第24話 急行
続きです。
――瑪瑙の遺跡、最上層部広場。
「ハアッ!」
裂帛の気合いと共に異形更科と撃ち合う大和。向こうは素手だが刀で斬れる傾向が一向にない。
だが無理に倒す必要はないので、防御に専念する。
防御に専念することで生まれた余裕を違うことに用いることにする。
次第に大和の感覚が研ぎ澄まされていく。
自分の体内にある異能を細分まで感じ取れるようになる。
本人は気付いていないが、格上との戦いで一気に才能が開花したようである。
地導刀を維持したまま、体内の異能を分析する。地力が一定量ずつ徐々に減っているのが分かる。
同じように身体強化をしたまま、分析にかかる。こちらは天力が徐々に減っている。
さらに耳を天導で強化して足音を探る。
ここまでの異形の数から計算して援軍が到着するまでの時間は――約三十分から一時間。
十階層もの距離を三十分程で来れるのは不可能に近い。
さらに今は異形までいるのだ。通常は無理である。
だが下にいるのはA級ランカー。その常識を覆す。
A級ランカーに位置する異能者はそれを可能とするのだ。
三十分間持つ程度の異能量を計算する大和。
効率良く戦うためにどうするかを必死に捻り出す。
第一段階、無駄を省く。
体内で消費されている異能に無駄があることを感じる。
常時同じ質を展開するのではなく、一瞬の動作にのみ質を爆発的に高めるようにする。
第二段階、時間配分。
予想戦闘時間から逆算して、天導での強化に回す異能量を上げることにする。
これにより、さらに身体能力が向上する。天導が次の段階に高まる。
そして第三段階。
新たな上位天導を構築する。
今までの身体強化から新たな天導を導き出し展開を試みる。
完成したのは――
――天導強化・圧縮増幅
天導強化を圧縮することでさらなる身体能力向上を促す。
大和の速度がさらに増す。
だが無理はしない。牽制に力を注ぐ。
今、大和は異形更科の攻撃を完全に見切り、いなしていた。
「大丈夫か、大和?」
「はい。まだいけるであります」
大和の反対側では古沢が神器の力をフルスロットルで使用していた。
速度重視の手数スタイルの大和とは対照的に一撃必殺の力押しスタイルを貫く古沢。
だがこちらは消耗が激しい。
古沢は大和と違い異形更科を倒すつもりでいた。
無意識に個人的な恨みが働いたのであろうか。
そんなことを考える暇なく事態は進行する。
「あれはっ!?」
異形更科の鎧に付随している四本の腕が動き出す。
今まで遊ばれていたのか、自身の二本の腕しか使用していなかった。
それが動き出したのである。
「気をつけろ、大和!」
「大丈夫であります!」
異形更科の六本の腕が不規則に大和と古沢を襲ってくる。
それを大和は確実にいなしながら回避していた。
単純計算で三倍の量の攻撃であるが、今の大和の速度で躱せぬ程ではなかった。
だが、速度で劣る古沢に限界が訪れる。
攻撃を躱した隙に別の腕の攻撃が横から襲い来る。
回避が間に合わずに脇腹を殴られて吹き飛ぶ古沢。
「ガハッ」
天導で防御に専念していたにも関わらず、一撃のダメージで足にくる。
幸い内臓にまで影響は出ていないが、しばらくは動けない。
「古沢先輩、少し休んでいてください」
「しかし……」
「自分は大丈夫であります。それより……」
大和の視線の先にはボケッと立ったままの加奈がいた。
先程から一向に動く気配がない。どうしたのであろうか。
大和の言いたい事が分かって不本意ながら了承する古沢。
「分かった。ならこれを使え」
異形更科と撃ち合っている大和に隙を見て神器を放り投げる。
それを受け取った大和は、地導に削いでいた異能分を全て天導に注ぎ込む。
「さあ、援軍が来るまでやり合いましょう」
大和と異形更科の一対一の構図になる。
外野の事は全部古沢に任せる。大和は目の前の異形更科のみに全神経を集中することにする。
大和と古沢の信頼関係の成せる技であった。
「加奈、ソレに飲まれるな。自分を保て!」
一方、異形加奈に歩み寄り声を掛ける古沢。
いつ動き出して襲ってくるとも限らない異形加奈を前に、防御せずに無防備な古沢が立っていた。
懸命に異形加奈に語りかけ、異形に飲み込まれないように加奈の意識を繋ぎ止めようとしていた。
繋ぎ止めてどうするのか。
その先の未来の事など眼中にないが如く、微かな希望に縋り付いていた。
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――最下層部、神器の間。
最上層部での異変を察知した試験組。
予断を許さない状況を悟り、門松が急ぎ今後の方針を決定する。
「急ぎのため、二つに分かれて移動する。右の階段が残りの敵が少ないそうなので、そちらを使用する。七星の班が良くやってくれたようだ。俺と獅子堂それと七星が一足先に戻る。真道寺と柴祁那そして試験生達は後からついて来い」
獅子堂と七星が頷く。
途中、強大な敵がいたとしたら、試験生は邪魔になる。それに、天導で急ぐのであれば、とてもじゃないが試験生にはついていけないペースであろう。
