されたのは知っているがどうやって召喚されたのかは知らされていない
「召喚の材料となるものは『1.人間の魔力 2.魔物の魔力 3.獣人の魔力 4.守護の力 5.魔物から取れる血肉 6.……』」
「もういい」
「え?」
湊が驚いた表情で見る
命の顔は苦痛に歪められていた
「俺達が探しているのはこの世界の情報だ。召喚じゃない」
「でも何かしらヒントが」
「ヒントがあるとしてもそれはこの方法とあまり変わらないだろう」
材料の中に無慈悲にも『9.人間の命』と、他にも『13.78人分の魔力』とも書いてある
人の中の魔力と呼ばれるものが無くなると人は動くことが出来なくなってしまう
人は一日で魔力を精製して回復するのだが、魔力が空っぽになると体内に魔力が精製されず一生魔法が使えなくなってしまう
これは本に書いてあり、レイラから聞いた話でもある
「人をここまで犠牲にしてまで還ろうとは思えない」
「なら他の方法を……?」
命はゆっくり頷いた後妹の髪を優しく撫でた
「湊、ありがとな。お前が一生懸命探してくれて俺も嬉しい」
「で、でも結局は何も……」
「いや、収穫はある」
「え?」
命が本を見て一つの材料を指差す
そこにはこう書かれていた『王族の血』と……
パープルは雷属性です
エメラルドはお分かりかと思いますが風です
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