第5話 嵐は過ぎ去りて
ここで一区切り
安堵したせいか、一気に力が抜け音を立てて倒れ込む。疲労感が押し寄せたためその場で寝ることにする。
「後は勝手にしてくれ」
寝ようとしたが、すぐ近くで拍手が聞こえてくる。近くの大木の陰から真道寺先輩が姿を現す。そこにいたんなら助けろよ。
「いやー、流石ですね。山科先輩が推薦するだけのことはある」
山科先輩?……またしても班長のヤローか。クソッ、いつか呪ってやる。
「置いてけぼりにしてくださって、どうも有難うございます」
とりあえず怒りが収まらないので、嫌味を込めて言葉を返す。
「ふふ。どう致しまして。信じていましたよ、貴方の事。予想以上に素晴らしい働きをしてくださいました」
嫌味を嫌味で返された。クソッ。コイツ、確信犯だ。
「まあ良いです。貴方とはこれっきりでしょうから」
「そうですねえー。ふふふっ」
「何ですか、その笑みは?」
「さあ、何でしょうね」
もうヤダ。この人相手にしていると疲れる。
「山科先輩にも良い報告ができそうですよ。彼には貴方の事をベタ褒めしておきますよ」
今更だ。それにしても山科か。この人何を吹き込まれたんだ。クソっ、あいつは俺専用の疫病神か。
それにしても、俺の昔の事なんて班長も知らないはずだが……
そういえば、コネ入社したんだから、師匠から俺の情報が伝わっている?だったら技術屋として雇うはずもないけど。直接、実戦班に回せば良いだけの話だ。こんな回りくどい真似するか?
とりあえず、コネ入社はやっぱり良くないよね。
……まあ、小卒が就職できただけでも奇跡だから贅沢は言えないか。終わったと思えば、憎さ半分可愛さ半分だ。
明日からは元通り……だよね?
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しばらくして加奈先輩達と合流した。
古沢リーダーと大和は既に気を取り戻していた。無事で何よりである。大円団ってやつか。
「しかし加奈先輩も大変ですよね」
「何が?」
「こんなむさ苦しい男の中に女一人。紅一点じゃないですか。どこ行ってもこうなんじゃないですか?」
「女一人? あっそうか、フフっそういうことね」
「?」
「気づいてないのね? まあ面白そうだからそのままにしておくわ」
「何の事か分かりませんが、まあ良いです」
疲れているので、複雑な話しは遠慮願いたい。
「そ、それからさっきはありがとうね」
「ヘッ?」
「助けてくれたでしょ。い、一応礼を言っておくわ。それだけだから」
!!!デレた。加奈先輩がデレたぞ。クッ何て破壊力だ。普段表情が変わらないだけにより一層悶えてしまった。やばい。襲ってしまいそうだ。自制心を総動員させて自分を戒める。
「おーい、こっちに集合だ」
古沢リーダーが呼んでいる。最後の締めか。今日は長かったなー。
「あーっ、今日はご苦労だった。途中、みっともない姿を晒してしまったが、真道寺がうまくやってくれたようだ」
俺の事は? まあ、色々と追求されるのは嫌だが、がんばった俺が報われない。やっぱり厄日だ。
「柊もご苦労だったな」
「えっ?」
急にお褒めの言葉が飛び出してドキッとする。
「真道寺や夏目から話しは聞いている。全員無事なのはお前のおかげでもある。感謝する」
「いやーっ、大和の奴を運んだだけですよ?」
「何、謙遜するな。加……夏目を助けてくれたんだろう?」
「あっ、そっちですか」
「? そっちというと他に何かあるのか?」
危ない、危ない。危うくボロが出るところだった。それにしても真道寺先輩は何故黙っていてくれたんだろう? 実は良い人……ではないな。元はといえばアイツのせいで酷い目に遭ったんだ。
「いや、こちらの話しです」
「? そうか。なら良いが」
「彼も疲れているんですよ。色々ありましたからね。そう、色々とね」
「何だ? 意味ありげな発言だな」
「まあ、彼と僕との秘密ですよ。ねえ、柊君」
そうコイツは絶対に良い奴なんかではない。悪の親玉……いや親玉は山科か。コイツは参謀だな。悪知恵が働きそうだ。
「あ、あの!」
「うん?」
振り向くと大和がもじもじしてそこにいた。
何だ、気持ち悪い奴だな。そっちの趣味はないぞ。
「どうした? 何か用か?」
大和は顔を赤くしながら俯きながら喋る。
「私を運んでくれたって……」
私? 軍隊口調じゃなくなっているぞ。
「御礼を言いたくて……ありがとう」
「おう、気にすんな」
軽くさらっと返答するが、大和はさらに言いにくそうにしてもじもじとする。
何だ?言いたいことがあればはっきりと言え。
「それで、あの……」
「何だ?」
「……その……重くなかった?」
何だその女子みたいな質問は? 男が体重なんて気にすんじゃねー。やばい。何か変な気持ちになってきたぞ。自分の顔が赤い気がする。冷静に、冷静に。俺はノーマル。男の中の男だ。
「?」
「ゴホンッ。いや、軽かったな」
途端に明るい顔をする大和。可愛い奴だな。
「そ、そうか。うん。ごめんね、変なこと聞いて」
「いや、お前が良いならそれで良い」
何を言っているんだ俺は。流されているぞ。何なんだ、今日は。
「フフッ、じゃあね」
スキップでもしそうな軽い足取りで去っていく大和。何だったんだ?
もう良いや、さっさと帰って寝よ。
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翌日。
結局、昨日は四人とも泊まったそうだ。駅まで見送りに来ている。
「じゃあ、柊。ご苦労だった。以後健やかでな」
「柊君。ご苦労様でした。また会いましょう。いや、近いうちにまた会うかもしれませんね。フフッ」
古沢リーダーと真道寺先輩が挨拶を交わし、車内に入っていく。
「フフっ、じゃあね。待ってるわよ」
「えっ?」
「時期分かるわ」
訳の分からないことを言いながら加奈先輩が車内に入っていく。
最後は大和だ。
「柊君。お世話になったであります」
軍隊口調に戻っている。この方が落ち着くな。
「おう。元気でな」
大和が車内に入って、列車が動き出す。
もう会うことはないだろうな、と思いながら手を振り見送る真人。
こうして嵐が去っていった。そう真人は思っていた。
次回、引越しします




