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異端進化論(改訂前)  作者: 七草 折紙
第一章 能ない凡人は爪を隠す
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第17話 異能者と無能者

本日二話目です。これで打ち止め。

――遺跡地下二階。


地下一階と同じように鋼鉄騎士(アイアン・ナイト)の姿が見える。

だが地下一階とは違い、泥のような化獣もいる。


「あ、あれは何ですか?」


真道寺が答える。


「あれは泥騎士(マッド・ナイト)だね。硬くはないけど物理攻撃は効かないからね」


他のグループ連中が泥騎士とやりあっている。斬り裂く度に泥が飛び散り服を汚していく。それでも倒せない。

突いても叩いても同じ。成程、物理攻撃が無効化されている。魔導系(デモンズ)が有効そうだ。


「うう~っ、私はパス」

「私もちょっと……」


地下一階では活躍していた智と咲耶が躊躇している。ここは彼に頼もう、そう真人は思った。


「統吾、出番だ」

「僕かい?」

「お前、真導士(ウィザード)って言っていただろう?」

「そうだね。ここは僕の偉大さを見せつけるチャンスかもね」


ここに至って、真人は人に役目を振るのが(さま)になっていた。指揮官の素質があるのではないか、などと見当違いな事を思っていた。


「行くよ」


杖先に風が集まっていく。その周りを炎が辿っていく。


――魔導術(デモンズ・スペル)密封焦化(シールズ・バーン)


泥騎士の周りを風と炎が囲い閉じ込める。ジュワッと音がした後には何も残されていなかった。

これはこれで恐ろしい。


「うわっ。えげつない」

「フン。何を言っているのか。これくらいやるのは当然だ」


この階の担当は統吾君で決定した。そう真人の中で勝手に任命式が行われた。さあ先に進もう。




――遺跡地下三階。


ここも鋼鉄騎士と泥騎士が彷徨(うろつ)いている。それ以外は特に変わらないようだ。


「この階も上の階と同じだね。特に問題は無いよ」


どうやら皆さんにお任せしてもよろしいようだ。そう思っていた真人だったが、ふと真道寺からお声がかかった。


「ところで柊君」

「はい? 何でしょうか」

「君、全然戦っていないよね」

「うっ」


図星を指されてしまった。真人は視線を泳がせて言い訳を探す。


「必要ないと思いまして。邪魔にならないように場を見切るのも欠かせない能力でしょう」

「まあそういうことなら仕方がないね」


ホッと息を吐く真人。何とかこの場を(しの)いだようである。だが真道寺の言葉が続く。


「逆に言えば必要あれば戦うということだね」


何か不穏な言い回しである。この男のやることに良い予感がしない。

思えばこの試験を受けたのも本当は間違いではなかったのか、そう思わずにはいられない真人であった。




――遺跡地下四階。


例の如く鋼鉄騎士と泥騎士がウヨウヨしている。だが新顔もいるようだ。鈍い色の鋼鉄騎士や泥騎士とは違い、体全体が輝いている。


「この階から水晶騎士(クリスタル・ナイト)が出没するから気をつけるように。この化獣(バケモノ)は周囲の魔素を吸収して超加速する能力を持っているからね。ボヤボヤしていると()られるよ」


さらっと怖いことを言う真道寺。一同に緊張が走る。

その時、いきなり水晶騎士と呼ばれた化獣が真人の前に躍りだした。鋼鉄騎士や泥騎士よりも圧倒的に速い。持っていた剣が振るわれる。


「にゃにっ?」


傍観を決め込んで油断していた真人。思わず噛んでしまったがご愛嬌である。

(すんで)のところで剣を避ける。紙一重である。


「てめっ、何故に俺を狙う!」


紙一重で躱し続ける真人。周りを見てみると他の連中も襲われているようだ。

幾度目かの攻撃を躱した瞬間に拳に気を込めて水晶騎士の腹を殴る。


ドゴンッ


水晶騎士が壁際まで吹き飛んだ。だが吹き飛んだだけでダメージが少ない。

まさか自分から飛んで衝撃を吸収したのか、と驚く真人。再び襲いかかってくる。

水晶騎士の剣が当たる瞬間に上に跳ぶ。水晶騎士の真上に辿り着き、上方から強烈な一撃を叩き込む。


「オラァッ」


衝撃を逃しきれずに今度こそ水晶騎士が砕け散る。それを確認してふうっと安堵の息を吐く真人。

だが周囲が静かな事に気付く。何だろうか。

皆の方を向くと全員が目を点にしてボケッと立っていた。どうやらこの辺の化獣は粗方倒し終えたようだ。

だが気を抜きすぎている。俺を見て何をしているのだ。

意味が分からずに真人は首を傾げる。これくらい皆もできるだろう。


「あの、どうしたの?」

「い、いや……」


統吾が口を噤んでいると、代表して智が聞いてきた。


「真人君、今のどうやったの?」

「えっ? どうやってって皆もできるでしょ?」


当たり前のように言う真人に的を得ないのか、智が説明してきた。


「あのね、皆できるというか、今の真人君の動きって感知できなかったのよ」

「感知?」


真人には聞き覚えのない言葉である。業界用語であろうか。


「えっとね、異能の力を使うときには何らかの兆候があるはずなの。異能の波動っていうのかな。真人君にはその予備動作が無かったのよ」

「そ、ソウナノ?」

「うん。対人戦でそれができたらかなり有利になるの。高位のランカーになるとその兆候を僅かなものに変えることができるって聞くわ。でもね、どんなに達人でも全く(・・)感じないってことはありえないのよ」


