第20話 六年前
戦闘描写、結構飛ばしています。手抜きではない…と思う。
瑪瑙の遺跡入り口。
十代と思わしき虹色の髪を持つ少女と二十代の銀髪の男性が立っていた。
少女の瞳には憂いが濃く浮かんでおり、男には冷徹な瞳の中に少女を労わる優しさが溢れていた。
「ここに使徒の気配を感じる」
「どうするのだ?」
虹髪の少女に意見を窺う銀髪の男性。
今後の行動の全権は彼女が握っているようである。
少女は目を一旦瞑ると何かを考える素振りを見せて、再び目を開ける。
「決まっている。使徒は殲滅だ」
「……」
初めから答えが決まっていたかのように強い意志を見せる虹髪の少女。
銀髪の男性の方もそれが分かっていたのか、何も言わない。
「それに奴らもいる可能性もある。迂闊な行動はできないな」
「ならどうする? ここで中の人間が去るのを待つか? それとも……」
虹髪の少女は銀髪の男性の言葉を遮るかのように、手を口に当てて状況を訴える。
「シッ……誰かこちらに向かって来ている。一旦隠れるぞ」
目で了承した銀髪の男性と共に虹髪の少女は近くの木陰に身を隠すことにする。
しばらくして、五人組の人影が現れた。
XXXXXX
急遽編成された異形討伐チーム。
古矢、古沢、大和、加奈、更科の五人。
一行は瑪瑙の遺跡付近に乗ってきた車を止め、遺跡入り口まで歩いていた。
辺りに化獣や異形の気配は今のところない。
慎重に進んでいた一行であったが、ふと見ると更科が魔濃レーダーを見ながら狂ったような笑みを浮かべていた。
代表して古矢が事情を尋ねる。
「どうした? 更科」
古矢の問いかけに、更科が実に愉快そうな口調で現状を知らせる。
「フハハッ、こいつは面白ぇ~。魔素の乱れが半端じゃねぇ。こいつは大物がいやがるぜぇ~」
「大物? 確か二ノ宮が言っていたな、只の異形ではないと……」
「大物を中心に小物がわんさかと湧いてきている感じだ。こちらの神器は一つ。神器無しでやり合うハメになるぜぇ~」
大物やら小物やら抽象的な表現であるが、事態がただ事ではないことを示している。
一行に緊張が走る。
「あれが入口かぁ~。どうやら大物は遺跡内部にいるな。小物はホレ、あそこに数体出現してやがる」
更科が指した先には犬のような形をした黒い塊が数体。全身が霧のようにぼやけている。
異形で間違いない。
遺跡の内部に惹かれているのであろうか。入り口に向かっているようだ。
到着まであと数分といったところである。
「止まれ」
古矢が全員に指示を出す。
全員が足を止め真剣な表情をしている中、更科だけが不敵な笑いを浮かべていた。
「遺跡の内部には試験生達がいた筈だ。先輩達がいるから心配ないと思うが、万が一のこともある。一応早めに知らせておいた方がいいな」
「どうする?」
古沢が古矢に問い掛ける。
「俺が外の異形を抑える。四人は内部に入って先輩達に知らせてきてくれ」
「そんな。危険であります」
大和が反論するが、そこは古矢もA級ランカー。歴戦の戦士として、先輩としてのプライドがある。
諭すように自身満々に断言する。
「外は俺一人で十分だ。古沢さん、神器は預けます。中は任せますよ」
この程度の異形。神器はなくとも何とかやれる。異形といえども異能が全く効かない訳ではないのだ。
ランクAとはそういうレベルだ。
「了解した」
「チッ、中に入るぞ」
舌打ちする更科。何を考えていたのであろうか。
その様子を見て古矢が釘を刺す。
「更科、妙な真似はするなよ」
「分かってますよ、先輩」
そう言うと更科は一足先に中に入っていった。
口先だけの「先輩」という発言。尊敬の念が微塵もこもっていないことから、言葉を真面目に受け取っていないことを意味する。
嫌な予感を覚えた古矢が代表して古沢に忠告する。
「古沢さん、あいつには気をつけてください。六年前の事件の事もある」
