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異端進化論(改訂前)  作者: 七草 折紙
第一章 能ない凡人は爪を隠す
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第13話 Gランクの男

遅くなりました。

遺跡上層部一階。

次々と中に入っていく試験生達。この遺跡は地下に潜っていくタイプのようだ。壁が発光しているので灯りの心配はない。

入口から階段を下りていくと広場が見えてきた。着いた先は広大な広場であった。階段は中心部に降りている。

広場の四方に奥に続く道が開かれており、現在の中心部にもさらに下へと続く階段があるようだ。


「よし、全員着いたな。ここが出発地点だ。ここから五つの道に分かれる。どの道を進んでも最終的には最深部の『神器の間』で合流することになる。

道中、化獣(バケモノ)が出るから最新の注意をしながら討伐するように。

討伐の様子は我々ベテランが随時チェックしている。その採点により結果を判断することになるだろう。気を抜かないように頑張れ。

特に此処はCランクの聖域。我々ならともかくお前ら程度にはキツイ場所だ。我々がいるからと云って油断していると足元を掬われるぞ」


門松さんの言葉に一同に緊張感が走る。長年、修羅場を駆け抜けてきた男の言葉だけに説得力がある。試験生のランクはCとDが殆どである。

油断イコール死ということもありえるのだ。


「これから班を担当するベテラン、班長兼試験官だな。ソイツの指示に従って進んでもらう」


最後に神妙な面持ちで言葉を締めくくる。


「いいか、これだけは言っておく。絶対に死ぬな。これは命令だ。死ぬのは俺が許さん。以上だ。では最深部でまた会おう」


それぞれの班毎に移動を開始する。


「安全だとは思うが、念のためコレを持たせておく」


門松がベテラン組の四人に渡したのは圧魔筒(パンプ・ボム)である。構造はいたって簡単。作動させると周囲の魔素を吸収して爆発するというものである。

形のない魔素が飛び散るだけなので危険はないが、通常、上方に投げてから使用する。

これは遺跡内部が魔素で荒れ狂っているので通信機は使えないため開発されたものである。一種の救難信号用の発煙筒みたいなものである。

魔素の急激な高まりで一定範囲内にいる仲間に危険を知らせることができる。


「分かっているとは思うが、誰も死なせるなよ。それと余計な手出しも無用だ」


門松の忠告にベテラン四人が頷く。高度な要求だがこの面子なら可能である。


「それから通路だが……俺の担当する一斑が中央部の階段を進もう」


門松班は中央階段のようだ。


「じゃあ、俺の二班は正面にするか」


適当に選んだ獅子堂の班が正面通路。


「僕の三班は左に行くよ」


思惑ありげに選択した真道寺の班が左通路。


「私の四班は右へ行くぜ」


男らしい口調の七星の班は右通路。


「それなら私の五班は後ろの通路ね」


残った柴祁那(しぎな)班は後方の通路となった。



XXXXXX


一班約二十名。総勢百名近くの試験生達がいて圧巻だったが、五分割されて落ち着いてきた。三班は十八名。他の班より若干人数が少ない。


「は~い、僕の三班はこちらに集合してね」


真道寺の言葉に三班に選ばれた連中が注目する。


「え~っ、これから左側の通路に進んでもらいます。通路の先の階段を降りると一階層下の小部屋に着きます。そこからは通路、階段、小部屋の繰り返しだね。

十階層下に降りると『神器の間』があります。迷子にはならないので心配は要りません。じゃあ、行こうか……と、その前に軽く自己紹介でもしてもらおうか」

「自己紹介ですか?」


自己紹介という単語に試験生の一人が質問を返す。


「うん。名前と異能ランクだけで良いよ。あ、それと得意な異能系統も言ってね」


その意味をこの場にいる全員が理解した。

最低限の名前と強さ、どんな戦闘方法かを把握しなければいざという時に判断ができないからであろう。

時には連係プレーも必要になるかもしれない。誰と組むかも個々の判断ということである。もう試験は始まっているのだ。


「それなら拙者(せっしゃ)からいこう」


一人目を名乗り出たのは、侍のような銀髪男。年齢は真人に近いだろうか。細く引き締まった身体をしている。

目付きが鋭く、獲物を探し当てるかのようだ。年に似合わぬ落ち着いた口調で淡々と述べる。


