『兄妹』参話
参話 これからの異世界
レイラからある程度この世界について聞いた命と湊はふたりに用意された部屋へと通された
聞いた話を簡潔にまとめればこの世界に召喚された理由は最近活発化してきた魔物というモンスター討伐である
正直言ってやりたくはない。知らない世界のために命を賭ける理由は自分たちにはないのだ
しかし、やらなければ還れないことも事実である
「……お兄ちゃん」
「湊?」
湊が部屋に入るなりいきなり抱きついてきた
湊の体は僅かだが震えている
やはり、湊も怖いのだ命を賭けることや戦うこと……そして、これが夢ではなく現実であることが
「お兄ちゃん、私達帰れるのかな?それとも、ずっと異世界にいることになるのかな」
「……大丈夫。還れるさ」
小さい妹の体を強く優しく抱きしめた
それだけで湊は安心した
「お兄ちゃん、私達も私達なりに探そう?」
「そうだな。レイラはともかくあの大臣……たしか、ガイルだったな。あいつは俺たちを警戒してる」
おそらく逃げ出そうとしたらつかまってしまうだろう
しかしこの世界の事は聞いたとしても情報が足りなすぎるので逃げるにはまだ時期が早すぎる
「どうするの?」
「何かしら理由付けて旅にでる。それで帰る方法を探そう」
「でも情報は何もないよ?」
「これほどの城ならこの世界についての書物もいくつかあるだろう」
明日にでも書物のある場所に行くことを決める
断られる可能性もあるが、協力しているのはこちらなので罪悪感を感じているレイラが却下をする可能性はないなと勝手に思い込んでいる
「過去に召喚された人たちを探すため?」
湊の言葉に首をたてに振る
「その通りだ。今までに召喚された人数は俺たちを含めて五人。三人は世界を旅していたと言っていた」
レイラ達から聞いた話だとこの世界には過去に三度別世界の人が召喚され、始めに召喚された人はもう亡くなっていると聞き、二人目は所在は分からないが生きてはいると言う、三人目は生きてるのか死んでるのかは分からないそうだ
「湊、問題だ。探すとしたら何人目の人か分かるか?」
いきなりの問題に戸惑うがしっかりと考えて命の顔を見て答える
「えっと……二人目?」
「何で?」
「生きていることは分かってるし、一人目はもう死んでいて、三人目も死んでるかもしれないから」
「ハズレ。正解は一人目の人物だ」
その答えに湊は訳が分からなかった
死んでいる人を捜すことは絶対に不可能だからである
湊の顔を見て察した命は頭を撫でながら説明する
「既に死んだことが確認されているのらまずはその場所に行けば何かしらの情報が手に入ると思うんだ」
「所在がわからいと探しようがないし、三人目も生きているかもわからないから探しようがないってこと?」
「うん。それに一人目の召喚者がどんな気持ちだったのかも気になるし」
もし自分たちと同じ気持ちだとしたら死ぬ寸前はどんな気持ちだったのだろう。そんなことを考えてしまったが所詮は他人の気持ちなので頭から振り払った
今は自分たちが一人目の召喚者の足取りを逆にたどって還る方法を見つけたのかどうかを知ることができるかもしれないからである
「もし旅のお供をしていた人がいたら好都合だよね」
「そうだ。と言いたいが一つ問題が残ってるんだ」
命の言う問題というものが湊にも分かっているようで命が言い出す前に言葉を出す
「この国で召喚されて無いって事だよね」
「ああ。どこの国で召喚されたのかが分かればどうにかなるが……」
この世界については聞いただけなので右も左もわからない、一応この国以外のことも聞いたのだが地図がないので正確な場所は全くわからない
そんなこんなで二人して悩んでいると、扉が開かれる
「あ、あの食事の準備が整いました」
一人の兵士が少しびくびくしながら言ってくる
湊はすぐに兄の背中に隠れる。どの世界でも湊の人見知りは治りそうにはないなと他人事のように考えている
「ほら、行くぞ湊。案内お願いします」
「は、はい!で、では此方へ」
あまり態度が変わらず二人は苦笑して後をついていく
「なあ君の名前は?」
「自分はロウと言います」
「そんなにガチガチで兵が務まるのか?」
問題ないとロウは答えたが、命と湊はすごく心配だった
暫くすると一つの扉にたどり着いた
「どうぞ」
命は部屋の中を見た途端に足が止まった
湊に関しては顔を青くしている
「これは一体?」
「召喚が成功したのと客人が来たのでそのお祝いという事です」
「つまりはパーティーってことか」
「……帰りたい」
湊のつぶやき声が聞こえたので二人が身を翻し部屋に戻ろうとする
その時にここまで案内してくれたロウが困ったような声でまったをかけるが、二人は耳を貸さずに会場を出ようとするが
「あ!ミコト様、ミナト様」
「レイラ……」
レイラが声をかけてきたので部屋に戻るのが躊躇われた、結局戻ることが出来なくなった
「騒がしいですが楽しんでいってくださいね」
笑顔で言うレイラに対して二人の兄妹は困った顔をしてしまう
それを見たレイラはしゅんとして
「ご迷惑でしたか?でしたら食事を後で持って行かせますが……」
二人にしてみればそれはかなりありがたいが、レイラの表情を見るとそれをお願いするのも気が引けた
「こっちでいただくよ」
命がそう答えるとレイラは表情が明るくなり、楽しんでくださいね、ともう一度言い部屋の奥に走っていった
「お、お兄ちゃん……」
「仕方ないんだ」
湊の睨むような視線に気づかない振りをした
部屋の中に入ると湊は兄の服の裾をぎゅっと握りしめて睨むほどの気力もなくなった