「……六年前だと?」
六年前。その言葉に古沢が過敏に反応する。隣にいた加奈も何故か震えていた。
「更科があの事件に関わっていると?」
その言葉を聞いて、古矢がおやっとした顔をする。意外であったようだ。
「知っていたんですか……なら詳細は知って?」
「ああ」
遠い目をして当時を振り返る古沢。加奈も同様である。
「この子はアイツの娘だ」
まるで実の娘のように慈愛に満ちた表情で加奈を見て語る古沢。それを見て古矢が驚いた顔をする。
「そうか、夏目……確かそんな名前だったか。じゃあ、アンタは……」
その先の言葉は言わずとも理解できる。頷くと古沢は静かに言葉を発する。
「……俺はアイツの親友だった」
それ以上は聞く必要はない。古矢はそう判断し、話しを切り上げた。
「とにかく気を付けてください。ここで何が起こっているかも分かりません」
更科を追うように遺跡の中に入っていく残りの三人。
古矢が四人を見送ると、ジャストのタイミングで異形が現れた。
遺跡の入り口を塞ぐようにして相対する。
「さぁて、異形さん達よぉ~、俺とダンスでもしようか?」
四人が向かった後に二つの影が追従していたが、古矢が気付く事はなかった。
XXXXXX
――遺跡地下六階。
ようやく全体の半分を過ぎたようである。
地下五階で予想外(?)のトラブルがあったために、然程苦もなく進んでいた。
リタイア組プラス刀祢ハーレム要員二人は真道寺の近くで諦観を決め込んでいる。
真人にとってはある意味羨ましい光景であった。
溜まった疲れは誤魔化せない。真人ら残りの試験生六人は重い足取りで先へ進む。
これから先、もっと強い敵がいたら流石にしんどい。そう思いながら進む一行。
化獣の面子は今までと代わり映えがない。
そう思っていたが……
「あれは石像獅子ですか。何だか懐かしいですね」
「ふむ。これから先に紅蓮騎士より強い化獣は現れないよ」
再登場した初戦の面影を見て、真人が感慨深かげに感想を述べる。
最上層部で門番のように地下への侵入を防いでいた石像獅子である。
紅蓮騎士との戦闘があったせいか、何だか遠い昔の事のように感じるのだ。
真道寺の説明に成程と納得の試験生達。
紅蓮騎士より強い化獣がいないと聞いて、一先ず胸を撫で下ろす真人。
あんなのがゴロゴロいたら生きた心地がしない。感動で涙が溢れそうになる。
石像獅子も実はBランク相当なのだが、感覚が麻痺した真人はその事実に気付かない。
目の前にいた石像獅子。
だが目線を上にシフトすると、どなたかが乗っていらっしゃるように見受けられる。幻であろうか。
目を凝らす真人。正体は鋼鉄騎士であった。
隣を見ると泥騎士や水晶騎士が乗っている石像獅子もいる。
「化獣が化獣に乗ってる?」
「そういうこともあるさ。これからはこういう組み合わせ系もあるからね」
鋼鉄騎士オン石像獅子。
馬代わりというわけであろうか。人馬一体。見た目は随分と強そうである。
真人の体温が一度下がる。一難去ってまた一難である。
取り敢えず獅子乗り○○騎士と呼ぼう。
そんなことを思っていると、不意に獅子乗り鋼鉄騎士が襲いかかってきた。――速い。
「何だ!? このスピード」
石像獅子のスピードは水晶騎士並である。
それに乗ることにより鋼鉄騎士のスピードが増したというわけである。
石像獅子が邪魔して鋼鉄騎士に攻撃が届かない。
まずは石像獅子から退治するのがセオリーである。
統吾と壮之介が援護して、刀祢と咲耶、智と真人が接近戦で倒すという構図を取る。
ここに来て人数が少なくなったせいで、真人の戦闘頻度が格段に上がっていた。
本人にすれば涙ものである。
「クッ、いっぱいいやがる。これ全部倒さないといけないの? 相手しなくても良いんじゃないかな?」
「逃げたところで追ってきて体力を消耗するだけだよ。倒すのは当然だね」
真人の泣き言に全く耳を貸さない一同。