(すめらぎ)刀夜(とうや)だ。異能ランクはB。『天導系(ヘブンリィ)』と『地導系(リアライズ)』を得意とする。

刀を得物とする『刀導侍(サムライ)』だ。よろしく頼む」


Bランク。その事実に周囲がざわつく。今回の試験生の中でも飛び抜けているようだ。

それにしても若い癖に随分と渋い男である。というか、爺くさい雰囲気を存分に見せ付けてくれる男だ。もっとテンション上げてください。皆が困惑しています。

ルックスは申し分ない。雰囲気に恥じない凛々しい男である。女子連中がヒソヒソと騒いでいる。男の敵とお見受けする。

それにしても皇という姓。どこかで聞いたことのあるような……気のせいであろう。


「へぇ~。二種類の系統が得意なんて既にAランクレベルかもね。戦闘タイプとしては門松さんや獅子堂君に近いかな」


真道寺が絶賛する。Aランクに近い男か。この男の呼称は<老成>で決定だな。それしかない。俺が許そう。


「はいはーい!次は私ね」


次いで女子の一人が手を挙げてアピールする。無駄に元気があるが、なかなかの美少女である。

桃色の髪に大きなクリクリとした眼。顎のラインもほっそりとしていて全体的にシャープな様相である。


「私もBランク。如月(きさらぎ)咲耶(さくや)で~す。得意なのは『天導系(ヘブンリィ)』と『魔導系(デモンズ)』ね。

得物はないわ。素手で敵をボコボコにする格闘スタイルの『武導者(ブラスター)』よ。好きな食べ物はカレーライス。嫌いな食べ物はなし。

現在乙女盛りの十七歳。彼氏絶賛募集中よ。よろしくね!」


(まく)し立てるようにマシンガントークする咲耶。聞いてないことまで喋り出す。コイツはテンションを上げすぎである。

この子もBランクか。うちの班レベル高いんでないのかな。お兄さんは不安だよ。

十七歳ってことは学生かな。若さ溢れる女子高生といった感じだな。先程の銀髪男とは対極である。

元気がありすぎてボコボコにされないことを祈る。


「君も二系統の使い手でBランクか……レベルが高いね。七星君と同じタイプだね。えっと、次は……」


次を促す真道寺にしーん、と静まり返る一同。うん。次、行きづらいよね。

誰も手を挙げないのに業を煮やした真道寺が真人に目を向ける。


(えっ? 俺? いやいや、このタイミングは無いでしょ)


ここで目を逸らしたら悪い方向へと流れが変わることを本能で理解する真人。

回避すべく目線でアイコンタクトを取る。


『お願い』

『無理』


必死に拒絶をするが、そうは問屋が卸さない。ここで無茶振りをするのが真道寺。


「じゃあ、次は柊君。行ってみようか」

「うぉい!」

「ん? どうしたね」

「どうしたねじゃねぇー! 無理だって伝えましたよね」

「うん? 聞いてないよ」


相変わらずのすっとぼけ具合である。全員の視線を感じて逃れに逃れられない状況に追い込まれる。


(クソッ、もうヤケだ)


「オホンッ。えーっ……柊真人です。異能ランクはGです(ボソッ)。得意分野はありません……俺も肉弾戦が得意な『武導者(ブラスター)』……かな?」


真人の自己紹介に「「「ハッ?」」」とした顔をする皆様。そうですよね。当然の反応です。

異能ランクG。それは最低ランクの異能者、所謂戦闘のできない一般人を指す。が、一般人でもそんな者は滅多に見かけない。

世間では最低でもF以上からが戦闘行為可能と見倣される。

生まれ持った異能の才に上下はあるものの、鍛えれば鍛えるほどランクは上昇する。Gランクは危険事反対、のほほんと生きてきましたという証でもあるのだ。

こんな場所(遺跡)にいるようなランクではないのだ。

ちなみに実戦班は最低でもDランク以上、遺跡探索班はB以上で初めてメンバーとして現地への随行が許可される。


この反応は予想していたので、真人としてはできれば最後に目立たないようにしたかった。

ふと見ると真道寺までが驚いた顔をしている。知らなかったのでしょうか。事前調査は念入りにお願いします。


全員の戸惑いの視線が徐々に蔑みの視線へと変わっていく。心が折れそうである。ボソボソと話し声が聞こえてくる。


「何であんな素人が此処にいるんだ?」

「実力もないのに、受けんじゃねぇよ。坊ちゃんが」


だが、その気持ちが分かるだけに反論はできない。

思えば上層部うんぬんの(くだり)から、試験生達への印象は良くない。

言って見ればどこぞの身分不詳の坊っちゃんのコネのフル稼働である。真っ当に試験を受ける者からすれば不満爆発である。


(嗚呼、帰りたい……)


