第15話 導術
戦闘描写難しい。稚拙な文章ですが、ご容赦ください。
――導術。
それは異能を糧に異常へと導く術のこと。
異能とは天力、地力、魔力の三つを指す。この三つの力は新時代以降、誰にでも備わっている。
副次的な潜在効果として筋力上昇、感力上昇、知力上昇の効果を促し、大抵の人間はそれだけである。
その異能を消費して異常を引き起こすことが可能となるのが三種類の導術。
だが術を使いこなすようになるのは並大抵のことではない。そのため、常に修練が必要とされるのだ。
――天力は『天』の恩恵を与えられし天の力。
俗に超能力と呼ばれる異常を操り、機動力に優れる。
――地力は『人』の想いを実現する地の力。
具現化能力を有する。固有の武器を一時的に作り出し、身に纏うことで強力な鎧にもなる。近接戦闘に優れる。
――魔力は『魔』に魅入られし魔の力。
世界に干渉し異常現象を引き起こす。広域殲滅戦に優れる。
それぞれ天導、地導、魔導と呼ばれ、昨今では教育と研究にも力が入れられている。
また、世界でも数人しか使えないと呼ばれる四つ目の力も存在するという噂もある。
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(ハァ~、凄えなぁ~。さすが遺跡探索班の選定試験。全員、術のスペシャリストってか)
目の前では今まさに激しい攻防が繰り広げられている。
三班は総勢、五人×二グループ、四人×二グループの十八人構成である。この場は即座に無言の判断。全員一致で半々に分かれた。
真人達九名とは別の九名が、襲いかかる石像獅子の一体を相手していた。
真人の目から見ても高度な術合戦である。その鮮やかな攻防に感嘆の声が漏れる。
空を飛び回り攻撃を加える者。上空に生み出した落雷を降らす者。戦国時代の甲冑のようなものを着ている強者もいる。
選択のセンスはともかく、もの凄い光景である。
「ほら、私達も行くわよ!」
「えっ?」
咲耶に急かされる真人。気付けば刀祢と智、統吾が既に向かっている。
石像獅子はもう一体いる。女三人と男一人のハーレムグループが懸命に相手をしているが、決定打がなく厳しそうである。
この遺跡の化獣は相当レベルが高かったはずである。というよりか、遺跡自体が高位の化獣の巣と聞いている。
石像獅子も恐らく高位の化獣。現に、前方の石像獅子も様々な術を連発している。
天導系の速度上昇術で素早い動きを起こし、魔導系の火炎弾を口から飛ばす。四対一でも互角以上の戦いをしている。
見る者が見れば地獄の光景であった。
真人も参戦すべく行こうとするが……
(あの中に突入しろと……嫌だ。クッ、しかしこれも待機人生への第一歩。背に腹は変えられない。頑張らねば俺に明日はない)
「よし。い、行くぞぉー!」
真人が、らしくない気合の雄叫びを上げながら突入する。緊迫した声が遺跡内に響き渡った。
四人グループが必死で石像獅子を相手にしている。
――魔導術・氷結流
小柄な女性の試験生が術を放つ。他の三人と牽制と攻撃を巧みに入れ替えて戦っているようだ。
石像獅子が凍りつき、動きが止まる。
「今だ!」
――地導斧・大斧
筋肉隆々の大男が具現化された巨大な斧を石像獅子の頭上から叩き下ろそうとする――が、一瞬早く氷が砕け散り石像獅子が火炎弾を飛ばす。
「なっ!?」
大男が火炎弾を浴びて豪快に吹き飛ぶ。――ここで一人リタイア。
この出来事に呆然としている僅かな隙に先程の術を放った女の子が石像獅子の尾で強打される。
もろ直撃されてこちらももの凄い勢いで飛んでいく。――二人目もリタイア。
この間、数秒の出来事である。
「はやっ」
真人達が参戦したときには残り二人の状態。気の短そうな栗髪グラマー女と真面目そうな青髪スリム少女である。
不意を突かれたとはいえ、少々情けない。
「貴方達、遅いのよ!」
「すまぬ。助太刀する」
仲間がやられてヒステリックな栗髪女に刀祢が素直に謝る。気を取り直して即座に戦闘に移る。
――地導刀・正宗
――天導術・光の残像
