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異端進化論(改訂前)  作者: 七草 折紙
第一章 能ない凡人は爪を隠す
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第30話 古き御技(ふるきわざ)

裏クライマックス後編です。

白仮面の前に立つのは漆黒の髪と瞳を持つ男。

強者のみが持つ圧倒的存在感を放ち、凪のように静かに佇む。まるで荒野に佇む孤高の王者のようであった。

漆黒の男は威圧感を含む瞳で白仮面を見据えていた。

先程までとはガラリと雰囲気が変わった男を見て、脳内に最大級の警報が鳴る白仮面。

大和がポツリと呟く。


「無能……者?」


今の真人からは異能の波動が全く(・・)感じられない。

それなのに歴戦の戦士を思わせる強大な覇気を身に纏う男。

異形にとってこれ以上ない脅威であった。

本能から後退(ずさ)る白仮面。


「……何だ、貴様?」


白仮面の問いを無視して語りかける真人。


「使徒と言ったな。今思い出したが、貴様の気配には覚えがある。確か赤い仮面の奴だったな。同類か?」

「ほう、我らの事を知っているのですか? この世界の人間にしては珍しいですね。しかし赤……というと別の欠片の眷属ですか」

「別……か。まあ、そんなことはどうでも良い。俺はお前らが死ぬほど嫌いでな」

「ほう、奇遇ですね。私も貴方が嫌いなようだ」


互いに言葉で牽制し合う二人。

だが白仮面の方には何故か余裕が感じられない。


「気配が読めない!? どういうことだ!」


訳の分からない恐怖が渦巻き、白仮面がたまらず叫び出す。


「この眼鏡は特殊でな。本来、異能を補助(サポート)するためのものだが、こいつは俺を異能者にしてくれる(・・・・・)、いや見せかけてくれるものだ」


白仮面の叫びに答えるかのように、静かに語り始める真人。

白仮面も大和も黙ってその言葉に耳を貸す。


「同時に、リミッターでもあってな。本来の力は異能とは真逆で相容れないもの。この眼鏡をすることで俺の技術の一部が凍結されてしまう」


最後に数瞬間を置くと、沈黙に満ちた場に決定的な言葉を落とす。


「……俺は無能者だ」


話しながら白仮面に近づいていく真人。

思わず白仮面が警告を放つ。


「止まれ!」


だが真人の歩みは止まらない。

白仮面は狼狽(うろた)えながらも、先程の真人の言葉を吟味して状況を整理する。


「無能者だと?……貴様……何故……侵食されていないのか? 莫迦な……なら!」


黒い霧が白仮面から溢れ出し、真人を襲う。

だが真人には何の影響もない。


「ならば、これでどうだ!」


その場にいる者の精神を圧迫するような波動が辺りに飛び交う。


「確か、共振(ハウリング)とか言ったか……」


精神干渉、いや精神汚染とでも呼ぶべきであろうか。

人類が異能と呼ぶ力を使って通常の異形のソレよりも強烈な共振を放ち、干渉を試みる使徒。


「無駄だ。物理的な攻撃ならともかく、精神干渉など俺に効きはしない」


異能を攻撃に転換した術ならともかく、異能そのもの(・・・・・・)を当てる術は真人には通用しない。


「大和、異能を抑えろ! 飲まれるぞ!」


共振で苦しんでいた大和に忠告を促す真人。

忠告通りに異能を最小限まで落とすと大和の症状が緩和する。


「貴様は危険分子だ。ここで排除する」


白仮面の掌から黒霧とは違う禍々した闇が湧き上がる。



――虚現導術(カオティック)消滅を誘う闇(イル・ダークネス)


