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『命従者』弐漆話

弐漆話 可能性





ユエの体力も回復して、『毒牙の錆』の手回しにより船に乗る手筈もついて、出発の準備も終わった。


「その前に遣いを頼みたいんだ。ルゥクとミコト君で行ってほしい」


「わかりました。今日の昼までには戻ります」


「いや、夕方頃に戻ってきてほしい。その時間に船も出るからね」


「なる程。わかりました。ではそのまま行きます」


「うん、頼むね」


二人が何を言っているのかよく分からないが、とりあえずユエとシャニットは留守番らしいのでルゥクと一緒に外へ出る。

残ったユエはシャニットに二人がどこに行くのかを訊く。


「ここで一番偉い人に会いに行かせる」

「それって危険じゃ……」



「まあ、あの二人次第だね。僕たちは最低限必要なものを買いに行くよ」


ただ待つだけなんてことはしない。出来ることはすぐに実行に移す。

二組に分けたのにはちゃんとした意味を持つ。



ルゥクと命が外に出ると周囲から奇異な目で見られ始めた。

それを肌で感じた命はルゥクに耳打ちをして、正体がばれたんじゃないのかと尋ねる。


「問題ありません。私の施した変装は魔法ではないのです。ミコト様がミスをしない限り問題ありません」


「いや、まあ、疑ったりはしてないけどさ。こう、不安があるんだよな」


「ミコト様、私たちの活動は表では出来ないことです。故に――」


「召喚者がいるとわかったらシャニットが危なくなるんだろ? わかってるさ」


「では堂々としてください。そんな風に辺りを伺う方が怪しまれます」


「う……わかった」


挙動不審で正体がバレたらユエにも危険が及ぶ、そして湊と会うまでは絶対に捕まるわけには行かないのだ。

命は自分に喝を入れて自然な動作で歩く。


「そういや、ユエは何で変装しなくていいんだ?」


黒髪に黒眼、ユエもまた他者から大きく注目を浴びる存在であることに間違いない。

ならば、変装しなくては危ないのではないか?


「彼女を大切に想う気持ちはわかりますが、もう少し思慮深く考えてください」


「どういうことだ?」


「つまり――。いえ、このお話はまた後でにしましょう」


目的地にたどり着いた。

これから会う人はこの街で一番偉い人だ。油断して正体がバレたら元も子もない。

気を引き締め過ぎず、かといって緩みすぎない僅かな緊張感を胸に一軒家へ向かう。


「何かご用で?」


ノックしようとしたら後ろから声が掛けられる。

振り返るとそこには命よりも年上の男性がにこやかな笑みで立っていた。


「私たちはセリィという女性に用事がありまして」


「ああ、セリィ様の家ならもう少し奥だよ。まあ、この時間はいないけどね」


「どういうことですか?」


「ほら、あそこ」


男性は城を指さした。

あれは東風の地を治める城だ。

それを知っていながらルゥクは男性に質問する。


「セリィはいつからあの城に?」


「ずっと前からさ。一度王の座を降ろされたんだけど、その次の王が不正を働いてね。それをセリィ様が突き止めて、改めて王の座を取り戻したんだ」



「王を降りたのはいつ頃ですか?」


「一、二年前かな。で、不正を暴いて再び王の座に着いたのさ。戻ったのはここ三ヶ月くらい前かな」


「では、王のイスを降りていた間は何を?」


「さぁ? 何か友達と一緒に過ごしていた。なんて噂もあったけど、それがどうした?」


「いえ、元気にやっていればと思っただけですので。ありがとうございます。ではこれで失礼します」


ルゥクが去ると命も慌てて後を追う。

男にしばらくの間見られていたが何れ興味をなくしたのか、家の中に入っていく。


「なあ、何で今わざと間違えたんだ?」


「いくつか理由はありますが、重要なのは王を辞めてから再びそのイスに座った期間です」


「一、二年の間……それがどうかしたのか?」


「それほど前、ということはミコト様達が旅を初めて間もない頃です」


「……確かにそうだ。でも関係はないだろ」


「そして、その間に貴方方は魔物に襲われ、みんなバラバラになってしまった」


「それがどうした?」


「つまり、セリィはその期間中に誰かを治療していた可能性が充分にあります。ミコト様達のギルドは有名すぎる故に普通の施設では休むことも出来ない」


そこまで説明されて命もようやく理解が出来た。

セリィは誰かを匿っていた可能性がある。世間の目に触れれば否が応でも大騒ぎになるかもしれないほどの人物。


「み、湊が、いるかもしれないのか?」


「確信はありませんが、可能性はあります」


それを聞いて居ても立ってもいられなくなった命は城に向かって走り出す。

その行動を予測していたルゥクはため息を吐きながら、止めようとはせずに後ろをついて行く。


「本当にシャニット様の言っていた通りになりましたね」


前を走る命の後を追いながら、妹のために危険を省みずここまでやるのだろうか。そんな疑問が過ぎったが家族のいないルゥクにそんなことがわかるはずもなかった。


でも、もしそれがシャニットだったら?

ルゥクはそんなことを考えていた。この兄妹のことを自分とシャニットに置き換えたら、どう行動していただろう。


(きっと、泣き叫んでいたでしょうね……)


目の前を走る人がとても強く見える。何故、二年も離れているのに諦めないのか、どうして後先考えずに想えるのか。

そう思うとルゥクは自分がとても弱い存在だと感じた。


「ルゥク……?」


「は、はい?」


考えすぎていたのか、いつの間にか城の前まで来ていた。

少し先には警備兵が数人。

警戒も厳重というわけではないらしく、警備兵同士で喋っている。


「堂々と行きましょう」


「え、あ、おい!」


制止の声を出す命だが、体は拒まずに後ろをついて行く。可能性があるなら行くべきだ。

警備兵はこちらに気づき、一人が一歩前に出た。


「すみません。セリィ様に面会したいのですが」


「何者だ」


「放浪者のルゥクです」


「同じく、メイです」


じっと観察するように見られ、バレないかどうか冷や汗が背中を伝う。

だが、すぐに視線を後方に向けると、もう一人の警備兵が城の中に入っていく。


「しばし待て」


命は今すぐに駆け出したい気持ちでいっぱいだったが、これさえ待てば会える。

急かす気持ちを抑えて冷静を装う。


少しして先ほどの兵が戻ってきた。数回言葉を交わした後、中にはいるように促される。

命は走り出しそうになる脚に渇を入れて初めてこの城に入ったときのことを思い出す。

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