第27話 総力戦
ここから真人君が活躍します。
一連の攻防を見ていた試験生達。
遺跡内に響き渡る爆発の音を反射的に耳を手で塞いで遮っていた。
国内屈指のA級ランカー五人と異形化した元A級ランカーの対決。
その実力はもちろんのこと、五人の見事な連携に只々感嘆の息を吐いていた。
辺りに異形がいなくなって安堵する面々。
だが遺跡の化獣が階下からか、やって来る。
それを見て真人が真道寺につっかかる。
「何でこんなに化獣が残っているんですか?」
「変だな……こんなに直ぐに湧いてくる訳はないんだけどね。何者かが遺跡を操っている?」
「しかも、何故かここに集結してきますよ。どうなってるんですか?」
「ふむ。確かにおかしいね」
ここに来るまでにも残った化獣の数を上回る異形がいた。
それは化獣が再び生まれたことを意味する。
「そういえば、この広場に来た時に、中心に黒い霧のようなものが漂っていたが……」
古沢が当時の光景を思い返して発言する。
「黒い霧?……まさか、使徒!?」
真道寺が驚いて呟くと、その言葉に合わせるかのように事態が再び変化する。
完全に消滅したと思われた更科。
黒い煙となって霧散したと思われたが、それが黒霧となって拡散し辺りの化獣に憑依し始める。
その場にいた化物全部が異形と化していく。
いや、異形更科が増えたと表現する方が正しいであろうか。
腕は二本で感じる力も先程までの半分以下。異形更科には遥かに劣る。
それでも異形達の放つプレッシャーは通常の異形のそれを遥かに上回り、試験生達を圧倒していた。
ベテラン勢も気を抜けば危険なレベル。
獅子堂が驚愕の声を上げる。
「何だと!」
その時、どこからか声が聞こえてくる。
「ほほほっ、それは我らが眷属。その程度では復活しますよ」
その声にその場にいた全員が驚愕する。
「誰だ!?」
誰かが叫ぶが返答はない。気のせいであっただろうか。
誰にも聞こえないように真道寺がボソッと呟く。
「使徒か……厄介だな。やはり、ここは彼に……」
そんな真道寺の思惑の一方、湧いてきた異形を倒しにかかるベテラン組。
その中の一人、飄々としていた虎徹もこの状況に焦りだす。
「クッ、この数、やばいな。一体一体はそれ程ではないが、この数。試験生に被害が出るぞ」
「試験生は下がっていろ! 不注意で攻撃されても責任は取らんぞ!」
冷静沈着な門松。だがその声に余裕はない。
注意を受けて尻込みする試験生達。
だが、その声に耳を貸さずに臨戦体制に入る者達が数人いた。
「ほう……」
注意を無視して戦おうとする一部の試験生に、叱るどころかむしろ感心する門松。
そんな中、無謀にも思える試験生の第一特攻者がいた。
「うぉおおおおおおっ!」
裂帛の気合いを入れて突っ込んでいくのは見覚えのある男。
手には一振りの剣が握られている。異能には見えない、波導具であろうか。
確か試験前に真人を巻き込んだ顔の緩んだ締りのない蒼髪男である。相方はどうやら不在のようだ。
「行くわよ!」
次に高らかと宣言したのは、黒髪に蒼目が印象的な美女。樹マリアである。
二本の槍を具現化させて片手でそれぞれ持つ。
それらを軽々と振り回すマリア。
その向こうでは顔は見えないが、赤髪ショートの女性が二丁の拳銃らしき波導具を構えている。
(ん? あの波導具、見覚えがあるような……)
ふと脳裏に沸いた疑問を振り返る真人。
だが思い出せない。気のせいであろう。
「舐めるでない!」
憤怒の声のする方、真人の反対側では金髪ツインテールのちびっ子が魔導術を放っていた。
炎に冷気、雷と多種多彩である。
確か初日にピョンピョン跳ねていた小、中学生っぽい娘っ子である。
(あれっ? あの子だ。頑張っているなぁ~)
それを見ていたベテラン組の一人、七星が感嘆の声を上げる。
「へぇ~、骨のある試験生もいるじゃねぇか」
真人が他を見渡すと、咲耶が異形に襲われていた。
「咲耶!」
咲耶に襲いかかる異形更科もどき。
異形の強烈な一撃一撃を側面を打ちいなすことで何とか対処している。
だが無理をして飛ばしているのか、息が荒い。
このままでは体力がもたない。
それを見ていたのか、いつの間にか真人の隣にいた刀祢が声を荒げる。
傍らにはハーレム要員二人の姿も見受けられる。
「真人、咲耶がまずい。拙者らも行くぞ。お主らは護りに徹して隙あらば援護だ、良いな?」
「「はい!」」
「お、おぅ……」
刀祢はハーレム要員二人に指示を与え、真人と共に咲耶の助太刀にいくことにする。
刀祢一人で十分と思われるが、この状況で行きたくない、とは言えない。
思考を停止して流れに身を任せることで精神の安寧を図ろうとする真人であった。
そこでふと智と統吾を探すが、二人は少し離れた場所で背中を預け合って一緒に戦っていた。
「統吾! そっちは大丈夫か?」
