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異端進化論(改訂前)  作者: 七草 折紙
第一章 能ない凡人は爪を隠す
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閑話 ある男の暴走溺愛記4

続きです。

今回はガチで古沢さん視点での総集編となっております。

加奈と共に遺跡の中に入っていく。

長い階段だな。どこまで続くのだ。

しばらく進んでいくと更科がいた。ふん。先に進んだ割にはトロイ奴だ。

まさか待っていたのか? だとしたら意外に良い奴なのか?


「しかし異形なんざ久しぶりだぜぇ。数年振りか。全くつまらねえ化獣狩りばかりやらせやがって。ったく、化獣如きで俺様をこき使うんじゃねぇよ。なあ、お前らもそう思うだろ?」


いや、良い奴ではない。何だこの男は? 今までに出会った事がないタイプ、ニュータイプか?

とにかく愚痴が多い。男たる者、寡黙であるべきだ。


「化獣退治も私達の立派な仕事です」

「ふ~ん、つまんねぇ女だな」


加奈よ。いつ何時(なんどき)そこまで勇ましくなったのだ。

可愛い娘(仮)なのだ。危ない橋は渡らないでもらいたい。

だがその気丈な言葉は清香に似ても来たな。複雑な親心(仮)という奴か。

それに比べて、貴様! つまらない女とは何だ! その蔑むような目も気に食わん。遠い銀河の彼方へと放り出すぞ。

このままでは俺の眠れる怒りが爆発してしまう。

だがここで争いを激化する訳にはいかない。あくまで加奈の安全が第一である。


「更科先輩、六年前の事件に関わり合いがあるようですね」

「あん? 六年前の……事件?」


ここで加奈からあの時の話が持ち出された。やはり気になるのであろう。

どうなのだ? 貴様も何か関わり合いがあるのか?


奴はしばらく考える素振りを見せた後、いきなり手を叩いた。やっと思い出したのか。

記憶力の悪い奴だ。脳にも疾患があるのか?


「ああ、あれの事か……莫迦な奴が実戦班に一人いたな。足でまといも良いところだったぜ。名前は何てったっけな~……確か……夏目……謙介(けんすけ)だったか……うん? 夏目?」

「なっ!?」


莫迦な奴だと? 何て事を言うのだ。もっと言葉を選べ。学のない奴だ。

それにその釣り上げた口唇! 貴様、この状況でその笑い停止成分欠乏症を発症するとは。謙介への侮辱とも取れるぞ。

さすがのマイ天使加奈も頭に血が(のぼ)ってきている。

ここは俺の出番か。この偉大なる新パパ(仮)が降臨する時が来たのか?

いざ、出陣!


加奈の頭に手をポンと乗せる。悔しかろうが大丈夫だ。ここはパパ(仮)がガツンと言ってやるぞ。


「俺の親友だった男だ。故人を蔑むのはやめてもらおう」

「へっ、涙ぐましいもんだねぇ~」


反省の色なしか。鈍い奴だ。それとも会話が通じていないのか? 意思疎通ができないのは致命的だぞ。


「だけどソイツ、確か暴れまくった挙句、始末されたって聞いたぜ」


奴はニヤニヤしていた。

貴様、笑い停止成分欠乏症なんだから言葉を選べと言っておろうに!

その口を矯正してやりたい。

加奈を見ると拳を握り締めている。ああ、そこまで傷ついたか、マイ天使。

更科め、許せん奴だ。俺の最上位ブラックリストに登録だな。


「おっ、到着か?」


どうやら話しているうちに広場に到着したようだ。灯りが見えてきた。

やっとか……長い階段だ。


「まあ、俺の仕業だけどな」


ん? 今コイツ何て言った? 何て言ったのだ!


「貴方が!」

「おっと、聞こえちまったか? ん? ククッ、丁度お(あつら)え向きのものがあるじゃねえか」


加奈も聞いていたということは、俺の聞き違いではないようだ。

まずは事情聴取からだ。お仕置きタイムはその後だ。


「お前の仕業とはどういうことだ?」

「ハハッ怖いこったな。まあ良い……こうやったんだよ!」

「カハッ」

「その黒い霧は異形の元となる何か(・・)だ」


……か……な? 何が起こった? 突き飛ばされた? 何故?

