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異端進化論(改訂前)  作者: 七草 折紙
第一章 能ない凡人は爪を隠す
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第3話 異形

レイアウトいじってみるかな・・・

――異形(エグゼキューター)

それは突如として発生する謎の生物。全身が霧の塊のような様相の禍々しい怪物。今回は人型の巨人である。

前例ではその巨体に似合わぬ俊敏な動きをもち、数々の異能特性を持つと云うが。

生物である以上、倒すことは可能である。しかしそれを為すにあたって問題があった。


――異形には異能が効きにくい。

異常そのものと云っても良い異形に対し、世界が生んだ異常の力である異能は効果が薄い。

それは今まで現れた全ての異形に共通していえる純然たる事実であった。

今の世の中、戦闘手段には必ずといって良い程異能の力が使われているのだ。

高位の異能者のみが振るえる強力な異能の術も存在するが、そのどれもが有効な討伐手段に成りえない(・・・・・)


最も有効と思われたのは近代兵器の使用。単純だが確実な手段であった。

しかし携帯用の銃や剣、砲弾などでは傷一つ付けられず、かといって有効と思われるレベルの兵器となるとどうしても複雑かつ大きくなってしまう。

巨大兵器と化した武器では持ち運びに苦労する。なおかつ的が大きいので準備に持ち込む前に破壊されてしまうため頓挫(とんざ)された。


異能災害対策室の上層部では様々な口論が繰り広げられた。そして、その末に一つの案が浮かび上がった。

それはまだ未確定情報だったが、彼らはそれに賭けた。その頃、確認され始めた遺跡という存在。

その遺跡で発見されたと云うあるもの(・・・・)を用いれば異形に対抗できると云うのだ。異能の力を異形に有効な力として変換する未知の技術。

世界中に点在する古代遺跡から採掘されたそれは「神器(ジンギ)」と呼ばれた。

神器と呼ばれたその特殊な遺物(アーティファクト)は国宝として厳重に保管され各国に一つ行き渡るように協定が成された。

異形に対して有効な決定打になりうる神器は現在国内に三点程保管されており、三種の神器として国内の異形退治にのみ持ち出しが許された(・・・・)


――そのうちの一つ、「草薙(くさなぎ)の剣」

旧時代の神話から名付けられたその剣は増幅効果を持つ数少ない高位の武器型神器であった。


XXXXXX


(俺は何故ここにいる? 何故こうなった。異形だと、ふざけんな。あのサボり班長、後で絶対しめてやる)


「か、帰りましょうか? 援軍を呼んだ方が良くないですか?」


真人らしい消極的な言葉を吐く。現状ではそれが一番の方法に思えた。


「大丈夫だ。こんな事もあろうと準備はしている」


そう言うと、古沢が腰にぶら下げている剣を抜き放ち、その刀身が(あらわ)になる。

圧倒的存在感を放つその荘厳(そうごん)な剣は、正に神器と呼ぶに相応しい神々しさを持っていた。

初めて見る国宝を目の前に真人は素直に感嘆の声をあげる。


「神器か。凄いな」


異能の力を持たない真人でも一目でその凄さが分かるほどであった。


「これは国に三つしかない神器の一つ。草薙の剣だ」


そんな貴重なものをあらかじめ持ってきていたということは、この事態も予想していたということ。


(山科ーーーーーー! てめー、何て事をしてくれたんだ! 俺を巻き込むんじゃねー!)


心の叫びを全開にするが、虚しいだけ。しかしそこである考えに()ける。


(遺跡から発掘……異形は昔からいたのか? でもあの神器は明らかに旧時代以前(・・・・・)のものだぞ。

異能が存在しない(・・・・・)のに異能を増幅する(・・・・)? 矛盾している。どういうことだ?)


