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異端進化論(改訂前)  作者: 七草 折紙
第一章 能ない凡人は爪を隠す
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第1話 討伐チーム結成

このサイトの投稿が難しい・・・

防衛省管轄、異能災害対策室第二十八支部。

偉そうな大仰な名前であるが、所詮田舎の支部である。

常日頃の仕事といえば近辺の弱い『化獣(バケモノ)』の討伐や本部の雑用が殆どであった。

支部内には、実戦班、情報班、広報班、営業班、医療班、技術班の六部署があり、各部署を班長が取り仕切り、それをさらに支部長が取り纏めている。


その内の一つ、技術班は他部署に比べて比較的適当な運営で成り立っていた。

それぞれが自分のペースで好き勝手な開発に勤しむ姿は、協調性の無さを顕著に表していた。

はたまた田舎ゆえか自由気質な人間が多いのもまた事実であった。


XXXXXX


今日は本部から人が派遣されてくる日である。近辺に確認された異能災害の対応のため、優秀な人材が派遣されてくるのである。

そんな重要な日にも関わらず、少年は人ごとのようにいつも通りの仕事に行こうとした。だが今日は珍しく班長から呼び止められる。


――技術班班長、山科(やましな)宗次郎(そうじろう)

宗次郎は一言で言うなれば面倒くさがりであった。仕事の殆どは部下任せ、ある種の給料ドロボーである。

毎日何をやっているんだと疑問に思う者は数多くいるがそこは縦社会、基本上の者には逆らわない。


だが入社と同時にその事を追求した勇者がいた。この男、(ひいらぎ)真人(まこと)である。

ボサっとした灰髪ショートに黒縁眼鏡を掛けた百七十センチメートル弱の平均的な身長の男。

薄汚れた灰色のつなぎを着ている様はいかにも技術屋といった風貌である。


新時代以降、世界中の全ての人間の容姿に変化が現れた。異能の影響で髪色が個々によって多種多様な色に変化したのである。記録上、変わらなかった人間は確認されていない。

その結果、一般的な日本人の容姿は灰髪に黒眼となった。流石に瞳の色までが変わるといった事態には及ばなかったものの、そのカラフルな髪質は新時代の訪れを祝福しているかのようであった。


