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異端進化論(改訂前)  作者: 七草 折紙
第一章 能ない凡人は爪を隠す
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第16話 波導具

前話までのサブタイトル変更しました。ご容赦ください。

異能災害本部、B棟地下二十一階。

最近完成した地下施設。神器を守るように造られたこの施設の一角に遺跡探索班の仕事部屋があった。普段は主に待機やミーティング、座学等が行われる。

本部直轄と位置付けされる遺跡探索班は、上層部からの特殊な頼み事も多い。

真人は知らないが、遺跡や神器の管理の他に、実戦教育や要人警護等の仕事も何故か降りてくる。

そのパイプ役は秘書課が受け持っていた。秘書課という肩書きだが、異能災害対策室の秘書は一線を画していた。


その部屋に一人でいた男だが、不意に扉がノックされた。

返事がないことを何とも思わずに、当たり前のように部屋に入っていく一つの影。秘書課に所属する女性であった。

女性は溜息を吐くと、気を取り直して事務的に言葉を発する。


古矢(ふるや)さん、出番です」

「あぁ? 今日はガキ共の試験で何もないはずだったが」

「その試験場の付近に異形が孵化する気配があるそうです」

「はぁ、面倒くせぇ~なぁ~」


古矢と呼ばれた男が面倒くさそうに感想を述べる。

緊張感の無い相変わらずの古矢に女性が無言でギロリと睨みつける。

男は冷や汗を流しながら、仕方なく了承した。


「わ~ったよ。行けば良いんだろ? その目はやめてくれ、二ノ宮(にのみや)

「始めからそうして下さい」


二ノ宮と呼ばれた女性が、無表情で冷静に苦言を放つ。

冷たい言いようの二ノ宮の姿に、流石の古矢も言葉に詰まる。

取り繕うように直ぐ様仕事の顔になり、必要な情報を聞くことにする。


「で、他は誰が行くんだ? 通例通り五人チームなんだろ?」

「今度入る遺跡探索班の新人、B級ランカーの大和歩。同じくB級ランカーの実戦班員、古沢彰。医療班にC級ランカーの夏目加奈。この三名は前回の異形討伐チームのメンバーだそうです」