二系統の異能を同時に発動させる。系統の違う能力を苦もなく使いこなすことから刀祢の実力の程が伺える。
手元に具現化された刀。さらに光の屈折現象による分身の術。
二つの結果が生み出したのは、刀を持った複数の刀祢の姿。雪崩込むように全方位から一斉に襲いかかる。
石像獅子は刀祢の幻像に惑わされていた。考える暇を与える隙すらなく、石像獅子の首があっさりと断たれる。
数瞬の後、左前方にいた刀祢の本体に幻像が収束する。
ゴトンッと音を立てて石像獅子の首が落ちる。追従するように首の無くなった身体が右に傾き、音を立てて崩れ落ちる。
「あれっ? もう終わり?」
勢い良く石像獅子に襲いかかろうとしていた真人が直前で慌てて急停止する。
先程までの勢いが削がれて、何とも言えない気まずい空気が漂う。
こちらは終了のようである。刀祢一人であっさり片付いてしまった。Aランクに近いって話しが現実味を出す。
真人を含めた試験生達はその強さに本当に凄かったんだと感心する。Bランク相手にこの強さ。やはり試験生の中でも群を抜いている。
「……さ、流石、Bランクデスネ」
余りの光景に真人の声も引き攣っている。
栗髪女と青髪少女は目をハートの形にしていた。完全に惚れたようである。あらヤダ、罪な男ですこと。
この場にいるもう一人のBランク、咲耶も簡単な結末に苦笑いを呈している。智と統吾に至っては口を開けて唖然としていた。
気持ちと現実の歯車が噛み合っていないようだ。皆、不完全燃焼なのである。
「どうする?」
真人がこの場を代表して皆に問い掛ける。予想外の展開に時間が持て余ってしまったのである。
「どうする?」とはもう一体と戦闘中の九名を助太刀するか否かの確認である。
この場合、当然助けに行くべきであるが……思考能力が低下して次の行動を決めかねていた。
「まあ良いんじゃない。九人もいれば大丈夫でしょ」
咲耶が代表して結論を出してこの場を締める。Bランク相当の化獣と言えど、CやDランクが九人もいれば対応可能である。
逆に九人もいて倒せないようであればその程度の実力、Aランクの真道寺が試験終了と判断して助けに入るはずだ。
状況判断も立派な選定基準。この場で真人達がすべき事はリタイアした二名の救助である。
咲耶が引き続いて栗髪女と青髪少女の二人に問いかける。
「貴方達、さっき飛ばされた二人の手当てって可能?」
「いえ、私は治癒系はちょっと……」
「私も無理ね」
二人とも治癒はできないようだ。あっさりと否定する。臨時とはいえグループを組んだメンバーの怪我。
気にも止めていない様子に少し冷たさを感じる。所詮、赤の他人ということであろうか。
「じゃあ、私がするしかないか。刀祢と智、統吾と真人はどう?」
「拙者は無理だ」
「私も無理」
「僕も無理だ」
「同じく」
結局、咲耶一人しか該当する人物がいないようだ。
仕方なくリタイアした二人の介抱に向かうことにする咲耶。
「う~ん。やっぱり私がやるしかないか。刀祢、手伝ってくれる?」
「了解した」
「「刀祢様。私達もお手伝いします」」
栗髪女と青髪少女が間髪いれずに申し出る。
刀祢にのみ手伝いを頼んだつもりが、オプションで二名様がご同行することになった次第だ。先程の冷たさが別人のように熱が入っている。現金な奴らである。
頼んではいないが、このタイミングで苦情を言うと別の意味で目の敵にされそうなのを悟る咲耶。
「刀祢様?」
刀祢が不思議そうに頭を傾げる。そこは気付けよ。鈍すぎるぞ、さすが老成男。
最終的に四人で介抱に向かった。
取り残される真人、智、統吾の三人。その後の行動を考えていると、緊迫した声が聞こえた。
「お前ら、そっち行ったぞ!」
別の九名グループが対戦していた石像獅子が三人の元へと駆けてきた。
取り囲んでいたはずなのにどうしてこっちに来るのであろうか。真人の胸中は不満タラタラであった。
「私がやるわ!」
智が石像獅子と向かい合う形になる。流石に女の子一人に戦わせる訳にはいかない。
真人が加勢しようとするが、統吾に止められる。
「大丈夫。彼女に任せておきなよ」
