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異端進化論(改訂前)  作者: 七草 折紙
第一章 能ない凡人は爪を隠す
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第23話 思念石

評価入ってました。嬉しいものですね。

ありがとうございます!

――遺跡最深部、神器の間。


真人達が階段を降りていくと一際大きい広場が見えてくる。

小粒に人の姿が見える。恐らく他の試験生達であろう。

手こずった分、遅くなってしまったようである。

階段を下り終えて広場に入っていくと、その場にいた全員の視線がこちらを向いた。

こころなしか、やっと来たかという顔をされている気がする。

仮にそうだとしたら、真道寺(ヤツ)のせいですよ。心の中で言い訳をする真人。


「全班揃ったか。お前らの班で最後だ。随分遅かったな。リタイアも多そうだ」


真道寺が運んでいる重傷者を見て門松が溜息を吐く。

他の班のリタイアが数名なのに対して真人の班は十人弱。

試験生の不甲斐なさを嘆いているのか、真道寺の仕業と見極めて頭を痛めているのか、そのどちらかであろう。


「とりあえず負傷者の治療が先だ。完全に直して自力で歩いて帰ってもらう。しばらくここで休憩だ。見学していても良いぞ」


門松の指示で休憩することになる全試験生。

真人は取り敢えず、周りを見て回ることにする。

そこで懐かしい声が掛かる。


「やっほ~、元気だった?」


元(?)フリーライターの樹マリアである。

相変わらず黒髪に透き通った蒼眼が美しく、人目を引いている。


「元気じゃないよ。非常に疲れた」


真人の(しお)れた草花のような言葉と身体に若干マリアが引く。


「そ、そう……お疲れ様ね」

「そっちはどうだったの? リタイアはどれくらい?」

「う~ん、うちの班は……六名だったかな?」

「……そうなのか。ちなみにどれくらい残った?」


真人が気になったのはその一点である。他の班も同じようであれあ多少は救われる。

ちなみに真人の班の残りは六名であった。

中盤以降はその人数で頑張ってきたのである。


「えっと、二十一名いたから……十五名?」

「にゃんだと!?」


真人は猫ではない。余りの驚きに思わず噛んでしまっただけである。

不安定な精神状態を示す傾向である。もはや舌は回っていない。

十五名。真人の班の三倍近い人数である。

それを聞いて、真人は壊れた。


「マリア~、抱きしめて慰めてくれぇ~」


ひっしりとマリアに抱きつこうとする真人。

それを察知したマリアが真人の顔、いや頭に手をかざす。

頭を掴まれたことにより、それ以上先には行けなくなった。


「にゃ、にゃんだ?」


がっちりと手の平でキャッチ。リリースはしない。

俗にいうアイアンクローである。

徐々に力が込められていく。


「調子に乗らないの」

「痛い、痛い、ギブ、ギブです。マリアさんっ」


華奢な身体に似合わない握力である。

異能を使っている感じはしない。素の握力なのであろうか。

とんでもない怪力である。


真人が苦しんでいると、ふっと手が離される。

お仕置きの時間は終わったようだ。


「全く、シャキッとしなさい!」

「は、はいっ!」


マリアに叱咤されて直立不動になる真人。女とは恐ろしいものである。

我に返り正気に戻る真人。


「はははっ、何やってんのぉ~」


見ると咲耶を先頭に刀祢、智、統吾、壮之介がやって来る。


「クッ、我が身の不幸を嘆いていただけだ」

「不幸?」

「うちの班みたいに六人で階層の半分を攻略なんて班は他にはない」


真人の悲痛な愚痴を受けて、咲耶が同意する。


「そうだよねぇ~。あの試験官、何考えているんだろ?」

「全くだよ。こんなに疲れたのは久しぶりだよ」


真道寺の頭の内部を考察し始める咲耶。

その横で統吾が顔に(しわ)を寄せて同意する。

皆、思うことは一緒なようである。


「貴方と同じ班の人?」


真人の班の六人が心を一つにしていると、横にいたマリアが問いかけてくる。

一人、蚊帳の外のようであった。

真人は皆の紹介を始めた。


「ああ、そうだ。紹介しとくか……」


「こっちの"ござる"が(すめらぎ)刀祢(とうや)

「ござるなどとは言ってはおらん」


「こっちの撲殺(ぼくさつ)娘が如月(きさらぎ)咲耶(さくや)

