第29話 暗躍する者~三者三様~
裏クライマックス前編です。
階段を歩きながら遺跡の外へと向かう一行。
衝撃の連続で言葉を失う試験生達。
只、ベテラン組だけは意味ありげな顔をしていた。
特に七星の視線が痛い。
あれは智よりも酷い末期のバトルジャンキーと予想される。
(気にしない、気にしない……気のせいだ)
祈るように現実逃避をする真人。
絶食した肉食獣の眼前に、美味しそうな餌を与えてしまったようなものである。
真人はやがて訪れるだろう悲しい未来に密かに涙する。
自分の行いに後悔はしていないが、やってしまったと頭を悩ませる。
気持ちが昂り、後先考えずに行動してしまった。
だがあの場合ではしょうがなかったのだ。
何かを失ってからでは遅い。それを知っている真人であるからこその決断であった。
それでもウジウジと悩むヘタレ人間、真人。
「それにしても『御技使い』とはな……」
「またそれですか……何度も言いますが、違いますよ。ソレのおかげです」
興味深々で真人に目を向けてくる門松。
何度弁解しても突っかかってくるので、いい加減うんざりしていた。
平穏な未来のためにも認定される訳にはいかない。
弁解しながら真人は門松が持つ神器『草薙の剣』に気が付いた。
神器は門松が持って帰るようである。
その時、ふと頭に嘘ではない言い訳がよぎった。
言いたかった事と相混ざってそれを伝えることにする。
「ソレには大事なものを守りたいという強い想いが込められていました」
「いきなり何だ……想い?」
何やら言い出した真人に戸惑いながら、真人の視線が神器に向かれているのを確認する門松。
その先を聞くべく目線で話を促す。
「そうです。どんなに絶望的でも最後の一瞬まで諦めず折れない心。古沢さんもそうだったのでしょう?」
ふと真人は近くにいた古沢に話を振る。
会話を分散する。真人が辿り着いた、話を誤魔化すための最終テクニックである。
実際、今一番その心情に迫っているのは古沢だけであろう。
「……そうだな。あんな想いは二度とごめんだ」
六年前の事を思い出して悲しい顔をする古沢。
だがその瞳の中には、戻らない過去より守るべき未来へ、と力強い決意が伺える。
「アレはその想いの力を借りたに過ぎません。俺の力なんてそんなものですよ」
「……そうか。まあ、深くは追求しない」
「ですから、アレは神器の力です!」
聞き耳を立てていた周りの試験生達にも聞こえるようにわざと大声を出す真人。
今は一刻も早く被害を減らすことに集中する。主に自分のために。
「もしかして神器、とはそういう存在なのかもしれないわね」
いつの間にか隣にいたマリアが真人の言い訳を肯定するような仮説を打ち出す。
マリアなりに一つの答えが導き出されたようである。
「先人達が残した護るための力……まあ、何から護りたかったのかは知れないけれどね」
「だとしたら感謝しなければいけないな。おかげで加奈を護れた」
マリアの仮説に思うことがあったのか、古沢が遠い誰かに感謝するように思いを馳せる。
その視線の先には加奈がおり、慈しむように見つめている。
今はこの親友の残した、自分の娘にも等しい子を只々護ってゆきたい。
古沢の胸中はその一つで埋まっていた。
真人は内心、良い方向に話が転がって万々歳であった。
マリアが気を利かせてくれただけなのかもしれないが、結果オーライ。
これで厄介事は万事解決してくれないかな、そう願う真人であった。
XXXXXX
一行は遺跡を出て帰宅の準備にかかる。
試験前に班分けをした遺跡入り口前の開けた場所。そこに全員が整列する。
帰宅前の最後の締めの挨拶が門松から行われる。
「少々予定外のハプニングはあったが、全員無事で何よりだ。結果は後日通達する。各自気をつけて帰るように。では解散する」
「来たときと同じようにバスに乗ってね~。最寄りの駅まで送っていくよ」
