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異端進化論(改訂前)  作者: 七草 折紙
第一章 能ない凡人は爪を隠す
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閑話 ある男の暴走溺愛記5

今回で古沢さん視点終了です。長くてすいませんでした。

柊か。助かった。何でここに……そうか、奴も試験を受けに来ていたのか。

貴様、やはりやれば出来る子なのだな。加奈はやらんが合格だ。

遅れて門松さん達がやって来た。やっと来たか。


「いきなり走り出すから、どうしたのかと思ったぞ」


そこで柊が改めて俺の姿を発見したようだ。俺と大和の姿を見て試験生の一人と思われる奴が治療を始める。気が効くな。


「古沢さん!?」

「柊……か」

「お久しぶりですね。っていっても転勤初日に会いましたね。ハハッ」

「そうだな……」


あの時が懐かしい。加奈はすっかりグレてしまった。


「古沢さん、かなりお疲れのようですね」

「俺は良い……それよりも加奈が……」

「加奈?……夏目加奈先輩ですか? あの人も来ているんですか?」


柊が吃驚した様子をする。やはり加奈を狙っていたか。まあ良い。今はそんなことを気にしているときではない。


「そ、そこに……」

「そこ?」


あんな姿の娘を紹介するのは忍びない。加奈も見られたくはないだろう。女性は見た目を非常に気にするからな。パパ(仮)の独断を許せ、加奈よ。


「……? いませんが?」

「アレだ……あの異形が加奈だ……」

「えっ!? ア……レが?」


変わり果てた加奈の姿に柊が驚愕する。それはそうだ。あの可憐な加奈があんな姿に成り果てるとは。俺も信じられない。だがそれは現実。しっかりと直視しなければ。


「どういうことだ、古沢?」

「門松さんですか……。我々は通例通り五人チームで異形討伐に来ました」

「異形討伐か? 後の三人はどうした?」


門松さんに説明を求められた。ここは素直に全部話すのが得策だ。


「リーダーは古矢です。今、一人で外の異形を相手しています」

「虎徹が来ているのか!?」

「はい。後の二人は医療班の夏目と技術兼任の更科が来ていました」

「いました? 今はどこにいる?」


やはり気付かないか。教えてやらないと話が先に進まない。


「……今目の前にいる二体の異形が、そうです」

「何だと!?」


その話を聞いていた試験組の全員が驚愕に目を(みは)る。

その気持ちは痛い程に分かる。あんなファッション俺も認めん。おっと、身体が動くようになった。早速、神器を回収せねば。


「古沢! その神器を貸せ!」

「え、ええ、分かりました。あ、あの、門松さん! あちらの加奈は……どうにかなりませんか?」


門松さんが手を突き出している。神器を貸せということだろうか。それよりも加奈をどうにかしてもらいたい。早く更生させなければ。


「残念だがあの娘は既に手遅れだ。間違いを犯さないうちに止めてやるのが、せめてもの情けだ」


何……だって……もう戻らないのか。それじゃ謙介と同じ結果に……。

自分が無意識にギリッと歯を食いしばっているのに気付く。だが加奈だけは……。


「分かっているだろう? 今はかなりまずい状況だ。下手をすると全滅する恐れもある」


それでも、それでもだ。親子揃ってあんな結末。あんまりじゃないか。


「で、ですが……」

「取り敢えず更科の方を先に始末する。それまでに心の準備をしておけ」


駄目……なのか。俺はパパ(仮)失格だな。清香も悲しむ。どうしたら良い。誰か教えてくれ。

更科は門松さん達に成敗された。だがその後も異形が次々に湧いてくる。何故、異形がこんなにも湧いてくるのだ。


「何でこんなに化獣が残っているんですか?」

「変だな……こんなに直ぐに湧いてくる訳はないんだけどね。何者かが遺跡を操っている?」

「しかも、何故かここに集結してきますよ。どうなってるんですか?」

「ふむ。確かにおかしいね」


何となく真道寺と柊の会話が耳に入ってくる。そういえばここに来たときにも……


「そういえば、この広場に来た時に、中心に黒い霧のようなものが漂っていたが……」

「黒い霧?……まさか、使徒!?」


使徒。聞き覚えのない単語が出てくる。だがそんなことはもはやどうでも良い。

その後の展開にも頭が追いつかない。まるで映画でも見ているようだ。現実味がない。

何やら盛り上がってきたが、俺の視線は一つにしか向いていなかった。

異形が討伐されていく中、試験生の一人が加奈に襲いかかったのだ。


「ま、待て!」


体当たりでその試験生にぶつかって押しとどめる。うちの娘に何をするのだ!?