「嫌な呼び方ね。せめて"(こぶし)の天使"って呼んでよ」


「それでコイツが不知火(しらぬい)統吾(とうご)。次は……」

「僕だけ雑じゃないかい?」


「この子が合気道の達人、有栖川(ありすがわ)(とも)ちゃんだ」

「よろしくね」


「まあ、そんなところかな?」


四人を無事紹介し終えて仕事を全うした気分になる真人。

そこで無粋な声が掛かる。


「……おい。俺を忘れているぞ」


真人が顔を向けると壮之介が腕を組んで立っていた。こころなしか怒っているように見受けられる。

そういえば居たな、と思い出す真人。


「ああ、え~っと、壮之介(そうのすけ)君です」


名前しか覚えていないので、ここはさっくりと行くことにする。


名字(みょうじ)は? 忘れたのか? フルネームで言ってみろ」


さっくりと行くことなく、つっこまれる真人。世の中簡単にはいかないようである。

鬼のような剣幕で睨んでくる壮之介。

そこまでの事でしょうか。人間、忘れる生き物ですよ。


「まあ、細かい事は置いておくとして……」

「誤魔化すな」


五月蝿(うるさ)い奴である。

元々、別のグループだったのだ。名字くらい憶えていなくとも問題ないと思われる。

だがヘタレな真人はそれが言えない。


「俺は市ヶ谷(いちがや)壮之介(そうのすけ)だ。俺はお前らより年輩だ。敬う気持ちを忘れるな」


何やら面倒くさいことを言っているようだが、気にしないことにする。

どうやら自己完結したようである。

真人は気にも止めずに話題を変えることにする。


「それにしても豪華な雰囲気ですね」


部屋一帯を見渡す真人。

今いる広いスペースから前方に段差の低い階段のように続いている。

その先に神器が奉納されていたと呼ばれる場所があるという。

そこまでは必然的に上方を見上げる形になる。

中心付近の床には赤い絨毯のようなものが奥まで続いている。

まるで王宮の謁見の間のような場所である。


「ん? あれは何だ?」

「ああ、あれは石碑だな」


真人の独り言に誰かが返答する。

隣にはいつの間にか獅子堂先輩がいた。


「獅子堂先輩!」

「よう、元気だったか?」


相変わらず気さくな人だ。

真人も気兼ねなく会話に移ることができる。


「ええ、何とか……それにしても石碑ですか?」

「近くで見てみるか?」


せっかくここまで来たのだ。ついでなので見学していくことにする。


「私たちも一緒に行くわ」


獅子堂の隣で歩いている真人に、刀祢、咲耶、智、統吾、壮之介、マリアの六人が後ろから付いてくる。

石碑に興味があるのだろう。

歩いていくと目の前の石碑がどんどん大きくなっていく。

予想よりも石碑までの距離があり、たどり着いたときには目の前に巨大な石碑が立っていた。

何やら見たことのない文字がずらりと刻まれている。


「はぁ~、でかいですね……」

「凄いわね」


真人の左隣ではマリアが興味深く石碑を観察していた。

そういえば、マリアは遺跡に興味があって試験を受けたと言っていたのを思い出す。

右隣では獅子堂が石碑についての説明を始める。


「石碑にも文字が書いてあるが、読めないだろう。初見では考古学者の連中もサッパリ解読できなかったみたいだからな」

「初見ではっ……てことは今は解読されたんですね」


マリアが横から食いついてきた。

今の時代、時間をかければ大抵の事は判明するだろう。

人類はそこまで進歩したのである。

だが次に聞いた獅子堂の話を予想とは違っていた。


「解読したというか、別の方法で判明した内容を照らし合わせただけなんだがな」

「別の方法?」


興味津々にマリアがぐいっと獅子堂に迫る。


「あ、ああ。聖域には大抵メッセージが残されていることが多い。だが学者連中の話じゃそれらに統一性がないってことでな……」

「メッセージですか……」

「それぞれが別の国、いや文明と言った方が良いか……らしくてな。まあ、解読不可能って訳だ」


解読不可能。ではどうやって解読したのであろうか。

矛盾する内容に頭がこんがらがる真人。


「じゃあどうやって解読したんですか?」

「それを予期していたのかは分からないが……こっちの小さい石を見てみな」


真人の質問に獅子堂が横にポツンと置いてあった小さい石を指差す。

たわいのない只の石にしか見えないが――


「何ですか、これ?」

「思念石だ」

「思念石……ですか」


聞いたことのない単語に真人とマリアが首を傾げる。

獅子堂の話は続く。


「言葉ではなく、思念という方法で我々に伝えたいことがあったようだ。この石碑も含めてまるで遺書だな。それに魔力を込めてみろ。地力でも良い」


いきなり異能を発動させてみろ、と言われドキッとする真人。

真人は無能者である。まあ、手がないわけではないのだが……


「魔力か地力ですか。……天力は駄目なんですか?」

「う~ん、それが何故か駄目なんだよな。まあ気にする奴はいないがな。読めりゃどうでも良いだろ?」


