表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異端進化論(改訂前)  作者: 七草 折紙
第一章 能ない凡人は爪を隠す
8/38

第7話 腐れ縁の班長様

まだ使い慣れない。

引越し先に到着。荷物が運び込まれ、住所や公共料金などの変更手続きまでを一通り完了する。


「フゥっ、やっと終わったか」


実際そこまでの荷物はなかった。簡単なものである。あの朝礼から支部には顔を見せないまま、こっちに来た。神隠しにでも遭ったかのようにいつの間にか居なくなっただけ。蛇足だが、協調性のない第二十八支部技術班に送迎会などはなかった。それは歴代の先輩方も同様であったのだが、面識のない真人が知る由もない。


それで良いのか社会人。――などとは思わない。適当こそが我が人生。それくらいあの場所は自分に合っていたようだ。


「クソっ、入社五ヶ月で本部へ移動なんて……普通なら喜ぶんだろうが」


あいつらも居るんだろうな。他部署だから会うことも滅多にないだろうが。二ヶ月ほど前の悪夢を思い出し憂鬱になる。願わくば平穏でいられますように、と切に願うのであった。


XXXXXX


転勤後初の出勤日。

とあるアパートの一角でやる気のない男が目覚めた。時間を見ると朝六時。

ここから職場まで電車で一駅。徒歩と合わせて三十分といった所である。

始業時間は八時半。七時半に出れば余裕である。準備に二十分程度かかるので七時に起きれば十分である。一時間も早く起きてしまった。初日のせいか、早く起きてしまったようである。


「ふぁ~あ、今日からか」


遠い目をして様々な思いにふける。次第に頭が覚醒してくる。欠伸をしながら気だるげに布団から出る。

ボリボリと尻を掻きながら、リビングに向かう。髪はボサボサで口元で涎が乾いている。とても人様にお見せできる光景ではない。


顔を洗い歯を磨く。髪を梳かしてセットする。

朝食を食べようと冷蔵庫を開ける。何もなし。そういえば、引越しから今日まで外食ですましたんだっけ。普段、面倒くさがりな真人だが、食事には手を抜かない。自分で作ることが多い。とは言っても、そこは真人。気分次第でパスすることも多々ある。


食べるものが何もないので、途中で買っていくことにする。

家近くのコンビニによる。そこで見知った顔を発見する。


「古沢さん!」

「ん? おお、お前は確か柊か」

「はい、そうです。お久しぶりですね。この辺りに住んでいるんですか?」

「ああ、そうだ。お前もこの辺りなのか?」

「はい。あのアパートです」

「ほう。家の近くだな」


近くなのか。何かあったときに頼れるな。古沢さんなら安心だ。


「じゃあ、ご近所ですね。よろしくお願いします」

「ああ、こちらこそな。お前も元気そうでなによりだ。こっちに転勤なんだってな」


古沢さんはもう知っているようだ。……ということはあの男も知っている可能性大だな。嵐の予感がする。


「……はい。そうです。今日からです」

「そうか、大変だなお前も。まあ出世したんだから頑張れ」

「そうですね。頑張ります。ところでお一人ですか?」

「ん? ああ、まあ……な」

「?」


古沢さんの挙動がおかしい。何だろう。


「そろそろ俺は行くぞ。お前も遅れるなよ」

「え? あ、はい」


足早にその場を去ろうとする古沢さん。店を出ると誰かと合流した。女性だ。同僚か? それとも奥さんとか。ん? あの女性、どこかで会ったことがあるような……誰だったっけ……ま、いっか。

相変わらず適当な真人であった。


XXXXXX


駅に到着。切符を買って改札口を通る。サラリーマンは定期券なるものを買うと聞いたが、分からないので取り敢えず切符だ。何か人が多いな。ホームに出る。うおっ。何だこの人集りは。こんなに乗れるのか?


「きゃっ」


ん? 誰か躓いたぞ。誰も助けないのか? 辺りを見渡すが、皆無視である。都会人は冷たいというが本当だったのか。


「大丈夫?」


倒れている小柄な少女を引っ張り上げる。茶髪のツインテール娘だ。制服を着ているってことは学生か。

楽しいんだろうな、学生生活。はあ、俺の青春時代をアレだからな。昔の仕事漬けの日々を思い返し、何て人生なんだと感慨に耽ける。失った分、これから楽しむんだ。そう心に誓う。