真人以外はやる気に満ち溢れている。
「クソッまた来た」
今度は獅子乗り水晶騎士が襲い来る。
両方とも素早い動きを持つ化獣である。そのスピードは段違いに速い。
コンビネーションも抜群で非常に戦いにくい。厄介な敵である。
石像獅子が真人に届く前に金属を擦り合わせたような音が聞こえた。
一筋の閃光が石像獅子を斬り裂く。刀祢である。
「ナイスッ、刀祢」
続いて単体になった水晶騎士をさも簡単に斬り倒す刀祢。
そうだ。最上層部で石像獅子をあっさりと倒した刀祢君がいるではないか。
重大な事実に気付く真人。さりげなく刀祢の周りをうろちょろし始める。
それに気付かずに次々と敵を倒していく刀祢。
智も相変わらずである。このタイプの化獣には投げが有効そうである。
鋼鉄騎士が乗っているにも関わらず、そのまま石像獅子を横に倒す智。
雪崩込むように鋼鉄騎士も放り出される。
そのまま、片方を利用して同士討ちをさせるように動く。高度な戦闘法である。
咲耶は逆に石像獅子を無視して鋼鉄騎士に飛び掛っている。勇猛果敢というべきであろうか。
そのまま石像獅子を避けながら鋼鉄騎士のみを標的にして殴りまくる。
動きの速い石像獅子よりも動きの遅い鋼鉄騎士から先に倒すという発想である。
鋼鉄騎士が散ると、次いで石像獅子を標的に変えて再び連打。
流石、Bランクの二人と名家のお嬢様といったところであろうか。
傍から見ていても圧倒的と言っても過言ではない程に楽勝である。
鋼鉄騎士や泥騎士がCランク相当、水晶騎士と石像獅子に至ってはがBランク相当の筈。
紅蓮騎士を思い出して、ランクAとBとではこんなにも差があるのかと改めて感じる。
統吾と壮之介は邪魔にならないように時折援護している。
その役目は主に泥騎士の討伐である。
どうやら各々が自分の役割を理解し、連係プレーは万全のようである。
真人もその中にいるかのように振舞っているが、実は何もしていない。無駄な高等技術であった。
――遺跡地下七階。
鋼鉄騎士の獅子版とも言える化獣が歩いている。鋼鉄獅子といったところであろうか。
獅子乗り系はと石像獅子と鋼鉄獅子の二系統に増えた訳である。
系統が違えば動きも性質や攻撃パターンも違うので臨機応変に対応しないといけない。
鋼鉄獅子は石像獅子に比べて硬度が上がっただけでスピード自体は変わらない。
落ち着いて対応すれば問題はない。
この階も難なくクリアする。
――遺跡地下八階。
流れで行くとあれは泥獅子であろうか。ドロドロの獅子が増えている。
泥獅子と水晶騎士の組み合わせがアンバランスで変な図になっている。
泥獅子と泥騎士の組み合わせなんかは、もはやキモいことになっている。
泥騎士に物理攻撃が効かないことを考慮する以外は、前の階と変わらない。
統吾達、真導士はもはや必須である。
この階も各々の担当を見極めて難なくクリアする。
――遺跡地下九階。
この階は水晶獅子が増えたようである。全身がピカピカに透き通った獅子がいる。
う~ん、パターンが複雑になってきた。
ちょっと整理しよう。
獅子系は、石像、鋼鉄、泥、水晶の四パターン。
騎士系は、鋼鉄、泥、水晶の三パターン。そういえば、石像騎士みたいなのはいなかったな。
この二つを掛け合わせて、四×三で十二パターンの獅子乗り系がいると……。
さらに単体が騎士系と獅子系で七体。
合計、十九パターンである。
光景は複雑怪奇。どこぞやのサファリーパークである。
そういえば水晶騎士はBランク相当。石像獅子はBランク相当。
ではその二つを合わせた水晶獅子はどれくらいの強さなのだろうか。
真道寺に確認すると……
「水晶獅子もギリギリBランク相当だよ」
「ちなみに最下層にボスみたいなのはいないですよね?」
「フフ。大丈夫だよ。最下層は神器が奉納されていただけだよ」
念のために最下層の情報も確かめる。
