第4話 秘技
ちょっと微妙な表現があります。セーフだよね?
真道寺から無茶振りをされる真人。その言葉に何言ってくれちゃってるの的な顔をする。
最後の抵抗とばかりに、とぼけた振りをして反撃に出る。
「いやいやいや、それは無いでしょ。自分は戦闘に関しては素人ですよ。そちらは専門家の先輩方にお任せします。そもそもですね……」
ここぞとばかりに愚痴を言い聞かせる真人。言い訳に愚痴を混ぜて「行きたくない」を必死にアピールする。
俺はフラグブレイカーだ。恋愛フラグは大いに頂くが、他のフラグはいらん。ましてや死亡フラグなんてお断りだ。
折ってやる。折って折りまくって俺は伝説となる。
――などと脳内談義をしているうちに愚痴がエスカレートしていく。
そんな真人の言い訳を菩薩様のような慈愛に満ちた顔で見守る真道寺サブリーダー。
聞き終わると恐ろしいまでの満面の笑みを浮かべ、予想通りだとでも言わんばかりに返してくる。
「ふふふっ。君は面白いですね。謙遜しなくても良いのですよ。さあ行きましょう」
クッやっぱりバレてる。さっき見られちゃった? ヤダ、行きたくない。
脳内で軽い幼児退行を起こしパニクる真人。だが現実は厳しい。
華奢な体のどこにこんな力があるのかと思うくらいの剛力で引き摺られていく。
「イヤだーーーーーー!」
現実は果てしなく厳しい。
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再び異形さんの近くまでやってきました。懐かしくありません。お友達にはなれないタイプですからね。
異形はまだ動かない。何をしているのだろう。先程の一撃はそこまで強くなかったはずだが。真人は考える。
そもそも異形とは何なのだろうか。目的とかあるのだろうか。幾ら考えても小卒の脳みそでは分からない。
「アレってしばらく動かないんですかね? 町に被害が無いんであれば、増援を呼んでもいいかと思うのですが……」
「真道寺先輩、どう思います?……真道寺先輩? アレっ?」
周りを見渡すが誰もいない。頭がおかしくなったのだろうか。いや違う。視力が落ちたんだ。
ありえない希望的観測で目をゴシゴシする真人。拭う手が濡れているのは涙のせいか。
「どこですか先輩? 真道寺さん? サブリーダー!」
最後には怒鳴りつける。理不尽な世の中に物申す。
結局、一人取り残されてしまった。わざとじゃないよね。信用するよ。一新人に対する仕打ちじゃないよね。
そういえば、明日はゴミ出しの日か。早起きしないとな。あっ、あのゲーム発売日もうすぐじゃん。買いにいかなければ。お金あったっけ……この間、パチンコで負けたからなぁ~。
――などと現実逃避をしていると気づけば近くで何かの音がする。
「何だろう?」と目を向けると……目の前に異形さんがいらっしゃるではないですか。
「ははっ、どーも」
愛想笑いを浮かべて丁寧にお辞儀をする。どうも気難しい方のようだ。無反応である。自分の顔が引き攣るのを感じる。
無意識の防衛本能なのか、異形に考える隙を与えないかのように立て続けに喋り始める。
「いやぁ~、ここはどこですかね。道に迷ってしまいましてね。ここって山の中ですけれど辺り一面が森じゃないですか。
異形さんの力が強すぎて方向も分からなくてですね。いや、異形さんを責めているわけじゃないですよ。
何て言いますか、不可抗力? そう偶然の悪戯って奴ですかね。町に出る道さえ分かれば帰れますので心配はご無用です、はい。
あ、異形さんもお忙しいですよね。お互い大変ですよね、はははっ。異形さんに迷惑はかけられませんから自力で何とかします。
では、そろそろ失礼しますね?」
回れ右をするが、直後危険を感じて左に避ける。異形が殴りに来たようだ。風圧で横に吹き飛ぶ。
再び喋りながら立ち上がる。
「ゴホッ。ははっ、蚊でもいらっしゃいましたか? この季節ですしね。ですがそこまでしなくても、ね?」
(どうしよう、どうしよう……そうだ!)
「あっ!あれは何だ!」
自分とは反対方向、異形の後方を指差しして叫ぶ。必殺の誘導式遁走法。いわゆるあっちむいてホイでの逃走術である。これにかからなかった奴(人間)はいない。
……はい、人間じゃありませんでしたね。勘違いしていました。
異形さんは全くの無反応です。気のせいか怒っていらっしゃるような。
目から汗が止まらない。命の灯火が刻一刻と消えていくようである。
(真道寺ぃ~、こいつの相手はてめえの仕事だろうが!)
「ほら、仲良くしましょうよ。争っても良い事はないですよ。人類みな兄弟、穴が有れば穴兄弟……ってあれっ?何を言っているのでしょうね。はははっ」
パニクっているのか、自分でも何を言っているのか分からない。
異形が膨れ上がる。何かとんでもない攻撃の前触れのように感じる。
口から圧縮した風の塊が吐き出される。地面に直撃した後弾けるように衝撃波が広がる。
真人は数メートル程吹き飛び、背後にあった大きな木に激突する。息が詰まって一瞬呼吸ができなくなる。
「クハッ、ちょ、ちょっと待って……」
再び異形の拳が迫り来る。速い。
瞬時に全身のバネを気で強化して背筋力で大木を押し出す。左前方に逃れる。勢いで前転した後、すかさず強化した脚で跳び、異形の背後に回る。
意識を切り替える。説得の時間は終了だ。人が優しくしていればいい気になりやがって。
「調子に乗ってんじゃねぇー!」
右手を掲げて集中する。即座に人が本来持つ三つの気を意識的に呼び覚ます。
一瞬静寂が訪れ、直後に三つの気が波紋を広げる。それぞれの気はぶつかり合い、やがて澄んだ音色を奏で始める。
掲げた右手を中心に辺りの空間が波紋状に歪んでいく。異常の空間を正常な気が侵食しているのだ。それと同時に幻想的な鈴の音のようなものが響き渡っていく。
「ガアアアアアアッ!」
異形の口から先程の絶叫のようなものが溢れる。共振とか言ったか。だが、
「効かねえよ」
異能を持たない真人には通じない。共振するモノが真人の中には存在しない。
相容れない力が異形を圧迫していく。
実際に口にしたのか心で思っただけなのか分からないが、真人が発動した秘奥の名を呟く。
――零式、調律
気の共鳴現象にて異常を鎮める秘中の秘。零式は師匠から受け継いだ七式ある技のどれにも属さない特別な技だ。
基本の壱から参式までを応用して編み出した真人だけのオリジナル技である。
無能である真人であるからこその秘技。
そう、異常に侵食されていない唯一の存在である真人だけの。
調律はバランスが重要。繊細な制御が必要なため膨大な集中力を必要とする。そのためその場を動けなくなるが、異形に対しては最も有効な手段である。
この程度の異形であれば容易く消し去れる。
(共鳴率5%……10%……15%……20%……ここいらが限界か)
限界点まで技を高めそれを維持する。後は時間との勝負。真人の体力と精神力が物凄い勢いで削られていく。
(早く消えろ)
願いが通じたのか、のたうち回っていた異形が動きを止める。異常を正常に書き換えていく。
異形は何も変わらずそこに在った。唯、存在そのものが徐々に薄れていく。
最後に一際澄んだ鈴の音を奏ると、後には何も残されていなかった。
とりあえずあと一話まで