い、いや、それよりも加奈だ! 何だあの黒い霧は!?


「なっ、何これ!?」

「くそみてぇな偽善者振りが見ていてうざかったんでな、それならと実験させてもらったって訳だ。父親と同じ道を辿れて良かったなぁ~」


更科が何か言っているが無視だ。

それよりも加奈だ! 加奈が悲鳴を上げている! エマージェンシーだ!


「加奈ッ!」

「駄目であります! 古沢先輩!」


加奈に近寄ろうとしたが、大和から両脇をがっちりと掴み押さえつけられてしまった。

何をするのだ!? 離せ! 加奈が頭を抱えてうずくまっているのだぞ!


「離せ! 大和!」

「あれに触れるのは危険であります!」


途端に加奈の(うめ)き声が聞こえなくなってくる。

え? 何……で? 加奈はどうしたのだ? 加奈!


繭になった黒い霧がヒビ割れていき、黒い全身スーツを着たような加奈が現れる。

顔も肌色から漆黒に変わり、右目の周りには白い眼帯のようなものが付けられていた。

何だ!? 新手のファッションブームなのか!? その格好は違うぞ!

……いや、違う。そうじゃない。あれは謙介と同じ……ま、まさか、異形……化? 何で? あの黒い霧が原因か?


「フハハッ、素晴らしい! 俺の予想通り、やはりこの霧が異形を促すモノ。二度の実験で確実に証明できた。これが異形化! 世界の神秘だ!」

「貴様ッ!」


コイツが全ての元凶。甘やかされて育てられた坊ちゃんが、うちの娘(仮)に何をしてくれるのだ!

貴様、パパ(仮)のマグナムパンチを喰らえ!

だが俺のパンチは更科の着ていた鎧のようなものから伸びてきた手で受け止められ、さらに別の手ではじき飛ばされてしまった。


「ハハハッ、弱えなぁ~、おっさん」

「何だ……それは?」

「これか? この鎧は俺が自分で特注して作った最高傑作だ。護導服(バリア・クロース)波導具(フォース・ウェイバー)を合わせた攻防一体の鎧。波導護服(ウェイバー・クロース)といったところか」


要は厄介な鎧型の波導具という訳か。

くそっ! 一矢報いることもできんのか。不出来な若者を矯正するのも年長者の役割だというのに。


「……ん? じゃあ、実験の結果も分かったことだし、そいつはアンタに頼まぁ~。俺は異形退治にでも行ってくるぜ。ここにもウヨウヨいやがるみたいだからな。異形の生態でも検証するか。お前らはそれとでも遊んでいろ」


更科が通路の向こうへと走っていく。

奴の事はどうでも良い。加奈はどうなったのだ? まさか、謙介と同じように……。


「加奈、しっかりしろ!」

「う、……うがが……ふ……彰おじさん、わ、私を殺してください」


苦しそうな中、加奈が無理にニコリと笑って訴えてきた。

その姿が六年前の謙介と重なる。だ、駄目だ! あんな事は二度と……。

そうだ! ここは遺跡探索班のエリート達も来ている。確か門松さんもいた筈だ。あの人なら何か戻す方法を知っているかもしれない。

それならばどうする――


「古沢先輩、更科先輩が戻ってきたであります」

「何だと?」

「ですが……何か様子がおかしいような……」


今後の方針を練っていたが、大和が妙な事を言ってきた。更科が戻ってきた? 反省してお説教を受けに来たのか?

……いや、違う。あれは加奈と同じファッションだ。つまり、異形化……何で奴まで?