恐れ知らずなのか、はたまた鈍いのかは分からない。だが言いたいことを言い切った真人の姿勢に何を思ったのか、それ以降事ある毎に絡んでくるようになった。

細々とした技術屋としての平穏人生を望む真人にとって、この班長は正に天敵とも言える存在であったのである。


そんな宗次郎に声を掛けられ易癖とした真人は、気だるそうにしながら班長席に向かう。


「何ですか班長?」


余計な声を掛けるんじゃねえよと含みを込めて尋ねる。


「今日、本部から異能災害討伐チームが来るのは知っているな?」

「ええ、まあ」

「そこでだな。柊、お前一緒に逝って(行って)来い」


さらっと面倒くさそうに宗次郎が告げる。まるで近所にでもお使いを頼むような言い草であった。

この場合の「逝け」は本気の「逝け」だと、真人の経験上理解している。この班長に夢を見てはいけないのだ。


「はいっ? 俺、技術屋ですけど……というか、逝ってって酷くないですか?」

「現地には必ず実戦担当3名、医療担当1名、技術担当1名の計5名のチーム編成で行くんだ。言ってなかったか?」


真人の苦情をスルーして話を続ける宗次郎。真人のこめかみに青筋が浮かぶ。


「それは知っていますけど……」

技術班(うち)からは技術担当を一人って話だったんだが、お前を推薦しといたから」

「はあっ?」

「まあ、がんばってくれや」

「聞いてねぇぞぉーーーーーー!」


異能災害討伐チームとはその名が示す通り、災害レベルの異能に関連する事柄の早期解決や原因究明を目的としている。言うなればとっても危険なのである。

本来であればこんな辺境の支部、一生に一度巡り合えれば良い方である。それを新人に、しかも入社3ヶ月のペーペーに行け(逝け)と言っているのだ。正気とは思えない。


この仕事に就く以上、誰にでも荒事に直面する事態が起こりうる。そのため異能災害対策室に所属する全員に、護身術の習得が義務付けられている。

第二十八支部の面々も週一回のペースで受講している。

だがそこは入社3ヶ月。真人はまだ(ろく)に訓練を受けてもいないのだ。死ねと言っているようなものである。

温厚を自称する真人もこれにはキレた。


「ふざけんな!」

「心配するな。代わりの補充なら沢山いる」

「人でなしーーーーーー!」


容赦ない宗次郎の言葉。上司命令は絶対である。それがどんなロクデナシであろうとも。

真人はついに陥落した。宗次郎に目を付けられたが運の尽き。入社当時の安易な自分の言動に心から反省する。

溜息をつき肩を落としながらトボトボと集合場所へと向かうのであった。

この後、何故この時断固拒否しなかったのか、と己を悔やむことになるとも知れずに。


XXXXXX


本日は厄日である。何故自分がこんな目に遇うのかと真人は自分の不幸を嘆き悲しむ。


(くそっ、あの班長、絶対根に持ってやがる)


今、真人の目の前には本部から来た四人の男女の姿があった。本部から派遣されてきた異能災害討伐チームである。普段お目にかかれない本部のエリートを前にして真人は緊張を強いられる。

真人が最後のようだ。五人全員が集まったのを確認して、リーダー格と思わしき男性が喋り始める。


「俺がリーダーの古沢(ふるさわ)(あきら)だ。現地では俺の言うことには必ず従うように」


重みのある太い声で言葉を発したのは(いわお)のような大男だ。身長は百九十センチメートルはありそうだ。平均的身長の真人と比べてもかなり大きい。

異能者は外見で判断すべきではないが、(かも)し出す雰囲気だけでもかなり強そうである。

年齢は30代後半から40代前半くらいであろうか。髪は真人と同じ灰色をしており、オールバックに整えられていた。

強面だが精悍(せいかん)な顔付きをしている。古沢は大人の魅力で世のマダム達を(とりこ)にしそうなダンディズムを持っていた。


(怒らすと怖そうな人だな……)


お叱りは絶対に受けたくはない。最初に真人が思ったのはソレだった。古沢にはパブロフの犬の如く忠実であれと自分に言い聞かせる。


「僕がサブリーダーの真道寺(しんどうじ)(じゅん)です。よろしくお願いしますね」


次に自己紹介を始めたのは人気俳優を絵に書いたようなイケメン優男であった。二十代後半といった風貌だ。

身長は高く百八十センチメートルは越えないであろうか。細マッチョと呼ばれる引き締まった肉体と小さい頭が絶妙なバランスを取っている。

俗に八頭身と呼ばれるそれらが際立ち、スタイルの良さが伺える。

背中までかかった長い金髪が貴公子のような出で立ちを感じさせる。

スタイリッシュな眼鏡を掛けており、真人に唯一の親近感を持たせる。都会人の眼鏡同士である。

口調は柔らかく一見温厚そうだが、目の奥にある剣呑な光が腹黒い策士タイプであると告げている。


(コイツは何かヤバい。目を付けられたら終わりだ)


この男には気をつけないと身の破滅を招く、と真人の直感が警報を鳴らす。


「じ、自分は実戦担当の大和(やまと)(あゆむ)であ、あります。若輩者の新人ですが、よ、よろしくお願いします」


金髪ショートのイケメン男がガチガチに緊張しながら自己紹介を始める。

身長は百六十五センチメートル程で男の中でも低い部類なのではないだろうか。ほっそりとした痩せ気味の身体を見て大丈夫かと心配になる。

頬は上ずんでいて目も泳いでいる。直立不動で心此処にあらずといった感じである。今にも敬礼をしだしそうだ。


(何だ、こいつは? 新人ってことは俺と同い年か……)


「新人と言っても、御堂ヶ丘(みどうがおか)学園を主席で卒業した期待のエースです。

去年の全国学生対抗試合でも優勝したそうですし、若いながら世界試合も経験しています。今年の中では一番の有望株ですね」

「ハッ恐縮であります」


真人が不審な目で大和を見ていると、それを察したかのように真道寺が大和をフォローする。にこやかな顔からは打算は見られない。只の親切心であろう。

こうして見ると、イケメン二人の構図が絵になる。


(こいつもか。イケメン率が高すぎるぞ。イケメン祭りかってんだ。くそっ、男の癖に女のような顔をしやがって。俺に喧嘩を売っているのか)


