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異端進化論(改訂前)  作者: 七草 折紙
第一章 能ない凡人は爪を隠す
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第18話 紅蓮騎士

戦闘描写って難しいですよね。

防衛省異能災害対策室本部、一階ロビー。

これから異形討伐に出かける面々が集まっていた。

やる気の無さげな二十代後半の男性が自己紹介を始める。


「あ~っ、俺は遺跡探索班の古矢虎徹です。今回は俺がリーダーをやるってことになりました。古沢さん、よろしいですか?」

「お前の方がランクは上だ。かしこまる必要はない。俺は実戦班の古沢彰。皆、よろしく頼む」


年齢と所属年数では古沢の方が上である。

異能災害対策室は実力主義。

年功序列の精神は薄いが、礼儀を込めて古沢に確認を取る古矢。

古沢も快く了承する。


「じ、自分は実戦班所属、大和歩であります。今度、遺跡探索班の方でお世話になるであります。古矢先輩、よろしくお願いするであります」

「おう、よろしくな」


相変わらずガチガチの大和に、気さくに返事する古矢。好印象の先輩を前に大和も少し肩の力が抜ける。


「医療班、夏目加奈です。よろしくお願いします」


次いで加奈が挨拶をする。これで四人目。あと一人だが……


最後の一人が見下すような口調で自己紹介を始める。


「俺はA級ランカーの更科(さらしな)狂一だ。お前ら足引っ張んじゃねえぞ」


傲岸不遜な物言い。実力が伴うのだから文句は言えない。

聞いたことのある噂の男を前にして加奈が素朴な疑問を口にする。


「更科? あの噂の<羅漢>……実戦班じゃなかったかしら? 古矢さん、技術担当はどうしたのでしょうか?」


加奈の疑問に嫌そうな顔で古矢が答える。


ソイツ(・・・)が技術担当を兼任する」


ソイツ、とは更科の事である。実戦班の筈の更科が何故技術担当なのだろう、と思っていると……


「俺は優秀だからな。元々技術班員だったが実戦向きってことで引き抜かれたんだよ。ホレ」


魔濃レーダーを懐から取り出す。貴重な物の筈だが、かなり雑な扱い用である。


「そういうことだ。早速だが出発するぞ」


性格に難がありそうだが、任務に支障をきたさなければ問題ない、と納得する面々。

古矢が締めくくって早めに出発することにする。


「これから色々と実験させてもらうぜ。クハハッ」


更科の呟きは他の四人に聞こえる事はなかった。


XXXXXX


ゴクリと誰かの喉が鳴る。

無言で佇む紅蓮騎士(クリムゾン・ナイト)

炎を纏い圧倒的存在感を放つ(あか)い騎士を前に一同の足が(すく)む。

いつ動くか分からないAランク相当の化獣。嫌な緊張感が試験生達を包む。

背筋を流れるのは果たして炎の熱による汗なのか、冷や汗なのか。冷静を保とうとする一方、頭に霞が掛かったかのように判断がつかない。

今は一瞬も目を離せない。油断イコール死を連想させるからだ。


その手に持つ剣は血を思わせる程に紅い。その剣で襲い来ると思いきや、紅い騎士は周囲に炎を展開する。

辺り一帯が炎上し部屋全体が真っ赤に()える。


「やばい! 誰か結界を!」


誰かが大声で促す。だが――


「ギャアッ」


紅蓮騎士が動いた。こちらの体制が整うのをあちらは待ってくれない。

試験生の誰かが斬られた。


「熱い、熱い、あああああ……あっ」


尋常じゃない痛がり様。斬り口が燃えている?