やはり紅蓮騎士がこの遺跡の最高ランクのようである。
注意すべきは水晶獅子。
最高にやばいのは水晶獅子乗り水晶騎士。略称、水晶ズ。
Bランクということなので、そこまで恐ることはない――そう思っていた時がありました。
「うおっ! 何だこのスピード」
「真人、咲耶、智、こちらに来い!」
間一髪で水晶ズの猛攻を回避する真人。水晶獅子のスピードが半端ない。
石像獅子レベルのスピードが周囲の魔素を吸収することにより、さらに強化されているのだ。
やはり真道寺の情報は当てにならない。
抜けているのか、それともわざとか。情報に穴があることが多々ある。
見た目には目で捉えるのも困難な水晶獅子のスピードだが、無意識にギアを上げている真人は難なく回避していた。
そんな中、危機感を覚えた刀祢が皆を集めて提案をする。
「お互いの背中を守りながら、自分の真正面に来た敵だけを狙い打ちする」
「よし、了解した」
「統吾と壮之介は遠くに退避して泥系統の化獣を集中的に退治してくれ。水晶系統はこちらがやる!」
「分かった!」
今一番有効な手である。
流石は刀祢といったところであろうか。
神経を尖らせて水晶獅子を待ち受ける真人、咲耶、智、刀祢の四人。
十字になるように互いに背中を預けて構える。
最速の一打を狙っているのだ。
確認できる水晶獅子は四体。
最優先でこれを撃破する。
待つこと数秒――来た!
「ハアッ」
刀祢の気合いの一閃。
水晶獅子が一体砕け散る。
上に乗っていた鋼鉄騎士が剣を振り下ろすが……
刀祢の返しの一閃でこちらも砕け散る。
「残り三体!」
咲耶が叫ぶ。
すかさず水晶獅子が智の前に躍り出る。
間髪入れずに智が投げ飛ばす。
水晶騎士が砕け散った傍から泥騎士が飛び出した。
智が危ないッ
「智ッ!」
誰が叫んだのであろうか。
その言葉を聞いたのかどうかは分からないが、統吾のフォローが入る。
統吾の放った炎の魔導術で泥騎士が溶けて消え去る。
「有難う! 統吾君!」
「気を付けて!」
智と統吾が言葉を交し合う。
息がピッタリである。
「残り二体!」
再び咲耶が叫ぶ。
一番厄介な水晶ズが再び刀祢の前に姿を現す。
刀祢が一閃して倒そうとするが――突如、軌道を変更して咲耶の横から襲いかかる。
「咲耶、横!」
刀祢が叫ぶ。
今度は間に合わない。
誰もが嫌な結末を予感したが――
即座に真人が右後ろ回し蹴りを放つ。
咲耶の頭スレスレを横切り、斜め上から脚を叩き下ろす。
強力な一撃が水晶ズを一斉に粉砕する。
だがその隙に真人の横にいた智に最後の水晶獅子が襲いかかる。
「智、右だ!」
統吾が叫ぶ。
またしても皆が嫌な結末を予感させる。
だが、今度は咲耶がフォローに入る。
「甘い!」
左回転しながらのバックブロー。
鋼鉄騎士が空中に放り出され、水晶獅子のみが吹き飛ぶ。追従するように咲耶が攻撃を加える。
――連打。
水晶獅子が粉々に砕け散る。
最後に水晶獅子に乗っていた鋼鉄騎士を智が投げ下ろす。
――天導強化・地面硬化
――天導付与・破砕点
投げ飛ばした着地点の硬化と投げ飛ばす敵の弱体化。
ピンポイントで叩き落された頭部からガラスが砕け散るようにヒビが入り、最後には粉砕される。
智の真骨頂が発揮される。
水晶獅子を全滅させた一行。
残りの化獣を狩ってゆく。
強敵が倒れたということもあって連携しながら落ち着いて対処してゆく。
狩り終わった頃には全員が疲れで満たされていた。
「もう限界……」
真人が呟いた。
戦闘が多すぎである。
元々、十九名いた試験生が残りたった六人。
実に三倍以上の労力を必要とした計算である。
疲れた身体にムチ打ちながら進んでいくと、地下十階への階段が見えてきた。
ようやく試験も終了である。
皆の顔にも笑顔が溢れる。
階段を降りて遺跡地下十階最下層、最深部の神器の間へと向かうのであった。