「ふ~ん、B級ランカーが二人もいれば余裕だな。それで、あと一人は?」

「実戦班のA級ランカー、<羅漢>の更科狂一です」


その言葉にピクッとする古矢。心底嫌そうな顔をして呆れ返る。


「おいおい、アイツを連れて行くのか? また面倒な事を……」

「実力は折り紙付きです」

「そこじゃねぇんだよ。知ってるだろ? あのイカレ野郎の噂。つ~か、A級二人もいらねぇーだろ。何でそうなるんだ」


正論を混ぜながら愚痴を述べる古矢。その姿に二ノ宮も苦渋の選択とでも言わんばかりに事実を告げる。


「現在、本部にいるA級ランカーは貴方と彼の二人だけです。それと、今回は只の異形だけではない可能性があります」


意味深な言葉に首を傾げる古矢。


「どういう意味だ? 回りくどい言い方は好きじゃないんだ」

「詳しい事は分かりません。だからこその最大戦力です」

「念の為ってどころか……まあ、上の連中の考える事なんざ分かりゃしねぇがな」

「……」

「しょうがねえ。行ってくるか。こんな厄介事を引き受けるんだ。後で御褒美を貰っても良いよな?」


二カッと二ノ宮に笑いかける古谷。その姿に冷静な表情を崩して頬を染める二ノ宮。


「か、考えておきます」

「つれないねぇ~。ハハハッ」


扉に向かいながら首だけ後ろを見て手を気だるげに振る古矢。

嫌な任務に向かうのとは裏腹に気分良さそうに部屋を出て行くのであった。


XXXXXX


――遺跡最上層部と地下一階を繋ぐ階段。


「「さあ、刀祢様、行きましょう」」


胸をぐいぐい押し付けるようにして刀祢を引っ張る女子二人。

刀祢はいきなりの展開に困惑している。


「何よ、あの子達」


真人の隣では咲耶がブツブツと言いながら不貞腐れていた。

その姿につい、ポロッと言ってはいけない言葉を吐いてしまった。


「嫉妬か?」

「ち、違うわよ」

「ふ~ん……」

「……」

「……」

「……何よ、言いたい事があるなら言ったらどう?」


何も言葉が出て来ずに無言でいた真人。それを見て何を勘違いしたのか、咲耶が逆ギレしてきた。拳を握りしめている。やばい。

慌ててその場を取り繕う。


「い、いや。お前が良いなら問題ないんだよ。うん。そうだ。問題無し」

「なら良いのよ。それにしても……」


ついに咲耶が刀祢にまとわりつく二人に物申す。


「貴方達、試験中よ。減点されるわよ」

「良いわ。私達はリタイアします」

「へっ?」


栗髪グラマー女が予想外な言葉を口にする。余りの展開に戸惑う咲耶。

すると青髪スリム少女がその先の言葉を紡ぐ。


「私達は生涯の主を見つけました」


生涯の、ですか。安易に決めすぎではないでしょうか。

コイツら馬鹿だ、と真人は思った。


「「一生お側に仕えさせて頂きます」」


熱烈的な決意の言葉をハモる二人。その後の刀祢の答えを見守ることにする。

当然、断るだろうと思っていたが、


「ふむ。よろしく頼むぞ」


了承したようである。

受け入れちゃうの? 何、この茶番。

隣を見ると咲耶が非常に怖い顔をしていた。

その向こうでは智と統吾が我関せずと言わんばかりに話に華を咲かせていた。――お前ら、無視か。




――遺跡地下一階。


「ララララララララッ!」


バギボギメキドカ


前方、咲耶が荒れている。気合の雄叫びを上げながら、敵にラッシュ、ラッシュの殴り放題。鈍い音が心地悪く部屋内に響く。


「アハハハハハッ!」


ドゴンズシンドカン


右方、智が猛っている。狂ったように笑いながら、敵を投げて投げて投げまくる。部屋全体が揺れている。


「まあ、刀祢様ったら。ウフフッ」

「冗談は言っていない」

「そうですよ。刀祢様は誠実なお方なのですよ」

「そうでしたわね。ウフフッ」


後方、刀祢がハーレムを築いている。うざいくらいに甘ったるい声が、部屋中に聞こえてくる。ピンク色のオーラで室内が充満する。



……カオスだ。

真人と統吾の二人で縮こまっている。他グループの視線が痛い。

目線でお前ら何とかしろと訴えてくる。無理です。

小声で統吾に「何とかしろ」と訴える。


「おい、統吾」

「何も言わないでくれ。僕達は無力だ」

「……ソウダナ」


話題を変えるように近くにいた真道寺に話しを振る。こういうときには役に立つ男だ。


「あ、あれは何て化獣なんですかね?」

「ん? ああ、あれは『鋼鉄騎士(アイアン・ナイト)』だね。全身が鋼鉄でできた人型の化獣。Cランク相当だけど、硬さはピカイチだよ。生半可な攻撃じゃビクともしない……その筈なんだがね」


鋼鉄騎士の一体が咲耶の打撃で鋼鉄の体が砕けていく。一撃一撃が強力な衝撃を与えているようだ。

別の個体は智の投げで地面に体を打ち付ける度に砕けている。どうやら只投げているよりは打ち付ける瞬間に何らかの異能を発動させているようだ。

感心して見とれていると敵を殲滅したのか、咲耶と智が帰ってきた。


「凄いな、咲耶」

「ウフフ~そうでしょ。あ~すっきりしたぁ~」

「それは波導具(フォース・ウェイバー)か?」


咲耶の手元のナックルガードに目を向ける。すると目を輝かせてうんちくを語り始める。


「そうなのよ。完成するまで技術工房に散々通ったんだから」


技術工房とは様々な機器の修理や改良を承る民営の工房である。波導具も取り扱っている。


――波導具(フォース・ウェイバー)