ふと疑問が頭に浮かんだが、どうでもいいので捨て置くことにする。

要は真人を安全地帯まで逃がしてくれれば一件落着である。事態を見守ることにする。


ここで実戦担当の三人が戦場に向かうべく動き出す。


「真道寺は左後方へ、大和は右後方へ向かって異形を牽制してくれ。夏目と柊はここで待機」

「「「了解」」」「了解しました!」


一際大きな返事を出す空気が読めない真人。リーダーからの指示につい本音で元気な返事が出てしまった。待機、何て素敵な響きだ。

皆何か言いたげであったが、状況が状況だけに困り顔で行動に移る。

古沢が正面から異形へと向かい、真道寺は左へ、大和が右へ散開する。


三人が去り、やがて沈黙が訪れる。この場には真人と加奈の二人だけになる。

立っているのも疲れるので真人は座ることにする。

このときはまだ真人も討伐は完了するものと楽観視していた。






しばらく呑気に座っていると眠気が襲ってくる。遠くでは激しい爆発音が聞こえてくる。恐らく未だ戦闘中である。

苦戦しているのであろうか。彼此(かれこれ)一時間は続いている。

戦闘音が心地良い子守唄となって余計に眠気を誘う。


(このまま寝ても良いんじゃないか?)


ふと頭にいけない欲望がよぎる。この状況でそんなことを思うのは異常だが、昔の仕事の経験がそれを可能としていた。

隣では加奈が三人の同僚を心配した面持ちで佇んでいた。座ればいいのにとは思わない。あくまで本人の意志を尊重する。

座りを決め込んだ緊張感のない後輩を見て加奈のこめかみに青筋が浮かぶ。


「様子を見てくるわ」

「ちょっと、加奈先輩。どこに行くんですか?」

「私は医療担当よ。いざという時のために近くまで様子を見に行ってくるわ」

「ここで待機って言われたじゃないですか」

「なら貴方はそこで見ていなさい」

「ちょっと待ってくださいよ」


有無を言わせぬ加奈の行動に、仕方なく加奈を追うことにする真人。一人は嫌である。

息を潜めながら、三人がいる場所へと向かうのであった。


XXXXXX


真人と加奈が辿り着いた先は地獄であった。

辺り一面の木々は不規則に砕け散り、有無を言わせぬ理不尽な暴力が通り過ぎたことを証明している。

飛び散った木や草は炎で燃えており、存在すら許さぬと天罰が舞い降りたかのようであった。

所々地面は抉れて穴だらけであり、圧倒的質量を受け止めた大地の成れの果てであった。

これらの光景が今までの激しい戦闘を物語っている。


(何なんだ。この悪夢のような光景は……これじゃまるで……)


二人が別世界に来てしまったかのように唖然(あぜん)としていると、近くで覚えのある声が聞こえてきた。


――魔導術(デモンズ・スペル)八岐之槍(ヤマタノヤリ)


真道寺の周囲に浮かんだ八本の焔の槍が異形に襲いかかる。

圧倒的熱量による攻撃に大気が爆発し、砂塵と共に煙と水蒸気が踊り舞う。


「やっぱりダメですか……」


額に汗を浮かべて苦笑いをする真道寺。全方位からの炎の槍を受けた異形だが傷一つない。

次いで、炎の槍が直撃した隙をついて大和が斬りかかる。


――地導剣(リアライズ・ウェポン)薄光之刃(レイ・ブレイド)