「上で何が起こっているか分からん。真道寺、柴祁那。こいつらを頼むぞ」
門松は真道寺と玲に試験生達を託すと、獅子堂と七星を連れて走っていった。
それを見送る残りのメンバー。
だがこちらも間を空けずに直ぐ出発することにする。
真道寺が場を仕切る。
「さあ、僕らもさっさと行こう。道中、殆ど戦闘はないと思うから安心してね。どのルートも化獣は行きで殆どやっつけちゃったかららしいからね。問題ないよ。まあ、しばらく経つとまた湧いてくるけどね」
安全の確約を聞いて、騒いでいた残りメンバーもようやく戻り始めるのであった。
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――地下九階、通路。
急いで走っていた急行組の三人だったが、ふと前方に何かが見えて立ち止まった。
数秒後、奥から異形が数十体やって来る。
「あれは……異形!?」
「おいおい、何て数だ」
「何の冗談だこれ?」
人型の異形が数体。禍々しい気配を放つ剣を持っている。
恐らく遺跡に残っていた水晶騎士や鋼鉄騎士が異形化したのであろう。
だが――
「何だ、あの剣は……やばいなんてものじゃないぞ」
「只の異形ではないのか?」
「やれやれ、試験生がいなくて良かったな。二人共行くぞ」
通常とは異なる禍々しい雰囲気を持つ目の前の異形の群れ。
恐れよりも試験生達を連れて来なくて良かった安堵の方が上であった。
「取り敢えずこれから先、異形以外は相手にするな。まあ仮に異形化したとしても数体程度。真道寺と柴祁那が何とかするだろう。今は急ぐぞ」
「了解だ」
「分かった」
門松の言葉に七星と獅子堂が頷く。
異形を蹴散らしてさっさと先へと進むことにする三人であった。
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比較的速く移動していた試験組残りメンバー。
地下九階の通路の途中で、ふと真道寺が何かを感じて足を止めた。
「ふむ。ここで戦った後があるね」
「えっ?」
「やはり何かがいるようだね。皆、気をつけるように!」
真道寺から不穏な発言を聞いて、再びざわつく残り試験組メンバー。
その言葉に、今までで一番の被害者である真人が思わずつっこんだ。
「……先輩、問題ないんじゃなかったんですか?」
「あれはさっさと出発するための方便だよ」
「はぁ……」
そろそろ真道寺という男に慣れてきたようである。
そんな自分に嫌気がさす真人。
「とっとと行きますか……」
細かい事はもはや気にしなくなる真人。
気にせずに先に進むことにする。
一行が地下五階の小部屋まで来たところで変化は訪れた。
試験生の一部が声を上げる。
「え゛っ」
「あれは……」
水晶騎士が一体残っていたようだ。
無視して先に行こうとした一行であったが、行きとは違う光景を目にして立ち止まった。
壁から湧き出るようにして出現した黒い霧が、件の水晶騎士を覆っていったのだ。
強大な力が渦巻いて収束していくようである。
「な、なんですか、あれ?」
「ふむ。異形化の現場なんて初めて見たよ」
異形化。
真人の聞きたくなかった不吉な単語を耳にして真道寺につっかかる。
「呑気なことを言っている場合ですか。どうするんですか?」
「どうやら此処だけではないようだね。よし、柊君。逝きたまえ」
「……もうツッコミませんよ。慣れました」
真道寺の無茶振りに冷静に反応する真人。
自分の成長、いや耐性に内心驚く。
冗談のつもりで聞き流していた真人。だが真道寺の目は真剣であった。
「え゛っ? まさか、本気で?」
「僕はいつでも本気だよ」
泣きたくなる真人。だがその前に――
「ここは俺じゃなくて先輩お二人が手本を見せる場面じゃないですか?」
「戦力は温存しておくものだよ」
「返答になってませんよ!」
訳の分からない事を言う真道寺にいらつく真人。
だがそれを見兼ねたかのように言葉を付け足す。
「異能には限りがあるんだよ。ここは異能なしでもいける体術スペシャリストの君の出番ではないかね?」
「うっ」
正論のような事で真人を言いくるめようとする真道寺。
しかしそうは問屋が卸さない。
「い、いや、騙されませんよ。敵は門松先輩達が粗方退治してくれているんだから大丈夫なんじゃないですか?」
「むっ、言うようになったね」
「フン。いつまでも手の平で踊らされる俺だと思わないことですね」
ドヤ顔で勝ち誇った顔をする真人。
いつぞやのお返しである。
気付けば異形は六体にまで増えていた。
どうやらこの小部屋は遭遇点のようだ。
「ちょっと、増えてますよ。早く行ってください!」
「はぁ~、まあしょうがないね。玲君、やろうか」
「はいはい。まあそれが私らの役目だから当然ね」
真人の焦りの声に仕方ないという面持ちにで玲に話かける真道寺。
それに対して当然、という玲の言葉。やはり真道寺の策略だったようである。
危うく危機を脱した真人は満足そうな顔で事の成り行きを見守る事にする。
こうして異形対A級ランカーの戦いが始まった。