本来存在しえない力が現実を侵食し始める。

誰も見たことのない異形の使用する未知の導術。

病のように伝染する禁断の闇が真人を襲う。


「この闇は全てを燃やし凍らせ切り刻む地獄の三拍子。生まれてきたことを後悔するが良い」


宴を開くような大仰な声で満足そうに口を開く白仮面。

真人は襲ってくる闇を躱しては回避するが、闇はしつこく真人を追ってくる。


「ほほ。無駄ですな。この闇はどこまでも追いかける。それに……」


何かを言いかけた白仮面の視線が真人から大和に移る。

そして待ちに待ったという顔で白仮面が言葉を発する。


「こうしたらどうしますかな」

「何だと!? クソッ」


言葉と同時に闇の矛先が真人から大和に変更される。

それを見て、即座に大和に近づき抱え上げる真人。

俗にいうお姫様抱っこである。


「なっ!? な、な、な……」

「じっとしていろ」


予想だにしない女子にとって夢のような状況に言葉を失う大和。

カチコチに体が硬直して顔が真っ赤に燃える。煙が吹き出しそうな程に赤い。

そんな大和を無視して、抱えながら走って逃げる真人。

このままではジリ貧である。


「……貴様」


怒りの形相で白仮面を睨みつける真人。

その視線を受けて白仮面が一瞬怖気付く。

真人は大和を下ろして闇を迎え撃つことにする。

こころなしか大和が名残惜しそうにしていたのは見なかったことにした。


伍式(ごしき)、それと陸式(ろくしき)


真人の掌に眩い光が溢れ出す。

直後、真人達を追ってきた闇が消失した。


「何だと!? 貴様、何をした!?」

「闇を打ち消すものといったら光しかないだろう?」

「ふざけるな! 私のは只の闇ではない。消せる筈がないだろう!」


驚きを隠せない白仮面。

当初の紳士ぶった口調は既にその面影すらない。

さも当然と言わんばかりの真人に、白仮面は的を得ないとばかりに言葉を畳み掛ける。

だが次の瞬間には気を取り直して余裕の表情で迎え撃つ。


「クッ、だが単純な物理攻撃など我らには効かない。お前らが神器と呼ぶあの忌々しい武器も今ここには無い!」


白仮面の自信に気にした様子もなく、真人は静かな面持ちで討伐すべく動き出す。


「そうか……肆式(よんしき)、それと陸式(ろくしき)



旧時代の遺産、御技(みわざ)使いの使う『古き御技(ふるきわざ)』。

その中でも真人の御技は一線を画していた。

同類の中でもさらに異端。

旧時代よりもさらに(・・・)古い歴史を持つ原初の御技。

正真正銘の古き御技(・・・・)

それは異能の真似事(・・・)すら可能とする――いや、むしろこちらが本筋。

侵食されていない、"異能"と呼ばれる力の本来の姿(・・・・)


感知する暇すらなく、白仮面を通り過ぎる真人。

その数瞬の間に全ては終わっていた。


「がっ……何だと……斬られた? 何だ……その刀は……? それに……どこ(・・)……から?」



――刀技・乱閃花


いつの間にか(・・・・・・)手にしていた刀が目にも止まらぬ光の速度で振るわれる。

花を散らすように乱れ咲いた剣閃が使徒を寸刻みに切り刻む。

師匠がかつての戦場の敵から読み取った(・・・・・)技、無導の一つ。当然、真人も受け継いでいる。

本来、無機物ではなく有機物、つまり生物から記憶を読み取る場合には必ずしも抵抗が生じる。

信頼関係がある相手ならまだしも敵から盗む(・・)などといった高度な真似は真人にもできない。

さすが師匠といった所であろうか。


参式での最適化には、ネタとなる武器と真っ白な状態の自分の器が必要になる。

その理由から、普段の真人の技術は簡単な体術のみに限られている。

不必要なものは眼鏡と共にまとめて凍結しているのである。


だが本来の真人には参式での最適化(そんなもの)必要ない(・・・・)

