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異端進化論(改訂前)  作者: 七草 折紙
第一章 能ない凡人は爪を隠す
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閑話 ある男の暴走溺愛記1

第一章古沢さん視点です。

一部、総集編みたいな感じになってますので、不快な方は流し読みしてください。

始まりは六年前。


当時、俺は三十三歳。

防衛省管轄、異能災害対策室の本部所属の実戦班員として働いていた。

国家認定B級ランカーに上り詰めたばかりの頃。

入社十六年目となるベテランであった。

皆からはエリートと呼ばれる存在であり、自分もそうであることが当然と思っていた。

今思えば調子に乗っていたのであろう。


当時の俺には相棒がいた。

幼少期からの付き合い、幼馴染と言われる奴である。

息もピッタリで、現地出向の際には必ずと言って良い程、一緒に行動していた。


「よう、彰」

「謙介か……」

「まぁ~た、しけた(ツラ)して。女子連中に恐いって噂されているぞ。もっと気を抜けって」

「フン。これが地だ。変わらん」

「まあそうなんだがな。言ってみただけだ。はははっ」

「相変わらずだな」

「お前もな」

「「ハハハッ」」


いつも通りの会話をして互いに笑い合う。

これが俺の日常だった。


「ところで清香と加奈ちゃんは元気か?」

「おう、元気も元気。清香は相変わらずだが、加奈なんか最近ちょっと反抗期でな。困ったもんよ」

「確か、中学生になったんだっけか……」

「そうだ」

「早いもんだな。お前らもすっかり親の顔になったな」

「家族って良いもんだぜ。お前も誰かと結婚して落ち着いたらどうだ?」

「その前に恐がられて女子が近寄ってこないだろ……俺に遠慮ないのは清香くらいのもんだ」

「ハハハッ、それもそうだな」


俺と謙介、それと清香は三人で幼馴染。

昔から良く遊んでいたのを憶えている。

清香を俺と謙介のどちらが"お嫁さん"にするかで競い合っていたな。

結局、謙介と結ばれた訳であるが、未だ清香を忘れられない俺。未練がましいな。

謙介ならば清香を任せられる。そう思って身を引いたのは自分だっただろうに。

だがふとした時に、昔を振り返ってしまう。もしもあの時……。


「どうした? 恐い顔が余計に怖くなっているぞ」

「……いや、何でもない。それより明日化獣(バケモノ)討伐に行くんだってな」

「ああ、結構近くらしいがな。もう準備は万端よ」

「一応、気をつけろよ」

「一応って何だよ。まあ、俺もB級ランカーだからな。化獣なんざに負けはしないさ」

「ふん。お前が死んだら清香は俺がもらってやる」

「ハハッなぁ~に言ってんだよ。清香は俺の女だ……まあ、本当にもしもの時にはお前に任せるさ」

「……なにいきなり馬鹿な事を言い出してんだ。縁起でもない事を言うな」

「ハハッ、悪ぃ~な。何か最近嫌な予感がしてな……」

「清香を悲しませるような真似だけはするなよ」

「そうだな。弱気じゃいかんな。ハハッ」

「全く……」


それが人間であった謙介との最後の会話であった。

翌日――


「夏目君が討伐先で異形化したそうだ。今、行方を追っている。君は夏目君の親友だそうだね。行き先に心当たりはないかね?」


何故か実戦班の班長ではなく、本部長に呼び出された。

異例の事態に戸惑うが、謙介が異形化と聞いて一瞬我が耳を疑った。


「え……えっ?」