門松がチラリと一瞬真人に目線を向けて去っていった。
それを見ていた真人だが、ふと不意討ちのように後ろから声をかけられる。
「おい!」
「はぃぃ~」
鋭い掛け声に条件反射で遜るような返事をしてしまう真人。
誰かなと振り返ると、そこには関わり合いたくない人物ドラフトナンバーワンの七星がいた。
真人の記憶では会話をするのは初めての筈だったと認識している。
「何情けない声を出してるんだ?」
「な、何でもありましぇん。あの……何かご用でしょうか?」
緊張でしどろもどろになる真人。
七星の鋭い目で見られる毎に精神が磨り減っていく。
「お前、今度やり合わないか?」
ニイッと獰猛な笑みを浮かべて単刀直入に嬉しくない提案を口にする七星。
恐らく手合わせの類であろうが、真人には"やり合わないか"が"殺り合わないか"にしか聞こえない。
間違ってもお色気方面などとは結びつかない。
真人のヒットポイントが物凄いペースで減っていく。
最大限に回避すべく、思考をフル回転させる。
出てきた答えは――
「ほへっ」
言葉にならなかった。体中に冷や汗が流れる。
プレッシャーに負けたようである。
挙動不審な真人に侮辱されたとでも思ったのか、七星の視線がきつくなる。
干からびないかという程に多量の汗が滝のように流れ出る。
誰か助けて、と救世主の登場を願う真人。
だが願いが通じたのか、救世主はやって来た。獅子堂である。
「何やってんだ、七星?」
「チッ、何でもないっ。おい、お前! 今度返事を聞かせろよ!」
獅子堂の横槍に憮然とした表情をしながら去っていく七星。
もはや真人のヒットポイントは一しか残っていない。
「はぁ~ん、アイツに目を付けられたか」
「はい……あの、どうにかなりませんか?」
「まあ、災難だったな。頑張ってくれ」
「ちょっ、獅子堂先輩!」
「ハハッ、じゃあな、待ってるぜ」
何を待っているのかは分からないが、現状を放置するのは頂けない。
いざとなったら獅子堂を巻き込もう、そう思う真人であった。
「真人ぉ~、帰らないの?」
「ああ、今行く!」
咲耶から声が掛けられる。
試験生達は行きに乗ってきたバスや車に乗り込んでいるようである。
そういえば、真人の行きは――
「待ちたまえ。真人君は僕達の車で送ろう」
「え゛っ? い、いや、良いですよ」
そう、真道寺の車に乗ってきたのであった。
不幸のお届け人、真道寺の車である。
流石に今日はこれ以上トラブルが発生することはないとは思うが、そこは経験論からかある種の嫌な予感がする。
「自分も一緒に帰ってよろしいでありますか?」
真人が遠慮していると、大和が何故か一緒に帰ると言い出す。
「いいよ。後部座席の真人君の隣が空いているから、そこで良いよね」
「はい。柊君、よろしくお願いするであります」
「えっ? ああ、よろしく?」
何故か、真人の意思は関係なく、決定してしまったようである。
この時点で考えるのを放棄する真人。
なるようになれ、半ばヤケクソであった。
「じゃあ、俺達は先に帰る。柊!」
「はいっ?」
古沢に声を掛けられてそちらに顔を向ける真人。
そこには加奈をおぶった古沢が、真人に視線を向けていた。何故か顔が怖い。
相変わらず威圧感のあるオヤジである。
「お前には本当に世話になった。感謝してもし足りない」
真人に向かってすっと頭を下げる古沢。
年輩の男性に頭を下げられテンパる真人。視線が泳ぎ挙動不審になる。
「い、いや。加奈先輩が無事で俺も嬉しいですし……そんな……」
真人の言葉に頭を上げる古沢。その顔には和やかな笑顔があった。
それを見て真人も穏やかな気持ちになる。
「あの時、お前が居てくれたら……いや、何でもない。何かあったらいつでも言ってくれ。力になろう」
「……? はいっ」
何かを言いかけて首を横に振る古沢。
古沢は最後に強い言葉を残して去っていった。
「じゃあね、真人!」
