第21話 真相×生誕
遅くなりました。シリアスシーンが書けなくて…
――遺跡入り口から最上層部を繋ぐ階段。
更科が機嫌よく愚痴を連ねている。
「しかし異形なんざ久しぶりだぜぇ。数年振りか。全くつまらねえ化獣狩りばかりやらせやがって。ったく、化獣如きで俺様をこき使うんじゃねぇよ。なあ、お前らもそう思うだろ?」
随分な言い様である。
討伐を難なく済ませるには波風立てずにいるのが一番なのだが、敢えて加奈は率直な意見を述べる。
「化獣退治も私達の立派な仕事です」
「ふ~ん、つまんねぇ女だな」
加奈の返答を聞いて、蔑むような視線で加奈を見る更科。
加奈は気にせずに、冷静な面持ちを貫く。
それを見て興味を無くしたかのように加奈から目を離す更科。
そこで意を決したように加奈が話を切り出す。
「更科先輩、六年前の事件に関わり合いがあるようですね」
「あん? 六年前の……事件?」
加奈から話を振られて再び顔を向ける更科。そこで珍しく考える仕草をする。
しばらく考えた後、ハッと思い出すように手を叩く。
「ああ、あれの事か……莫迦な奴が実戦班に一人いたな。足でまといも良いところだったぜ。名前は何てったっけな~……確か……夏目……謙介だったか……うん? 夏目?」
そう言いながら、加奈に目を向ける更科。
何か獲物を見つけたかのように口唇を釣り上げる。
六年前、異形討伐の際に起きた不幸な事故。
異形討伐の際に一人の実戦班員が原因不明の異形化をしたのである。
異形化した実戦班員はそのまま逃亡。
数時間後にその実戦班員の家族宅にて発見。
その場で討伐された。
――その実戦班員の名前が夏目謙介。加奈の父親である。
「なっ!?」
父親への侮辱ともとれる言葉に加奈の頭に血が上る。
直後、加奈の頭に手がポンと置かれる。
優しく大きい手、古沢だった。
「俺の親友だった男だ。故人を蔑むのはやめてもらおう」
「へっ、涙ぐましいもんだねぇ~」
威圧感を乗せた古沢の言葉を軽く躱して適当にあしらう更科。
更科の態度は変わることはなかった。
それどころか、さらに挑発するように話を続行する。
「だけどソイツ、確か暴れまくった挙句、始末されたって聞いたぜ」
ニヤニヤしながら加奈の様子を観察する更科。
それを聞いて加奈が拳を握り締める。
「おっ、到着か?」
話しているうちに最上層部の広場に到着したようである。
灯りが見えてきた。
「まあ、俺の仕業だけどな」
呟いた程度の更科の言葉だが、加奈はそれを確かに聞いた。
「貴方が!」
「おっと、聞こえちまったか? ん? ククッ、丁度お誂え向きのものがあるじゃねえか」
階段を降りきって到着した広場。
何もない広大な空間だが、一つ妙なものが漂っていた。
討伐メンバー四人の前方にあるのは黒い霧の塊。何かを探しているように見える。
「お前の仕業とはどういうことだ?」
鬼のような顔をして古沢が立っていた。
先程の呟きは古沢にも聞こえていたようである。
「ハハッ怖いこったな。まあ良い……こうやったんだよ!」
物凄い怪力で加奈が押し出され、弾き飛ばされる。
「カハッ」
「その黒い霧は異形の元となる何かだ」
加奈の周りを黒い霧が包み込む。
全身を這いずり回るような不快感に加奈が悲鳴を上げる。
「なっ、何これ!?」
「くそみてぇな偽善者振りが見ていてうざかったんでな、それならと実験させてもらったって訳だ。父親と同じ道を辿れて良かったなぁ~」
黒い霧の正体は異形化の元となる『黒霧』。
一部の者しか知らない事実だが、この黒霧は異常の塊。
異常が高まると発生する黒霧。
異形は生物にこの霧が宿ることによって生まれるとの結論が出されている。
人型なら元は人間、犬型なら元は犬の化獣と相場が決まっている。
これらは機密情報扱いとして箝口令が敷かれた。
特に人型に関しては行方不明者がそれに当たると思われ、討伐に関して様々な障害が出るという懸念から、関係者には厳重に口止めがされた。
一度異形と化した生物は二度と戻ることはない。
非情と言われようとも討伐しなければいけないのだ。
その黒霧地帯の中心に投げ込まれた加奈が憎悪で加速的に異形化していく。
蓄積した異常が臨界点を超えようとしているのだ。
頭を抱え、うずくまる加奈。
「加奈ッ!」
事態を見た古沢が加奈に近寄ろうとするが――
「駄目であります! 古沢先輩!」
大和が後ろから両脇をがっちりと掴み押さえつける。
「離せ! 大和!」
「あれに触れるのは危険であります!」
黒霧が繭のような形をとって加奈の声も聞こえなくなる。
数秒の後、繭がヒビ割れるように割れていく。
割れた中から黒い全身スーツを着たような加奈が現れる。
全身が黒霧で換装され、黒一色の中に所々白い模様が刻まれている。唯一髪色だけがそのままである。
顔も肌色から漆黒に変わり、右目の周りには白い眼帯のようなものが付けられていた。
「フハハッ、素晴らしい! 俺の予想通り、やはりこの霧が異形を促すモノ。二度の実験で確実に証明できた。これが異形化! 世界の神秘だ!」
「貴様ッ!」
古沢が更科に殴りかかるが、更科が着ていた鎧のようなものから伸びてきた手で受け止められた。
直後、別の手ではじき飛ばされる古沢。
「ハハハッ、弱えなぁ~、おっさん」
「何だ……それは?」
古沢の疑問に更科が意気揚々と解説を始める。
「これか? この鎧は俺が自分で特注して作った最高傑作だ。護導服と波導具を合わせた攻防一体の鎧。波導護服といったところか」
更科が着ているのは軽鎧のような簡易な鎧に、手のようなものが四本ついたもの。
歪な形をした鎧は更科の狂気を訴えているかのようだ。
「……ん?」
更科が何かに気付いた。
見れば前後四方の通路から数体の異形がやってくるところであった。
「じゃあ、実験の結果も分かったことだし、そいつはアンタに頼まぁ~。俺は異形退治にでも行ってくるぜ。ここにもウヨウヨいやがるみたいだからな。異形の生態でも検証するか」
加奈に興味をなくしたかのように、更科は新しい獲物を目指して通路の向こうへと走っていく。
「お前らはそれとでも遊んでいろ」
最後に捨て台詞を吐いて更科は去っていった。
古沢は更科の事は眼中にないと言わんばかりに加奈の心配をする。
「加奈、しっかりしろ!」
「う、……うがが……」
見た目は異形と化しているが、心まではまだ侵食されていないようだ。
「ふ……彰おじさん、わ、私を殺してください」
「……!?」
苦しそうな中、無理にニコリと笑って訴える加奈。
加奈の言葉にショックが隠せない古沢。
その言葉は六年前の悲劇を再び思い起こさせるものであった。