「もはや人間ではなくなったのだよ。民間人に被害が及ぶ前に仕留めなければいけなくなった。残念な事だよ」

「はっ? え……あ、あの……何を言って……」

「それとこの件については箝口令(かんこうれい)が敷かれている。決して口外しないように。身内にもな」

「……」


本部長から次々に言葉が出てくるが、事態についていけなかった。

半分以上は耳を素通りしていた。


「真道寺君!」


本部長の叫ぶ声で我に返った。

話は進んでいく。


「はい、ここにいますよ」

「古沢君と一緒に討伐を頼むよ。案内は彼に頼みたまえ」

「了解しました」

「彼も心の準備が必要だろう。落ち着いてから行きたまえ」


こうして知らぬ間に討伐に向かうことになった。

行き先は予想できる。

恐らく清香と加奈ちゃんの所であろう。

たどたどしい言葉で真道寺に場所を告げる。


――夜も更けてきた頃、住宅街の一角に到着した二人。

そんな二人に不意に悲鳴が聞こえてきた。


謙介よりも早く来なければいけなかった。

何故ちんたらやっていたのだ、と自分に叱咤する。

慌てて家の中に入っていく二人。

玄関を開けると、月明かりで照らされるように目の前には一体の異形がいた。


「あ、あ……き……らか?」


以前とは全く別人の様相であったが、何故か直感のようなもので謙介だと分かった。

異形は全身真っ黒で所々に赤い模様が入っており、髪色は水色だが肌色までが黒だった。

顔半分に黒い皮膚が露出し、もう半分は赤い仮面で覆われていた。

その先には互いに抱き合う二人の女性の姿。清香と加奈である。


「あ、あなた?……その格好はどうして?」

「に、逃げ……ろ……清香、お、俺か……ら離れ……ろ」

「パパッ! どうしたの?」


親友が妻である清香と娘の加奈に襲いかかるのを必死に抑えているのが分かる。

だがそれもどうやら限界のようだ。目の光が失われていくのが分かる。

それを理解したところで、この状況でどうして良いか分からない。

どうしたら皆が救われるのか。

そればかりを考えてしまい、非情な選択ができないでいた。


「グガガ……あ……きら……お、俺……を……殺し……てく……れ」

「何を言っている? 諦めるな!」


異形と化した親友の謙介が救いを求めている。残酷な方の救いをである。

この道で生きてきた人間として情けないことに躊躇してしまう。

懸命に動こうとするも、手も足も一向に動かない。


「早……く……理性……が消え……そうだ」


侵食されながらもこの先に起ころうとしている悲劇を回避すべく、謙介が自身の討伐急かしている。


(何をやっているんだ、俺は。こういう時に意思を()んでやるのが親友だろうが!)


自分で自分に叱咤をかける。

だがそれでも動けない。

躊躇っていると横から飛び出た真道寺が神器から生み出した炎の槍を突き刺す。

妻娘は気絶している。いつの間にか真道寺が行なったようだ。


「あり……が……とう」


刺された部分から発火して全身に燃え移っていく。


「す……まん。最……後に一……目会いた……かった……」


謙介は燃え尽きながらも家族に謝罪の言葉を残して消えていく。

やがて一欠片もなく消滅する謙介。

その結末に呆然としながらも、つい真道寺に怒りをぶつけてしまった。


「真道寺……貴様、何故殺した!」

「こうなったらもう戻れません。彼の想いを無駄にする気ですか? このままではいずれ家族に手を掛けることになります。彼を苦しませないためにもこうするのが一番だったんですよ」