このままでは死んでしまう。


「全く。いくらランクAとはいえ、ちょっとは頑張ろうよ」


真道寺がフォローに入る。急いで治癒を行う。斬られた試験生は気絶したようだ。

それくらいしてもらわないと只の鬼畜である。


「クッ」


再び違う試験生に襲いかかる紅蓮騎士。今度は回避したようである。

その隙に咲耶が攻撃を加えようとするが――


「待て、咲耶!」


咄嗟に刀祢が咲耶に飛び掛かり止めさせる。抱きしめる形になる刀祢と咲耶。


「な、何で邪魔するの?」


咲耶は若干照れながら刀祢に苦言を呈する。女子二名から悲鳴が上がるがこの際無視する。


「まあ、見ていろ」


地導(リアライズ)で具現化した刀『正宗』を構える刀祢。天導(ヘブンリィ)で加速した動きで紅蓮騎士の真横に躍り出る。

別の試験生達に囲まれ水系統の魔導術で足止めされていた紅蓮騎士。

その横から刀祢の一閃が紅蓮騎士を確実に斬り裂いた――かのように見えた。

直後、即座に後退する刀祢。手元を見ると地導で出来た刀の刀身が丸ごと溶けていた。


「なっ!?」

「奴の炎は異能をも溶かすようだ。下手な攻撃は怪我じゃすまない」


溶けた刀祢の地導刀を見て絶句する咲耶。顔は青ざめている。

あのまま攻撃していたら咲耶の波導具ごと腕まで溶けていたことだろう。

他の試験生達は本能で理解しているのか、誰も近づかない。


「流石、皇君だね。かなりの彗眼の持ち主のようだ」


真道寺が褒め(たた)えるが、刀祢は冷静に見返すだけ。刀祢も真道寺の事を快く思っていないようだ。

それにしても真道寺の真意が見えない。たかが試験でここまでするものなのだろうか。


「ランクAは伊達じゃないよ。生半可な攻撃は自分の身を滅ぼすことになるから気をつけてね」


刀祢達だけではなく、試験生全員に聞こえるように注意を促す真道寺。

今は目の前の化獣の事だけを考えるようにする。


「統吾!」

「おう」


真人が統吾に合図する。その先の言葉を発しなくても意味は伝わる。阿吽の呼吸である。


――魔導術・密封冷凍シールズ・フリージング


統吾の持つ杖が煌めく。風と冷気が生まれ紅蓮騎士を包み込む。ジュワッと音がして物凄い量の水蒸気が舞い上がる。

やったか?――直後、炎が風と冷気を押し返す。


「効いていない? クソッ、誰かフォローを!」

「任せろ!」


試験生の一人が氷結流(アイス・ストリーム)で援護する。氷雪系の魔導術と統吾の術とが合わさり、紅蓮騎士の炎と拮抗する。

だがこのままではジリ貧である。もう一人加勢して一気にケリを付ける必要がある。


「あと一人、誰か!」


見ると既に六人がリタイアしている。死なぬ程度に真道寺が回収しているようだ。先の戦闘までの四人と合わせてリタイアは合計十人。

残りは八人。真人グループの五人プラス、刀祢ハーレム二人。氷結流を撃っている試験生を合わせると他には誰もいない。


「誰か遠隔攻撃が出来る奴はいないのか? おい、そこのハーレム要員二人!」

「ハッ? 私達の事?」


真人が柄にもなく叫んで指差す。確か、初戦で術を撃っていた気がする。

すると刀祢ハーレムの女子二人からこの後に及んで冷静な返答が返ってくる。


「「私達は既にリタイアしました」」

「いや、そういう問題ではなくてだな……」

「真人! 早くしてくれ!」


統吾から焦った声が放たれる。限界が近いようだ。


「刀祢、咲耶、智ちゃん、どうする?」


三人共に近接系。打てる手は無いが……


「拙者が行こう」


刀祢が思案顔で立候補する。当然、ハーレム要員二人から反発が起こる。


「刀祢様、いけません!」

「ここでやれるのは拙者くらいだろう。他の者は素手だからな」


咲耶の殴打も、智の合気道も、真人の体術も素手なのだ。

唯一、刀であれば直接触れることはない。戦い用によっては渡り合えるのである。


「「な、ならば私達が……」」

「いらぬ!」


刀祢を止めようとする女子二人。だが、その二人を否定するような言葉が刀祢から返ってくる。

刀祢の剣幕にビクッとする女子二人。流石に可哀想かな、とは思わない真人。

