第2話 初任務
やっと分かってきた。
真人が現地に向かい発った後。第二十八支部、技術班長室。
宗次郎が普段部下には見せない真剣な顔で電話口に語りかけていた。
「言われた通りにアイツを指名しといたぞ」
「ほっほっ。面倒をかけてすまんな」
電話の相手は老人であった。齢を重ねたその声からは歴戦の戦士を思わせる力が感じられる。
親しみが感じられる口調から、二人は知り合いのようである。それも長い付き合いの。
「それで爺さん、アイツは何だ?」
「はて、何だとは?」
「とぼけるな。アンタ、生まれると分かっていてここに配属させただろう」
その言葉が意味するのは歴史上でも数少ない事例の場合のみだ。
だが最近その事例の頻度が上がってきているのが事実である。世界は明らかに次の段階へと移り変わろうとしていた。
「そうじゃな。魔素の濃度が異常に高くなる傾向があったからの。半年以内にはそうなる可能性はあったのう」
「陰険じじいめ」
「褒め言葉と受け取っておくわい。まあ、うまい具合にお主もおったからの。利用させてもらったわい」
「フン、食えない爺さんだ。で?」
「で?とは何じゃ」
「さっきの続きだ。何でアイツを行かせた。見たところ、異能者としてはカスみたいなものだぞ。アンタの弟子か何かか?」
酷い言われようである。本人が聞いたら喜ぶかもしれないが。
「あの子は黎明の弟子じゃ」
「黎明? 神代黎明か? アイツ弟子をとったのか。しばらく弟子は取らないって言っていたが」
「あの子は完成品だそうじゃ」
「完成品? ってことはアイツは……」
「そういうことじゃな」
「ん? でもアイツからは少しだが異能の波動を感じるぞ」
「それはそうじゃろう。自分は無能ですなどと大っぴらにするはずがないわい。色々と面倒も起きるじゃろうしのう。何か細工でもしておるのじゃろう」
無能。それは異能を持たないということ。この世界ではありえないことだ。
能力を持たないが故に迫害され、異端と罵られてしまう。だが新時代を迎えてからはそんな者は存在しない。
居たとしたら、人目につかないようにひっそりと暮らしている事だろう。
田舎とはいえ、堂々としていられるのは異能者として振舞っているからに過ぎない。
「ところで爺さん、アンタ、アイツの身元保証人だろ? 会ったりはしないのか?」
「そのうち会うこともあるじゃろう。しばらくは見守るだけじゃな」
「そうか。アイツの家族はどうなってるんだ?」
「あの子は捨て子だそうじゃ。素性はもう調べがついておるがのう」
「ほう。まあ無能者を進んで育てたがるような親はいないかもしれないな」
それを考えると憐憫に思うが、今の真人を見ている限り大丈夫そうだ。
「で、どこの坊ちゃんだ?」
「例の双子のおる家じゃ」
「双子ってーと、あそこか。あの堅物オヤジじゃしょうがないか。母親はそんな感じはしなかったけどな」
「母親は反対していたようじゃがのう」
「するってーと、後々、何か言ってきそうだな」
「そうじゃな。じゃが、頑張ってもらわんとな。儂らは既に手遅れじゃ」
「……」
その言葉は我々異能者全員に言えること。異能は強力な武器にもなるが、逆に最大の弱点にもなりうる。
異能とは異常、そして異質。本来人から大きく外れた力。故に異常を元に戻す力はない。
その存在を知る者は少ないが、やがてソレと対峙するときがくるかもしれない。
今回の奴ら程度ならアレでどうにかなるが、ソレは別格だ。
今のうちに絡め取っておくに越したことはない。まあ、本人には可哀想だが。
「まあ、今回は大丈夫じゃろう。念のためアレも持たせてあるしのう」
「というか、そっちが本命だろう? 下手すりゃアイツの出番はないぞ」
「そこは運じゃな。協力者もおるしのう」