「僕達なら平気だ。咲耶の手助けをしてやってくれ。僕たちもそちらに合流する!」
「了解致した。行くぞ、真人!」
刀祢に促されて咲耶の手助けに向かう真人。
刀祢が地導刀『正宗』を具現化して咲耶を襲っていた異形を叩き斬る。
「大丈夫か、咲耶?」
「はあっはあっ、ええ、助かったわ」
咲耶を心配して確認する刀祢。
息が荒いが、別段怪我は負っていないようだ。
「刀祢! 咲耶!」
統吾に緊迫した声を掛けられ、振り向く二人。
異形が挟み撃ちするかのように二人に迫っていた。
気付くのが遅かった二人であるが、異形の一体を真人が殴り飛ばす。
「助かったわ、真人」
もう一体はハーレム要員がフォローしたようである。
刀祢が礼を言う。
「おぬし等、痛み入る」
ここで真人、刀祢、咲耶、統吾、智の五人が合流する。
前の方で槍を振るっていたマリアもこちらにやって来る。
「ふうっ、大丈夫? 貴方達?」
「こちらは問題ない」
「それにしてもどれだけいるのよ。キリがないわ」
倒せど倒せどやって来る。どうなっているのだろうか。
試験生達は一部がまずい状況にあった。
ベテラン勢が助けに入っていたが、状況が追いつかない。
「古沢! これを使って皆を護れ! 俺達には必要ない」
門松が持っていた神器を古沢に放り投げる。
古沢の前に転がる神器。
だが、古沢の目はそちらを向いていなかった。
加奈を倒そうと迫る試験生の一人。
「ま、待て!」
体当たりでその試験生にぶつかる古沢。
その試験生は戸惑った後、苛立ちを見せる。
「何をするんですか? アレも異形ですよね?」
「アレは俺が何とかする。お前らは他を当たれ!」
煮え切らない古沢。
必死で頭を働かせるが、具体的な案が出てこない。
「クッ、どうすれば良い……」
その時――
「! まずい、共振だ! 全員、後退しろ!」
異形の一体がプルプルと震えている。共振前の予備動作である。
――来るっ。
「グアアアアアアッ」
辺りの空間が震え出す。
共振。
異形が持つ異能者にとっての天敵とも言える現象である。
異能者の中に渦巻く異能に直接干渉して本能的恐怖を呼び起こす現象。
中には耐性を持つ者もいるが、本能的なもののために力が抜けるような感覚に陥ることは否めない。
異形は本能で攻撃してくるため、普段滅多に共振をすることはない。
だが偶に優等生タイプの異形がしてくることがあるのだ。
それがここにも一体存在していた。
無効化できるのは神器を持つ者、あるいは異能を持たない者。
この場で動けるのは神器を持っている者とあと一人。
異形討伐に神器が欠かせない最大の理由がここにあった。
だが神器は古沢の近くに転がっている。
「クッもうだめか」
皆が一斉に膝を付く。
絶望が刻一刻と皆を襲う。
ベテラン組に縋ってみるが、彼らも余裕がなさそうである。
「「「クカカカカカカ」」」
嘲笑うように異形の群れが動き出す。
(この光景は……まるで……)
「クッ」
真人の脳裏に激しい頭痛が起きて頭を抱える。
過去に封じた筈の忌まわしい記憶を思い出しそうになる。
(ダメだ……それはいけない……)
カチリ。真人の中の何かの歯車が噛み合った。
この時点で"戦闘をどう回避するか"ではなく、"戦闘をどう勝利するか"に思考を切り替える。
環境が人間を形作る。状況が人を形成する。
状況が真人に最適な思考、いや人格を選択する。
「この神器、借ります」
共振を無視するかのように、転がっていた草薙の剣を拾い上げ、真人が一人動き出す。
俯向き誰にも表情は見えないが、その言葉からは微かな怒りが感じられた。
草薙の剣を手に持つ真人。
草薙の剣の周りにうっすらと光が纏わりつき始める。
誰にも聞こえないような呟きで決意を新たにする。
「誰も死なせない。ふざけるな」
静かなる怒りがその場を支配する。真人の雰囲気がガラリと変化した。
その直後、真人が誰の目からも消失した。
十メートル程先に現れ、共振していた異形を一太刀で斬り裂き消滅させる。
「「「ハッ!?」」」
現状が理解できずにすっとぼけた声を上げる一部の試験生達。
途端に自分達を押さえつけていた圧迫感が消え去る。
「刀祢、咲耶、大和、マリア、統吾、智! 無理するな、下がれ!」
近くにいた六人は、突然の真人の豹変ぶりに目を丸くする。
しかも体術ではなく、剣術。
無導は一つ極めるだけでも相当な修練が必要な筈。
剣術の気配がこれっぽっちもなかった真人の突然の剣の腕の凄まじさに呆気にとられる。
「う、うん」
戸惑いながら、六人は引き下がっていく。
異形の声以外、誰一人声を発することなく静まり返る室内。
それを見た古沢がポツリと呟く。
「異能なしでその力、……お前まさか、『御技使い』……か」
その場にいた誰もがその言葉に耳を疑った。
次回、表のクライマックスです。