茶髪少女は顔を真っ赤にしてお辞儀をする。


「あぅ。あの、有難うございました」

「どういたしまして。気をつけてね。こんなに人がいるんだからさ」

「はい。親切にどうも」

「いつもこんなに人がいるの?」

「?」

「俺、今日が初めてなんだよね」

「そうなんですか? 毎日こんなものです」

「そっか……毎日ね……」


また一つ問題が浮かび上がった。毎日これは勘弁したい。皆平気なのか? これが都会人パワーか。

遠い目をして軽くトリップする。最近こんなんばっかだよな。現実トリッパーにはなりたくない。


「どちらまで行かれるんですか?」

「えーっと、次の駅なんだけど……」

「次ですか? 近いですね。それなら都営バスの方が早いと思うのですが……」


何? バスですと? そんな手があったのか。


「そっちは空いているの?」

「はい。電車よりは乗れますよ。あ、でも今日はもう電車の方が早いですよ。あっ来ましたよ」


電車が来る。既に満員である。というか、扉にへばりついているぞ。あれにどうやって乗り込めというんだ?

電車が停車し、扉が開く。中から人がわんさか出てくる。電車内の人が減った。でもちょっぴり。

人混みが動き出す。うおっ何だ。勝手に流されていくぞ。おい、押すな。痛い、痛い。

そのまま車内に自動でイン。何だこの自動人力システムは? まあ、乗れたから良いけど圧迫されて苦しい。


「大丈夫?」


目の前に先程の少女がいた。小柄ながらに潰されそうである。


「はい。慣れてますから」


こんな少女でも慣れるものなのか。俺は慣れたくない。明日からは絶対にバスを使う。

やがて駅に到着する。押し込まれていて降りられない。


「すいません。降りまーす! じゃあね」


茶髪少女に分かれを告げ、強引に人混みをかき分ける。何とか降りられた。どっと疲れが押し寄せる。まだ出勤前なのにこのザマだ。

これからが思いやられる真人であった。


XXXXXX


駅から歩いて十分。それらしき建物が見えてくる。


「ここが防衛省本省庁舎か。でかいな」


まずは受付だな。来てからのことは何も聞いていない。あのクサレ班長の手抜き具合が分かる。まあもう会うことはないけどな。


「あのう、すいません。異能災害対策室技術班の職場はどこでしょうか?」

「失礼ですが、どなたかと面会のご予約をされていらっしゃいますか?」

「い、いえ……」


受付のお姉さんが訝しげにこちらを見つめる。やめて、変な性癖に目覚めちゃいそう……などと言っている場合じゃないな。不審人物と思われてそうだ。警察でも呼ばれたらたまったものじゃない。


「身分を証明するものはお持ちでしょうか?」

「いえ、あの今日からこちらでお世話になることになっているのですが……」

「新人の方ですか? 少々お待ち下さい……失礼ですが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか」

「はい。柊真人と申します」

「柊さんですか。只今確認致します。少々お待ち下さい」


お姉さんがどこかに電話をかけている。このお姉さんは美人だな。だが生憎、俺の好みは愛理ちゃんみたいなおっとりさんだ。このお姉さんは美人なだけにトラブルを呼び込みそうである。俺のタイプではない。ジロジロとお姉さんを観察する。そろそろ電話が終わるようだ。


「はい、ええ……そうですか。分かりました。そのようにお伝えします」


ガチャリと受話器が置かれる。どうなったんだ?


「柊さん」

「はい」

「只今、こちらに担当者の方が向かっているそうです。そちらで掛けてお待ちください」

「はい。分かりました」

「フフ。そんなに堅くならなくてもいいのよ。私は受付の春日井(かすがい)日向(ひなた)よ。よろしくね」

「はい。こちらこそよろしくお願いします」


美人は彼女にはしたくないが、目の保養にはなる。特にこのお姉さんは発育がよろしい。胸しか見えないが、Eはあるな。柔らかそうだ。ぼんやりと胸を見ているとお姉さんが気付いたのか、目線がキツくなる。さりげなく目線を横にシフトする。

数分後、再びお姉さんのお胸に視線を戻すが、ジャストのタイミングでこちらを向く。笑顔だが目が笑っていないようにお見受けする。冷汗が止まらない。誰か分からないが早く来てくれないかな。俺も健全な男子なのですよ。無意識に目がいっちゃうのは仕方ないんですよ。


「おう、来たか柊!」


そのとき、聞き覚えのある声が聞こえた。俺が一番聞きたくない声である。幻聴かな? そんな筈はないのだが。声のする方へと視線を向けると悪夢の主がいた。何でだ。何故なんだ。


本部に強制連行されて配属当日。目の前には真人にとっての天敵が再び現れた。

諸悪の根源、山科宗次郎。


「何でアンタがここにいるんだーーーーーー!」

「まあよろしく」


こうして変わったようで変わらない日々が過ぎ去っていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