今更ながらに今の状況を理解する真人。無能者の真人にとっては異能を使わないのが当たり前なので、感知など分かるはずもないのだ。


(そういえば昔、周りの奴らがそんなことを言っていたような……俺は気配しか感じていなかったからな。異能の波動か……)


取り敢えず言い訳を考える真人。だがそんな難しいことはない。


「俺は異能なんて使ってないよ。今のは只の体術だ」

「只の?」


その発言に余計に吃驚(びっくり)する一同。


「成程ね。Gランクと聞いて腑に落ちなかったが、そういうことか。体術だけでその実力恐れ入ったよ」


統吾が納得したと言わんばかりの顔で頷く。他の面々も粗方納得したようだ。

だが試験生の一人が納得がいかないのか追求する。


「ふむ。彼は体術が得意なのか? しかし、肝心の導術(フォース)の方が使えないようだが……」


その通りである。体術だけでは限界がある。その事を指摘しているのだ。


「まあ、その辺は色々と事情があるんじゃないの? 直接上の連中にでも聞いてみたら?」

「い、いや良い。そこまでする必要はない。只の確認だ」


上の連中。その言葉に怖気(おじけ)付いて先程の男が引き下がる。

そこで真道寺が手をパンパンと叩いて場を締める。


「は~い、気を抜かないようにね。早く先に行くよ。余りモタモタしていると、到着が最後の班になっちゃうよ」


気を使ってくれたのであろうか。一瞬そう思ったが、真人は見てしまった。――真道寺がニヤッと悪魔のような笑みを浮かべているのを。

嫌な予感が頭を()ぎる。




――遺跡地下五階。


「のほぉぉぉぉぉぉっ!」


襲い来る水晶騎士に真人が縦横無尽に駆け抜け逃げまくる。目からは涙がホロリと流れる。


傍から見たら只逃げ回っているだけに思えるが、見る者が見たら驚愕するような動きをしていた。

水晶騎士の集団の素早い攻撃を全て紙一重で避けきっているのである。カウンターを与える余裕まである。


三班で理解できるメンバー、真道寺、刀祢、咲耶、智、統吾の五人は唖然としていた。

一見、おマヌケな様相の真人と高度な動きがミスマッチしてどうリアクションして良いか分からない。


「お前ら、見てないで戦えー!」


此処に来て、真人が戦う頻度が増えてきた。周りの者達が真人の実力を知り、敵を回しているのである。余計な気を使わないで頂きたい。

真人の叫びでハッとなり戦いだす一同。敵を殲滅し尽すまで、終始真人の叫び声が聞こえていたという。




――遺跡地下五階、最奥部。


通路の先には階段があるはずだが、何故か部屋が見えてきた。


「さあ、此処には良いものがいるんだ。あちらを見てごらん」


良いものと聞いて真人は嫌な予感がした。真道寺が意気揚々と紹介する。

真道寺が指差したのは部屋の中央に鎮座している一つの赤い鎧もどき。動かないので化獣では無いのだろうか。そうであって欲しい。


「あれは只の鎧。だけど、こうやって炎を当てると……」


真道寺が炎を鎧に放つ。当たったと思った炎は鎧に吸収されてしまった。何がしたいのであろうか。

皆が不思議に思っていると、微動だにしなかった鎧が震えだした。目の辺りが光りだす。眼力の強いお方みたいだ。


「あれは紅蓮騎士(クリムゾン・ナイト)。他のルートにもいたんだけどね。前回踏破したときに破壊してしまったんだよ。正真正銘これが最後の一体だ。ゲームでいうレア種って奴かな。戦えて幸運だったね、君達」


ニコッとする真道寺。誰もが何言ってくれてるのこの人、という目をして見ている。真人も同じ気持ちであった。何をしてるんだ、この男は。

皆の思いを他所(よそ)に甲高い金属音を響かせて紅蓮騎士が動き出す。


「ちょ、ちょっと……ちなみにランクはどれくらいなんでしょうか?」

「ん? ランクはAだよ。この遺跡のCランクというのは平均的な化獣の強さだからね。これは例外だよ」


真人の質問に淡々と答える真道寺。

ランクA。冗談では済まないレベルである。試験生達がざわつく。コレをどうしろと云うのだ。

紅蓮騎士から炎が吹き出す。全身が炎で包まれた。腰にぶら下げていた真紅の剣を抜く紅蓮騎士。

あちら様は準備完了のようである。


「さあ、柊君がんばりたまえ」


真道寺を絞め殺したくなる真人であった。


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