「真人、また会おうぞ」
「フン。次に会ったときは負けないぞ」
「真人君、またね」
「真人、元気でね」
咲耶、刀祢、統吾、智、マリアの五人に挨拶をされる真人。
「おう、元気でな!」
今日一日で随分と打ち解けた仲間に、手を振りながら気さくに別れを告げる。
五人はどこかのバスに乗り込んでいった。
何かを忘れているような気がする真人。
実はまたもや壮之介がいなかったのだが、誰も気にしていなかったのである。
近くでは虎徹が真道寺と玲の二人と話し込んでいた。
「アンタも不穏な事ばっかり考えてねえで、肩の力を抜けよ」
「僕にも色々とあるんだよ」
「まあ、そうなんだろうな」
虎徹がチラリと真人の方に視線を向けて何かを確認する。
そんな虎徹に近寄り、玲が呆れたように会話に加わる。
「貴方は肩の力を抜きすぎなのよ」
「キツイねぇ~、玲先輩は」
「貴方達を足して二で割ったら良い感じなのにね」
「へっ、男となんてくっつきたくねえな。玲先輩とだったら良いけどなぁ」
「……全く、相変わらずね」
軟派な虎徹に悪魔な真道寺。どっちもどっちである。
玲は頭痛がして先行きが不安になる。
「虎徹、そろそろ行かなくても良いのかな?」
「ああ、もうそんな時間か。じゃあ、また本部でな」
挨拶をしながら乗ってきた車に向かって虎徹が去ってゆく。
最後に残ったのは真道寺、玲、真人、大和の四人である。
「さあ、僕らも帰ろうか」
真道寺が車に乗るように促す。
その時、ふと真人が頭に引っかかる疑問を口にする。それがフラグだとは知らずに。
「……そういえば、あの時変な声が聞こえてきませんでした?」
「変な声……でありますか?」
「ああ……確か、更科って人が先輩方に倒された後くらいに……」
真人の話に大和が首を捻る。
鮮明に記憶を思い返そうとして言葉を紡ぐが――
次の瞬間には真道寺がその先を継いでいた。
「……まあ、それも含めてまだ問題が残っているようだね。厄介だな。奴らだけでなく、予想外の異物まで潜んでいるみたいだしね」
「貴様らがそれを語るか」
突然、真道寺が真剣な口調で訳の分からない事を言い出した。
その言葉に反応するように何者かが遺跡の中から姿を現した。
出てきたのは、虹色の髪と瞳を持った幻想的で美しい少女。
隣には少女にリフェンと呼ばれていた銀髪の男の姿もある。
二人は憎々しげに真道寺を見据えている。
「虹族の姫に吟遊族の男……ルルティカの生き残りか……」
「気安く呼ぶな。それに……そこの金髪、見たことがあるぞ」
何やら聞き覚えのない単語を連発し出した真道寺。
それに対して虹髪少女は苛つくようなそぶりを見せるが、直後に何故か大和に目を向け出す。
「知り合いか?」
「いえ、会ったことはないのであります」
真人が質問するが、大和の方は知らないようだ。
それも当然と言わんばかりに虹髪少女が妙な事を言い出す。
「それはそうだろうね。私が会ったのはアンタとは別の奴だ」
「?」
「ふん。道化か……」
「少々、口が過ぎるんじゃないかね、パレット姫」
「馴れ馴れしく私の名を呼ぶな。それと貴様らに気を使う必要はないだろう」
何やら虹髪少女ことパレット姫と真道寺の間で訳の分からない進行が始まる。
真道寺は随分とこの少女に嫌われているようである。
真人にしてみればやっぱりな、という感想しか出てこない。
普段から恨みを買いそうな奴だと思っていたが、本当に買っていたとは。
できれば自分達を巻き込まずに他所でやってほしい、そう思う真人であった。
一方のパレットの方は"姫"と呼ばれていた。
この現代に姫なんて大層な存在は滅多にいない筈であるが――
「内輪揉めですかな?」
真人が考え事をしている間にも事態は加速していく。
突如として空間が歪み出し白い仮面の男(?)が現れる。
白い仮面の男は嫌な気配を放つ歪な鎧を着ている。
これは……異形に似ている?
