第28話 御技使い(みわざつかい)
表編クライマックスです。
――御技使い。
それはもはや都市伝説と成り果てた存在。
――旧時代の遺産を受け継ぐ者達。
――異能無くして強者たる存在。
――高位の異能者に匹敵する程の使い手達。
御技の「御」とは御することを意味する。
制御によって生み出される力。
異能に頼らず技術でカバーする本来正統であったはずの技。
狂った世界に残った数少ない希望。
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真人が霞むような足捌きで、近くにいた異形の懐に飛び込み斜め一閃。
後方から別の異形が真人を斬り裂こうとするが――すかさず手首を返して回転しながら横に薙ぐ。
瞬く間に二体の異形が消滅した。
続くように辺り一帯の異形を次々と薙ぎ倒していく。
剣の閃光が数瞬で幾つもの軌跡を描く。
光り輝く剣を鮮やかに踊るように振るう。
卓越した剣の王がそこにはいた。
夢か幻か、異形をいとも容易く滅ぼし去る真人。
その場にいた全員が我が目を疑った。
「な、何あれ? 彼、あんなに強かったの?」
「そ、そういえばさっき御技使いって……」
「何言ってんだ、あれは只の都市伝説だろう?」
「お、俺も確かに聞いた……」
「まさか……」
試験生達が一斉に意見を述べるが、誰も的を得ない。
だが現に目の前では信じられない事が起こっている。
普段のヘタレで情けない真人からは想像もつかない光景であった。
ギャップ萌するどころの衝撃ではない。
「やはりあの時異形を倒したのは柊君でありましたか……」
「あれが真人か……?」
「ちょっと、どういうこと!?」
「フン。成程ね。上層部に優遇される訳だ」
「凄い……」
「何なのあれ!?」
大和、刀祢、咲耶、統吾、智、マリアが順に驚きを現す。
今まで隠していたのか、という怒りではなく純粋な驚き。
皆一同に真人が強いということは感じていたが、ここまでとは。
予想を超えた衝撃であったのだ。
余談であるが、壮之介はここにはいない。戦闘組には参加していなかった。
「我々も行くであります!」
「そうだな。アヤツばかりに良いところを持っていかれる訳にはいかぬ」
「全く、後で問い詰めてやる」
「僕達はオマケではないからね」
「真人君の加勢に行きましょう」
「私だってやるときはやるわよ!」
真人の活躍を見て動きが止まっていた六人。
真人に感化されたかのように一斉に目に輝きが戻る。
再び討伐に向かうべく気合いを入れ直す。
足りない分は連携プレーで補えば良い。
六人は不思議な連帯感に包まれながら異形を薙ぎ倒していくのであった。
一方、他の試験生の面々。
「あれが彼か……ふふ、やはり彼は面白い。再会の時が楽しみだ」
赤髪ショートの試験生が二丁の拳銃型波導具を構えながら不敵に笑っていた。
彼女も再び動き出す。
「アイツ、イカしてるな。俺もやるぜ。女子諸君に俺様のかっこいい姿を見せつけとかないとな」
蒼髪のニタニタした男が一振りの剣型の波導具を手に、再び動き出した。
「ほう……アヤツ、やるではないか。是非とも我が家に招待せんとな」
金髪ツインテールの娘っ子が威厳を含んだ口調で何やら呟いていた。
彼女も再び動き出す。
そんなやり取りが行われている間にも真人は戦場を一人駆け回っていた。
真人の動きが常人のそれを遥かに凌駕する。
A級ランカーにも匹敵する、いやそれ以上の動きを魅せていた。
それもその筈、今の真人は自身の御技の壱式から参式までを並列稼働していた。
――参式・想琅流し
参式は魂魄の支配。
真人の技術が最適化される。
魂とはその者の在り方である純粋な"本質"の上に蓄積された記憶と経験。
魂魄を司る『魂気』を同期させ草薙の剣の記憶を読み取っていく。
読み込んだ記憶を解析し、自身に最適化する。
かつての歴代の使い手達の記憶、剣に込めた作り手の想い、剣自体の意志。
それら剣の全てを把握し、この剣の使い手としての最高のコンディションを作り出す。
しかし、それだけでは動けない。
――弍式・時縮み
弍式は精神の支配。
真人の体感時間が圧縮される。
最適化した技術に感覚が追いつくように、精神を司る『心気』で感覚を刺激して研ぎ澄ます。
圧縮された精神は敵の攻撃をスローモーションで見切り、完全な回避を実現する。
しかし、それだけでは動けない。
――壱式・鬼宿り
壱式は肉体の支配。
真人の肉体が強化される。
