『兄妹』漆話
漆話 祝賀会……
「おめでとうございます。ミコト様、ミナト様」
「「うん、ありがとう……」」
レイラが笑顔で言ってくるが二人の顔はあまり嬉しくなさそうであった
その理由は今此処にいる人たちの数だろう
だが傷を治してもらった手前戻るなんて言えないそれがレイラ直々の頼みならなおさらだ
「おっす!ミコト、ミナトおめでとう」
「キルト、ありがとう」
「あ、ありがとう…ございます。ケガは平気……ですか?」
「ああ、この城の治癒使いは優秀だからな」
湊が心配そうに、少しびくびくしながら聞いたがキルトは問題ないと腕を曲げたり伸ばしたりする
それを見て湊はホッと安心したように息を吐いた
(珍しいな。湊が知らない人の心配をするなんて)
命は驚いた。もちろん顔には出さないがこんな時はよく兄の後ろに隠れているのだが、湊も少しずつ自分を変えようとしているのかもしれない
「いや~、まさか俺たちが負けるなんてな」
ははは、と笑いながら言う
「敗因は恐らく……」
「統率力と団結力が欠けていた所為だな」
ミコトが敗因を言おうとしたがキルトは自分達の敗因が解っているようで、他の部隊との連携をもっとしないとな、と言って走ってどこかに行ってしまった
「お兄ちゃん、あれルイさんじゃない?」
「お、本当だ。おーい、ルイ!」
「な、なにしに来た!」
ルイはこちらが近づくと後ろにさがり距離を縮めようとしない
「昨日の敵は今日の友、だろ?」
「なに言ってる?昨日の敵はいつまでも敵だ!」
ルイは人にぶつからないように後ろを時々見ながらさがる
「俺たちの所ではそうなんだよ。それに逃げなくてもいいだろ」
「ぼ、僕はお前達のような余所者は嫌いだ!」
「んなこと言うなよ。それにお前に頼み事があるんだ」
「な、何だよ……」
「俺達にこの世界の戦い方を教えてほしいんだ」
命が言うとルイは逃げる足を止めた。まあ、騎士としては弱い人材をこのまま城に置いておくことなどはしたくないだろう。という勝手な想像だったが、少しは効果があったようで見逃さず命はルイに近づき腕を掴む
「なっ!」
命が腕を掴むとルイは顔をかあっと真っ赤にした
「は、離せ!」
命から手を振り解きそのまま走ってどこかに行ってしまった
残された二人はポカーンとしていた
暫くルイの行った方を二人で見てると不意に命の服を誰かが引っ張った
「………………」
「リン、大丈夫か?」
「………………(コク)」
「そっか。女を殴るのはあまり好きじゃないからな」
「……あれは勝負、仕方ない」
リンは特に気にした風もなく言ったが命は殴られたときと目を覚ました瞬間は痛かっただろう、と思った
リンは命の気持ちを知ってか知らずか命の手を取り自分の鳩尾に当てた
「なっ!」
「あぁ~~~~っ!!!!」
「……触られても、痛くない」
命はその行動に驚き、湊は驚きと他にも別の感情が混ざった叫びをあげた
リンは二人の様子を気にもせずに微笑みながら手を離した
「……またね」
「あ、ああ……」
「うぅ~……」
リンはキルトとルイとは違い歩いて去っていった
命はリンの行動にまだ驚いているが、湊は小さく唸ると命を見て
「お、お兄ちゃん!」
「な、なんだ?」
「いつからそんなに女癖が悪くなったの!?」
「女癖が悪いって滅多なこと言うな!」
他人の目を気にせずに湊は頬を膨らませて上目遣いで見てくる
命は昔から怒っているときの湊は恐いとは感じず、可愛いと思ってしまう
「大丈夫だよ。今は女には興味ないさ。湊は別だがな」
「え?」
囁くように言った命の言葉はパーティーの喧騒によってかき消される
「お兄ちゃん……今、何て……」
「さて何だろうな」
「教えて!なんて言ったの!」
湊は必死に聞いてくるが命は教えようとはしない。あんな恥ずかしい言葉を何度も言えるような精神は持っていない
二人がじゃれあっている所にレイラがやってくる
「ミコト様、ミナト様よろしいですか?」
「今、いそが――ふぐっ!」
「あ、ああ。構わないぞ」
湊は後にしてほしいと言おうとしたが命が湊の口を塞ぎ、レイラの話を聞くことにする
「お二人に紹介したい人がいるんです」
「「?」」
「セリィさん!こっちです!」
レイラが呼ぶと一人の女性が歩いてくる。その女性が歩く道を他の人たちは自然と道をあける
命と湊はこの城の人間ではないと瞬時に悟った