異能を能力増幅、発動速度上昇を促す道具である。大抵は武器の形をしている。

導術(フォース)を発動させるには、数々のステップが必要になる。波導具が無くても発動は可能だ。

だが、時間が掛かる上に、集中を乱されると中止(キャンセル)、あるいは暴発することもありえる。

そこで、様々なプロセスを一つの波導(ウェイブ)としてブロック化させる案が成された。

これにより、設定した波導経路に異能を流すだけで導術を発動させることが可能となった。

波導は複数登録でき、それらを繋ぐ経路(パス)の組み合わせを変更するだけで様々な導術が安易に発動できるようになったのだ。


「私の波導(ウェイブ)は主に打撃中心でね。強化系と加速系、後は硬化系や破砕系くらいかな」

「へぇ~、凄いな」

「そうなのよ。やっぱりストレス発散は殴るに限るよね」

「……ソウダネ」


恐ろしい発言を聞いた気がした。深く考えないようにしよう。

その時ふと智と目が合った。


「智ちゃんは何を使ってるの?」

「私は素手が良いから、このイヤリングタイプの波導具(フォース・ウェイバー)ね」

「へぇ~、キュートだなぁ~」

「はへ? へ、変なこと言わないでよ」

「ご、ごめん。聞こえてた?」


心で萌えただけなのだが、声に出てしまったようだ。智ちゃんは卒業した筈なのだが、その柔らかい容姿でどうしても萌えてしまう。

横では統吾が真人を睨んでいる。分かりやすい奴である。ふん。お前を応援すると言った覚えはない。


「拙者はこの指輪タイプであるな。刀は地導(リアライズ)が一番だ。刃(こぼ)れも無いしな」


いつの間にか刀祢が隣に来ていた。横には相変わらず女子二人が引っ付いている。いつまでこの状態なのだろうか。


「ふ~ん。統吾は?」


刀祢をさっくりとスルーして統吾に話しを振る。刀祢よ、お前はその二人とハーレムを築いていれば良い。

統吾は先程まで真人を睨んでいたが、今は平然としている。さっぱりした性格なのであろうか。


「フン。僕はこの杖だ。美しいだろう。打撃にも耐性がある」


取り出したのは30センチ程の短い杖。くにゃくにゃした形をしており、杖の先の中心には宝石らしき装飾もされている。凝った造りである。


「まあ綺麗だな」

「フフン。当然だろう」


偉そうにドヤ顔をする統吾。そこまで自慢するような事か、とは言わない。人間関係は良好にしようではないか。

ここで真人は予期していなかったが、当然真人にもその質問が来る。


「真人はどうなんだ? どれが波導具なんだ?」

「えっ?」


しまった。自分の事が頭から抜けていた。そう思った時には時既に遅し。しょうがないので、適当に取り繕うことにする。


「お、俺はこの眼鏡かなぁ~」

「かなぁ~?」

「いや、この眼鏡だ」


嘘が下手な真人。疑問形の口調に統吾が訝しむ。


「その眼鏡。ちょっと外してみてくれないか?」

「な、何故かな?」


統吾から嬉しくない提案がされる。柴祁那(しぎな)先輩の時と同じ流れである。


「眼鏡タイプなんて珍しいからね。拝見してみたいのさ」


この場を逃れるために頭をフル回転させる真人。出てきた答えは……


「これは一回外ずすと壊れちゃうんだよ。とんでもない代物だよな……ははっ」


そんな事は聞いたことがない。統吾、咲耶、刀祢とその取り巻き二名が一斉に真人を不審な目で見始める。

と、ここで智がフォローを入れる。


「まあ良いじゃない。そこまでの事?」

「そうだな。人の事情にそこまで踏み込むことはない」


智のフォローに刀祢が同意する。重たかった空気が霧散する。嗚呼有難う、智ちゃん。これで二重人格(アレ)が無ければ……。

改めて智の偉大さを知る真人。だが、恋愛対象には成りえない。


そんな話しをしているうちに階段までやって来た。ここで地下一階は終わりのようだ。

一行は階段を下りていく。


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