「使徒……」
玲が何やら呟く。
真人には聞き覚えのない単語である。
使徒、とは何であろうか。
「やっとお出ましか。どこに隠れていたのやら……遺跡の中では逃したが、もう逃さん」
「ほほほ。逃げたのではありませんよ。坊やを観察していただけですよ。その危険な道具を回収しないといけませんからな」
「ふむ。妙な展開になってきましたね」
パレット姫と白仮面の言い合いに真道寺がどうしたものか、という顔をして呟く。
「貴様らは後だ。まずは使徒を滅ぼしてやろう」
「ほほほ、無駄ですよ」
「ふん。使徒如きが調子に乗るな。欠片でもあるまいし……」
「ほう……貴方、あの方達を知っているのですか?」
何やら白熱している展開ではあるが、帰っても良いだろうか。そんなことを思っている真人であった。
「僕たちを除け者にする気かい?」
「貴方は黙って見ていてくれませんかな……おや? 貴方はもしかして……」
「おっと、それ以上は言わないでくれるかな。君達と馴れ合う気はないよ」
真道寺が改めて加わりより一層、展開が複雑化する。
事態についていけずに真人が困惑する。
「えーっと、どういう状況?」
虹髪の少女+1。
白仮面の人間(推定)。
真道寺一派。
訳の分からない構図が出来上がっていた。
諦観を決め込もうと気配を消してさりげなくフェイドアウトしようとする真人。
だが、話題が真人にロックオンしてしまった。
パレット姫が真人の方へと視線を向ける。
「お前もコイツらの仲間か?」
「いえいえ、わたくしめは全くの部外者であります」
パレット姫が真人に問い詰めるように聞いてくる。
それを誠意を持ってきっぱりと否定する真人。
だがそんな真人にもパレット姫は一向に態度を変えない。
パレット姫の蔑むような目に真人は打ちのめされそうになる。
真人にそちらの被虐趣味はない。
「彼は希望だよ。君達にとってもね」
「希望だと?……フン、まあ良い。貴様の言葉は受け付けん!」
またしても真道寺が訳の分からない事を吐かし出す。
置いてけぼりも良いところである。
「お前に一つ忠告しておく。コイツのことを信用するな。そのうち痛い目を見るぞ」
パレット姫に叱咤されるように忠告される真人。
心配ご無用で御座います。現段階で既に信用はしていません。
そう心の中でつっ込む真人。
「余計なことを吹き込まないでくれるかな」
「ほう、怒ったか? ならどうする?」
真道寺を挑発する虹髪の姫パレット。
一触即発かと思われた空気。
だが真道寺はそれを躱すが如く思惑とは違う行動を取り始める。
「柊君、大和君、後は頼んだよ。玲!」
「了解したわ」
「貴様、何勝手なことを……」
「おい、またか! ちょっと待て!」
この後に及んでニコッとする真道寺。
真人達に何やら後を頼む、と不吉な発言を聞いた気がする。
玲は状況を理解しているのか、反論せずに了承する。
パレット姫が何か言いかけるが――
玲が凄まじい速度で銀髪の男リフェンを掴んで真道寺の前に移動する。
そして真道寺がパレット姫と玲を掴むと、真人の叫びも虚しく四人の姿が一瞬で消え去った。
「ヘッ?」
「き、消えたであります。どこへ……」
余りの展開に脳が追いつかない真人。
四人が一瞬にして消えた。
目に見えない速度で移動したとかではない。
その言葉通り、消えたのある。
「ほう、転移ですか」
白仮面が感心して呟く。
「転移!? そんな術は聞いたことがないであります!」
白仮面の言葉を聞いて驚愕を露にする大和。
だが真人にとってそれは重要ではない。
問題はこの状況。
取り残された真人と大和、そして使徒。
余りの現状に真人の冷や汗が止まらない。
「ハハッ、ど~も」
目の前の妖しさ満開のお方に、丁重にご挨拶をする真人。
これで全て解決してくれないかな、と淡い期待を浮かべる。
「貴方達が私のお相手ですかな?」
