第11話 眼鏡の秘密
続きです。今回ちょっと短いです。
試験当日。
空は雲一つなく快晴。絶好の試験日和である。
早めに集合場所にやって来る者や少し早めの無理のない時間帯に来る者、そして時間ギリギリに来る者がいる。
真人は後者であった。
未だかつて試験などというものを受けたことのない真人である。五分前行動などという気持ちはない。
真人は急いでいた。この試験は絶対に受からなければいけない。
自分の将来がかかっているのだ。
周りの者達の考える将来像とは掛け離れた未来を求める真人。平穏のために、待機人生のために絶対合格するぞと意気込む。
気合十分で集合場所に到着するが、時既に遅く、出発した後であった。
「何でだーーーーーー!」
ヤバイ。ヤバイ。ヤバイ。どうしよう。置いていかれた。
たった十分じゃないか。待っててくれても良いだろう。
相変わらず社会人としての常識がない真人。それが分からずに真人は頭を抱える。
支部時代の癖が抜けきっていない証拠でもあった。
どうして良いか分からずにオロオロしていると、待ってましたと言わんばかりに声がかけられる。
「ああ、柊君。やっと来たか。ダメじゃないか。時間厳守は社会人の常識だよ」
「真道寺先輩!」
「全く、君は。僕が試験官じゃなかったら、一発不合格だよ」
「ああ、神様仏様。やっぱり貴方は救世主だ」
感動のあまり訳の分からないことを口にする真人。
今まで色々とあったが、過去を水に流してチャラしようと心に決めた。
そのとき、真道寺の後ろに人影が見えた。初日に古株のベテラン組にいた一人である。
肩までかかる紫色の髪が神秘的で妖しい魅力を醸し出している。
「あの、そちらの方は……」
真人の視線に気付き、真道寺が紹介する。
「こちらは僕の同僚の柴祁那玲君だ。こう見えても彼女は名の知られた真導士でね」
「柴祁那玲よ。よろしくね」
「あっはい。よろしくお願いします」
真導士? 周りに<最速>とか呼ばれていたからてっきり武闘派の人かと思ったが。
真導士とは異能を使った術、導術の使い手の事である。
戦闘タイプによって、剣導士や騎導士、槍導手などと言われるが、真導士は純粋な術者タイプである。
ジロジロと真人を観察する玲。
「ふーん。この子が貴方の言ってた子?」
「そういうことです」
「あの、何か……」
何か居心地の悪さを感じ戸惑う真人。
「何でもないわ。さあ、行きましょう」
かくして真道寺、玲、真人の三人の面子で、遅れて出発するのであった。
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ワゴン車に乗って進む一行。車の燃料は魔力である。
魔力は三つの異能の一つであるが、様々な分野で一番多く採用されている。機械産業の技術にも多岐に渡り使用されているのだ。
内部にフィードバック用の増幅回路が内蔵されていて、低位の異能者でも半日は進める。
魔力回復用の飲料も持参済みである。異能は消費すると本人の自動生成でしか回復できない。一種のエネルギーだからである。
人間が食料を消化してエネルギーを生み出すのと同様の理論だ。
当然、即座に異能が回復する薬などというものは存在しない。だが直接回復できなくても生成を促すことはできる。
そこで開発されたのがエネルギーの生成効率を上げるための飲料「エナジードリンク」である。
お腹に溜まらずに即効で吸収されるため、魔力動炉などを使っている機械を扱う際には携帯するのが一般的である。
ちなみに吸収率は100%を誇っている。排尿を催す心配はなく、非常にエコである。
道中、当たり障りのない会話で盛り上がる一同。運転席には真道寺先輩が、助手席には柴祁那先輩が乗っている。俺は後部座席である。
そんな中、玲から嬉しくない提案がされる。
「ところで貴方、その眼鏡外してみてもよろしいかしら?」
その言葉にギクッとする真人。この眼鏡の秘密を知られるわけにはいかない。
これは自分の素性を隠すための物でもあるからだ。
「ど、どうしてですか?」
「んーっ、その眼鏡から妙な波動を感じるのよ。違和感があるいうか……」
鋭い。真人はそう思った。この眼鏡は無能者である真人が異能者と周りに認識させるためのものだ。
裏の友人に特注して作ってもらったもので、今では欠かせないアイテムだ。本来の髪の色もこれで誤魔化している。
高位の異能者であれば、他人の異能レベルを判定することができる。
この眼鏡を外すことは、すなわち無能者だとバレることでもある。
今の時代、無能者など存在しない。というよりありえないと言われている。
無能者イコール異端者としての烙印を押され、下手をすると異端審問官に目をつけられてしまう。
まあ異端審問官などに遅れは取らないが、はっきり言って面倒くさい。
今の仕事もクビになるかもしれないしな。
眼鏡の形にしたのはまずかったか。いや、裸一貫でも違和感ないものと言えば眼鏡しかない。
将来、彼女と水着デートに行くときのためだけの選択であったが、それが裏目に出たようだ。
エロは身を滅ぼす。この言葉を体現することになろうとは。
何を言っても始まらない。とりあえず誤魔化すことにする。
「すいません。自分、物凄い視力が悪くてですね。これを外すと何も見えなくなっちゃうんですよ」
「そう……」
一瞬、真道寺の目がキランと光った気がしたが、気のせいだろう。そう思いたい。
無駄かもしれないが、一応弁明しておこう。後は野となれ山となれだ。
「ええ、そのためにオーダーメイドの特注品でして。まあそのせいでしょう」
「へぇ~、珍しいのね。ねえ、やっぱり見せてくれない? 少しなら問題ないでしょ」
やばい。墓穴を掘ったか。くそっ断る理由がない。
だが意外なことに、横から援軍が来た。
「玲君。無理を言うものではないよ。彼にとっても大切なものなのだろう。他人に触らせたくない程にね」
ナイス、真道寺先輩。最近、貴方神様ですよ。
ニヤッと過去のトラウマを思い出させる笑顔だったが、この際どうでもいい。
どんな思惑があろうと、現状回避できたのは僥倖だ。
真道寺に諭されたのが効いたのか、渋々と引き下がる玲。
「しょうがないわね。見たかったんだけど。その気になったら今度見せてね」
「え、ええ。まあ、気が向いたら……ですね、ははっ」
そんな会話をしているうちに、ようやく遅れて現地に到着するのであった。