何が大丈夫なのだろうか。彼女はDランクと言っていた。危険ではないのかと真人は反発する。
「何が大丈夫なんだよ。ここは全員で応対するべきだろう」
「? 君は知らないんだな。まあ見てなよ」
智に襲いかかる石像獅子。その瞬間――ドシンッと大きな音を立てて石像獅子が床に転がった。自身の重さも衝撃に加わり、体にヒビが入る。
「ハッ?」
真人が拍子抜けした声を出すが、その後も連続で転倒音が鳴り響く。
天導術で身体能力を向上しているらしく、その速度は凄まじい。
石像獅子の攻撃をいなすと同時に、その突進力を利用して進行方向のベクトルを操作する。
力ではなく操作点とタイミングで重さを物ともせずに投げる――合気道である。
「アハハハハハハッ!」
智は完全に人格が豹変している。バトルジャンキーという奴である。
その様子に試験生達が引いている。
(智ちゃん、貴方二重人格ですか……)
「あれは柔術……いや、合気道?」
「有栖川と云えば、合気道で有名だからね。六大旧家の一角、<闊歩>の有栖川。聞いたことはない?」
新時代を迎えて異能に頼りきった世の中になっても、戦闘の基礎である武術体系は残ったままである。
俗に『無導』とも呼ばれるその近代武術は個人の武勇ではなく、一門の系譜そのものに呼称が与えられることがある。
――六大旧家。
<剣聖>の竜童、<刀匠>の大和、<槍主>の辻村、<闊歩>の有栖川、<覇道>の来栖、<武神>の霞。
国内で最強の武術家達。
その内の一つ、合気道の名門「有栖川」。
一流の武術家にして異能者。その実力は高く、国の中枢にまで深く入り込んでいる。
智はその有栖川の宗主の孫娘ということだ。
「成程ね。確かに師匠に聞いたことがある。ある意味、俺達に近い存在かな?」
意外な智の素顔を知る真人。イメージが最初と大分変わってきた。隠れていたトラブル臭が浮上してきた。
(嗚呼、智ちゃん。さようなら……)
出会って僅か数時間で幕を下ろす真人。儚い夢を有難う、と心の中での御礼を忘れない。今後は良いお友達関係を築こうではないか。
「よし、僕もやるか」
智の豹変ぶりを観察していた統吾だったが、何をトチ狂ったのか戦闘に割り込むつもりのようだ。
「えっ? アレに割り込むの?」
「大丈夫だ。彼女はアレでもちゃんと正気だよ」
そうなのか。ならば逝って来い、統吾よ。お前は勇者である。
「まあ、近くには行かないけどね」
「えっ?」
「僕は真導士。遠隔攻撃が得意なのさ」
訂正します。勇者ではなく、勝算があった訳ですね。
統吾の周囲に風が舞い上がり、踊り出す。
「智! 術を出すから離れて!」
統吾の言葉に反応して、智が戦線を離脱する。時を待たずに風が石像獅子を囲い込む。
「風の檻?」
――魔導術・風縫い
石像獅子の周囲を風が流動し、動けないように上手い具合に力を逃がしながら捕らえている。正に檻である。
「へぇ~。只のCランクには見えないな」
「よし、次は……」
統吾の手腕に真人が感心する。統吾は止めを刺すべく新たな術を展開しようとするが……
「トドメは私に任せてー!」
手当てを終えた咲耶が物凄い勢いで飛び込んでくる。相当ストレスが溜まっていたようである。やる気マンマンの意気込みを感じる。
――天導強化・猛撃
――魔導強化・風噴射
二系統の異能を発動させる。この二つの術は殴ることに特化した合わせ技である。
身体能力を加速させながらパンチを打ち出す瞬間に肘先からの風噴射。超速で打ち出される拳打の嵐。
手が何本にも見える程の恐ろしい連続攻撃である。体力も凄まじい。酸欠にならないのであろうか。
咲耶の戦闘方法は単純に見えて、実は繊細である。術の発動タイミングが難しいのだ。あの一撃一撃の全てにピンポイントで発動させているのだ。
石像獅子は既にボコボコのたこ殴り状態である。反撃の機会さえ与えない。智の攻撃でヒビ割れていた体が、さらにボロボロに砕けていく。
敵ながら見ていて痛々しい。石像さん、迷わず成仏してください。
自分がもしと思うとぞっとする。彼女だけは怒らせないようにしないと、そう誓う真人であった。