心の中で不穏な事を思う真人。だが堅い軍隊口調とガチガチの大和を見ているうちに真人にまで緊張が伝染してきたのか、そんな事を考える余裕すら無くなってくる。

浮上してきた緊張を抑えようと無心を試みる。平常心になれ、と頑張るが煩悩の多い真人の事、無駄な努力であった。

緊張の中、真人も自己紹介を始める。


「技術担当の(ひいらぎ)真人(まこと)です。じ、自分も新人ですが、よろしくお願いします」

「うん、よろしくね」

「ハッ」


反射的についうっかり軍隊口調で返答してしまう真人。改めて気を引き締める。

ちなみに今日はいつも着ているつなぎではなく、実戦班と同じ制服を着ている。他の四人も同じ格好だ。

真人の中に四人との強固な連帯感が生まれるが、他の四人は慣れたもの。真人だけの勘違いであった。

普段つなぎしか着ていない男の悲しい習性であった。


真人を見てにこやかに微笑みかける真道寺。屈託のない笑みだが何故か恐怖を覚える。何を考えているか分からない。

何故か真道寺の背後にどろどろとした粘着質な蜘蛛(くも)の幻が見えてくる。

次第に絡め取られていくような感覚に真人の背筋に冷や汗が流れる。

この男に動じてはならない。毅然(きぜん)とした態度でいるんだと脳内で復唱する。


「私は医療担当の夏目(なつめ)加奈(かな)よ。今年で二年目だから貴方達二人の先輩に当たるわね」


最後に横から声が挙がる。このメンバーで唯一の女性である。真人と大和の二人を見据えている。

百六十八センチメートル程の身長で大和よりも若干高い。艶のある水色のロングが精錬された大人の雰囲気を出している。


「そうでありますか、よろしくお願いします」

「よ、よろしくお願いします」


真人と大和が同時に挨拶を返す。無表情の加奈に戸惑う二人。あまり表情に出ない人なのであろうか。

表情とは裏腹に声は柔らかい。真人の好きなほんわりとした甘い声である。


(もうちょっと笑顔なら柔らかい感じで好きだなー。若干ツン属性を感じるぞ。デレはあるのか?)


「古沢さんと真道寺先輩もよろしくお願いしますね」

「う、うむ。よろしく頼む」

「はい。よろしくお願いします。加奈ちゃん」


古沢が若干挙動不審になる。真道寺は慣れているみたいだ。二人の知り合いなのであろうか。


「加奈ちゃんはやめてください先輩。後輩に示しがつきません」

「ハイハイ。加奈ちゃんは真面目ですね」

「……」


変わらない真道寺の態度に諦めたのか、無言で溜息をつく加奈。


(これが今回のチームか……)


真人にとっては初の現場出張である。通常であれば力が入るであろうが、急な話ということも相成って、逆に落ち着いていた。


(まあ、魔濃(マノウ)レーダーの操作と魔道具が破損したときの修理くらいか…気楽に行こう)


ともあれ今回の任務が終わればしばらく会うこともないだろう面子。

真人としては平穏のためにも何ごともなく終わりにしたい。

昔のような殺伐とした血みどろの職場は勘弁したかった。


(俺は技術屋。サポートするだけの存在だ。たとえ何があろうと余計な手出しはしない)


本人の希望とは裏腹にある種の嫌な予感がするが、そこは敢えてスルーすることにした。

真人はここに来る前から気になっていた疑問を口にする。


「あの……四人とも本部の方と聞いたんですが、何で技術担当だけ現地採用なんでしょうか?」

「その事ですか。端的に言うと今回の対象は少々強敵でね。支部の人材では対応は厳しいということになったんだ」

「要はこちらの支部で使えそうなのが技術班だけだったという事」


真道寺の説明に加奈がフォローを入れる。


「そういうことですか。ですが実戦担当はともかく医療担当くらいは適当な人材がいたと思うのですが……」

「そこら辺は事情があってね。念には念を入れるってところかな」

「?」

「杞憂で終わればいいんだけどね。最悪の事態(・・・・・)もありえるって事さ」


(おいおい、最悪の事態って何だよ。俺を連れて行くなよ)


心の中で悪態をつく真人であったが、悲しいことに誰にもそれは伝わらない。


「まあ、行けば(おの)ずと分かるさ」


このとき気負いのない真道寺の言葉のせいか、真人は大丈夫だろうと甘く見ていた。


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