そのため、リミッターの解除と共に凍結していた技術には、今までに会得した無導等も含まれる。

本来の肆式(よんしき)以降の御技が強制凍結だとすれば、無導は任意凍結といったところであろうか。


表の真人と裏の真人、異能者としての自分と無能者としての自分、その戦闘方法までもが最適化されているのだ。

その世界に広く知られた人物、真人の師匠、神代黎明に『完成品』と言わしめる理由の一つがここにあった。


解放されたその技は戦場を渡り歩いた者にしか備わらない程に完成され尽くされていた。

切り刻まれても尚しぶとく生きていた使徒。

だが――


「だが、これくらい……で……は? か、身体が燃えている! 何だこれは!? グアアアアアアッ!」


細切れになった黒い霧が白い炎で燃えていく。

数瞬後、使徒と呼ばれた男はその身体を完全に消滅させていた。


「ひ、柊君……」

「……」


余りの光景に呆然とする大和。

一人立っていた男はただ静かに、深い闇を思わせる透き通った漆黒の瞳でその場を見据えていた。






XXXXXX


遺跡から数百メートル程離れた場所。

遺跡入り口が天導強化した視力でギリギリ視認できる位置に四人はいた。


「ダメだね。これ以上は近づけないみたいだ。彼に感づかれる」

「こんなに離れているのに?」


真道寺の推測に疑問を覚える玲。


「どうやら彼は僕らが考えている以上の怪物のようだね。どうだい? 同じ(・・)御技使い同士として」

「分からないわ。私と彼とでは系統が違う(・・・・・)もの。でも、そうなの……普段はそんな感じ微塵もしないのに」


真道寺の意味深な言葉に戸惑いを隠せない玲。

それを見ながら真道寺は柊真人という人間を推察し始める。


「状況に応じて意識の底で自身を合理化……いや最適化をするように出来ている(・・・・・)んだろうね。それと恐らくあの眼鏡……最後の一線、人格をON/OFFするような一種の催眠効果も持っているんじゃないかな。今は完全にスイッチが入っているようだ」

「どうするの?」


これからの行動をどうするか、その決定権を真道寺に預ける玲。


「既に確認すべきことは終わった。後は皆と相談だね。フフッ、今度はどう料理してやろうかな」

「……貴方、その顔はやめなさいよ。周りが怯えてるわよ。だから<悪魔王子>なんて呼ばれるのよ」


気の弱い者が見ればトラウマになりそうな程の酷薄な笑みを浮かべる真道寺。

それを見慣れた玲ですら、怖いものがある。

一応の警告をした玲の言葉に、苦いものでも食べたような顔でポツリと呟く。


「……その呼び名は不本意なんだがね」

「まあ良いわ。どうやら終わったようだし、戻りましょう」


遠めに見て、真人が眼鏡を掛けて元に戻ったことを確認する玲。

覚えのある弱い異能の波動が伝わってくる。真人の異能の波動である。

玲の言葉を受けて真道寺は数メートル横にいた二人の人物に気さくに話しかける。


「じゃあ、またね。使徒は倒されたようだよ。僕らも君達と争う気はないんだ。目的は一緒なんだしね」

「どの口がそれを言う!」


真道寺の一挙一動の全てにケチをつける虹髪の姫パレット。

今までの会話中も二対二でずっと牽制し合っていたのだが、真剣なパレット側に比べて真道寺側はのほほんとしたものであった。


「言った筈だよ。僕達は善でも悪でもない。只目的を果たすために動いているだけ。それを邪魔するなら容赦はしない。多少の犠牲は厭わない」

「多少の……だと!」


聞き捨てならない真道寺の発言に、再び憎悪の視線を向けるパレット姫。

隣にいた玲は呆れ返って苦言を呈した。


「私のいないところでやってくれないかしら」

「貴様もコイツの仲間か?」

「私は関係ないわよ。利害関係が一致しているだけ。私もこの世界を守りたいの。貴方と同じよ」

「……行くぞ、リフェン」


玲の言葉に何を感じたのか、黙って去っていくパレット姫と従者リフェン。

それを見ながら、今後の構想を練る真道寺。


「さて、これからだね」


そう呟いた真道寺の言葉は誰に聞こえることも無かった。


次回、第一章エピローグ。

長かった……

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