小話2
私には、最近かわいがっている後輩がいる。
「莉奈ー!!今日もラブリーだわ!」
「……古いです」
「じゃあキュート!」
にこにこと断言すると、ため息を吐かれた。ちょっと悲しい反応だけど、以前の完全無視よりはましよね、と自分に言い聞かせる。
モデルをやっている私は忙しいし、周りが騒ぐのもあってあまり学校に来ない。だけど、こないだ偶々学校に来たとき、この紺野莉奈に出会った。何故だかわからないけど、見た瞬間に「構ってあげなきゃ!」という気持ちが湧いてきて、今に至る。
無口であんまりくっ付くと戸惑っちゃうこの子に、私はすっかり夢中だ。
かわいい妹ができたみたいな感じである。
「ねえねえ莉奈。そういえばアイツとはどうなのよ最近?」
どうやら莉奈には好きな人がいるらしい。他人に無関心な子に見えたから驚いたけれど、それはその人限定らしく何だか面白くない。昼休みの屋上で弁当を広げながらさりげなく探りを入れてみるのが私の日課となっていた。
「どうって……どうも」
「もう!何かあるでしょ。ちょっとは脈ありそうなの?」
普通の話題ならこれ以上会話がつづかなくなるところだが、アイツに関しては莉奈は饒舌だ。気に食わないけれど、たくさん喋ってくれることが嬉しくてついつい話を振ってしまう。
「脈は………昔からありますよ」
「昔?知り合いだったの?」
初耳だった。驚いて目を見張る私に莉奈は笑う。かわいい笑顔だ。
「ええまあ、二年ほど一緒に暮らしてました」
「暮らしてた?!」
おのれロリコンが。
私の中で真っ黒な思考が渦巻く。
「いつか迎えに行くと言ってくれたんですけどね………」
やっぱり体裁があるんでしょうね、教師と生徒ですし。
そう呟く寂しげな莉奈の様子に、私は急いで黒い思考を仕舞い、彼女を抱きしめた。ぎゅうう、と引っ付くと少し戸惑った後に莉奈が肩の力を抜くのが分かる。この子は人に触れられることにあまり慣れていないらしい。
それは私にも言えることだ。皆ちやほやはしてくれるけれど、私を抱きしめてくれる人なんていなかった。だから、抱きしめれば抱きしめかえしてくれるこの子が好きだ。
私は立ち上がり、澄み切った空に向かって吠えた。
「分かったわ莉奈!外堀は私が埋めてあげる!!」
「え?」
「莉奈はアイツを落とすことだけ考えてればいいわ」
いつもは鬱陶しいと感じる取り巻きたちだけど、まさかここになって役に立つとは。たしか生徒会長や親が委員会の奴がいたはず。
「ねえ莉奈、大好きよ。だから私に任せて」
莉奈が笑うと私の心はカイロを入れたみたいに暖かくなる。
この笑顔を曇らせないためにも。
(覚悟しなさい、赤木雅也!)
たとえ隣で微笑む莉奈の瞳に灯った光がこれが彼女の策略だということを示していようとも、私はあえてそれに嵌ろうではないか。
莉奈の幸せは私の幸せなのだから。
お察しの通り先輩は「彼女」です。
何か残念な人になっていますが。
莉奈は確信犯。でも、先輩のことを利用しているだけではなくちゃんと慕っています。