既に現金すぎる二人の人柄を把握しているのだ。同情など湧きようがない。


「地導を限界まで高めれば何とかいけるやもしれん……だがその場合、天導を使う余裕が無い。出たとこ勝負だろうな」


地導で最大強度の刀を具現化して攻撃すると言い放つ刀祢。だがその分、天導での防御が疎かになってしまう。

攻撃が効かない場合、最悪の可能性もある。


「俺も行こう」


真人が名乗りを挙げる。この場合、諦観はできないであろう。そこまで冷たくはない。


「真人、其方が……か? しかし……」

「まあ、手はある。死にはしないさ」

「な、なら私も……」


真人の真剣な顔に刀祢が頷く。その光景に咲耶と智も追従しようとするが――


「手はあると言っただろう」


らしくない優しい顔をする真人。本人は気付いていないが、その顔にドキッとする咲耶と智。

それを隠すように元気良く見送ることにする。


「なら、頑張ってね。偶にはかっこいい姿も見せてよね」

「真人君、気を付けてね」


女子二人から優しい言葉を受ける真人。心にジンときて俄然(がぜん)やる気になる。


「おう、任せておけ! 刀祢、行くぞ!」

「うむ。では、行ってくる」


名残惜しそうな咲耶と智に見送られながら、再び死地に立つ男二人。

かっこよく後光が射しそうな場面だが、第三者から声が飛んでくる。


「君達、どうでも良いから早くしてくれ!」


統吾達の事を一瞬忘れていたことに気付く真人。

すまん統吾。つい自分のかっこよさに浸っていた。脳内に某映画のテーマ曲が流れる真人であった。











未だ術を放ち続ける統吾達。残りの異能量も限界に近い。


「真人、どうする?」


刀祢から質問が上がる。真人としては単純明快な策で挑む気満々である。


「あの水蒸気の幕に隠れて最大の一撃を送る」

「大丈夫か?」

「ああ、刀祢は牽制のために一撃入れてくれるだけで良い。後は引いてくれ」


真人を心配する刀祢。討伐の確率を上げるために牽制役を刀祢に頼む。


「了解した。其方を信じよう」


出会って短時間だが、嬉しい言葉をかけられる。信頼に応えるために、気を引き締めて覚悟を決める。


「統吾! 術が切れたら俺達がトドメを差しに行く。退避してくれ!」

「分かった! 聞いてたかい? 後は彼らに頼むよ!」

「了解した! あと十秒程で退避する!」


統吾と一緒に術を放ち続けていた試験生も真人の策に同意する。カウントダウンが始まる。

十、九……三、二、一……


――零!


統吾達が後退するのと入れ違いで真人と刀祢が飛び出す。

素の速度でもかなり速い刀祢。合わせるように逆方向に走る真人。


後方に辿り着いた刀祢が地導刀を振るう。紅蓮騎士を僅かに斬り裂いた。地導刀が溶けたのを確認して飛び退く刀祢。

刀祢に気を取られていた紅蓮騎士。その背後から真人が迫る。――が、本能なのか全身から炎を吹き出す紅蓮騎士。


「真人!」


炎の直撃を受ける真人。刀祢の慌てる声が聞こえるが――


「大丈夫だ」


真人が無事に紅蓮騎士の背後に躍り出る。真人は全身が若干焼けただけである。

異能そのものを使った攻撃は真人には効果がないが、物理的な攻撃に転換した異能の術であればダメージをくらってしまう。

それでも元が異能(・・・・)である以上(・・・・・)、常人よりも効果が薄い。


異常は異常に惹かれあい、異常と正常は反発しあう。それが世の摂理。

異能とは異常。無能とは正常。故に異能と無能は相容れない。

真人の無能体質が成せる技である。


水蒸気に隠れて見えない今なら使える。


――六式


真人が技を発動させる。

さらに、凍りついた(・・・・・)紅蓮騎士に気で強化した一撃を加える。


パリィーーーーーーン……


何かが砕け散る音が部屋中に響く。何が起こったか理解できない試験生達。

徐々に水蒸気が晴れていく。

現れたのは裸一貫の男の姿。――真人一人だけがその場に佇んでいた。


そこには紅蓮を纏った騎士の姿はどこにも存在しなかった。


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