「あの男か。アレが持ち出されている時点でいるのは当然か。しかし、後でアイツに恨まれそうだなぁ~」
「この歪な世界を、いや全ての世界を救うためじゃ。多少は無理してもらわんとのう」
世界の真実を知る数少ない二人。現実を知っているが故に悲観してしまう。
使えるものは使っておかないと、そう思うのであった。
XXXXXX
同時刻。とある東北の山間部に一行はいた。
「えーっと、こっちですね」
真人が魔濃レーダーを操作しながら異能値が高い場所へと皆を誘導していた。
魔濃レーダーは魔力を感知するための道具である。関係者の間で広く重宝されている。
魔力は異能と分類される力の一つ。人間は、いや異能者は多かれ少なかれ必ず持っている。
レーダーの操作には専門的な知識が必要な上、数が限定されているので個人所有は不可能だ。
今手に持っているのも第二十八支部に一つしかない希少品である。
壊したら修理すれば良い。だが内部にある誘導魔水が溢れ出たら致命的である。
誘導魔水は特定の範囲の異能値を見つけるとその方向に動く不思議な水である。
この水はとある地域でしか取れず、量も多く取れないので無くしたら一大事である。
弁償などできない。その状況になったら逃亡するしかないと真人は固く心に誓っていた。
感知する異能レベルは機械で制御しており、今は最大の設定だ。
真道寺に言われて設定したが、こんなのに引っかかる存在がいるのであろうか。是非とも会いたくない。
今回の目的は異常な異能値が検出された原因の捜査、及び排除。
異能が世に溢れたことで人間だけでなく、他の生物、動物達までもに影響が出た。
異能を発症したことにより変質した動物達、異能を持ち凶暴化したその存在を「化獣」と呼んだ。
化獣にはランクがあり、高位の化獣になると専門家でないと対処が難しい。
だがその一方、専門家が数人いれば余裕で対処できるため、そこまでの驚異にはならない。
一同は気を楽にして進んでいた。
「あのときは大変だったわ。別に先輩が死んでも良かったけどね」
「ふふっ、相変わらず加奈ちゃんはお茶目ですね~」
「ふふっ、化獣に襲われて潰れたらいいのにね」
「ははっ、加奈ちゃんは手厳しいね」
今、目の前では聞きたくない会話がなされている。死ぬだの潰れるだの物騒な言葉が飛び交っている。
正直言って心臓に悪い。ついボロッと本音が出てしまう。
「しんどい」
軽いストレス発散のためボソッと呟くが、加奈には聞こえてしまったようだ。
「だらしないわね新人。私も実戦担当じゃないけど、これくらいじゃ疲れないわよ」
(お前らの会話が痛いんだよ。怖いんだよ。心臓に悪いんだよ。日常会話のように平然とそんな会話すんじゃねぇ~。分かれや)
もはや真人の心の叫びは呪詛のレベルにまで達していた。
一方、密かに真人を観察していた加奈は不思議に思っていた。
(あの班長、どうしてこの子を寄越したのかしら? 体力はともかく異能の強さも殆どないわ。戦闘になったら足でまといにしかならないわ)
歩きながらボーッとレーダーを見ていた真人であったが、突如レーダーが反応し出した。物凄い反応である。
「レーダーに反応がありました! 前方100メートル、ちょっとコレやばいですよ」
魔濃レーダーが振り切れんとばかりに激しく動いている。それがソレをどんでもない存在だと示していた。
リーダーの古沢が懐から双眼鏡を取り出す。他の面々は沈黙に包まれながら古沢の動向を見守る。
双眼鏡を目に当てじっと見ていた古沢であったが、少しすると緊張した面持ちで現状を知らせる。
「最悪の事態が起こったな。あれは異形だ」
古沢の顔には余裕がなく、それを聞いた全員は厳しい顔付きになっていった。
ルビとか忘れがちだよね。




