『VS.王宮魔法師』弐肆話
弐参話 譲れない戦い
逃げた先は町の中心。裏路地などを使用したくても既に警備兵や城の兵士などが徘徊していて近づけない。
しかし、そちらに人員を割いているため比較的街の中の方が目立たなければ見つかる可能性は低い。
「急いで打開策立てないとな」
「この街では『毒牙の錆』に関する場所はないですか?」
「聞いてないなぁ。……あ、一つある」
聞いてはいないが心当たりはあった。ユエの手を引いてその場所に向かう。
やってきたのは協会の裏。ここにはまだ誰も来ていない。
「ここに抜け道が?」
「確かこの辺りに……」
地面を探ると変に出っ張ったコンクリート。それを上に持ち上げると階段が出現する。
「ふわぁ、すごいです」
「前に『毒牙の錆』が使用していたんだ。行こう」
まだ使えたことにホッとしながら階段を下りる。前に比べて埃の臭いが鼻を刺激する。
そして暗さも依然と変わりなく足元を見るのがやっと。
初めて入るユエとフリージアは命に掴まってともに階段を下りる。
「埃臭い」
「我慢だ。ずっと使用されてなかったみたいだな」
「く、暗い、ですね……」
気のせいか、ユエの掴む手が強くなっている気がする。
「もしかして、怖い?」
「そ、そんなわけ、ないですよ? 子供じゃ、ないですから?」
ずっと疑問系になっているところが怪しいが、下手にからかって怒られるのもあれなので、今は階段を下りることにする。
やがて、階段が終わり、一つの部屋にたどり着いた。
以前たくさんの死体があった部屋だが、今は何もなく、綺麗な空間を保っている。
その部屋を通り過ぎて更に奥に行くと、初めて『毒牙の錆』に遭遇した部屋へと出た。
「やっぱり、ここに来ると思った」
声の方を見るとそこには茶色のローブを着たクリスベルの姿。そして隣には先ほどのリンもいた。
「クリス、何で……」
「これも姫様の命令だからね。不本意なのは私も一緒」
「余計なお喋り無用。ミコト、捕まえる」
クリスベルは細剣をすでに構えており、戦闘態勢に入っている。リンもまた、杖を構えていつでも魔法を撃てるようにしていた。
「やるしか、ないのか……」
ジャラ、と鉄の鎖を取り出す。ユエは両手を胸の前で組み、祈るように目を瞑る。フリージアは獣化して相手に向かって突進する。
「リンさん、援護よろしくね」
「言われなくても」
クリスベルは細剣を抜いて向かってくるフリージアに突きを放つ。フリージアは飛び上がって突きを避け、爪でひっかく。それを掠りながらも避けるとリンは躊躇なく魔法を放つ。
「アクアハンマー」
頭上に水の塊が出現し、それがフリージアを襲おうとする。
すかさず命は〈飛来する鎖〉をフリージアの体に巻き付けて自分の方へと引っ張り戻す。
「ユエ」
「もう少し待って下さい」
「了解」
リンは雷の魔法を休みなく唱える。
「ライトニングボルト」
二桁はいくほどの雷撃が一直線に命たちを捉える。
「ウィズ、頼む!」
魔力を注ぎ、鎖を伸ばす。
鎖全体が光り、枝分かれする。一本だったものが、二本、四本、と増えていき、やがてリンの放った魔法に劣らないほどの量に分離した。
その全ての鎖が一つも外すことなく雷撃の中心に突っ込み、相殺する。
信じられないほどの正確さにリンは呆然としていた。
しかし、魔法に気を取られていてクリスベルのことを疎かにしていた。
今までフリーだったクリスベルは一気に駆け、後ろにいるユエを狙う。
「ごめんなさい」
どんな意味が込められているのか、その一言とともにユエに向かって細剣で突きを放つ。
確実に当たる。
バキッ
人を刺すときに鳴らない音が空間に鳴り響いた。その音はクリスベルの得物が壊れた音だった。
「え、なに……?」
いきなりのことで何が起こったのか判断が付かず、二つに折れた自分の得物とその先にいるユエを見る。
「……ユエ!」
命も動きが止まってしまったが、すぐに我を取り戻してクリスベルにタックルする。
体重を掛けた体当たりにクリスベルの体はよろけ、揺さぶる。
「ユエ、無事か?」
「はい。命さん、準備整いました」
「よし、頼む」
組んでいた手を解き、両手をいっぱいに上に伸ばす。
「光と闇の対なる精霊よ。今、汝らの力を欲する。明滅の光を、今此処に」
その願いに世界が闇に包まれる。かと思ったらまた光り出す。闇、光、闇、光と交互に変わる世界で、ユエ以外は目を開けているだけで不快感と気持ち悪さが体を襲った。
「命さん、此方です」
目を閉じている命の手を引いて、奥の扉へと向かう。
逃げ込むと、そこには二人の人物がいた。
「きたね」
「急いで離れます」
そこにいたのはまだ二十歳前半の男性とメイド服に身を包む女性。
一面だけ形の違う壁に触り、壁の一角が音もなく開いた。
男性が先に進み、メイド服の女性は命をユエから預かり、担いで開いた壁の中に入る。その後ろにユエと抱えられたフリージアが続く。
二人は命たちを連れて地下道から地上へと脱出する。
「ミコト、もう平気だよ」
「あぁ、やっぱりシャニットか」
目を開けると前には伸びをしている青年。彼こそが『毒牙の錆』頭――シャニット。
そしてその彼にずっと仕えているのが、命を支えているルゥク。
二人は見る度に一緒にいる。
「ルゥク、追っ手は?」
「自分で確かめて下さい。毎回私をコキ使うな」
「……まあ、追ってくる気配はないみたいだ」
「だったら元々聞かないでいただきたいですね」
いつも一緒にはいるが、いまだに二人がどういう関係なのか全然わからない。
そういえばと思って後ろを振り返ると、予想通りに息が荒く、そして寒さから自分を抱き締めるようにしているユエの姿。腕の中にいるフリージアは心配そうな顔をしている。
「ユエ、大丈夫か?」
「少し……寒い、です……」
「シャニット、近くに街は!! 休めるところは!」
「この近くだと――」
「充分とは言えませんが、ある程度休める場所があります」
休めるなら充分じゃなくても構わない。今は少しでもユエを落ち着かせなければ。
シャニットとルゥクが歩くのに命もユエの肩を抱えながら続く。
ユエのこの症状は別に生死に関わることではない。魔力の枯渇によるものだから時間が経てば自然と回復する。
でも、辛そうなユエを見ていると自然と足が速くなる。
「ユエが大事なのはわかるけど、急いでも仕方ないよ」
「そうですよ、ミコト様。まあ、どっかのシャニット様は落ち着きすぎな気もしますけど」
「ルゥク、シャニットは僕のことでいいのかな?」
「ミコト様、あそこです」
シャニットのことを無視して街を指差す。
そこの街を見て此処がどの辺りかわかった。
隣の大陸〈明星の大地〉へ行くための船がでている街〈東風の地〉だ。そしてここを治めているのはレイラと仲のいいセリィ。〈北風の地〉とも交流のあるこの街でも当然命は指名手配の人物。
「さて、ミコト。君には変装をしてもらうよ」
そう言って街に向かって歩き出した。