「あ、あれは更科か……何で奴まで異形に……?」

「異形!? さ、更科先輩がでありますか?」


更科を見ていると突然奴が速度を上げて走ってきた。

何かヤバいっ。


「やばい! 大和、防御に専念しろ!」

「それと圧魔筒(パンプ・ボム)を放て! 外の古矢か、下にいる連中に伝わる筈だ」


そうだ。圧魔筒(パンプ・ボム)で下に知らせれば良いのだ。

古矢はあの数の異形だ。直ぐに来れないだろう。

だが試験中の遺跡探索班の連中なら早く駆けつけてきてくれる筈だ。奴らは危機的な状況に鋭い。きっと来る。


ブゥゥゥゥゥゥン…………ドォォォォォォン……


大和が圧魔筒(パンプ・ボム)を上に放り投げて、圧縮された魔素が解き放たれる。これで合図は伝わった筈。


「よし、これで下の連中が気付く筈だ」


後は持ちこたえるだけ。できれば動けないようになるまで倒したいが、更科(ヤツ)はA級ランカー。俺達では荷が重い。

今出せる最大戦力で向い撃つ。

よし、まずは神器の力をフルスロットルして――


「なっ!?」


奴が突如として襲ってきた。

ちょ、ちょっと待て。それは反則だぞ! フライングだ!

貴様、正々堂々と戦うこともできんのか!


「クカカッ」


俺の目の前まで来た更科が愉快そうに笑いながら攻撃を仕掛けてくる。

おのれ、異形と化してもその笑い停止成分欠乏症は治らんか!

だが躱せぬ程ではない……何か変だな。A級がこの程度か?

大和との打ち合いが始まり、それを見るがやはりおかしい。


「手加減されている?」


何だ、何がしたいのだ。遊びたいだけなのか?

ならば普通に来い。そんな姿で来られても愛想良くできないぞ。

だが奴の勢いが徐々に強くなっていく。貴様、Sの気質の持ち主であったか。

くそっ、一撃一撃が重い。このままでは――捌ききれないっ!


「グアッ」

「キャアッ」


やばい。身体が重い。だがここで気を失う訳には……。

いかんっ、また来た!


「クッ」


本能的に危険を感じたが身体が思うように動かない。

だがそこで、黒い影が目の前に現れた――加奈!?

加奈が吹き飛ばされる。

無理をするんじゃない! あんなムキムキにお前のような可憐な乙女が(かな)うはずがないだろう!


「加奈!? 意識があるのか?」

「古沢先輩!」


加奈に駆け寄ろうとしたが、大和の声でハッとする。そうだ、まだ更科の奴が――

吹き飛んだ? 大和がやったのか!?

しかし、加奈よりも小さいその身体。体格差が有り過ぎだろうに。


「無理するな、大和! 下がれ!」

「自分も古沢先輩と同じB級ランカーであります。力を合わせれば何とか持ちこたえられるのであります」


そうか。そうだったな。俺達はプロだ。化獣も然り、異形もまた然り。

背中を向ける訳にはいかないか。

新人の割には根性の入った奴である。気に入った!


「すまん、そうだったな。二人なら何とかなるか……」

「そうであります!」


元気な返事が帰ってくる。これが若さか。負けてられんな。




撃ち合って数分。消耗が激しい。


「はあっ、はあっ」


俺の息切れ動悸が激しい。このままのペースでは持たない。


「ハアッ!」


大和の裂帛(れっぱく)の気合いが聞こえる。あいつは気迫が違う。俺とは違いまだまだ上を狙える逸材だな。

完全に更科の攻撃をいなしている。ここに来てさらに成長している。


「大丈夫か、大和?」

「はい。まだいけるであります」


先輩風を吹かせて大和を労わっている場合か。俺の方が持たないぞ。神器に注ぐ異能が多すぎなのか。

だが加奈を傷つけた罪は万死に値する。アイツは俺が倒す。


「あれはっ!?」


更科の鎧に付随している四本の腕が動き出した。

趣味の悪い鎧だ。ファッションブームに疎い俺でもそれが分かる。


「気をつけろ、大和!」

「大丈夫であります!」


更科の六本の腕が不規則に襲ってきた。ぬおっ、速いぞ。

ハアッ、フンッ、ヘアッ、グエッ!