「いやいや、わたくし如きがそんな……滅相もございません」
「何を言っているでありますか、柊君。異形は敵であります!」
物騒な事を述べる白仮面に丁重に否定をする真人。
だが空気を読まずに、余計な事を吐かしてくれる大和。
煽ってどうするのだ。何故、そんなにやる気マンマンなのであろうか。
「それにこの異形、あの時の声の主であります。加奈先輩や更科先輩の異形化も恐らく……」
「そうですな。私の仕業です」
大和の言葉に付け足すように嘲笑う白仮面。
それを見て大和の中の何かがキレた。
「貴方は許さない!」
大和が珍しく口調を変えて叫ぶ。物凄い気迫である。
具現化した刀『薄光之刃』を構えて白仮面を睨みつける。
「ハアッ」
天導強化『圧縮増幅』で底上げされた大和の速度。
大和が現段階で出せる最高速度である。
その速度でもって、最高の命中率を誇る刀技"飛燕四段"を繰り出す。
左薙ぎ、右切り上げ、唐竹割り、左切り上げ――
一呼吸で四撃を与える攻撃だが掠りすらしない。
だが諦めることなくさらに追撃を仕掛ける大和。
右薙ぎ、袈裟斬り、切り上げ、逆袈裟斬り――
"飛燕四段"の逆、大和流無導・刀技"逆さ飛燕四段"。
この二つの組み合わせは相手の読みを裏手にとり、さらに命中率を上げる。
それすらも当たらない。
大和が懸命に攻撃を仕掛けるが、全ての斬撃が一向に当たらない。
真人の目から見ても大和の力量はかなりのものである。
その斬撃が掠りもしない。
当事者の大和も背筋に冷たいものが走るのを禁じ得ない。
そんな大和を余裕の表情で嘲笑う使徒。
「我らは異常そのもの。貴方達が"異能"と呼ぶその力、それを我々は支配する。貴方達の動きなど意識しなくとも分かるのですよ。それに……」
最後に何かを言いかけ、攻撃を躱すのを止め停止する使徒。
このまま行けば直撃コースである。
何を考えているのだろうか。
「ハッ!」
使徒の思惑など関係なく、我を貫く大和。
停止した使徒にチャンスとばかりに、裂帛の気合いを入れながら居合の一閃を放つ。
異形更科を半分とはいえ斬り裂いた最速の一撃"紫電一閃"。
それを避けるそぶりすら見せずに身体で受け止める使徒。
パキィィィィィィン……
「なっ!?」
「その程度の異常では私の異常に傷一つ程でも届きませんな」
大和の『薄光之刃』は使徒に当たった瞬間、いとも容易く砕け散ってしまった。
「ほれっ」
「ガッ」
刀が砕け散った大きな隙をつかれ、虫でも払うかのように大和を弾き飛ばす使徒。
そこまで強烈な攻撃に見えなかったが、豪快に吹き飛ばされる大和。
異形更科との一戦から通して蓄積されたダメージに、意識が飛びそうになる。
「大和!」
「弱いですな。時期、全てが無に帰るのです。どう足掻いても無駄というもの……」
「き、貴様!」
跪き、崩れ落ちた大和を診る真人。
「大丈夫か?」
「ゴホッ、は、はい……」
「お前はもうじっとしていろ」
大和の無事を確認して、目の前の使徒を第一級危険判定する真人。
こいつは野放しにはしておけない。
「さてと、笑えなくなってきたな……はぁ~、面倒だけどしょうがないか。最後の仕上げだな」
皆帰って誰もいなくなった今なら丁度良い。厄介事は消去するに限る。
不本意だが、後始末すべく動き出す真人。
祖国に戻ってきてから人前で外したことのなかった眼鏡に手をかける。
そこでふと自分を見ている大和が目に映る。
紅蓮騎士の時には一瞬外してしまったが、あの時は水蒸気の幕があった。
今回はあの時とは違い大和に見られているが――
「まあ、お前なら大丈夫か……大和、オフレコだぞ」
かけていた手を下ろして眼鏡を外す。
途端に髪の根元からザワザワと黒く染まっていく。
心が凪のように澄み、懐かしい感覚が戻ってくる。
すっと立ち上がる真人。
そこには、普段の落ち着きのない姿とは全く違う異質な雰囲気を持つ男がいた。