ここで空気を読めない、いや読んだのか、別の女子が自己紹介を始める。


「次は私ね。Dランクの有栖川(ありすがわ)(とも)です。天導系ヘブンリィの『武導者(ブラスター)』です。よろしくお願いします」


真人に向けてウインクをする智。正に救いの天使である。小柄で白髪の雰囲気の柔らかい子である。

美人の部類だが美人すぎない。どちらかと云えば可愛い系のおっとりさんである。真人のもろ好みのタイプであった。


(キターーーーー! どストライクだ! これだよコレ。俺に足りなかったのはこの展開なんだよ)


心の中で大パレードを起こす真人。我が世の春が来た。――その後の其の他大勢の自己紹介は憶えていない。


XXXXXX


自己紹介も終わり、それぞれ気になった試験生に声を掛けたりしている。当然、真人に声を掛ける者はいない。


「いやぁ~、すまなかったね。柊君。流石にあの展開は僕にも予想できなかったよ」

「もう良い」


違う展開が来たから良いのだ。災い転じて福となす。真人は先程からずっと智を眺めている。もはや真道寺(コヤツ)のことなどどうでも良いのだ。


(智ちゃんかぁ~。彼氏はいるのかな? うーん、こっち向いてくれないかな……)


智は先程から男達に頻繁に声を掛けられては断っているようだ。女子にも誘われているようである。

万人受けするタイプだよな。トラブルとは無縁の和み系。

じっと智を見つめていた真人だが、ふと目が合った。ニコッとしてこちらにやって来る。胸がドクンッと高鳴る。


「こんにちは。さっきは凄かったね」

「あ、うん。あの、有難うね。庇ってくれたんでしょ?」

「まあね。あの人達って何も分かってないから、苛々しちゃってね」

「何も分かってない?」


「君の事をだよ」


智の言葉の意図が分からずに聞き返すと、別の方向から答えが返ってきた。

振り返ると最初に自己紹介をした二人の男女の姿があった。老成男こと皇刀祢と元気娘の如月咲耶である。

二人とも一番二番を競う程に人気があり、殆どの試験生達に勧誘されていたが、全て断ったようである。


「え~っと、俺?」

「そうだ。其方の事だ」


先程の咲耶の言葉に刀祢が同意を示す。


「其方からは匂いがする」

「匂い?」


体臭の事ではないだろう。自分の臭いを嗅ぐほど愚かではない。


「修羅場を体験した者のみが纏う戦場の匂いだ。其方からはベテラン組と同じ匂いがする」

「そういうこと♪」

「最も気づいたのはこの三人だけみたいだけど……ベテラン組は全員気づいていたみたいね。

おかしいと思わなかったの? あの門松さんが幾ら上層部の意向だからってあんなにあっさりと遅刻者を見逃すなんてね」


刀祢の解説に咲耶と智が追従する。成程、堅物そうな門松さんが、言われてみると確かにそうだな。


「七星さんなんか、如何にも戦いたがっていたわよ」


咲耶が余計な一言を漏らす。あの獲物を狙う猛獣のような視線を思い出す。そのうち絡まれるのだろうと思うと憂鬱になる。


「丁度良いからこの四人でパーティーを組まない?」

「良いわね。賛成♪」

「うむ。異存はない」


なかなか良い流れになってきた。この連中がいれば真人も楽ができる。と、そこで不躾な乱入者が登場した。


「フンッ、遅れてきたグズか。覚悟が足りないんじゃないか? 何でお前みたいなのがここにいるんだ。ちょっと気に入られているからといって調子に乗るんじゃないぞ」

「誰ですか、貴方は?」

「僕は不知火(しらぬい)統吾(とうご)。Cランクの真導士(ウィザード)だ。自己紹介したはずだが?」

「貴方の事なんて憶えていません」


何故か智と対立する構図になる統吾。口を挟まずに事態を見守ることにする。


「貴方も彼が素人の坊っちゃんと言い張るつもりですか?」

「フン。勘違いするなよ。其奴(ソイツ)が強いのは認める。だが、遅刻してきたのは戴けない。試験生達の士気に関わる」


口調は悪いが意外とまともな奴のようだ。筋道が通っている。ここは素直に謝ることにする。


「それについては申し訳ないです。以後気をつけるということで駄目でしょうか?」


下手(したて)に出て場を丸く収めようとする真人。その言葉に統吾が意外な反応を起こす。


「フ、フン。まあ、反省しているなら問題ないだろう。ということで、僕も入れてもらう」


この男、ツンデレタイプか。意外と純な奴である。


「ハァッ? 勝手に決めないください」

「まあ良いんじゃない? 楽しくやろうよ」


智がごねるが、咲耶が宥める。

かくしてここに五人のパーティが誕生した。

これがやがて真人の生涯の親友となる者達との出会いであった。


サブタイトルって悩みますよね。

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