圧縮された体感時間について行けるように、肉体を司る『生気』で全身を強化する。
細胞レベルで制御された肉体が皮膚すら鋼の硬度を実現し、強化された強靭なバネと合わせてマッハレベルの速度領域を可能とする。
最後に、剣も同様に強化して準備完了。
――三段強化
壱式から参式までは自己の強化に特化した基本技術。
肉体、精神、魂魄。生物を構成するこれら三つはそれぞれ別個で気を宿す。
この三種の気を操ることこそ気功術、いや制御術の基本にして奥義。
自身の全てを制御する『御』技。
状況に応じて最高の戦士を生み出す真人の技の基礎の極致。
真人が本気になった証拠である。
消えたかと思うと、数メートル離れた場所で異形を斬り裂く。
その速度も凄まじいが、何よりも凄いのは一撃で異形を葬り去るその威力。
A級ランカーでも簡単には倒せないレベルの異形をいとも容易く滅ぼし去る。
単純に真人が強いというだけの話ではなく、真人の技が異形に効きやすいというのが最大の理由であった。
神器と同等の力。それは異常を滅ぼす正常の力。
この場において真人は戦場の覇者であった。
その光景を見ていたベテラン組が驚愕を露にする。
「アイツ……そういうことか、上層部め」
「面白いねぇ~。体が熱くてしょうがない」
「へぇ~、やるじゃねえか。<剣聖>の竜童一門がいたら面白い事になるだろうな」
「流石、彼だね。だけど何かが足りないな……」
「成程ね、あれが彼の……」
「ほう、やるな、アイツ」
門松、七星、獅子堂、真道寺、玲、虎徹が一斉に感嘆の言葉を呟く。
それぞれが別個の思惑を滾らせる。
「ほら! ボケッとしていないで行くぞ。先輩の威厳を見せてやれ!」
「ハハッ、この熱い体を冷やさないとねぇ~♪」
「おう、燃えてきたぜェ」
「……彼だけでも良いんじゃないかね?」
「彼一人にアレ全部任せるのも酷だわ」
「まあ、やりますか」
真人だけに任せるなんて先輩としての意地が許さない。
プライドを刺激された門松がベテラン組に活を入れる。
一人だけ真人に優しくない男の発言があったが、気にせずにベテラン組も改めて動き出す。
一部の試験生、ベテラン組、そして真人の活躍で異形は瞬く間に減っていったのであった。
いつの間にか残りは一体。
「どうやら遺跡の機能がストップしたようだね。安全装置でもあったのかな?」
真道寺が何やら言っているが、皆の視線は残りの一体に向けられていた。
そこには異形化した加奈の姿。既に理性は残っていない。
それでも大切な何かを守るかのように加奈は動かないでいた。
加奈を倒そうとする周りの連中を手で制して、歩いて向かっていく真人。
それを見た古沢が、ハッと我に返り悲痛な叫びを上げる。
「柊! やめてくれ!」
死にそうな程に歪んだ顔をしている古沢。
そんな古沢に向かって、真人は振り返って穏やかに告げる。
「大丈夫ですよ。俺に任せてください」
軽い口調であったが、どこか力強さを感じさせる言葉。
その顔には深淵の闇を知る者だけが魅せる、優しさが満ち溢れていた。
その声には不思議と万人を納得させる説得力が込められていた。
古沢は無意識に真人に見とれ、全てを託すことを選択していた。
「さあ、終わりにしようか」
加奈の前に立ち手をかざす真人。
このパーティーの終幕を告げるべく最後の音を奏でようとしていた。
――零式・調律
絶望が希望へと変わる瞬間。
真人の掌から波紋が広がり、澄んだ鈴の音が閉ざされた空間に響き渡り木霊する。
生気、心気、魂気の三種の気が互いにぶつかり合い、澄んだ波紋の音色が異常を正常で書き換える。
本来であれば異常そのものである異形ごと消し去る技であるが、異形に支配されきっていない今ならばまだ加奈を元に戻せる。
一線を超えない限り、まだ人であるのだ。
まるで蒸発するかのように黒い霧が加奈の身体から抜けていく。
異形化した加奈が徐々に元の姿へと戻っていく。
「あ、あ、あ、ああああああ……」
古沢が驚きと喜びを交えて嗚咽する。目からは涙が溢れていた。
最後に加奈の目の周りを覆っていた白い仮面がヒビ割れて砕け散る。
ドサリと音を立てるように倒れ込む加奈。それを古沢が受け止める。
「良く頑張りましたね。加奈先輩」
その優しい声を遠い彼方に聞きながら加奈は意識を失った。
加奈を最後に異形は全て消え去った。
今だけは皆が穏やかな気持ちになる。
「戻ろうか」
誰ともなくそんな声がしてきた。
第一章、あと少し続きます。