かなりアバウトなようだ。細かいことは誰も気にしないのであろうか。

マリアが魔力を込めて石に触れる。

横で見ていた真人には何の変化もないように思われたが、マリアの顔は驚愕で満ちていた。

しばらくするとマリアが満足したような顔で石から手を離した。


「真人も触ってみたら? 面白いわよ」


見ると、刀祢や智、統吾や壮之介も触れている。

皆、一様に驚いている。


異能が使えない真人。

試しに真人は魔力もどき(・・・)を込めてみるが――大丈夫のようだ。

やはりこれには記憶が込められているのか。

威厳のある声が真人の脳裏に流れ込んでくる。

真人が触るのと同時に獅子堂が説明を加える。


「この石碑に書かれている内容は訳すとこうだ……


我、レガンツェの王なり。

世界が変革してから約百年。ついにアレが目覚めた。

かつて我らと同じ道を辿った先人達の協力も虚しく、我が国が滅ぼされるのも今や時間の問題である。

アレに対抗するために創った我らの最高傑作。我らが苦心の末に辿り着いたこれを永遠に失うのは耐え難い。

何処かの勇者達よ。我らの希望の一枝。どうか受け継いでほしい。

願わくば世界が救われんことを祈っている。


レガンツェ国第百八代国王、レイノルド=ガスターナ=レガンツェ


――ってな。まあ、思念石に触れれば分かることだがな」


石から流れ込んできた思念と同じ内容である。

何のためにこの石を残したのであろうか。――あっても困るものでもないが。


「レガンツェって国の名前だったんですね。しかし聞いたことがない国名ですね」


マリアが腕を組んで(しき)りに悩んでいる。

記憶にある情報を吟味(ぎんみ)しているようだ。


「この遺跡は神器という王を護るために作られた国のようなものだな」

「そういえば、この遺跡の作りって、何か中世の砦か城みたいよね。ここが王様の住む部屋で、途中に通った部屋が兵士の詰め所みたいな感じかな? 入口もいっぱいあったし、迷わない造りだったしね」


獅子堂の結論にマリアが感想を述べる。

そう考えると砦のような造りにも思える。

正に最後の砦とでも呼ぶべき感じも見受けられた。何があったのであろうか。




そんな真人達を遠目に見つめる者達がいた。

真道寺と柴祁那(しぎな)玲である。

玲は前々から聞きたかった疑問を真道寺にする。


「どうしてあの子を選んだの? 異能のレベルも最低。品性なし。しかも一介の技術屋よ。他の者達からの不満が絶えないわよ」

「フフっ、まあそう思うよね。でもね、彼この間異形を一人で倒したんだよ」

「なっ、異形を!?」


異形を倒す。

戦闘職の高位ランカーならともかく、一介の技術屋、しかも凡人以下の異能しか持たない男が倒せるようなものではない。

その事実に玲は驚愕を(あらわ)にする。


「そう。低級の異形だったけど中堅ランカーでも一人は無理でしょ」

「それは……そうね。しかしどうやって? 異形には剣も異能も効きずらいわ。A級か最低でもB級以上の異能での力押し、それか神器持ちにしか倒せないはず……」


通例通りであれば、異形は神器で対応するのが当たり前である。

だが時間をかければB級ランカーでも数人いれば討伐できることもある。

それでも高位の異能者の一端。

今まで感じられた真人の異能はB級はおろか、CやDにすら届かない。

とでもじゃないが現実的ではない。


「そこなんだよね~。彼不思議な技を使っていたんだよね」

「不思議な技?」

「異能の波動は感じなかった。恐らく旧時代の遺産」


旧時代の遺産。その単語に玲が過剰に反応する。


「……まさか!?」

「そういうことだよ」


意味深な言葉で会話を切り上げる真道寺。

玲もそれ以上は聞く必要はないとでも言わんばかりに(きびす)を返す。


しばらくして門松が大声でその場にいた全員に集合をかける。

天導により増幅された肺活量で広大な部屋中に声が届く。


「全員、集合しろ!」


班ごとに整列する試験生達。

負傷者も持ち直したようである。

高位の天導による恩恵であろう。異能とは便利なものである。


「よし、最上層に戻るか。帰りは一つの道で良いだろう」


門松が出発前の締めを行う中、近くでは玲と七星がこそこそと話していた。


「結局、圧魔筒(パンプ・ボム)は使わなかったわね」

「まあ、この程度の遺跡じゃしょうがねえよな」


女らしい口調の玲と男らしい口調の七星。対照的な二人であった。

それがフラグだったのか、直後に突如異変が起こった。

最上層で圧魔筒(パンプ・ボム)が爆発するのを感じたのである。

その場にいた全員が一斉に気付く。


「これは最上層部!? 誰かいるのか?」


一同に緊張が走る。

それはこれから起こる死闘を感じさせるものであった。


最近、パソコンの調子が悪い。壊れなければ良いが……

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