「……!? くそっ……何故だ! 何故こうなった!?」


自分でも分かっていた。こうするしかないと。只の八つ当たりである。

俺は謙介を救えなかった。

何がB級ランカーだ。

自分の無力さを思い知らされた。




しばらくして清香が目を覚ます。

しばらくボーッとした後、ハッとしたように数時間前の出来事を思い出たように呟き出した。


「ここは……そうか、あの人が来て……」

「清香……」


清香は随分と憔悴(しょうすい)した感じがする。

何て声をかけていいものか、言葉が出てこなかった。


「何も言わないで。分かってるわ。私は大丈夫。ありがとう、彰」

「そうか……だが加奈は……」

「そうね。この子には少し早すぎるわね」


清香が愛おしそうに加奈を見つめる。

加奈はまだ中学生。思春期真っ只中である。

父親を亡くしたのは酷であろう。




それからは頻繁に清香と加奈の元に通った。

事件が起きたあの家は処分したようだ。色々な葛藤があったのであろう。

当初は暗く落ち込んでいた加奈も次第に元気になっていった。

清香は常に気丈に振舞っていた。

娘の前では涙を見せないでいたようだが、俺には分かった。密かに泣いていたことが。

だが時と共に悲しみが薄れていったのだろうか、清香の方もそのうち元気になっていった。

あれから五年。早いものだ。


そんな順調なある日――

加奈から衝撃的な告白を聞いた。

加奈が俺や父親と同じ異能災害対策室に入ったそうである。

不安そうな顔をする清香。

それに対して加奈は――


「私は医療班員になったの。実戦担当ではないわ。色々な人を助けたいのよ」

「……そうか、無理はするなよ」

「うん。分かってるわ」


加奈の言葉には恐らく父親の事が影響しているに違いない。

清香には悪いが、加奈の意思を尊重することにする。

医療班ならそう危険な事はないであろう。




数日後――


「ねえ、彰おじさん。パ、パパって呼んでみても良い?」


突然、加奈が変な事を言い出した。


「「なっ!?」」


俺と清香でついハモってしまった。

何気なく清香の方を向いてみるが、タイミング良く同時に顔を向け合っていた。


「……」


照れたように見つめ合う俺と清香。

数瞬後、清香がハッとしたように正気に返る。


「こら、加奈! 変な事を言わないの!」

「ハハハッ、引っかっかったぁ~♪」


照れを誤魔化すかのように、ぷんすかと頬を膨らませてお説教する清香。

そんな姿も可愛い……ハッ、何を考えているんだ、俺は。

色即是空、色即是空。煩悩よ、去れ。


「全く、あの子ったら……」


手の掛かる娘に愚痴を呟きながら、清香が戻ってくる。

加奈は自分の部屋に戻ったようだが――


「だけど、本気だよ」


まだ扉の向こうにいた。

ひょっこりと顔を見せて、ウインクするように致命的な爆弾を残してゆく。


「加奈!」

「アハハッ、ごゆっくりぃ~♪」


密閉された部屋の中に取り残される俺と清香の二人。


「……」

「……」


沈黙が痛い。これをどうすれば良いのだ。


「あ~っ、ごほんっ。きょ、今日は帰るかな?」


声が裏返ってしまった。

意識しているのがバレバレではないだろうか。


「待って!」


足早に帰ろうとした俺を清香が押し止める。

何か言いたい事があるようだ。何であろうか。

つい期待をしてしまう現金な自分がいた。

だが期待とは裏腹にショッキングな言葉が飛んできた。


「あなたには未来があるわ。私達に縛られないで。私たちなら大丈夫……だから」


その言葉を聞いてついカッとなり、つい大声で口走ってしまった。


「お、俺は! お前以外にか、考えたことはない! それに! 加奈も俺の娘みたいなものだ! 問題など何一つない!」


良い歳をした恐い顔の大男が真っ赤になって告白。

そのちぐはぐな光景に清香が思わず笑ってしまった。


「フフッ」

「お、おい、笑うことないだろ」

「フフッ……フ、ご、御免なさい……嬉しくて」

「清香……」


涙を流す清香をそっと抱きしめる。

そこできちんとした言葉ではっきりと伝えることにする。

俺も男だ。自分の意思は確実な形の言葉で伝えた方が良いだろう。


「あ~っ、おほんっ。改めて言う。俺とけ、結婚してくれないか? お前と加奈は俺が護る」


ここが勝負だ。

清香を真っ直ぐに見つめて、正直な想いを伝えることにする。


「あ、あの、不束者ですがよろしくお願いします」

「あ、ああ、こちらこそよろしく頼む」


清香が俺に頭を丁寧に下げて承諾する。

その時、俺のリビドーが最高潮に達するが、そこはきちんと手順を踏むことにする。

俺は獣ではないのだ。何より加奈がいるしな。


結婚の事はしばらく加奈には内緒にすることにした。

入籍は二人で話し合い来年にし、入籍日は敢えて謙介の命日にした。二人の合意の上でである。


古沢さんと加奈ちゃんの見方が変わったかと思われます。

使い回しもありますが、ストーリーの進行上そうしました。

イメージを崩すようですが、当初から予定していたものです。

ご不快な方は申し訳ありません。

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