「此方はセリィ・マーヴィンです。〈東風の地〉の姫です」
「へぇ」
この世界は『国』ではなく『地』と呼ばれている
そして命と湊が喚ばれたのはここ〈北風の地〉他にも〈南風の地〉、〈西風の地〉がある
この四つを合わせた大陸は〈風神の大陸〉と呼ばれている
大陸は〈風神の大陸〉を入れて他にも六つの大陸がある
神と名の付く大陸は他にももう一つあり、その大陸についてはその内説明する事にする
因みに大陸は〈風神の大陸〉を入れて六つありそれも追々説明する事にする
そして〈東風の地〉の姫セリィと言う女性は二人をじっと見た後ニヤリとして
「良い顔をしてるな。気に入った」
湊は瞬時に命の後ろへと隠れて困った顔をしている
命も少しだけたじろぐが自然風を装いながら挨拶する
「ミコト・タカツキです。よろし――」
「ああ、堅い挨拶は嫌いだ。普通にしてくれ」
「そうか?それじゃあ」
命はコホンとわざとらしく咳払いし
「ミコト・タカツキだ。よろしく」
「み、ミナト・タカツキ。よろしく、です」
命に眼で促され慌てて自己紹介をする
セリィはうんうんと頷き
「おや、妹くんは人混みが苦手なのかな?」
「「!?」」
「何故気づいたって顔だね?私にはだいたい分かるよ」
セリィは笑っているが二人は未だに驚きを隠せないでいた
いや、確かに湊は端から見ても人見知りが激しいとはわかるのだが、なぜかセリィという姫の言葉にはそれだけではない何かがある気がする
湊は人混みが苦手と言うより人見知りをするのでそれに気づいたセリィに驚いているが警戒はしなかった
「わ、私もしかして余計なことを……?」
「ううん。いいの、いつかは克服しなきゃいけないから」
レイラが縮こまって言うと湊は少し無理矢理に笑いながらそう言った
「それにしても勝負の時に不思議な音が聞こえたが、兄くんは気づいてたか?」
「兄くんって……。音って言うとどんな?」
「こう、何だ……言葉では表せないような、人の声じゃなかった」
「お兄ちゃん……それって……」
湊が何か分かったような顔つきで兄をみる
命も何の音かは分かったがどう言えばいいのか分からず考えている。レイラとセリィから見ると命も音に関して考えている様に見えている
「気にしなくてもいいだろ。敵が攻めてきたわけじゃない」
「それもそうだが……。魔物又は魔獣、もしかしたら獣人かもしれない」
魔物と魔獣の違い
魔物――魔力を持っている獣である。警戒心が高く、人を襲う傾向がある。魔物は死ぬと姿を残さず霧となって消えていく。中には死体が残る奴もいる。しかし、近くに魔物がいると死んだ魔物を喰らい、己の力にする。と言われている
魔獣――魔力は持ってないが、警戒心は高く魔物ほどではないが人を襲う魔獣がいる。魔獣の種別によっては飼っている人もいる。動物よりか少し凶暴と考えてくれればわかりやすいだろう
魔獣は死んでも霧とはならず死体がそのまま残る
獣人――魔獣と人間又は魔獣から極稀に産まれてくる半人半獣である
身体能力は人間より高いが精神が脆く人間の奴隷として扱われる
魔獣からも出来損ない又は恥知らずと言われ人間からも魔獣からもいらない存在とされている
この〈北風の地〉も例外ではなく獣人を奴隷としている人もいる
「でしたら警戒を強めた方がいいですね」
「レイラ、すまんな。私からも出来る限りの助力はしよう」
「助かります、セリィさん」
気にするな、と言って護衛と見られる兵士と一緒に離れていった
「レイラ、俺達も部屋に戻る」
「え?もう、ですか?」
「初めての戦いで疲れちまった。今日の所は休ませてもらうよ……湊も限界みたいだし」
「う…う~ん……」
「わかりました。ではおやすみなさい。ミコト様」
湊も寝ないように頑張っているがそろそろ限界だと見て湊を抱きかかえ部屋に戻っていく
部屋に戻ってきた命はすでに寝ている湊をベッドへと移して髪を撫でた
「おやすみ、湊」
命がもう一つある別のベッドに移ろうとしたら湊に手を握られた
「お兄……ちゃん」
寝言で名前を呼ばれ命はもう一度湊を撫でた後ベッドに戻ろうとしたが湊の握る手が強くベッドに戻れなかった
「仕方ないなぁ」
薄ら笑いを浮かべ命は湊のベッドに腰掛け眠った
湊の寝顔は部屋につれてきたときより穏やかになっていた
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