何発目かの奴の攻撃を脇腹に食らってしまった。


「ガハッ」


くそっ、体力低下にダメージ蓄積で身体がもう動かない。

立とうとするが、生まれたての仔鹿のようにプルプルとしてしまう。


「古沢先輩、少し休んでいてください」

「しかし……」

「自分は大丈夫であります。それより……」


大和の視線の先にはボケッと立ったままの加奈がいた。

動かない? どうしたのだろうか。

先輩として情けないが、加奈をあのままにはしておけない。すまん、大和。


「分かった。ならこれを使え」


隙を見て大和に神器を放り投げた。加奈とのコミュニケーションに神器は必要ない。男ならどんとぶつかれだ。


「さあ、援軍が来るまでやり合いましょう」


大和と異形更科の一対一の構図になる。勇ましい奴だ。だが頼もしい。次の世代か。移り変わりは早いものだな。

とにかく今は加奈だ。あの子を不良にする訳にはいかない。


「加奈、ソレに飲まれるな。自分を保て!」


そうだ。お前は素晴らしい子なんだ。パパ(仮)の誇りなんだぞ。

人を助けたい。俺を助けたい。そのためには危険を顧みない。誰にでもできることではない。

パパ(仮)の何が気に触ったんだ。謝るから許しておくれ。グレルのは早計だ。話し合おうじゃないか。


「あれは三年前か……俺もまだ若かった。いや、違うんだよ。お前がお風呂に入っているなんて気づかなくてな。まさか、着替え中だとはな。本当に悪かった。心底反省している。あんなに謝ったじゃないか。もう許しておくれ。パパ泣いちゃうよ。清香にも怒られたよ……そう、それはもう完膚なきまでに。いや、お前清香の恐ろしさを知らないからそう平然としていられるんだぞ。まあ、怒った顔もこれまた可愛いのだが……」


とにかく加奈に必死に語りかける。何かがきっかけで正気に戻ってくれるかもしれない。だが全く反応しない。これがツンデレという奴か。いや、まさか第二次反抗期なのか。

だがパパ(仮)は負けないぞ。お前が折れるまで喋りまくってやる。


気付けば満身創痍の大和が話しかけてきた。いつの間にそんなにボロボロになったんだ。年頃の娘が可哀想に。

おのれ更科、加奈だけでは飽き足らず、大和にまでその毒牙をかけるとは。


「古沢先輩、加奈先輩はどうでありますか?」

「ダメだ。全く反応がない。襲ってこないだけマシだが……」

「八方塞がりでありますね。やはり待つしかないでありますか」

「加奈は取り敢えず大丈夫だ。お前の方こそかなり衰弱しているぞ」

「まだ行けるであります」

「なら俺が天導でサポートしよう」


ほとぼりが冷めるまで加奈はあのままで良い。一人で考えたいこともあるのだろう。

今はこの男を排除せねば。


「分かったであります」

「行くぞ!」


俺の加速砲アクセラレート・スローで隙を作る。幸いにも素材となる瓦礫群は俺の周囲に山程転がっている。

怒りの矛先を向けるように無数の砲弾で更科を攻撃する。

加奈の痛みは俺の痛み。成敗してくれるこの社会不適合者めが!

その隙に大和の攻撃が奴を斬り裂いた。やったか!

だが次の瞬間、とてつもない衝撃波がこの場を襲った。


「キャアッ」

「くうっ」


衝撃で数メートルも後方に吹き飛ばされて壁に激突する。


「ガハッ」


激突したショックで肺に空気が詰まり一瞬息ができなくなった。

何が……起こっ……た? 加奈は……無事か。大和……はやばいっ!


「大和、避けろ!」

「エッ?」


床に突っ伏していた大和が慌てて剣の腹でガードした。だが攻撃の勢いで吹き飛ばされて壁に激突してしまった。


「ガッ」


力が抜けるようにずり落ちる大和。

おい、やばいぞ。更科、貴様どこまでやれば気が済むのだ。

くそっ、身体が動かない。おい、待て更科。嫁に行けなくする気か。

だがその時、何かが矢のような勢いで飛んできた。あれは!?


「ひい……らぎ……君?」

「ようっ! 何でお前がここにいるんだ?」


そこには柊がいた。


次回で古沢さん視点終了です。

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