「何をするんですか? アレも異形ですよね?」

「アレは俺が何とかする。お前らは他を当たれ!」


やばい。加奈も異形。討伐対象になってしまう。本当に何も手がないのか。謙介、お前の娘を助けてくれ。


「クッ、どうすれば良い……」


その時――


「! まずい、共振(ハウリング)だ! 全員、後退しろ!」

「グアアアアアアッ」


共振(ハウリング)が襲ってきて力が抜けていく。これが異形の厄介なところだ。このタイミングで来るとは。


「クッもうだめか」


誰かがそう呟いたのを聞いた。門松さん達も動けないようだ。


「「「クカカカカカカ」」」


異形の群れが笑っている。その笑い停止成分欠乏症は更科を思い起こさせる。

くそっ、滅んで尚、更生されないか。


「この神器、借ります」


ふと柊の声が聞こえてきた。様子がいつもと違う。流石にお前も怒ったか。


「誰も死なせない。ふざけるな」


怒りの声と共に、草薙の剣を持った柊が突如消失した。はっ? 消えた?

気付いた時には十メートル程先に現れ、共振(ハウリング)していた異形を一太刀で斬り裂き消滅させていた。


「「「ハッ!?」」」


周りからも驚きの声が聞こえてきた。同感である。何が起こった?


「刀祢、咲耶、大和、マリア、統吾、智! 無理するな、下がれ!」

「う、うん」


柊が豹変した。人格障害か?

いや、それよりも異能の波動を感じなかったぞ。どういうことだ。

そこである都市伝説を思い出す。だがあれは噂に尾ひれが付いた只の作り話の筈。いやだが実際に目の前で……


「異能なしでその力、……お前まさか、『御技(みわざ)使い』……か」


気づくとボツリと呟いていた。俺の呟きに周りがさらにざわつく。


「な、何あれ? 彼、あんなに強かったの?」

「そ、そういえばさっき御技(みわざ)使いって……」

「何言ってんだ、あれは只の都市伝説だろう?」

「お、俺も確かに聞いた……」

「まさか……」


その間にも柊が異形を蹴散らしていく。

その姿に触発されて、皆が活気づいた。これも柊の力であろうか。

それらを俺は呆然と見ていた。今の俺では足でまといにしかならないであろう。

気づいたら柊が加奈に向かって歩いていく。残りは加奈一人。

そこでハッと我に返る。見とれている場合か、加奈を成敗するつもりか? 本当にそれしかないのか? それでも……


「柊! やめてくれ!」


諦めたくない。俺の命を使ってでも加奈を助けたい。やめてくれ、柊。

だがそんな俺の心の声を悟ったのか、柊は振り返って穏やかに告げてきた。


「大丈夫ですよ。俺に任せてください」


軽い口調であったが、どこか惹かれるような絶対たる信頼感。

この感じは何なのだろうか。俺は無意識に全てを託すことを選択していた。


「さあ、終わりにしようか」


加奈の前に立ち手をかざす柊。柊の手を中心に空間が歪んでいく。何をする気だ?