大和が手の中に具現化した光の刃で斬りつける。

膨大なエネルギーを内包する白き刃が異形の身体を斜めに斬り裂かんと直撃するが、その表面すら斬り裂いた様子はない。


「クッ効かないであります。刃が全く通らないのであります」


大和の顔に焦りが浮かんでいる。ずっとこんな調子だったのであろうか。

重労働である。危険手当ては出るのであろうか。この状況でそんな事を考えている不謹慎極まりない真人。


異形の正面で向かい合う形の古沢だが、牽制が効かないためか踏み込めないでいる。

対峙する二人の傍で大和と真道寺が巧みに攻撃を仕掛けている。だがその存在さえも無視するかのように、異形は反応すらしない。


「古沢さん、ダメです。牽制もできません」


異形は二人を無視して古沢さんにのみ集中しているように見える。

知能が高いのであろうか。本部の実戦班に選ばれる程の三人の猛者が苦戦していた。


その光景を呆然と見ていた真人達だが、ふと横にいた加奈が飛び出す。


「参戦します。私が足止めしますので、パ……古沢さんはその隙に攻撃をしてください」

「分かった」


加奈が今何かを言いかけた。何だろうか。

完全に部外者を気取っている真人。そんな間にも事態は進行していく。


――天導術(ヘブンリィ・スペル)重力操作グラビティ・チェンジス


加奈の術が発動。異形の周囲の空間が歪み重圧で押し潰さんとする。大地が悲鳴を上げ亀裂が走る。

流石の異形も動きが止まる。その隙に古沢さんが襲いかかるが、


「ガアアアアアアッ!」


異形が絶叫にも似た声を発する。

直後、古沢さんの動きが急に止まる。他の皆の動きも止まっている。

次第にはガクンと膝を突く討伐メンバー達。

異形から何かが発せられ、それが影響しているようだ。


だが真人は何も感じない。問題なく動ける。というか、軽い耳鳴りがする程度だ。

真人は状況が分からずに困惑する。


共振(ハウリング)か……クソっ、力が抜ける」


苦しそうな討伐メンバー達。異形がさらに動き出す。


「ヤバイ!」


仲間の危機を察し流石の真人も動き出す。咄嗟に両足に気を宿らせ跳ぶ。瞬く間に数メートルもの距離を移動していた。

直撃コースとなっていた加奈を間一髪助け出す。だが余波で古沢と大和が吹き飛ぶ。防御はしているようだが、力が入り切らずに諸に地面に激突してしまう。

衝撃で二人は気絶してしまった。真道寺はいない。避けたようだ。いつの間に移動したのだろうか。

何故か異形の足も止まっている。


「皆さん、ここは一旦退却しましょう!」


真道寺の言葉に全員一致で賛成する。急いでこの場を脱出することにする。

古沢を真道寺が、大和を柊が担いでいく。真道寺さんはきっちりと神器の回収も忘れていない。

誰も先程の真人の行動を疑問に思っていないようだ。それを確認して真人はほっとする。

皆、そこまで見る余裕はなかったようだ――そう、ただ一人を除いては。


XXXXXX


数十メートル離れた位置まで退避した一同。異形はあの場所を動かない。


「異形の動きが止まっていますね。何でだろう?」


先程、避ける際に真人が一撃を入れておいたのだが、そんなことは口に出さない。

さりげなく真道寺を盗み見るが目がバッチリと合ってしまう。

背中の冷や汗が止まらない。


「とりあえずもっと移動しましょう。アレも直ぐには動かないでしょう」


安全な位置まで後退する一同。再び、古沢を真道寺が、大和を柊が背中に担ぐ。


(何かコイツやわらかいな……ハッ、何を考えているんだ。俺にそんな趣味はない)


危ない道に入り込もうとした自分を叱咤し、急いで走っていく真人。

異形を遠目に監視できる位置にまで下がる。二人を一旦離れた場所に置き、異形の様子を窺う。


「こちらには来ないようですね」


一先ず安全を確保できたようだ。三人がほっと安堵する。

気持ちを入れ替えると二人の手当てを開始すべく、真道寺が指示を出す。


「加奈ちゃん、至急古沢リーダーと大和君の手当てをお願いするよ。アレくらいでは死なないだろうけど、結構重傷だからね」

「真道寺先輩はどうするおつもりですか?」

「そうだねぇー。予想外の助っ人がいそうだしね。リベンジと行きますか」


チラっと真人の方を見る。不意を突かれる形の真人。


「ヘッ?」

「助っ人ですか? まあ宛があるのならがんばってください」


先程の真人の動き。加奈には分からなかったが、真道寺は全てを見ていた。

異形の共振(ハウリング)を物ともせずに、加奈を救ったあの手腕。真人に見えない位置で真道寺はほくそ笑んでいた。


ヤバい。二人っきりになるのは危険だと真人の脳内に警報が鳴る。

しかして時既に遅し。監視のための二人を残して加奈は去ってしまった。二人の手当てのために後方に向かったのだ。

加奈が見えなくなると真道寺が爽やかに話しかけてくる。


「さて柊真人君。アレをやっつけてくれるかな」


二コっと微笑むその姿は悪魔に見えた。


大和ちゃん女の子です。BLではありません。

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