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『兄妹』弐話

弐話 勝手な都合




召喚の議を行ってからすでに三日経っていた


「姫様、未だに現れません」


「そうですか……。やはり失敗してしまったのでしょうか」


姫と呼ばれた人は酷く落ち込んでいた

その理由は自分の部下にかなりの負担をかけてまで行ったのに結果は何もないからである


「もう一度、今度は私が探しに――」


「姫様!!!」


「何じゃ騒々しい」


「構いません。どうしましたか?」


自分で探しに行く、と言おうとしたがその前に銀の甲冑に身を包んだ一人の兵士が慌てて入ってくる

それを姫の隣に立つ五十代くらいの男がその兵士を睨みつけるが、姫は構わないと言い何事か聞く


「はっ!それが、この城に何者かが侵入、その者を捕らえました。しかし――、」


甲冑を着た兵は微妙な顔をして言いよどんでいる


「どうした?続きを話さぬか」


「はっ!しかし、侵入者は特に目立った得物を持ってはおらず、服装も今まで見てきたものとは違うようです」


「お主はそれが、召喚者とでも言いたいのか?」


「大臣、それは会ってみればわかることです」


姫はにこりと微笑みながら、兵に向かって言った


「お通ししてください」


隣に立つ大臣は納得のいかない顔つきではあったが、実際に会わなければ判断が出来ないのは同じなので反対の意を示さなかった





侵入者として捕まったのは学校へ行くときに突然出来た穴に落ちた兄妹だった

この城の庭にある木がクッションとなり何とか助かったが兄の方は切り傷が多数あった

妹は兄が自ら下敷きになってくれたのでわずかな切り傷だけである

荷物もその近くに落ちてあったので、それを拾おうとしたときに目の前の兵士に見つかり、この状況になっている


「お兄ちゃん、傷痛まない?」


「まあ、平気だろ。薄いすり傷と切り傷だけだからな」


それにしても、と言って周りを見渡すと目の前にいる甲冑を着た兵士と思しき人と同じ格好をした人が何人もいる

他にも、

現代の服装では無さそうな服を着ている人達が此方を奇異の目で見てくる


「お前たちにはこの城の一番偉い方と会う。失礼な態度は取るなよ」


そう言って目の前にあるでかい両開きの扉に手をかけ重い音を鳴らしながら開いていく


「お待たせしました。姫様、この者達が侵入者です」


「ありがとうございます」


兵士が一礼して扉の外に出た後扉が重い音を鳴らして閉まる

それを確認した姫は二人の兄妹を見て後口を開く


「失礼ですが、お名前は?」


目の前にいるのが一番偉い人だと言うのに気づいた二人は名前を名乗るのではなく


「普通自分が名乗ってから相手に聞くもんだろ?」


反抗した


「貴様!姫様に向かってその態度は何だ!」


その態度に兵士が怒り近づこうとしたが、姫はそれを止めて自分の名前を名乗る


「失礼しました。私はレイラ・マーティンと申します。貴方方のお名前は?」


「俺は高槻たかつき みこと


「わ、私は高槻たかつき みなと……」


姫――レイラ・マーティンが名前を名乗ったので、こちらも名前を名乗ったのだが、レイラ・マーティンや周りの人たちに変な目で見られた

湊は極度の人見知りな性格のため、こう自分たちに注目をされると逃げ出してしまいがちになる

兄が手を握っていてくれているおかげで何とか平気な態度を貫いている。がそれも限界に近かった


「……何?」


「貴族の方、ではないですよね?」


「普通の一般人だけど」


「タカツキというのは?」


「ファミリーネームだけど?」


「ふぁみりぃ、ねぇむ?」


「えっと、その人が血族と表すため名前、でいいのかな」


命の応えに周りが一気にざわついた

命と湊は何のことだか分からず首を傾げる


「もしかして、貴方方が……」


レイラは隣に控えている五十代くらいの男性となにやら話し合い、こちらを見て再び問いかけてくる


「どうやってこの城に?」


「穴に落ちて気づいたらだよ」


「穴か。姫様、まさか……」


「ええ、恐らくはこの人達が私達の……」


二人の態度を見て命は自分たちがこの状況に陥ってしまった『原因』を知っていると思い、二人に問いかけた


「俺たちのこと何か知ってるなら教えてくれないか?」


「わかりました。まず一つ、おそらくですが貴方達は私達の手によって召喚されたのです」


それを聞いた瞬間に命はキレた


「ふざけんなよ、勝手に喚んでんじゃねえよ!」


いきなりの口調の変化に部屋にいる全員は戸惑いを隠せなかった

妹に関してはいきなり命が怒鳴りだしたことに驚き、泣きそうな顔をしながら目を瞑ってている


「俺達はあんたらの道具じゃねえんだよ!勝手な事するな!」


「で、ですが、私達もこれに賭けるしかなかったんです」


レイラは戸惑いながらも命の説得を試みる

しかし、訳も分からずに変な世界に連れてこられた身としては怒鳴らずにはいられなかった


「もしこれが、今にも死にそうな奴だったらどうする気だったんだ!もしそれでそいつが死んだらあんたらは責任取れんのかよ!」


もう命の頭は何も考えてはいない。ただ叫んでいるだけだ

彼も限界だったのだ。精神的に、妹である湊を怖がらせないために張っていた兄の威厳ももうすでになくなっている

命の言葉にレイラだけではなく、兵士も大臣も何も言えなくなった


「あんたらの都合で何で俺達まで――!」


途中で命は怒鳴るのをやめた。理由は湊が背中に抱きついてきたからである


「お兄ちゃん、もう、やめて……恐いよぉ」


言葉を失った命を見て、レイラは戸惑いながら言葉を紡ぐ


「た、確かに巻き込んでしまったのは申し訳ないと思いました。ですが、私達はこれに賭けるしかなかったんです」


「それじゃあ、あんたらの賭けは失敗だな。俺達はあんたらに手を貸すつもりはない」


命は妹の背中を優しく撫でる。この部屋から出ようとして踵を返したとき


「待て」


その一言ですべての兵士が命と湊を取り囲んだ


「お前達が力を貸さないと言うなら、此処で切り捨てるぞ?」


「大臣、何を!」


「姫様、此奴らは侵入者ですぞ?それを見過ごせと仰るのか?」


「そ、それは……」


確かに二人はこの城に侵入した人間だ。召喚者となることを否定するならば侵入者として切り捨てるしかない

二人の会話を聞き、命は湊を優しく抱きながら姫の名前を呼ぶ


「なあ、レイラ」


「は、はい!」


名前で呼ばれて咄嗟に返事をする


「俺達はこの世界での暮らしが違う」


「はい……」


「それに、勝手に喚ばれて迷惑もしてる。分かるな?」


「は、はい……」


自分に罪悪感を抱いているのか、声が段々と小さくなっていく


「もし俺達を元の世界に戻すと約束するなら手を貸そう」


命は妹を見て、それでいいかと聞く


「私はお兄ちゃんと同じ意見だよ。向こうには友達もいるの。まだあっちとサヨナラはしたくない」


それを聞いてレイラは二人を元の世界に戻すと約束をした


「それじゃあ、俺達を喚んだ理由を聞かせてくれ」


レイラは頷きこの世界について話し出した


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