どこからともなく澄んだ音が聞こえてくる。心が癒されるような優しい音色。

その音色に誘発されるかのように、加奈の身体から黒い霧が蒸発するかのように抜けていく。

異形化した加奈が徐々に元の姿へと戻っていく。


「あ、あ、あ、ああああああ……」


俺は叫んでいた。訳の分からない嗚咽が口から溢れていた。止まらない。いつの間にか涙らしきものまで出ていた。一人の大人として恥ずかしい限りである。

最後に加奈の目の周りを(おお)っていた白い仮面がヒビ割れて砕け散る。

ドサリと音を立てるように倒れ込む加奈。それを慌てて受け止める。


「良く頑張りましたね。加奈先輩」


柊の声はどこまでも優しく澄んでいた。

異形が全部倒されたため、場がほんわりとした雰囲気に包まれる。一同はさっさと帰ることにする。何故か皆、この場にはいたくなかった。


「それにしても『御技(みわざ)使い』とはな……」

「またそれですか……何度も言いますが、違いますよ。ソレ(神器)のおかげです」


一同は外に向かって階段を登っていく。

近くでは、あの門松さんが親しげに柊に話しかけている。信じられない光景だ。

俺はそれを傍らで聞いていた。


ソレ(神器)には大事なものを守りたいという強い想いが込められていました」

「いきなり何だ……想い?」

「そうです。どんなに絶望的でも最後の一瞬まで諦めず折れない心。古沢さんもそうだったのでしょう?」


いきなり俺に話が振られた。そうだ。俺は諦めなかった。見苦しいようだが、それが人の心。それが俺だった。


「……そうだな。あんな想いは二度とごめんだ」


六年前の事を思い出す。あの時は親友を助けられなかった。

助けられないまでも、本来ならば俺の手で倒すべきだったのだ。自分の心の弱さが情けない。

だが俺は決意したのだ。加奈を護ると。今回は柊に助けられたが、本来それは俺の役目。今よりもっと強くならねば。


「アレはその想いの力を借りたに過ぎません。俺の力なんてそんなものですよ」

「……そうか。まあ、深くは追求しない」

「ですから、アレは神器の力です!」

「もしかして神器、とはそういう存在なのかもしれないわね」

「先人達が残した護るための力……まあ、何から護りたかったのかは知れないけれどね」


護るための力……か。そうだな。皆、最後に思うのはそれだ。もしかして柊のあの力はその先人達の恩寵かもしれないな。

それならば先人達の意思が反映されたことになる。


「だとしたら感謝しなければいけないな。おかげで加奈を護れた」


そう、今回は護れた。俺の力ではなかったが護れたのだ。顔も知らない先人達だが今は感謝しよう。

こんなに良い子が犠牲になるなんて耐え切れない。本当に良かった。

背中におぶった加奈を見て、気持ちを一新する。この子は俺達(・・)の宝なんだ。俺達三人(・・)の大事な。

やっとのことで今回の討伐任務が終了した。今後もうこういう事はないだろう。いや、ここは上の連中にガツンと言ってやるべきか。


「少々予定外のハプニングはあったが、全員無事で何よりだ。結果は後日通達する。各自気をつけて帰るように。では解散する」

「来たときと同じようにバスに乗ってね~。最寄りの駅まで送っていくよ」


皆が帰りの準備を始める。俺達は古矢の運転する車だったな。


「自分も一緒に帰ってよろしいでありますか?」


話し声が聞こえてくる。大和はどうやら柊達と一緒に帰りたいそうだ。柊よ、お前タラシか?


「いいよ。後部座席の真人君の隣が空いているから、そこで良いよね」

「はい。柊君、よろしくお願いするであります」

「えっ? ああ、よろしく?」


何やら言い合っているが、最後の挨拶はするべきだろう。特に柊には多大なる恩ができた。


「じゃあ、俺達は先に帰る。柊!」

「はいっ?」


これが今俺にできる最大限の感謝の証だ。行くぞ。


「お前には本当に世話になった。感謝してもし足りない」


柊に向かってすっと頭を下げる。これくらいしないと俺の気が済まない。


「い、いや。加奈先輩が無事で俺も嬉しいですし……そんな……」


柊が照れている。褒められ慣れていないのだろうか。何か普段は頼りないが、いざという時には頼れる。それに本当に良い奴である。

気づくと自然と笑みが浮かんでいた。柊もそれに感化されてか、笑みを返してくる。不思議と幸せな気分になった。


「あの時、お前が居てくれたら……いや、何でもない。何かあったらいつでも言ってくれ。力になろう」

「……? はいっ」


つい愚痴を言いそうになってしまった。柊には関係のない話だ。今はこの子の無事を喜べば良い。

俺は確かに守った背中に感じる加奈の温もりを感じながら歩いていた。


――だが娘(仮)はやらんぞ、柊。


古沢視点でした。第一章の総集編みたいな感じになってしまいました。

結構、古沢の親馬鹿が発揮されたと思います。

ありきたりな話で御免なさい。これが作者の限界です。

あと使い回しもありますが、ストーリーの進行上そうしました。ご了承ください。

次回は加奈視点をお送りしたいのですが、閑話長すぎかな?

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